基礎情報:マレーシア(2013年)
2. 雇用・失業対策

2-1 公共職業安定制度

公共職業安定機関(公的職業紹介所)は連邦政府の管轄で、人的資源省の半島マレーシア担当労働局、サバ州担当労働局、サラワク州担当労働局の3局がそれぞれ担当地域に次の機関をおいて職業紹介サービスを実施している。公的職業紹介は、求職者、求人企業ともに無償。求職者、求人企業が職業紹介サービスを受けるためには登録する必要がある。公的職業紹介所では民間企業の求職、求人のみを対象としており、公務員、公共機関職員は対象としていない。

(a) ジョブマレーシア・センター(JobsMalaysia Centre):

全国主要都市(全13州に各1カ所以上)に設置。センターでは求職者、求人企業に対するマッチングサービスにとどまらず、求職者、学生に対するキャリア・ガイダンス・サービスを実施している。

(b) ジョブマレーシア・ポイント(JobsMalaysia Point):

全国の各地域(District)に設置(99カ所)。ここでは各地域に密着した職業紹介サービスを実施。同ポイントは人的資源省の地方事務所や職業訓練所に併設されている場合が多い。

現在、政府は上記の職業紹介機関を通じた職業紹介よりも、ウェブサイトを活用した職業紹介に重点を移している。労働局が運営している職業紹介ウェブサイトは、ポータル・ジョブマレーシア(Portal JobsMalaysia)と名付けられ、全国の職種ごとのきめ細かい求人・求職情報を掲載している(2013年3月現在の掲載件数は求人情報、求職情報ともに各15万件ほど)。サイトの利用を希望する求職者、求人企業は登録すれば無償でサービスが受けられる。

産業構造の変化が著しいマレーシアにおいては、公共職業安定事業は失業者援助を目的としたいわゆる消極的労働市場政策ではなく、労働力を衰退産業から成長産業へと円滑に移動させる積極的労働市場政策と位置づけ、ジョブマレーシア・センターやジョブマレーシア・ポイント、ポータル・ジョブマレーシアの増設、改革、充実を労働施策の最重点課題の1つと位置づけている。

公的職業紹介の実績

求職者数:
338,083人(うち失業者:164,971人)(2012年7月現在)
求人件数:
888,842件(2012年1~7月計)
就職件数:
6,743件(2012年1~7月計)

資料出所:人的資源省 "Labour Market Report 2013"

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2-2 労働者派遣制度

業務請負契約者(outsourcing contractor)の下で働く請負労働者は多数いるが、派遣元企業に雇用されて派遣先企業で当該企業の指揮、命令下で就業する形態の派遣労働者はごく少数とみられ、これを規制する法制度はない。

職業紹介を行うためには1981年民間雇用機関法(Private Employment Agencies Act 1981)に基づく人的資源省労働局の認可を得る必要があるが、企業が雇用している労働者を一時的に他の企業(例えば顧客)の事業所に派遣して就業させることは可能で、認可を得る必要はない。

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2-3 失業保険制度

マレーシアには2013年3月時点で公的失業保険制度はない。失業保険に代わる制度として、雇用法は業績不振など会社都合により解雇した労働者に対する解雇手当の支給を使用者に義務づけている。支給額は次のとおり。

  • 勤続2年未満:月額賃金の10日分×勤続年数
  • 勤続2~5年未満:月額賃金の15日分×勤続年数
  • 勤続5年以上:月額賃金の20日分×勤続年数

動向 失業保険制度設立の動き

経緯は以下のとおり。

1997年のアジアの通貨危機後の不況で多くの中小企業が倒産、解雇手当が支給されないで失業した労働者が多数発生したことから、マレーシア労働組合会議(MTUC: Malaysian Trades Union Congress)が1998年に社会保障機構(Socso)に労使が1人当たり月額1リンギをそれぞれ拠出して解雇給付金支給を目的とした公的基金の設立を提案した。当初、政府はこの提案を取り上げなかったが、経済が回復基調に転じた2000年にMTUC案を叩き台にした制度設立に向けて議論を始めた。しかし使用者側の理解を得られず議論は立ち消えとなった。

2009年にナジブ現政権が成立すると再び失業保険の設立が政策課題として浮上した。ナジブ政権は2010~2020年を期間とする中期経済政策「新経済モデル(NEM: New Economic Model)」とそれを具体化する第10次マレーシア計画(2010~2015年)の中で労働市場の柔軟化を打ち出した。すなわち農業などの衰退産業から成長産業への労働力の移動を円滑に進めようとの政策である。しかし労働力の移動には一時的な失業は避けられない。景気後退時には失業者はさらに増える。これをできうる限り労働者の負担を軽くして推し進めるためには社会的なセーフティーネットの確立が不可欠であるとの考えから、失業保険制度の設立を政府は打ち出した。

これまでのところ、Socsoに政労使代表と有識者による委員会を設け、先のMTUC案を土台に、政府の財政負担が伴わない形での制度設計を議論している。第10次マレーシア計画によると、「現在の解雇手当の下では労働者1人の解雇コストは平均75週間分の賃金に当たり、高過ぎる」との認識を政府は持っている。このため仮に解雇手当の廃止を伴う労使の拠出制失業保険基金が打ち出されれば、労組側の反対は必至である。使用者側が賛成に転じたいとしても制度設立までには曲折が予想されている。

