基礎情報:マレーシア(2013年)
5. 社会保障

5-1 公的年金制度

制度体系

公的年金制度にはつぎの2つがある。2つの制度は全く異なり、それぞれ別個に運営されている。

対象者:
約120万人が対象。下記のフルタイムの職員。
連邦政府、州政府、法定機関、地方機関、軍隊、裁判所、議員(連邦下院、上院、州議会)、議員の政務秘書官
根拠法:
1980年年金法(Pention Act 1980)
保険料率:
全額国が拠出。本人負担はない。
支給開始年齢:
60歳(公務員の定年年齢60歳で定年退職後直ちに支給)
最低加入期間:
勤続10年以上で、40歳以上で退職
支給額(月額):
1/600×勤続月数(最大360カ月)×最終賃金
(※ただし、25年以上の勤続者の最低補償額は月額720リンギ)
年金額の改定:
毎年、賃金上昇にスライドして改定
繰り上げ(早期)支給制度:
規定なし
年金受給中の就労:
60歳で退職したあと就業しても年金は規定どおり減額なしで支給

EPFは、民間企業従業員の退職後の老齢所得保障を目的に設置された制度であり、目的は年金制度と同様である。だが、制度の仕組みは従業員の個人口座をEPFに開設し、ここに従業員、使用者双方が支払賃金に応じて積み立てるもので、通常の年金制度とは大きく異なる。制度の基本が個人口座への積立金であることから、通常の世代送り型の年金制度と比較して、人口の高齢化に直面しても若年世代に負担をかけない財政的に安定した制度であるといわれる。

対象者:
下記の1,315万人が対象
すべての民間企業従業員、公務員(任意加入、使用者の拠出金なし)、自営業者(任意加入、使用者の拠出金なし)、家庭の主婦など(任意加入、使用者の拠出金なし)
根拠法:
1991年従業員積立基金法(Employees Provident fund Act 1991)
EPFへの拠出金(積立金):
民間従業員
  • 月額賃金5,000リンギ以下:
    月額賃金の従業員11%、使用者13%の計24%
  • 月額賃金5,000リンギ超:
    月額賃金の従業員11%、使用者12%の計23%
その他のEPF加入者
任意の金額(最低月額50リンギ)
支給開始年齢:
原則55歳で全額引き出すことが可能。ただし、55歳以前でも住宅購入目的で積立金の30%、医療目的で10%を引き出すことが可能。さらに50歳になった時点で積立金の3分の1を任意の目的で引き出すことが可能
加入期間:
55歳以上の従業員のEPFへの拠出は任意であるが、75歳までEPFへの拠出を続けることが可能。ただし、負担率は月額賃金の従業員5.5%、使用者6.5%の計12%と55歳未満の約半額となる
特例措置:
タクシー運転手、小規模小売業者、農業・漁業従事者など毎月の固定収入がない自営業者を対象は、EPFに加入し、月額50~500リンギの範囲で任意に選択した金額を拠出すれば、拠出金の運用配当の他に、年60リンギ以上の拠出を条件に5%の政府負担金(最大年60リンギ)が上乗せされる

資料出所:首相府ウェブサイトEmployees Provident Found "EPF Annual Report 2011"

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5-2 企業年金制度

公務員、民間企業従業員、自営業者など、ほとんどすべての国民が公務員年金制度もしくは従業員積立基金(EPF)によってカバーされているが、なお多くの年金を得たいと希望する者のために政府は「民間退職年金スキーム」(PRS: Private Retirement Schemes)を設立。同スキームは、公的年金の上積みを意図した企業年金と同様の目的を持つ。

対象者:
18歳以上のすべての者が任意に加入可能(外国人も加入可能)
制度の仕組み:
使用者、もしくは個人が民間年金管理機構(PPA: Private Pension Administrator)に登録するとともに、この制度に参加することを認可された金融機関(PRSプロバイダー)と契約を締結する。使用者が従業員のためにPRSを活用することも可能。この場合、使用者がPRSプロバイダーと契約するが、拠出金を従業員とどのような割合で負担するかは任意。
PRSプロバイダーはPPAの管理下で拠出金を運用し、その利益を加入者に年金として支給する。拠出金は担保される。
大まかにいえば、私的年金を政府機関が介入して管理する制度。
個人には年3,000リンギを限度として拠出金に対し税控除がある。PRSで得た利益は免税。大部分が65歳(女性60歳)
公的年金制度との調整:
なし

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5-3 社会保険料の労使負担割合

表:月額賃金に対する労使負担割合(%)
  従業員積立金 障害年金 介護
23~24 1.0 1.25
11 0.5
使 12~13 0.5 1.25

資料出所:Employees Provident Found "EPF Annual Report 2011"、Social Security Organization (SOCSO) ウェブサイト

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5-4 公的扶助制度

制度:
貧困世帯生計支援計画(Financial Assistance for Poor Families)
連邦政府の所管する直轄地、クアラルンプール、プトラジャヤ、ラブアンが対象。各州政府はそれぞれ独自の同様のスキームを持っている。
目的:
貧困世帯に対し、長期にあるいは自活できるまで、生活に必要な生計費(現金給付)を支援する。
被保護世帯数:
23万世帯(2009年、全国)
(貧困世帯データバンクe-Kasinによる)
基準額:
  • (1) 月額最低100リンギ~最高350リンギ
  • (2) 世帯収入、障害者の有無、母子家庭、貧困の度合いなどに応じて女性・家庭・社会開発省社会福祉局が給付額を判断する。
(2012年、連邦政府の所管する直轄地。各州は各州政府の政策によって支給額が異なる)
その他:
  • (1) 女性・家庭・社会開発省は貧困世帯生計支援計画以外に、貧困撲滅プログラムを設け、現金給付、職業訓練、貧困世帯向け生命・傷害保険の提供などを実施。さらに低所得者向けに賃貸住宅(6万戸)の整備を実施。
  • (2) ホームレスや一時保護を必要とする貧困者(hardcore poverty)は保護施設に収容され、ここで職業訓練、病気治療などを実施。

