基礎情報:マレーシア(2013年)
4. 賃金・労働時間・解雇法制

4-1 最低賃金制度

マレーシアの最低賃金制度は1947年賃金審議会法に基づき、職種別、業種別の最賃を設定できる制度的枠組みは存在していた。同法に基づき複数の職種別、業種別の賃金審議会の議論を調整する中央調整委員会を設置し、運用によっては全国一律最賃の設定も可能であった。ところが独立以前の1947年から2008年までに賃金審議会が設けられたのは小売店販売員、映画館労働者、ペナン港湾労働者などごく限られた職種、業種に過ぎず、適用労働者数は極めて少なかった。しかも最賃改定は10年に1度程度の頻度であった。この理由は1947年賃金審議会法の目的が「極端に低い賃金の排除」と定められていたからである。

マレーシアの工業化が本格的な軌道に乗り、製造業における賃金上昇によって業種間の賃金格差が顕在化し始めた1980年代後半から労組は、全産業の労働者の賃金を底上げする目的で「全国一律最賃」の設定を政府に強く求めてきた。だが、議論が進展することはなかった。

ようやく全国最賃導入の議論が本格化したのは、2010年前後になってからである。理由は2つある。1つは2008年3月の総選挙で連合与党が大敗したことだ。90年代初めから2008年までの経済成長率は年平均6%を上回り、1人当たりGDPは3,000米ドルから8,000米ドルへと上昇した。しかし、同時期に労働者の賃金は25~30%程度上昇したに過ぎない。すなわち1人当たりGDPは大きく伸びたが、国民の多数を占める労働者の所得の伸びはそれに見合ったものではなく、所得格差が拡大した。これが連合与党の総選挙における敗北に繋がった。したがって連合与党政府としては国民の信頼を回復するために労働者の賃上げが大きな課題となった。もう1つの要因は2008年9月の経済危機を境に「外国人労働者の削減」に政府が政策の舵を切ったことだ。労働者の賃金が上昇しない大きな理由に「低賃金外国人労働者」の存在があると考えられているからだ。こうして労働者の所得を引き上げ政策として全国最賃導入を政府は前向きに検討するようになった。

手始めに、政府は「低賃金業種」として以前から問題となっていた「警備員」の賃金引き上げを図るため2010年初めに1947年賃金審議会法に基づく警備員賃金審議会を設置して月額700リンギの最賃を定めた。

さらに人的資源省内に委員会を設け、1年ほどかけて具体的な制度を検討。同委員会で成案を得て、2011年に全国賃金審議会法を制定。同法に基づき2012年4月にナジブ首相が最賃額を発表した。

発表された最賃額は全国一律ではなく半島マレーシアが月額900リンギ、サバ、サラワク両州が800リンギの2本建てとなった。100リンギの差額は両地域で生計費に差があるからと説明されている。時給換算すると半島部は4.33リンギ、サバ、サラワクは3.85リンギ。外国人労働者を含むマレーシアで働くすべての労働者に適用される。ただし、家事労働者(メイド)は適用除外。違反企業には最高で労働者1人当たり1万リンギの罰金が科される。

最賃は2013年1月1日から実施に移された。ただし、5人未満の従業員規模の零細企業は実施が半年間猶予され、7月1日から実施。全国最賃の実施に伴い、1947年賃金審議会法に基づいて設定されていた業種別、職種別最賃は廃止し、全国最賃に統合された。

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4-2 最低賃金額の推移

上述のように、全国最賃は2013年1月から実施された。したがって、「最低賃金額の推移」に該当する情報はない。

4-3 労働時間制度

根拠法:
1955年雇用法(月額賃金2,000リンギ以下の労働者に適用)
法定労働時間:
1日8時間、週48時間を超えないこと
罰則:
1,000リンギを超えない罰金
適用関係:
5時間の連続労働に少なくとも30分の休憩時間。超過勤務を含めて1日最長10時間を原則とする。ただし、業務内容によって12時間までの労働を使用者は求めることができる。この場合、3週間の平均で週48時間を超えないことが前提。
法定労働時間の特例:
法律に規定なし
弾力的労働時間制度:
法律に規定なし
時間外労働(上限規制、割増賃金率):
上限規制
月104時間、通常労働時間を含め1日12時間
割増賃金率
通常の勤務日は通常賃金の50%増
休日労働(割増賃金率):
祝日以外の休日労働(1日8時間)
4時間未満の労働:
通常賃金の半日分(時間給労働者の場合は1日分)
4~8時間の労働:
通常賃金の1日分(時間給労働者の場合は2日分)
8時間以上の労働:
通常賃金の200%を下回らない率
祝日労働
8時間未満の労働:
通常賃金の300%を下回らない率
8時間以上の労働:
通常賃金の450%を下回らない率週1日の休日
年次有給休暇制度における継続勤務要件:
法律に規定なし
年次有給休暇の付与日数:
勤続2年未満:8日
勤続2年以上5年未満:12日
勤続5年以上:16日
年次有給休暇の連続付与:
法令上の規定なし
年次有給休暇の付与方法:
法令上の規定なし
未消化年休の取扱い:
年次有給休暇の対象12カ月間に労働者が年次有給休暇の権利を行使しなかった場合は、権利を喪失する。ただし、使用者の要請により、労働者が年次有給休暇の権利の全部または一部を行使しないと書面により同意した場合は当該年次有給休暇に代わる金銭による支払いを受けることができる。

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4-4 解雇法制

1955年雇用法は雇用契約の終了(Termination of Contract)の形態をつぎの4点に規定している。

  • 定年退職(Retirement)
  • 自己都合退職(Resignation)
  • 予告解雇(Retrenchment)
  • 懲戒解雇(Dismissal)

このうち「解雇法制」に相当する規定は、予告解雇と懲戒解雇である。

「予告解雇」の場合は、企業が業績不振などで、企業都合により従業員を解雇するケースである。雇用法では予告期間と解雇に伴う手当の支給をつぎのとおり定めている。

勤続2年未満:
予告期間4週間前、解雇手当は月額賃金10日分×勤続年数
勤続2~5年未満:
予告期間6週間前、解雇手当は月額賃金の15日分×勤続年数
勤続5年以上:
予告期間8週間前、解雇手当は月額賃金の20日分×勤続年数

解雇に当たって使用者は、解雇実施30日前までに労働局に事前通知し、解雇後14日以内に結果を報告する義務を課されている。また当該企業に外国人労働者が雇用されている場合は、外国人労働者(永住権権保持者は除く)から解雇する必要がある。さらに外国人労働者を雇う目的でマレーシア人労働者を解雇することを禁じている。

「懲戒解雇」の場合は、懲戒解雇に関する手続きを就業規則、あるいは労働協約の中で定め、同規則に則って解雇する必要がある。

資料出所:人的資源省 "Guidelines on the implementation of the minimum wages order 2012"Jabatan Peguan Negara "Perintah gaji minimum (pindaan) 2013"Employment Act 1955 (Act265)(第4章)

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