基礎情報:アメリカ(1999年)
8. その他の関連情報

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

8-1. 社会保障制度

アメリカでは政府は原則として個人の生活に干渉しないという自己責任の精神と、連邦制のため州の権限が強いことが、社会保障制度のあり方に大きな影響を及ぼしている。代表的な社会保障制度としては、大部分の労働者に適用されている老齢・遺族・障害年金(OASDI)のほか、高齢者などの医療を保障する「メディケア」や低所得者に医療扶助を行う「メディケイド」といった公的医療保障制度、補足的所得保障(SSI)や貧困家庭一時扶助(TANF)といった公的扶助制度がある。

全般的にみて医療、年金などの分野においても、民間企業の果たす役割が大きいのが特徴であり、また連邦政府よりも州政府が政策運営の中心的役割を果たす制度が多くなっている。

以下に主な社会保障制度の内容を概説する。

(1) 公的年金制度

老齢・遺族・障害年金と呼ばれる一般的制度と公務員など一定の職業のみを対象とする個別の制度とに大別される。

老齢・遺族・障害年金は連邦政府が運営し、労働者や自営業者の大部分が加入している。老齢年金の支給開始年齢は原則65歳であるが、2003年から2027年までの間に段階的に67歳に引き上げられる予定である。

老齢・遺族・障害年金の主な財源は使用者、労働者および自営業者が納入する社会保障税(税率12.4%を労使同額負担)であり、連邦の一般会計とは別に社会保障信託基金として管理されている。

アメリカでは企業年金制度が発達しており、内国歳入法(IRC)に規定する要件を充足する企業年金について、貯蓄を奨励する観点から税制上の優遇措置が適用されている。また、雇用者退職所得保障法(ERISA)は、加入者および受給者を保護する観点から、企業年金がその設立、運営、終了に当たって充足すべき基準を規定している。

1996年8月には、企業年金の運営負坦を軽減し、とくに小企業における普及を促進するため、企業年金の税制適格要件を簡素化する法改正が行われた。

(2) 医療保障制度

アメリカには国民全体を対象とする公的医療保障制度が存在しない。この事実は先進国の中では極めて例外的であるといえよう。医療保障は民間保険を中心に行われており、福利厚生の一環として事業主の負担を得て団体加入する場合も多い。

また、最近では、医療費の高騰に対応し管理医療型の保険(マネージド・ケア・プラン)が急速に伸びている。

公的医療保障制度としては、メディケアおよび低所得者に対する公的扶助であるメディケイドがある。

メディケアは老齢・障害年金受給者および慢性腎臓病患者を対象とするもので、連邦政府が運営している。入院サービスなどを保障する強制加入の病院保険(パートA)と外来などにおける医師の診療を保障する補足的医療保険(パートB)からなり、パートAは社会保障税(税率2.9%を労使同額負担)、パートBは加入者の保険料(毎月の保険料は1998年に43.80ドル)と一般財源により賄われている。

メディケイドは社会保障法に基づくもので、連邦政府と州政府共同の低所得者に対する医療扶助制度である。

連邦政府が定める資格要件などのガイドラインの範囲内で、各州が受給資格やサービスの範囲を設定しており、事業内容は各州ごとに異なる。1996年にメディケイドを利用して医療サービスを受けた者は約3600万人である。各州における費用の一定割合を連邦政府が補助する形で運営されており、1996年の総支出額は約1620億ドル(連邦政府920億ドル、州政府700億ドル)となっている。

一方、いかなる医療保険の適用も受けていない国民は、約4340万人(16.1%)に達し、大きな社会問題となり、ようやく各種保険の適用拡大、促進のための措置が講じられるようになった。たとえば、1997年の均衡予算法において、州主導の下、メディケイドの適用促進などにより無保険状態にある児童数を減少させる「児童の医療保険プログラム(CHIP)」を創設し、5年間で240億ドルを投入する。

これはほぼすべての州において実施され、現在のところ、250万人以上の児童への医療保険拡大が見込まれている。

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8-2. 人的資源開発、教育訓練

労働省は1983年施行の職業訓練法(JTPA)を中心に職業能力開発政策を実施しており、貧困家庭出身など社会的に不利な立場にある成人、若年者、失業者、その他(原住民、移民、退役軍人など)に対して職業訓練と雇用援助サービスを行っている。

また、1994年に学校から職場への移行に関するプログラム(School-to-Work Program)を制定した。

同プログラムの基本コンセプトは、学校における学科教育と職場における職業経験をミックスさせることによって職場で役立つ実際的な教育を行うことである。

これによって、生徒が学校を卒業し就職する際に、職場で役立つ技能・知識を身につけさせることを目的とする。

ただし、同プログラムは具体的な何かを示したプログラムではなく、枠組みを示すものである。

各州政府、地域は、それぞれの実情に応じて学校から職場への移行を円滑にするための具体的なプログラムを作成し、その具体的プログラムが当該枠組みにかなうものであれば、連邦政府はプログラムの開発、作成に必要な調査、研究会などの経費、プログラムの実施に必要な経費を補助金として支給する。

なお、各州、地域が実際に取り組んでいるプログラムには、連邦の枠組みに沿ったもの以外にも、多種多様なものがある。

ただし、これらのプログラムにおいては教育現場、企業、地域がうまく連携していくことがその成功のカギであるという観点から、教育行政や事業主団体、労働組合、両親、学生自身といった関係者のパートナーシップが強調され、これらの関係者が、お互いに協力してプログラムを遂行していこうとしている点は共通している。

同プログラムの内容について、連邦の枠組みとしては以下の要件が含まれなければならないとしている。

  1. 学校におけるプログラム:職業選択のための相談や、職業とはどのようなものかといった職業意識(Career Awaerness)を身に付けさせるためのプログラムで、定期的な学力評価などが含まれる
  2. 職場におけるプログラム:技能評価を受けるために必要な高い技能を習得するための職業訓練、職場での労働体験など
  3. 事業を円滑に進めるためのプログラム:企業と学生を結びつけること、企業が職場におけるプログラムを実施するために必要な技術的援助など

参考資料

  1. Department of Labor および同省各局、AFL-CIOおよび加盟各労組、全米商工会議所など使用者団体のホームページ。
  2. Wall Street Journal各号

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