JILPTリサーチアイ 第90回
正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われているのか?─事業所・労働者マッチングデータによる探索的分析─[注1]

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多様な人材部門 主任研究員 高橋 康二

2026年3月4日(水曜)掲載

2014年頃を境に、正社員が再び増加している。本稿では、雇用の量的拡大と質的向上が手を携えて進む条件を探る試みのひとつとして、正社員が増加している事業所において、そうでない事業所と比べて高い賃金が支払われているのかを検証した。

厚生労働省が実施する事業所・労働者マッチング調査を分析した結果、2015年以降の正社員増加期には、労働者と事業所の属性をコントロールすると、正社員増加事業所の方が賃金水準が高いことが分かった。他方、2014年以前の正社員減少期には、正社員増加事業所に賃金プレミアムは見出せず、女性、若年者、短期勤続者が多いことも相俟って、正社員増加事業所の平均賃金はむしろ低かった。

今日に続く正社員増加期においては、正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われていると言えるが、デフレ下を含む正社員減少期には、低コストのビジネスモデルが拡大しやすく労働者も賃金の高低を選びにくかったためか、必ずしもそうではなかった可能性がある。

1 はじめに

日本では、1998年~2014年頃にかけて正社員がほぼ一貫して減少していたが、2015年以降、増加に転じるようになった。正社員減少期は、消費者物価指数の低下によって示されるデフレ期とも重なっていたため、2015年以降の正社員の増加は、日本経済の復活の兆しとして注目されてきた(図1)。

正社員と非正社員との間に大きな賃金の差があることを踏まえるならば、正社員の増加それ自体は歓迎すべきことである。しかし、労働研究の観点から重要なのは、正社員の増加によって賃金の高い正社員が増えているかどうかである。正社員が増加したからといって、賃金の低い正社員が増加(=正社員の雇用が劣化)しているのであっては、元も子もないからである[注2]

図1 正社員・非正社員の人数推移(万人)、消費者物価指数マイナス期間

図1グラフ

出所:総務省「労働力調査」(詳細集計)、総務省「消費者物価指数」より。

注1:データはいずれも四半期ベース。

注2:CPIマイナス期間①は、消費者物価指数(全国、2020年基準)が前年同月比マイナスとなる月を含む四半期についてグレーのマークを、CPIマイナス期間②は、同指数の四半期平均が前年同期比マイナスとなる四半期について黒のマークを記している。

注3:青とオレンジの線・矢印は、本稿で分析する厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の実施時期と正社員増減把握時期を示す。

ところで、正社員の増加によって賃金の高い正社員が増えているかどうかを問うにあたり、どの正社員が「増加した正社員」なのかを特定する必要がある。この点につき、産業や職業を単位とした増減に注目する方法もあるが、本稿では、事業所単位での増減に着目する。すなわち、「正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われているのか」を問うこととする[注3]

この問いに関連して、これまでの研究から、賃金水準が高い事業所で正社員が減少し、そうでない事業所で正社員が増加していた可能性が示唆される[注4]。例えば、原(2005)は、いわゆる就職氷河期の新規学卒労働市場の現状を分析し、2004年度採用において、300人以上の大企業や労働組合がある企業ほど新規学卒採用比率(正社員数に占める新規学卒採用者の割合)が低かったことを示している。一般に、大企業や労働組合がある企業ほど賃金水準が高いことを踏まえるならば、この結果は、賃金水準が高い企業で正社員が減少していたことを示唆する。

また、リーマン・ショック前後になると、若者に低賃金で長時間の労働を強いる「ブラック企業」や、若者を「使い捨て」にする企業の拡大が社会問題化した(今野 2012;厚生労働省 2013)。ブラック企業問題の本質が何であるかについては論者により認識が分かれるが、正社員雇用が減少している中で正社員として採用することを「売り」としていたこと、デフレ下で低コストのビジネスモデルが消費者に支持されていたこと等が背景にあるという理解は、概ね共通している。

シンプルに考えるならば、事業所によって賃金水準が異なる場合、労働者は賃金水準が低い事業所から高い事業所へ移動するのだから、賃金水準が高い事業所で雇用が増加するはずである。しかし、上述のように、事業環境や労働市場の状況次第では、そのような結果にならないかもしれない。本稿にて「正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われているのか」を問うことは、雇用の量的拡大と質的向上が手を携えて進む条件を探る試みのひとつとも位置づけられる[注5]

