基礎情報:マレーシア(2013年)
3. 能力開発・キャリア形成支援
- 概要
- 3-1. 初期教育訓練
- 3-2. 継続教育訓練
- 3-3. 能力評価(資格)制度
概要
マレーシアでは現在、2010~2020年を期間とする中期経済政策「新経済モデル(NEM)」とそれを具体化する第10次マレーシア計画(2010~2015年)の中で、高所得社会を目指し、そのために経済の高度化、知識集約型経済への転換を戦略目標として掲げている。これの実現のために国民の能力開発、高度化した経済が必要とする技能労働者の育成を最重要政策課題としている。「能力開発・キャリア形成支援」はこの戦略の一環として、学校教育(初等、中等、高等)の抜本的な改革と併せて、職業訓練の充実強化を図っている。したがって、労働政策としての「能力開発・キャリア形成支援」は学校教育との関係が密接不可分に立案、実施されている。下の表は「能力開発・キャリア形成支援」の全体像を示したものである。
レベル | 教育部門 | 生涯学習 | ||
---|---|---|---|---|
職業訓練 | 職業・技能教育 | 高等教育 (学術・専門) |
||
8 | 博士号 | 専門教育 | ||
7 | 修士号 | |||
大学院教育 | ||||
6 | 学士号 | |||
学部教育 | ||||
5 | 上級ディプロマ | 上級ディプロマ | 上級ディプロマ | |
4 | ディプロマ | ディプロマ | ディプロマ | |
3 | 技能資格3 | 職業・技術資格 (certificate) | 資格証明書 (certificate) | |
2 | 技能資格2 | |||
1 | 技能資格1 |
資料出所:Malaysia Qualification Accreditiation(MQA) Act 655
この表で分かるように中等教育(中学、高校に相当)以降の学校教育、職業訓練への国定職業基準(NOSS)をベースとしたレベル1(L1)からレベル8(L8)までのランク付け、各課程修了者に資格を認定している。
職業訓練、技能訓練は、人的資源省の人材局、技能開発局をはじめとして、連邦政府の地域・農村開発省、スポーツ青年省、教育省、高等教育省、各州政府、民間で広く実施している。以下では可能な限り労働政策分野に限った職業訓練、技能訓練を実施主体別に取り上げる。
(1) 人的資源省人材局の職業訓練
産業訓練校(Industrial Training Institute)
全国に24校(2013年3月)。中等教育修了者(高校卒業に相当)を対象に、製造業関連科目を中心とした長期コース、短期コースを実施。訓練内容は基礎レベルで、長期コース修了者にはL1、L2の資格が与えられる。また人材局独自の資格として、長期コース修了者には産業技能士証明書(Industrial Technician Certificate)、短期コース修了者には技能向上訓練修了証書(Statement of Achievement, Certificateではない)が与えられる。
上級技術訓練センター(Advanced Technology Training Center)
全国に8校(2013年3月)。熟練技能労働者の養成を目的とした長期コースを実施。科目は機械工学、電子工学、メカトロニクス工学など。レベルはL3、L4。企業在職者の技能向上訓練が中心。2009年には4校であったが、この3年余りで8校へと倍増された。
(2) 人的資源省技能開発局の職業訓練
職業訓練指導員・上級技能訓練セーター(CIAST)
職業訓練指導員の養成訓練に特化した研修を実施する国内唯一の職業訓練指導員養成校。人材局の職業訓練校の指導員のほか、人的資源省以外の省庁の訓練施設、民間の職業訓練施設の指導員も養成する。
デュアル訓練制度(National Dual Training System)
この制度の下で訓練を受ける者は、見習労働者(Apprentice)と位置づけられ、技能開発局によって指定された職業訓練校で訓練を受けながら、同時に企業で実務訓練を受ける。技能開発局は合意書を交わし企業に見習労働者の実務訓練を委託する。訓練の割合は訓練校で20~30%、企業で70~80%。見習労働者には訓練期間中の生活費が支給される。企業負担はない。企業が断らない限り、訓練を修了した見習労働者は、一定期間、訓練を受けた企業に雇用されて働く。技能開発局は、企業の要望に応じ、企業内での訓練指導を支援する目的で指導員を派遣。この費用は技能開発局が負担。派遣される多くの指導員は、企業の退職者や指導員退職者である。
(3) 地域・農村開発省の職業訓練
地域・農村開発省はブミプトラ(マレー人およびその他の先住民族)、中国人、インド人などの多民族で構成されるマレーシア社会で経済的に遅れているといわれるブミプトラの職業能力を向上させる目的の一環として職業訓練を実施。訓練はブミプトラの経済活動を支援する目的で設置しているマラ公社を通じて行っている。
マラ活動センター
全国に140施設。基礎技能訓練に重点を置き、学歴の低いブミプトラを対象に6~12カ月のコースを実施。訓練レベルはL1。
マラ職業訓練校(IKM)
全国に11校。中等教育修了者(高校卒業に相当)を対象に全寮制で職業訓練を実施。訓練校における訓練と企業実習を組み合わせたデュアル方式の訓練方法をとっている。期間は1年6カ月~3年。訓練レベルはL1~L3。
(4) スポーツ青年省の職業訓練
青少年技能訓練校
主として学校を中退した18~25歳の若者を対象に職業訓練を実施。訓練レベルはL1~L2。
青少年上級技能訓練校
上記の訓練校を修了した者などを対象に、よりレベルの高い(L3)訓練を実施。
