ビル・ゲイツが中国の「頭脳」に注目

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年7月

中国の技術力や人的資源については、製造技術や応用研究が西側諸国より遅れているものの、基礎研究や基盤技術が幅広く蓄積され、ハイテク分野でもかなりのものがあり、ロケットやレーザーなどは世界的レベルである、といわれている。1990年代から、北京の中関村という地域には多くのソフト開発企業が集まり、中国のシリコンバレーと呼ばれるようになった。中関村地域には中国科学院及び中国工程院などのようなトップレベルの国家研究機関、北京大学、清華大学など多くのトップレベルの大学が立地している。1980年代から、この街には北大方正、聯想、四通、長城といったハイテク企業が続々と現れ、成長してきた。例えば、北大方正は40万元でスタートして、10年内内に生産高が60億元、利益が3.3億元の企業に発展した。北大方正は文字通り北京大学の傘下にある産学協同の企業である。1999年に、北大方正の研究開発スタッフは700人になる見込みであるが、その中核となっているのはほとんど北京大学の教師か研究者である。

外国企業はかねて中国の「頭脳」に注目しており、近年、モトローラと清華大学との合弁企業をはじめ、多くの欧米企業が中国の理工系大学との間に合弁企業を設立した。1998年の末頃、マイクロソフトは8000万米ドルを投資し、北京の中関村で米国内以外の地域で最大の研究開発機関――マイクロソフト中国研究開発センターを設立した。マイクロソフトの会長ビル・ゲイツがこのプロジェクトについて「中国には非常に多くの優秀な人材がいる。彼らの研究素質は私に深い印象を与えてくれた。これがこの決定を下した重要な理由である」と述べている。マイクロソフト中国研究開発センターに投入された8000万米ドルの資金の大部分は、研究スタッフに使用されるといわれており、コンピュータ産業に携わる研究開発の人材にとっては極めて大きな魅力である。マイクロソフトの進出は、聯想、北大方正など中国のソフト開発会社に強い危機感を抱かせた。

マイクロソフト中国研究開発センター成立早々、ビル・ゲイツが中国を訪問し、1999年3月8日に深川で「ビーナス」企画を発表した。「ビーナス」とはマイクロソフト中国研究開発センターが開発した Windows CE の情報家電製品である。この「ビーナス」を用いて、普通の家庭用テレビを利用してインターネットの世界に入り、メールのみでなく、情報ハイウェーでネットサーフィンを堪能することも十分できる。

中国の一般庶民の生活水準からすれば、高価なパソコンに手の届かない人はまだ多い。1997年の統計では、中国におけるパソコンの家庭普及率は2.45%で、総台数は153.1台である。同じ時期の米国の PC 普及率は55%である。1998年の統計によれば、中国のネットユーザーは210万人で、アメリカのわずか一つの中型 ISP のユーザー数に相当する程度である。

未開発のパソコン潜在市場がまだ巨大であるのに比べて、中国の家電の製造と市場は先進国並みの水準に到達している。現在、中国には3.2億台のテレビ、4000万台の VCD 及び2000万台の学習機(一種の初歩的なパソコン)がある。さらに都市部の電話普及率は50%を上回っている。マイクロソフトが目指しているのは、中国の研究開発の人材を活用して、マイクロソフトの既存技術を生かし、中国の庶民の家庭にある膨大な家庭用電器製品をインターネットの世界に導くシステムの開発である。「テレビをパソコンに変える」、これはまさにビル・ゲイツが中国で起こそうとする革命的な出来事である。「ビーナス」の単価は1000~3000人民元であり、この小さなボックス型の製品をキーボードやマウスとともにテレビに取りつけるだけで、インターネットに入ることができるし、さらに中国の庶民の家庭に急速に普及した VCD を CDROM に変身させる。この計画は中国市場にとって大変受け入れやすいものと言うべきである。ビル・ゲイツの深川での発表会に、宏基、聯想、四通などの台湾と中国のパソコンメーカー、海爾などの中国の中堅家電メーカー、そして歩歩高などの中国の VCDメーカーの経営者がそろって登場し、新たな連携関係や市場の将来性を予告した。

日本企業はここにきて、中国の基礎研究やハイテク技術の人材に注目をしはじめ、既に日本のアルパイン(カーオーディオ)は、遼寧省瀋陽市の東北大学とソフト開発に関する合弁企業(東大阿爾派軟件公司)を軌道に乗せ、中国の証券市場にも上場した。また、日本の松下電工、ソディックなどは上海で交通大学との合弁に踏み出した。欧米企業より遅れをとってはいるが、日本企業も既に中国の「頭脳」との交流を活発化している。

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