本稿は、この問いに答えるための探索的分析である。以下、2節ではこの問いに係わるリサーチ・クエスチョンを整理し、3節ではデータと変数について説明する。その上で、4節にて分析結果を示し、5節でそれらについて解釈・考察し、6節にて結論と今後の課題を述べる。

2 リサーチ・クエスチョン(RQ)

正社員が増加している事業所(正社員増加事業所)において、そうでない事業所と比べて高い賃金が支払われているのか。この問いに丁寧に答えるため、本稿では次の5つのリサーチ・クエスチョン(RQ)を設定したい。

RQ1:正社員増加事業所では、平均的にみて高い賃金が支払われているのか?

RQ2:正社員増加事業所には、事業所属性およびそこで働く労働者属性の点でどのような特徴があるのか?

RQ3:正社員増加事業所では、上記の労働者属性、事業所属性をコントロール(統制)した上でも、高い賃金を支払っているのか?(すなわち、正社員増加事業所に賃金プレミアムがあるか?)

RQ4:正社員増加事業所に賃金プレミアムがあるにもかかわらず正社員増加事業所の平均的な賃金が高くないとしたら(あるいは、賃金プレミアムがないにもかかわらず平均的な賃金が高いとしたら)、それはどのような労働者属性、事業所属性によって媒介されているのか?

RQ5:上記の答えは、正社員減少期と正社員増加期とで異なるか?

RQ1により、本稿の問いに対する最も直接的な答えが得られる。しかし、その答えは、正社員増加事業所の属性や、そこで働く労働者の属性によって異なるだろう。例えば、正社員増加事業所が、就業中断期間の長い子育て後の女性を多く採用しているならば、それらの事業所の賃金は平均的にみて低くなるだろう。若年者を多く採用していたとしても同様である。そこで、RQ2で正社員増加事業所の特徴を確認し、その上でRQ3により正社員増加事業所の賃金プレミアムを分析する必要がある。

また、もしRQ1とRQ3の答えが食い違うならば、そのような食い違いが生じるメカニズムを明らかにする必要がある(RQ4)。さらに、本稿の問題関心からするならば、それらRQ1~RQ4の答えが、正社員減少期(~2014年)と正社員増加期(2015年~)とでどう異なるのかを明らかにすることも重要である。

これらのRQに答える際の要所となるのは、個々の労働者の賃金および属性情報と、事業所における正社員増減の両方を精確に把握することである。この点につき、一般に、労働者(個人)調査では正社員増減の誤回答が多くなることが懸念される[注6]。他方、事業所を対象とした調査であれば正社員増減を精確に把握できるかもしれないが、個々の労働者の属性および賃金情報を得ることは難しい[注7]

本稿では、次節で述べるように、厚生労働省が実施する事業所・労働者マッチング調査を用いることで、これらのRQに答えていきたい。

3 データと変数

(1) データ

本稿では、厚生労働省が実施している「就業形態の多様化に関する総合実態調査」の2014年調査と2019年調査の個票を分析する[注8]

同調査は、全国の常用労働者5人以上の事業所に事業所票を配布し、回答のあった事業所において一定の抽出率で労働者票を配布する仕組みとなっている。労働者調査では本人の賃金、労働時間のほか、本人属性がたずねられており、事業所調査では基本的な事業所属性に加えて過去3年間での正社員の増減がたずねられている。

本稿において鍵となるのは、事業所調査で把握される過去3年間での正社員の増減である。過去3年間とは、2014年調査では2011年10月から14年10月、2019年調査では2016年10月から19年10月を指しているため、それぞれデフレ下を含む正社員減少期(~2014年)と、正社員増加期(2015年~)に対応するものとみなせる。

これらの条件の下、以下では、正社員の回答と事業所の回答のマッチングデータを分析する[注9]

(2) 変数

被説明変数は、個々の労働者の時間当たり賃金の対数変換値である[注10]。説明変数は、過去3年間で事業所の正社員が「増えた」と回答した事業所をあらわすダミー変数である。コントロール変数は、性別、年齢、最終学歴、職業、勤続年数(以上、労働者調査)、産業、企業規模、事業所形態(以上、事業所調査)である。

分析に用いるのは、それらに欠損がないケースであり、2014年調査では7,239件(事業所数5,660)、2019年調査では4,661件(事業所数4,210)である。分析の際には、これらのケース数は維持しつつ、分析結果が抽出倍率・回答率に影響されないよう、復元倍率を掛けている。