(5) 教育省、高等教育省の職業訓練
職業学校、技術学校
前期中等教育修了者(中学校卒業相当)を対象に、基礎技術、基礎知識を学ばせる。訓練レベルはL1~L2。
ポリテクニック
全国に30校(2012年)。実験、実務訓練を中心とした教育を行い、中・上級技能労働者を養成。訓練レベルはディプロ、上級ディプロ。
コミュニティーカレッジ
全国に83校(2012年)。中等教育学校(中学校、高校に相当)を中退した者の技術教育、国民一般の生涯学習の機会提供、労働者の技能向上、再教育機会提供が目的。2年間のサーティフィケート・コース、3年間のディプロマ・コースがある。
(6) 各州政府の職業訓練
セランゴール、ペナンなどの製造業が集積している州の政府が実施。訓練方法は多岐にわたるが、多くが企業と協力して、労働者の技能向上を目的に短期の訓練を実施している。企業に指導員を派遣しての訓練も実施。
(7) 民間の職業訓練校
多様な形態の職業訓練校がある。例えば、ICT(情報通信技術)を専門的に教える専門校、コンピータ操作を教える専門校、業種別団体が設けた職業訓練校、労組が主体となって設立した職業訓練校などがある。先に述べたように技能開発局の認定を受ければ人的資源開発基金の資金援助が受けられるので、認定を受けている訓練施設が多い。
注:人的資源開発基金は、政府が設立した技能開発促進を目的とした基金。従業員50人以上の企業、および従業員が10~50人未満であっても資本金250万リンギ以上の製造業の企業の「従業員1人当たり月額賃金の1%」の拠出によって運営。
(8) 民間企業の職業訓練
企業はOJT、Off-JTを含めて多様な訓練を実施しているが、1993年に技能開発基金が設けられてからは、技能開発局が認定する訓練を実施すれば資金援助が受けられるようになり、技能開発局の定めた基準に則した訓練が多く行われている。
3-1 初期教育訓練
上記の実施主体別職業訓練のうち、初期教育訓練に相当する訓練は、人材局の産業訓練校、地域・農村開発省のマラ活動センター、マラ職業訓練校、教育省、高等教育省の職業学校、技術学校、民間の職業訓練校の一部などが該当する。
若年のキャリア形成及び就職支援
上記の実施主体別職業訓練のうち、若年のキャリア形成及び就職支援に相当する訓練は、人材局の産業訓練校、上級技術訓練センター、技能開発局のデュアル訓練制度、地域・農村開発省のマラ活動センター、マラ職業訓練校、教育省、高等教育省の職業学校、技術学校、民間の職業訓練校の一部などが該当する。
3-2 継続教育訓練
在職者訓練
上記の実施主体別職業訓練のうち、在職者訓練に相当する訓練は、人材局の上級技術訓練センター、高等教育省のコミュニティーカレッジ、各州政府の職業訓練、民間の職業訓練校の一部、民間企業の職業訓練などが該当する。
職業転換(失業者)訓練
職業転換に特化した訓練はないが、上記の実施主体別職業訓練のうち、人材局の上級技術訓練センター、地域・農村開発省のマラ職業訓練校、高等教育省のポリテクニック、コミュニティーカレッジ、民間の職業訓練校の一部などがその役割を担っている。
3-3 能力評価(資格)制度
国定職業基準(NOSS)をベースとした技能の分野とレベルを認定するマレーシア技能資格制度(MSC)があり、人的資源省技能開発局が所管する。
職業訓練は先にみたように、人的資源省の人材局、技能開発局にとどまらず、連邦政府のスポーツ青年省、高等教育省などの省庁、各州政府、民間で広く実施されている。これらすべての職業訓練のカリキュラム、コースを技能開発局がMSCに基づいて認定。技能開発局の認定を得た訓練カリキュラム、コースを修了した者には、カリキュラム、コースに対応した技能資格が与えられる。
民間の訓練施設にとっては、技能開発局の認定施設の資格を得ると、人的資源開発基金を利用できることになるとのインセンティブが与えられている。
国定職業基準は1000職種(2011年)に分類されている。各職種には概要に記載した表に示したように、1~8のレベルがあり、職業訓練ではこのうち1~5レベルを対象としている。
レベル | 教育部門 | 生涯学習 | ||
---|---|---|---|---|
職業訓練 | 職業・技能教育 | 高等教育 (学術・専門) |
||
8 | 博士号 | 専門教育 | ||
7 | 修士号 | |||
大学院教育 | ||||
6 | 学士号 | |||
学部教育 | ||||
5 | 上級ディプロマ | 上級ディプロマ | 上級ディプロマ | |
4 | ディプロマ | ディプロマ | ディプロマ | |
3 | 技能資格3 | 職業・技術資格 (certificate) | 資格証明書 (certificate) | |
2 | 技能資格2 | |||
1 | 技能資格1 |
資料出所:(上表)Malaysia Qualification Accreditiation(MQA) Act 655
資料出所:(第3章)人的資源省、教育省、首相府、各ウェブサイト
基礎情報:マレーシア(2013年)
- 1. 統計情報
- 2. 雇用・失業対策
- 3. 能力開発・キャリア形成支援
- 4. 賃金・労働時間・解雇法制
- 5. 社会保障
- 6. 労使関係
関連情報
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調査部 海外情報担当
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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:マレーシア」