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2-4 補足的な失業扶助制度

該当制度なし

2-5 困難な状況にある者に対する施策

高齢者向け施策

高齢者就業促進に向けて2つの施策が実施されている。1つは定年年齢の60歳への延長である。定年制度については2-6で説明するが、2012年に公務員は58歳であった定年が60歳へと延長され、民間企業では55歳が大多数であった定年が60歳へと延長する法律が成立した。人的資源省は定年延長の政策的意図について、「2010年の人口センサスで国民の平均寿命が75歳(男71.9歳、女77.0歳)に達したことが明らかになった。定年後に20年間も働かないでいることは多くの問題を引き起こす可能性がある。健康であれ60歳まで継続して働ける環境を整備した」と説明している。

もう1つの高齢者就業促進施策として「パートタイム労働の環境整備」がある。2010年に雇用法に「パートタイム労働者規則」を追加し、パートタイム労働者を法的に定義するとともに(同定義は「1-7 パートタイム労働者の割合」の項参照)、超過勤務手当の支給、従業員積立基金(EPF)や社会保障機構(Socso)への加入を使用者に義務づけるなどパートタイム労働者の保護に努めている。同規則制定の理由について人的資源省は、労働力不足を緩和する施策の1つとして、女性とともに、退職した年金生活者(高齢者)の労働市場への参入を容易にするために制度を整備したと説明している。

さらに、2010~2015年を期間とする経済開発5カ年計画である第10次マレーシア計画では、退職者の経験と能力を活用するために、パートタイム労働以外にも、フレキシブル・ワーク、在宅就業などの環境整備を進める方針。

若者向け施策

困難な状況にある若者に対する施策に相当する訓練としては、地域・農村開発省のマラ活動センター、マラ職業訓練校、スポーツ青年省の青少年技能訓練校、青少年上級技能訓練校などが挙げられる。詳細は第3章を参照。

注:マラはマレーシア政府の一機関。プミプトラに対する経済産業分野での支援等を目的とする。

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2-6 年齢に関する法制度(定年等関係)

公務員の定年は2011年に人事規則が改正され、2012年1月1日から60歳となっている。

民間企業の法定定年に関しては、「2012年最低定年年齢法」(Minimum Retirement Age Act 2012)が2012年7月に国会で成立している。これにより民間企業に60歳の法定定年制度が導入されることになった。実施は2013年7月1日を予定。

定年法には規定違反の使用者に最高1万リンギの罰金を科す罰則規定がある。また60歳前に退職させられた従業員が退職日から60日以内に訴え、正当性が認められれば使用者に雇用の継続が命じられる。

定年法の対象者は原則民間企業の従業員全員であるが、下記の者は適用外。

  • 政府機関の契約従業員・試用期間中の者・見習い契約者・外国人・家事労働者・平均労働時間がフルタイムの70%以下のパートタイム従業員・学生アルバイト・延長期間を含めて24カ月以内の有期雇用契約者・法施行以前に55歳以上で退職し再雇用で働いている者

定年法制定に関し、マレーシア使用者連盟(MEF: Malaysian Employers Federation)は平均寿命が延びている以上、定年延長は自然な成り行き、と理解を示す一方で、マレーシア製造業者連盟(FMM: Federation of Malaysian Manufacturers)などは企業経営に影響が出る55歳以降は個人業績をもとに契約延長で対応するか、長期の移行期間を設けるべきだと不満の意を表明している。労働者側は各労組とも歓迎している。

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2-7 障害者雇用対策

障害者雇用対策の基本方針は、身体的、精神的な障害者で働く能力を有する者を、家庭の主婦、退職者(高齢者)と並んで労働力不足を緩和する「潜在的な労働力」と位置づけている。このため上記の高齢者就業促進施策の項で記したのと同様に、パートタイム労働、フレキシブル・ワーク、在宅就業などの環境整備の重要なようなターゲット・グループの1つとしている。これらの施策実施において政府は働く意思と能力を持つ障害者を雇用するよう企業を指導するとともに、職場環境などへの配慮を企業に求めている。

労働災害による障害者のリハビリテーション、職場復帰について、2011年以降、人的資源省の重点施策の1つとして取り上げている。具体的には、(1)障害に応じた管理基準の設定、(2)リハビリ施設の充実、(3)現職復帰が困難な障害者への就労可能な職業紹介の強化、必要な訓練の実施、などを推進。2011年には政策数値目標1,700人に対し1,812人を職場復帰させている。

資料出所:首相府 "Economic Tranceformation Programme Annual Report 2012"

2-8 有料職業紹介制度

以下の2つの制度がある。

マレーシア人に対する有料職業紹介

  1. 1981年民間雇用機関法(Private Employment Agencies Act 1981)に基づいて人的資源省労働局の認可を得て行う有料の職業紹介事業。認可の基準は「求職者の利益になる職業紹介」と抽象的なもので、認可申請がある都度個別に判断される。認可機関は公表されていない。
  2. この職業紹介事業は、国内外の企業の求人にマレーシア人を紹介することに限定されており、外国籍の労働者に職を紹介することは認められていない。
  3. 認可を受けた民間の有料職業紹介機関は、先に述べた公共職業紹介機関のウェブサイトであるポータル・ジョブマレーシアに求人、求職情報を掲載するなどの便宜が認められている。

有料で外国人労働者を国内の企業に紹介する業者

  1. この事業を営むためには内務省移民局の認可を得る必要がある。
  2. この事業では、非熟練の単純外国人労働者を企業に紹介する事業と外国人家事労働者(メイド)を個人に紹介する事業の2つがある。外国人家事労働者を扱う認可を得ている事業者名は公表されており、2012年12月末現在で368社が認可されている。

資料出所:人的資源省ウェブサイト(第2章)

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