表1に、基本統計量を示す。ここから、2014年に比べて2019年の方が時間当たり賃金が若干高く(7.416<7.449)、正社員増加事業所の割合が高く(32.3%<38.9%)、女性割合が高く(31.4%<34.0%)、平均年齢が高く(40.4歳<41.9歳)、大卒以上の割合が高い(45.4%<47.1%)ことが分かる。これらは、この間の労働市場の変化を適切に反映していると考えられる。

表1 基本統計量

2014年 2019年
N 平均値 標準偏差 最小値 最大値 N 平均値 標準偏差 最小値 最大値
被説明変数
時間当たり賃金(対数変換値) 7,239 7.416 0.37 6.215 8.923 4,661 7.449 0.36 6.272 8.923
説明変数
正社員増加事業所 7,239 0.323 0.47 0 1 4,661 0.389 0.49 0 1
統制変数(労働者回答)
男性 7,239 0.686 0.46 0 1 4,661 0.660 0.47 0 1
年齢 7,239 40.438 10.09 17.5 57.5 4,661 41.858 10.05 17.5 57.5
最終学歴
中学 7,239 0.011 0.10 0 1 4,661 0.010 0.10 0 1
高校 7,239 0.316 0.46 0 1 4,661 0.303 0.46 0 1
専修学校 7,239 0.126 0.33 0 1 4,661 0.112 0.32 0 1
高専・短大 7,239 0.093 0.29 0 1 4,661 0.105 0.31 0 1
大学 7,239 0.427 0.49 0 1 4,661 0.440 0.50 0 1
大学院 7,239 0.027 0.16 0 1 4,661 0.031 0.17 0 1
職業
管理的な仕事 7,239 0.176 0.38 0 1 4,661 0.205 0.40 0 1
専門的・技術的な仕事 7,239 0.166 0.37 0 1 4,661 0.187 0.39 0 1
事務的な仕事 7,239 0.403 0.49 0 1 4,661 0.371 0.48 0 1
販売の仕事 7,239 0.080 0.27 0 1 4,661 0.072 0.26 0 1
サービスの仕事 7,239 0.056 0.23 0 1 4,661 0.051 0.22 0 1
保安の仕事 7,239 0.004 0.07 0 1 4,661 0.004 0.06 0 1
生産工程の仕事 7,239 0.060 0.24 0 1 4,661 0.052 0.22 0 1
輸送・機械運転の仕事 7,239 0.020 0.14 0 1 4,661 0.024 0.15 0 1
建設・採掘の仕事 7,239 0.020 0.14 0 1 4,661 0.015 0.12 0 1
運搬・清掃・包装等の仕事 7,239 0.014 0.12 0 1 4,661 0.019 0.14 0 1
その他の仕事 7,239 0.002 0.04 0 1 4,661 0.001 0.03 0 1
勤続年数 7,239 12.694 8.48 0.125 25.000 4,661 12.521 8.69 0.125 25.000
統制変数(事業所回答)
産業
鉱業、採石業、砂利採取業 7,239 0.001 0.03 0 1 4,661 0.000 0.02 0 1
建設業 7,239 0.083 0.28 0 1 4,661 0.077 0.27 0 1
製造業 7,239 0.227 0.42 0 1 4,661 0.214 0.41 0 1
電気・ガス・熱供給・水道業 7,239 0.007 0.08 0 1 4,661 0.004 0.07 0 1
情報通信業 7,239 0.044 0.21 0 1 4,661 0.044 0.21 0 1
運輸業、郵便業 7,239 0.076 0.26 0 1 4,661 0.073 0.26 0 1
卸売業 7,239 0.090 0.29 0 1 4,661 0.089 0.29 0 1
小売業 7,239 0.074 0.26 0 1 4,661 0.077 0.27 0 1
金融業、保険業 7,239 0.042 0.20 0 1 4,661 0.039 0.19 0 1
不動産業、物品賃貸業 7,239 0.018 0.13 0 1 4,661 0.017 0.13 0 1
学術研究、専門・技術サービス業 7,239 0.034 0.18 0 1 4,661 0.035 0.18 0 1
宿泊業、飲食サービス業 7,239 0.049 0.22 0 1 4,661 0.046 0.21 0 1
生活関連サービス業、娯楽業 7,239 0.032 0.17 0 1 4,661 0.028 0.17 0 1
教育、学習支援業 7,239 0.025 0.16 0 1 4,661 0.033 0.18 0 1
医療、福祉 7,239 0.139 0.35 0 1 4,661 0.147 0.35 0 1
複合サービス業 7,239 0.010 0.10 0 1 4,661 0.011 0.11 0 1
サービス業(他に分類されないもの) 7,239 0.051 0.22 0 1 4,661 0.063 0.24 0 1
企業規模
1,000人以上 7,239 0.331 0.47 0 1 4,661 0.316 0.46 0 1
500~999人 7,239 0.092 0.29 0 1 4,661 0.094 0.29 0 1
300~499人 7,239 0.071 0.26 0 1 4,661 0.087 0.28 0 1
100~299人 7,239 0.160 0.37 0 1 4,661 0.149 0.36 0 1
50~99人 7,239 0.089 0.28 0 1 4,661 0.089 0.29 0 1
30~49人 7,239 0.062 0.24 0 1 4,661 0.067 0.25 0 1
5~29人 7,239 0.195 0.40 0 1 4,661 0.199 0.40 0 1
事業所形態
事務所 7,239 0.326 0.47 0 1 4,661 0.298 0.46 0 1
工場・作業所 7,239 0.236 0.42 0 1 4,661 0.240 0.43 0 1
研究所 7,239 0.013 0.11 0 1 4,661 0.014 0.12 0 1
営業所 7,239 0.115 0.32 0 1 4,661 0.137 0.34 0 1
店舗 7,239 0.110 0.31 0 1 4,661 0.122 0.33 0 1
その他 7,239 0.200 0.40 0 1 4,661 0.190 0.39 0 1

