(香港特別行政区)政府、強制医療保険諮問案公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

現在までの香港の医療制度では、政府の医療支出は年間300億ドル(香港ドル、以下同じ)に及び、何らの対策も講じなければ2010年までにその額は1.5倍に達すると言われている。この医療支出の財源問題の解消と医療サービスの公平化(悪徳開業医による医療費の過剰請求や抗生物質の乱用等が背景にある)を目指して、政府はかねてより強制医療保険の導入を計画し、その具体案の策定を1997年11月にウィリアム・シャオ教授を座長とするハーバード大学の15人の学者グループに委任していたが、その報告案(ハーバード・レポート)が4月12日に公表された。

同レポートによる強制医療保険は健康保険計画(Health Security Plan―HSP)と老人介護積立金(Medisage)の2種類からなるが、これが導入されると、入院医療分野の費用だけで現在の公的支出のうち150億ドルが節減され、他の緊急度の高い分野に医療サービスを拡充することが可能になると期待されている。

HSP は癌や脳卒中など重度の疾病患者の入院医療を対象とし(一般の外来医療はカバーしない)、雇用者(企業)と被雇用者が月収の1.5~2%の保険料拠出を義務付けられ、被保険者の妻・子・両親もこれによってカバーされる。ただ、高額所得者については一部自己負担が求められ、月収1万ドル以下の低所得層については、最高月額3万ドルを限度として、雇用者(企業)が保険料を負担する。また、高額入院医療の乱用を防ぐために、高額所得の患者は全医療費の20%の負担を求められ、しかも公共医療の自己負担分の支払いに民間保険の利用は認められない。

Medisageは高齢者人口の増大に対処して高齢者の長期介護・医療サービスに資することを目的とし、雇用者(企業)と被雇用者は月収の1%を個人の預金口座に積み立て、65才歳なるとこれが引き出され、高齢者の在宅看護等長期介護・医療のための老人保険の購入に当てられる。この保険による医療費負担は30カ月に限られるが、1998年に成立した強制積立金(MPF)と組み合わされて、老後の生活に役立てられることになる。

この2種類の強制医療保険制度は、香港の医療制度にとって抜本的な改革であり、このハーバード・レポートを土台にしてさらに議論を重ね、年末には公開の協議に付されるが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば費用負担の面で、富裕層と貧困層では現在よりも自己負担額が軽減されるのに対して、いわゆる「サンドイッチ・クラス」と呼ばれる中間所得層では大幅な自己負担額の増加が生ずることになる。HSP のシステムでは、1日目の入院費用全額とその後の費用20%につき、保険加入者に対して自己負担を求めるが、このため公立病院に1週間入院した場合、1週間当たりの患者の自己負担額は5500ドル相当に上る。これは現在1日68ドルの公立病院入院費や、44ドルの公立病院外来診療費と比べると10倍以上の負担増となる。また Medisage において、老人保険による医療費負担が30カ月に限られることも問題にされている。

ちなみにこの強制医療保険制度は、将来的には19万人の公務員をも対象とすることが政府筋によって指摘されており、公務員に対する業積給の導入や、終身雇用ではない契約制度を公務員採用に際して導入することの最近の議論とも相まって、今後の議論の進展が注目される。

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