(香港特別行政区)全人代、香港基本法を再解釈

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

5月に特別行政区政府と立法会が香港基本法の居住権関連条項(24条等)の再解釈を全人代に要請することを決定したのを受けて(時報8月号参照)、中国政府は6月11日、董建華長官の再解釈要請を受諾した。次いで、同23日には全人代常任委員会が開催され、討議の席上、中国政府高官が香港最高裁は判決前に全人代に基本法の趣旨について照会すべきだった旨発言し、同26日には正式に関連条項の再解釈が行われた。

その結果、香港の居住権を取得する大陸生まれの子は、親が香港の永住権を獲得した後に生まれた子であるとの制限的な解釈が示され、居住権を取得する子の数は、推定167万人から20万人に減少することになった。全人代は香港最高裁の解釈が基本法の条項の「真の立法趣旨」を反映していなかったとしたが、具体的な判決自体が変更されるのではなく、将来的に香港の裁判所が全人代の再解釈に沿って判決を下すことが期待されることになる。

董長官は、全人代の再解釈が極めて困難な問題の解決に向けて大きな一歩を示したと歓迎の意を表明し、さらに、香港政府の決定は「合法かつ合憲」で、雇用、住宅、教育、医療等の問題を総合的に判断してなされたものであり、しかもこれによって香港の法の支配が害されることにはならないと言明した。また、エルシー・ルング司法長官は、最高裁が2月26日に自らの判決に対する釈明を行った趣旨に沿って、以後香港の裁判所が全人代の再解釈に従うことを確信すると表明した。

政府以外の反応としては、香港商工会議所や立法会の保守的会派等、再解釈を概ね肯定する向きもある。しかし、立法会の民主的会派や法曹協会等は、以後香港の裁判所が中国政府の政治的圧力を感じて判決を下すことになり、さらに場合によっては、裁判所の判決に対して今後も全人代の再解釈を香港政府が要請する事態が出てくると、強い懸念を表明している。また、再解釈によって「一国、二制度」とそれを支える法の支配が破壊され、今後は「一国」の要素が強調されることになると批判している。他方、各種世論調査によると、香港市民の多数は、最高裁判決の結果生ずる大陸からの移住者の大量予備軍が香港社会にもたらす過大な負担を懸念し、再解釈を概ね支持している。

だが、問題がすべて解決された訳ではない。今後香港の裁判所が全人代の再解釈に実際に従うかという問題は依然として残り、裁判官がコモン・ローの原則を忠実に踏襲し、全人代の再解釈よりも最高裁の先例に従う可能性も指摘され、この場合はさらに中国政府との関係が緊張するとの予測も法曹関係者等によりなされている。また国外、特に米国等から、ビジネス上の取引の観点も含めて、司法の独立、法の支配の貫徹に懸念を表明するものもある。また、中国政府高官が、今後「一国、二制度」の一国の面が重視されると発言したことなども物議を醸している。

とはいえ、1月29日の最高裁判決を契機に、1997年7月の返還以来香港社会を揺るがせた最大の事件も、台湾問題も含めた中国の政治状況、中国憲法における全人代の最高機関性等を前提すると、一応収束の方向を見いだしたと言えそうだ。

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