出所:厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年・2019年)個票に基づき筆者が作成。

4 分析結果

(1) 賃金の規定要因

まず、本稿で用いる賃金、労働者属性、事業所属性のデータが信頼できるかどうかを確認する必要がある。そのため、表2に、労働者属性、事業所属性を説明変数とした賃金の規定要因の分析結果(OLS)を示す。

ここから、2014年調査、2019年調査のいずれにおいても、女性より男性、年齢の高い労働者、高学歴者、管理的な仕事や専門的・技術的な仕事に従事する労働者、長期勤続者、大企業労働者の賃金が高いことが分かる。

これらは、日本の賃金の規定要因に関する先行研究の結果と一致しており[注11]、分析に用いるデータが十分に信頼できることを意味する。

表2 賃金の規定要因(OLS)

被説明変数=時間当たり賃金(対数変換値) 2014年 2019年
B S.E. B S.E.
男性 0.172 0.009 *** 0.145 0.010 ***
年齢 0.010 0.000 *** 0.006 0.001 ***
最終学歴(高校)
中学 -0.084 0.032 ** 0.019 0.042
専修学校 0.058 0.011 *** 0.016 0.015
高専・短大 0.002 0.013 -0.021 0.016
大学 0.092 0.009 *** 0.101 0.011 ***
大学院 0.163 0.022 *** 0.136 0.026 ***
職業(事務的な仕事)
管理的な仕事 0.090 0.010 *** 0.148 0.012 ***
専門的・技術的な仕事 0.046 0.010 *** 0.050 0.013 ***
販売の仕事 -0.010 0.015 -0.067 0.018 ***
サービスの仕事 -0.073 0.016 *** -0.034 0.021
保安の仕事 -0.129 0.052 * -0.256 0.069 ***
生産工程の仕事 -0.030 0.016 -0.076 0.021 ***
輸送・機械運転の仕事 -0.028 0.025 0.019 0.031
建設・採掘の仕事 0.121 0.027 *** 0.097 0.037 **
運搬・清掃・包装等の仕事 -0.042 0.029 -0.147 0.032 ***
その他の仕事 -0.097 0.079 0.072 0.141
勤続年数 0.010 0.001 *** 0.013 0.001 ***
産業(製造業)
鉱業、採石業、砂利採取業 -0.028 0.124 0.021 0.219
建設業 -0.003 0.017 0.021 0.023
電気・ガス・熱供給・水道業 0.180 0.042 *** 0.168 0.064 **
情報通信業 0.082 0.020 *** 0.023 0.026
運輸業、郵便業 0.010 0.018 -0.066 0.024 **
卸売業 0.038 0.017 * 0.080 0.022 ***
小売業 -0.089 0.020 *** -0.049 0.027
金融業、保険業 0.049 0.021 * -0.011 0.028
不動産業、物品賃貸業 0.046 0.027 0.012 0.036
学術研究、専門・技術サービス業 0.032 0.022 0.064 0.029 *
宿泊業、飲食サービス業 -0.109 0.020 *** -0.153 0.028 ***
生活関連サービス業、娯楽業 0.002 0.023 -0.082 0.031 **
教育、学習支援業 0.021 0.027 -0.085 0.030 **
医療、福祉 -0.006 0.019 -0.074 0.024 **
複合サービス業 -0.114 0.035 ** -0.100 0.043 *
サービス業(他に分類されないもの) -0.071 0.018 *** 0.012 0.023
企業規模(1,000人以上)
500~999人 -0.068 0.012 *** -0.051 0.015 **
300~499人 -0.071 0.014 *** -0.082 0.016 ***
100~299人 -0.124 0.010 *** -0.055 0.013 ***
50~99人 -0.118 0.013 *** -0.124 0.016 ***
30~49人 -0.110 0.015 *** -0.126 0.018 ***
5~29人 -0.145 0.011 *** -0.143 0.013 ***
事業所形態(事務所)
工場・作業所 -0.048 0.013 *** -0.016 0.018
研究所 0.036 0.031 0.007 0.040
営業所 -0.073 0.012 *** 0.003 0.014
店舗 -0.038 0.015 ** -0.030 0.018
その他 -0.028 0.013 * 0.015 0.016
定数 6.821 0.021 *** 6.972 0.029 ***
N 7239 4661
F値 121.085 *** 76.312 ***
調整済みR2乗 0.427 0.421

