「知識経済」のブームと技能労働者の育成

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年5月

高度な人材を求める外資系企業の労働市場

1996年のOECD報告書の「Knowledge-based Economy」が「知識経済」として中国語に訳出された後、1998年中に関連する多くの書物が出版され、一大ブームを巻き起こした。このブームの陰で、労働市場にも変化が訪れている。

中国の労働市場は、「下崗」も含めて労働者は飽和状態であり、企業は技術や技能レベルのより高い人材を採用するようになってきた。外資系企業では、このような傾向が特に強い。年明けに、蘇州市のハイテクノロジー・ニューテクノロジー産業開発区で行われた再就職の面接会場には、28の外資系企業が331の求人情報を出した。これまで同地域では、管理職・技術職と現場作業員の求人比率はおおよそ3対7であったが、今回は半数以上が管理職と技術職の求人であり、現場労働者の求人比率は半数以下に低下した。例えば、区内のあるコンピュター会社は、300人の従業員を募集していたが、そのうち技術者は200人であるのに対して、作業員は100人しかなかった。同じ区内に立地している中日合弁ソニー凱美高有限公司の人事スタッフも、会社では現場作業員が既に飽和状態であり、これから募集するなら管理者や技術者に限定すると語っていた。

管理者の人材不足は技術者よりさらに著しい。外資系企業が現在最も欲しがっているのは企業管理、人事、営業、会計等の分野の人材である。四川省成都市で行われた外資系企業に対する賃金調査によれば、人事マネージャーの平均年収は9万2526人民元で、最も高いのは13万6522元にもなっている。会計担当マネージャーの年収はさらに高い。外資系企業では、優秀な管理職の獲得が一層の発展の鍵と認識している。この傾向を読み取って、若者の間ではMBAコースの習得ブームが起きており、特に外資系会社に勤務する若者の間で自費でMBAの学習に励む者が増えている。

現在、それよりさらに求められているのは総合型人材である。報道によれば、一部の企業は年収20万元~50万元といった高収入で、マネジメントと専門技術の知識を兼ね備える総合型人材を求めている。

職業資格制度と労働予備制度の確立

1985年、中国共産党中央委員会の「社会主義市場経済体制の確立に関する若干の問題の決定」は、「各種の職業資格基準と採用基準を制定し、学歴や学卒証書と職業資格という2つの証書制度を実施しなければならない」と指摘している。中国は現在、学歴や学卒証書、技術等級証書、職位資格証書、職業資格証書、専門技術証書といった学歴資格重視の制度を全面的に打ち出している。この数年で、既に対外貿易、通関、運輸、倉庫管理および公務員などの職業に対して、全国的な統一試験を行い、各レベルの合格者に資格証書を授与した。会計、国際ビジネス、経済等の分野の従事者に対しても専門技術資格の試験を行い、その結果を人事評価に取り入れるような制度を実施している。技能労働者についても技術レベルについて試験や審査を行い、資格を取得しなければならない方向に進んでいる。中国では職業資格証書制度が確立されつつあるといえよう。

このような職業資格制度が進む中で、1998年4月に労働予備制度が全国規模でスタートした。高校を卒業した若者はそのまま就職するのではなく、まず職業訓練を受けなければならない。一定の職業資格証書を獲得した者に限って、労働行政部門が就労登録手続をし、優先的に就業するという制度が確立された。この制度は、新卒者と国有企業改革に伴って急増した「下崗」労働者との競合を避け、さらに若年労働者に対して職業や技能に関する専門的な教育を与えるという目的でスタートした。

蘇州市などの一部の都市では、このような労働予備制度に併せて「就業准入制度」が実施された。就業准入制度とは、規定期限内に専門的な訓練を受けず、ひいては訓練修了証書を授与されなかった高卒の若者は、労働市場で求職してはならないという強制的な労働政策である。蘇州市は早くも1979年から「就業前の訓練制度」を始め、近年では同市の労働予備制度は、学歴教育まで発展している。1~2年の訓練や教育を受けた後に、技術学校の卒業証書および技術等級証書が授与される。しかし、こういった労働予備制度は発足したばかりであるため、専攻や訓練内容の設定が市場のニーズに適応していないといった問題を抱えており、今後一層の改善が迫られている。

再認識される「匠の技」

労働者に対して職業資格制度を適用させると同時に、最近、熟練労働者の持つ「匠の技」の価値を見落としてはならない、といった動きが復活している。1998年暮、政府の労働および社会保障部は北京で大規模な表彰会を開催した。「中華技能大賞」を獲得した10人の労働者と102人の「全国技術優秀労働者」が表彰され、賞状と賞金を授与された。かつて国有企業では、高度な熟練技術を持つ者が「模範労働者」として表彰されていたが、このような活動は一時期低調になった。1995年、優れた技能を持つ労働者を全国レベルの技能コンテストなどで競わせ、優勝した者に称号と賞金を与えるという表彰制度がスタートし、その後4年間継続してきた。その間に、40人の「中華技能大賞」受賞者と410人の「全国技術優秀労働者」が表彰された。

現在、中国の技能労働者は7000万人とされているが、年に一度のこのような表彰制度の狙いは、優れた「技」をもつ熟練労働者を育成することである。そしてこの制度は国家レベルで確立されただけでなく、各地域や業種においても拡大してきた。

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