資料出所:女性・家庭・社会開発省ウェブサイト

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5-5 育児休業制度

マレーシアには民間企業の従業員を対象にした育児休業制度はない。育児休業制度は公務員の女性職員にのみ設けられている。以下ではこれについて説明する。

根拠法令:
公務員就業規則
対象者:
すべての女性公務員
期間:
5年間。ただし、この期間は1人の女性公務員が取得できる全勤続期間中に取得できる期間である。分割して取得することができる。例えば、第1子に2年、第2子に2年、第3子に1年など。
復職:
育児休業前と同じ職務または同等の賃金水準のその他の職務に復職できる。
有給・無給:
無給

資料出所:首相府ウェブサイト

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5-6 育児に対する経済的支援(児童手当等)

育児に対する経済的支援に相当する制度は以下の2つがある。いずれも女性・家庭・社会開発省社会福祉局が所管する。

児童に対する資金援助(Financial Assistance for Children)

資格:
18歳以下の児童のいる家庭で、両親/扶養者が身体虚弱、障害、服役中などの理由で児童の十分な扶養ができないこと。
支給額:
1人につき月額最低100リンギ(4人以上の児童がいても最大月額450リンギ)

養子児童に対する資金援助(Financial Assistance for Foster Children)

資格:
18歳以下の養子児童のいる家庭で、養子児童が里親と同居し、当該養子児童は1952年児童養子縁組法(The Registration of Adoptions Act 1952)を非適用で、養子援助スキームの下にいること。里親家族の収入による制限はない。
支給額:
1人につき月額最低250リンギ。2人以上の児童を養育する家族の最大月額500リンギ。

資料出所:女性・家庭・社会開発省ウェブサイト

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5-7 保育サービス

女性・家庭・社会開発省社会福祉局が所管する保育所(Child Care Centre)

1984年保育所法(Child Care Cnter Act 1984)は、保育所とは親が働いている4歳未満の児童4人以上を受け入れて、有料で保育サービスを提供する施設と定義し、保育所の施設の広さや食事、保育従事者の配置などを規制している。

10人以上の児童を受け入れる保育所は、保育所法に基づき女性・家庭・社会開発省社会福祉局の認可を受け、これを5年ごとに更新する必要がある。

2012年現在、全国に1590の認可保育所がある。(児童3人以下を受け入れ、多くは個人が自宅で行っている保育施設に関する統計はない。)18歳以下の児童のいる家庭で、両親/扶養者が身体虚弱、障害、服役中などの理由で児童の十分な扶養ができないこと。

人的資源省労働局が所管する保育所

地域保育所(Community Child Care Centre):1990年従業員住宅・施設最低基準法に基づいて設置された保育所。主としてプランテーションで両親が働く労働者向けにプランテーション企業が設置、運営している。連邦政府や州政府からの支援を受け、多くが無償。なお、1984年保育所法が制定されたのは、プランテーションなどの劣悪な環境の保育所が社会問題化したことを契機としている。施設の内容、必要な保育士の数などの認可基準は1984年保育所法に準じている。

工業地域保育所(Industrial Child Care Centre):政府は、女性の就業促進政策の一環として、職場や工業団地に保育施設を設けることを企業に対し奨励している。現在、それほど数は多くないが、今後、飛躍的に増設する方針。(企業に先駆けて、連邦政府関係機関内にも保育施設の設置を進めている。)

就学前教育施設(Pre-school Education Institution)

1996年の教育法改正によって、4~5歳児を対象とした就学前教育が国民教育制度の一環として位置づけられ、法制定以前に実施的に就学前教育を担っていた幼稚園、保育所の役割が大きく変わった。教育法改正の目的は、経済発展の担い手である国民に早期教育開始の機会を与えて人材開発に努めることだが、あわせて働く女性の0~3歳児を保育所で養育し、4~5歳児を就学前教育施設でケアするとの狙いもある。

就学前教育は教育省が所管し、女性・家庭・社会開発省社会福祉局が所管する保育所は就学前教育の対象施設とは位置づけていない。

就学前教育機関には複数の設置運営母体がある。主要な設置母体には、教育省、地方開発省、首相府国民統合局などの連邦政府機関、各州の宗教局、イスラム団体に加えて、以前の幼稚園を運営していた民間企業がある。これら設置母体を異にする就学前教育機関は、原則として教育省が定めた教育カリキュラムに従って教育活動を行っている。

就学前教育を受ける児童に対しては食事補助(半島マレーシア1人1日1.8リンギ、サバ、サラワク州2.05リンギ)と児童1人当たり年1.5リンギのイスラム保険料(takaful fees)が支給され、教育施設に対しては児童1人当たり年100リンギの財政援助、児童1人当たり年25リンギのカリキュラム援助がある。

就学前教育クラスは2012年現在、全国で8,664クラス設けられている。1クラス25人を基準としており、合計21万6,600人ほどの児童が就学前教育を受けていることになる。4~5歳児は2012年に約100万人と推計されており、該当年齢層の20%強が就学前教育を受けているとみられる。クラス数は過去5年間の平均で年550ほど増加している。

資料出所:女性・家庭・社会開発省ウェブサイト

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:マレーシア」