出所:厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年・2019年)個票に基づき筆者が作成。

注:(  )はレファレンス・グループ。*** p<0.001、** p<0.01、* p<0.05。

(2) 正社員増加事業所の特徴

次に、表3にて、正社員増加事業所とそれ以外の事業所とで平均賃金、労働者属性、事業所属性がどう異なるのかを示す。

まず、平均賃金をみると、2014年調査においては正社員増加事業所で1,633円、それ以外の事業所で1,677円であり、正社員増加事業所の方が有意に低い(p<0.01)。2019年調査においては、逆に正社員増加事業所で1,739円、それ以外の事業所で1,705円であり、正社員増加事業所の方がわずかに高いが有意な差ではない(n.s.)。正社員が増加したか否かと平均賃金の高低の関係は、2014年調査と2019年調査とで異なっている。

他方、労働者属性をみると、2014年調査、2019年調査のいずれにおいても、正社員増加事業所で働く労働者はそれ以外の事業所で働く労働者と比べて、女性割合が高く、年齢が若く、高学歴者割合が高く、専門的・技術的な仕事に従事する割合が高く、勤続年数が短い。

事業所属性をみても、2014年調査、2019年調査のいずれとも、正社員増加事業所はそれ以外の事業所と比べて、「医療、福祉」の割合が高く、大企業の割合が高く、店舗の割合が低くなっている。

このように、2014年と2019年とで、正社員増加事業所で働く労働者の属性、正社員増加事業所の属性には興味深い共通点が見出せる。具体的には、正社員増加事業所には、拡大中の事業所であるため短期勤続者が多いことに加え、(男性や中高年者ではなく)女性と若年者が多く、高学歴者や専門的・技術的な仕事に従事する者が多い。また、近年の産業構造の変化等を反映してか、正社員増加事業所には「医療、福祉」の産業や大企業の事業所が多く含まれている。

表3 正社員増加事業所とそれ以外の事業所の労働者属性・事業所属性

2014年 2019年
正社員増加事業所 それ以外の事業所 正社員増加事業所 それ以外の事業所
N 2,336 4,903 1,815 2,846
時間当たり賃金(平均:円) 1633.1 1676.8 1739.0 1704.9
男性 62.8% 71.3% 64.5% 67.0%
女性 37.2% 28.7% 35.5% 33.0%
年齢(平均) 39.2 41.0 40.8 42.6
中学 1.4% 1.0% 1.1% 1.0%
高校 26.9% 33.8% 25.3% 33.4%
専修学校 13.4% 12.2% 11.5% 11.0%
高専・短大 9.6% 9.1% 9.4% 11.2%
大学 46.1% 41.1% 48.5% 41.1%
大学院 2.6% 2.8% 4.2% 2.4%
管理的な仕事 16.4% 18.1% 20.6% 20.5%
専門的・技術的な仕事 20.7% 14.7% 20.5% 17.6%
事務的な仕事 42.9% 39.0% 36.1% 37.6%
販売の仕事 5.1% 9.3% 6.2% 7.7%
サービスの仕事 4.7% 6.0% 5.7% 4.7%
保安の仕事 0.4% 0.4% 0.4% 0.3%
生産工程の仕事 4.9% 6.5% 4.8% 5.6%
輸送・機械運転の仕事 1.1% 2.5% 2.1% 2.6%
建設・採掘の仕事 2.4% 1.8% 1.6% 1.4%
運搬・清掃・包装等の仕事 1.3% 1.4% 1.9% 1.8%
その他の仕事 0.0% 0.2% 0.0% 0.1%
勤続年数(平均) 11.0 13.5 11.5 13.2
鉱業、採石業、砂利採取業 0.1% 0.1% 0.0% 0.0%
建設業 7.8% 8.6% 6.9% 8.2%
製造業 20.8% 23.6% 23.5% 20.1%
電気・ガス・熱供給・水道業 0.4% 0.8% 0.2% 0.6%
情報通信業 4.7% 4.3% 6.0% 3.5%
運輸業、郵便業 6.0% 8.3% 7.1% 7.4%
卸売業 8.3% 9.3% 8.0% 9.5%
小売業 4.7% 8.7% 7.0% 8.2%
金融業、保険業 3.7% 4.4% 2.7% 4.7%
不動産業、物品賃貸業 2.3% 1.5% 2.3% 1.4%
学術研究、専門・技術サービス業 3.5% 3.3% 3.5% 3.5%
宿泊業、飲食サービス業 4.4% 5.2% 2.1% 6.2%
生活関連サービス業、娯楽業 2.0% 3.7% 2.0% 3.4%
教育、学習支援業 3.0% 2.2% 2.9% 3.6%
医療、福祉 22.2% 9.9% 18.1% 12.5%
複合サービス業 0.4% 1.3% 0.6% 1.5%
サービス業(他に分類されないもの) 5.9% 4.8% 7.2% 5.7%
1,000人以上 32.9% 33.2% 35.5% 29.1%
500~999人 11.2% 8.2% 12.1% 7.6%
300~499人 8.2% 6.6% 8.4% 9.0%
100~299人 16.6% 15.7% 15.3% 14.6%
50~99人 10.1% 8.4% 8.8% 9.0%
30~49人 4.8% 6.8% 5.6% 7.3%
5~29人 16.3% 21.1% 14.3% 23.4%
事務所 32.7% 32.6% 30.9% 29.1%
工場・作業所 22.0% 24.4% 25.3% 23.2%
研究所 1.1% 1.4% 1.7% 1.2%
営業所 9.0% 12.6% 13.5% 13.7%
店舗 6.8% 13.0% 8.0% 14.8%
その他 28.4% 16.0% 20.5% 18.0%

出所:厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年・2019年)個票に基づき筆者が作成。

(3) 正社員増加事業所の賃金プレミアム

それでは、労働者属性、事業所属性をコントロールした場合、正社員増加事業所の賃金は高くなるのか低くなるのか。図2は、時間当たり賃金(対数変換値)を被説明変数、正社員増加事業所ダミーを説明変数とするOLSにおいて、様々な変数をコントロールした際の正社員増加事業所ダミーの係数を比較したものである。ただし、縦軸は賃金の変化率(%)に変換している。

2014年調査においては、コントロール変数を一切投入しない場合は、正社員増加事業所ダミーはマイナス有意となる(①)。これに対し、性別、年齢、勤続年数それぞれをコントロールした場合には、正社員増加事業所ダミーのマイナス有意が消えるか(②③)、プラス有意となる(⑥)。すべての労働者属性、事業所属性をコントロールした場合にも、マイナス有意が消える(⑩)。他方、産業、企業規模、事業所形態といった事業所属性それぞれをコントロールしても、マイナス有意のままである(⑦⑧⑨)。

すなわち、2014年調査においては、正社員増加事業所で働く労働者には女性が多く、若年者が多く、短期勤続者が多いことにより、正社員増加事業所の平均賃金が低く出ていたことが読み取れる。

2019年調査においては、コントロール変数を一切投入しない場合は正社員増加事業所ダミーは有意でない(①)。これに対し、性別、年齢、勤続年数それぞれをコントロールした場合や、すべての労働者属性、事業所属性をコントロールした場合には、プラス有意となる(②③⑥⑩)。他方、産業、企業規模、事業所形態といった事業所属性それぞれをコントロールしても、有意とはならない(⑦⑧⑨)。

すなわち、2019年調査においても、2014年調査と同様に正社員増加事業所で働く労働者には女性が多く、若年者が多く、短期勤続者が多く、それらが平均賃金を押し下げていたと言える。しかし、2014年調査とは異なり、賃金を押し下げるそれらの要因を取り除くことにより、正社員増加事業所の賃金プレミアムが見出せるようになる。

図2 正社員増加事業所ダミーの係数比較(変化率:%)

図2グラフ

出所:厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年・2019年)個票に基づき筆者が作成。

注1:①~⑩の変数をコントロールした場合に、正社員増加事業所の賃金が(それ以外の事業所と比べて)何%高いかをあらわす。

注2:縦棒は95%信頼区間をあらわす。

5 考察

以上の分析結果を、リサーチ・クエスチョン(RQ)に即して整理すると、次のようになる。

第1に、平均的にみると、2014年調査では、正社員増加事業所はそれ以外の事業所と比べて低賃金であり、2019年調査では、大きな差はなかった(RQ1)。他方、労働者属性、事業所属性をコントロールすると、2019年においてのみ正社員増加事業所の賃金プレミアムが見出せた(RQ3)。

第2に、2014年調査、2019年調査のいずれにおいても、正社員増加事業所には女性、若年者、高学歴者、専門的・技術的な仕事に従事する者、短期勤続者が多く、事業所の属性としては「医療、福祉」や大企業が多かった(RQ2)。これらのうち、正社員増減と平均賃金の高低の媒介メカニズムに関係しているのは、女性、若年者、短期勤続者が多く、そしてそれらの賃金が低いことである。これらの要因をコントロールすることで、2014年調査においては平均的にみた時のマイナス有意が消え、2019年調査においてはプラス有意の結果が得られるようになった(RQ4)。

第3に、2014年調査と2019年調査を比較すると、2019年調査においてのみ正社員増加事業所の賃金プレミアムが見出せた(RQ5)。すなわち、2019年調査においてのみ、雇用の増加と賃金水準がプラスに相関していたと言える。先に論じたように、シンプルに考えるならば、雇用の増加と賃金水準はプラスに相関するはずであるが、2014年調査においてはそのような傾向はみられなかった。このことは、デフレ下を含む正社員減少期において低コストのビジネスモデルが消費者に支持されやすく、また労働者も失業や不本意非正社員となる不安に晒されていたため、結果として賃金水準が低い事業所でも雇用が拡大しやすかった可能性を示唆する。

6 おわりに

本稿では、日本で再び正社員が増加傾向に転じたことを踏まえ、雇用の量的拡大と質的向上が手を携えて進む条件を探る試みのひとつとして、事業所・労働者マッチングデータの分析により、「正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われているのか」を明らかにしてきた。

結論として、正社員増加期をカバーする2019年調査においては、確かに正社員が増加している事業所では高い賃金が支払われていた。具体的には、正社員増加事業所には女性、若年者、短期勤続者が多いため、平均賃金が押し下げられる傾向があるものの、労働者属性、事業所属性をコントロールするならば、正社員増加事業所の賃金水準は高いことが示された。

しかし、このような相関は常に見出せるわけではなかった。デフレ下を含む正社員減少期をカバーする2014年調査においては、正社員増加事業所に賃金プレミアムは見出せず、女性、若年者、短期勤続者が多いことも相まって、平均賃金はむしろ低かった。その背景として、この時期には、低コストのビジネスモデルが拡大しやすく、労働者も賃金の高低を選びにくかったこと等が考えられる。

本稿はあくまで探索的分析であり、いくつかの課題が残る。第1に、本稿では雇用の増減と賃金水準の高低についての因果関係を特定していない。分析においては、事業所における雇用の増加を説明変数、個々の労働者の賃金を被説明変数としているが、実際には、賃金やそれに反映されている生産性が雇用の増減をもたらしていると考えるのが自然である。第2に、分析対象を正社員の増減と正社員の賃金水準の関係に限定しており、非正社員を含めた増減、非正社員を含めた賃金水準を分析対象外としている。非正社員の増加それ自体を雇用の質の低下として捉えてきた日本の労働研究、労働政策の歴史に照らすならば、非正社員を含めた増減や賃金水準を扱わないことにはそれなりの合理性があるが、日本の労働市場全体を議論の対象とするのであれば、データやモデルの修正が必要である。第3に、分析に用いた事業所・労働者マッチングデータは、1事業所につき1労働者であるものが大半であるが、1事業所につき複数労働者であるものもある。厳密な推定とするためには、後者について標準誤差の計算等において工夫が必要である。

ちなみに、厚生労働省「就業形態の多様化に関する総合実態調査」は2024年にも実施されている。今後、分析上の課題を改善しつつ、最新のデータを用いることで、眼下の政策論議にも資する知見を導き出していきたい。

参考文献

脚注

注1 本稿は、筆者が米国労働雇用関係学会(Labor and Employment Relations Association(LERA))・米国社会科学学会連合(Allied Social Science Association(ASSA))2026大会で報告した“Do Growing Companies Pay Higher Wages? An Empirical Analysis Using Employer-Employee Matched Data in Japan”の報告資料を、加筆修正の上、日本語で書き下したものである。大会プログラムおよび報告資料については、大会ホームページ(American Economic Associationnew window)を参照。本稿の草稿に対して貴重なコメントをくださった樋口美雄先生(JILPT顧問/厚生労働省参与)に御礼申し上げる。なお、本稿の内容に関する一切の責任は、筆者にある。

注2 ちなみに筆者は、JILPT研究員として、日本企業において非正社員(非正規雇用労働者)が相対的に低い労働条件で働いている実態について研究している。この「リサーチアイ」シリーズは2014年にスタートしているが、その年に寄稿した小論でも、35~44歳層の男性・無配偶女性非正規雇用労働者が、不本意に非正規雇用労働者となり、賃金が低く、上がらず、生活も厳しいことを報告している(高橋 2014)。非正社員の低労働条件が引き続き政策上の重要課題であることは言うまでもない。

注3 昨今の人手不足下での賃上げをめぐる議論では、雇用の増減と賃上げとの関係に関心が向けられることが多いが、本稿で扱うのは、「賃上げ」ではなく「賃金水準」である。企業・事業所の戦略として捉えるならば、「賃金水準」そのものよりも「賃上げ」を扱うのが適当であるが、本稿の関心は、あくまで雇用が増加した時に良質な雇用が増えているのかどうかを問うことにあるからである。

注4 なお、本稿における「事業所」とは、事務所、工場、店舗といった、文字通りの事業所を指す。日本において、賃金決定の主体は企業とも事業所とも言えるが、雇用の増減と賃金水準との関係を問題とする以上、企業合併等により拡大・縮小しうる企業ではなく、具体的な事業活動に応じて拡大・縮小する事業所を単位とするのが適当だと考えられるからである。ただし、ここで引用する先行研究では、企業単位の分析・議論がなされているものもある。

注5 もちろん、雇用の量的拡大と質的向上が手を携えて進む条件を探る研究は他にもある。本稿がそれらの既存研究とどのような関係にあるか、とりわけ労働経済学の問題関心とどのような共通点と相違点があるかについての詳細は、別稿に譲りたい。

注6 個々の労働者の場合、自分が所属する職場の人員増減であれば回答できるかもしれないが、事業所全体の人員増減、ましてや正社員増減となると回答困難であることが多いと予想される。また、入社後間もない労働者の場合には、過去の人員について回答困難であると予想される。

注7 厚生労働省「毎月勤労統計調査」では、給与総額に加えて調査時期前後の労働者数をたずねているが、個々の労働者の賃金情報、性別以外の属性情報を収集していない。他方、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、個々の労働者の属性および賃金情報を収集しているが、労働者数の増減は分からない。

注8 JILPTプロジェクト研究サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」における「多様な就業形態で働く人々の実態に関する総合的研究」において厚生労働省に個票データの利用申請をした。本稿も、同研究の一環である。同調査の調査概要については、高橋(2022)を参照。

注9 分析に用いるマッチングデータの件数は正社員の回答数に等しく、正社員の回答に事業所の回答が接合された形となっている。

注10 時間あたり賃金は、残業手当を含めた月額賃金総額(20区分の階級値)を1週間の実労働時間(9区分の階級値)の4倍で割って求めた。

注11 賃金の規定要因に関する先行研究としては、Tachibanaki(1996)、Takahashi(2018)等を参照。