JILPTリサーチアイ 第89回
就職氷河期世代(ミドル世代)の働き方と支援ニーズ─ハローワーク・サポステ利用者に対するインタビュー調査の知見から─

人材開発部門 統括研究員 堀 有喜衣

2025年10月10日(金曜)掲載

1.問題意識と調査の概要

これまで労働政策研究・研修機構では就職氷河期世代の実態を明らかにするために、独自にインタビュー調査(労働政策研究・研修機構2024)を実施すると共に、量的なアプローチとして、総務省「就業構造基本調査」の二次分析(労働政策研究・研修機構2019)を進めてきた。これらの成果は、困難な状況にある就職氷河期世代について、職業への移行やキャリアの実態、現在の意識を分析の中心としたものであった。

本年6月「就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議」の「基本的枠組み」における、「性別、有業/無業、雇用形態等の属性別にその実態、支援ニーズ等を詳細に把握するため、インタビュー調査を実施する」との問題意識を受け、労働政策研究・研修機構では、ハローワークの中高年層(ミドルシニア)専門窓口(旧 就職氷河期世代専門窓口)の利用者、および地域若者サポートステーション(以下、サポステ)の中高年層の利用者に対するインタビュー調査に依拠した分析を実施した。

分析に活用するインタビュー調査は、ハローワーク・サポステのご協力を得て、2023年夏(20人)と2025年夏(30人)に、あわせて50人に対して実施した。インタビューは、JILPTの研究グループまたはハローワーク・サポステ職員が担当した。男性が28人、女性が22人である。

政策的に就職氷河期世代とは、「1993-2004年卒業」とされている。本稿は当事者が幅広く調査に応じて下さったことから、調査時点での年齢が45歳~55歳、または40代前半以下については卒業年が2007年以前の当事者[注1]について分析することとし、この条件にあてはまらない3名(図表1の39・49・50)については参考データとした。

労働政策研究・研修機構(近刊)の「就業構造基本調査」に関する分析によれば、新卒就職者(卒業年の6月までに就職した者)で現在も定着していると推計されるキャリアの者は、40代後半の男性で17.2%、女性で6.8%であるので、男性で8割、女性の9割にはこれまで転職・失業・無業や初職への移行の遅れがあったと推計される。このうちハローワーク・サポステによる就労支援を利用した者が、今回の調査対象となっている。

主な属性とキャリア概略については図表1に示した。

図表1 属性とキャリア概略 ※スクロールして全体を見られます
番号 性別 年齢 卒業年 学歴 地域 現状 キャリア概略
1 女性 40代前半 1999 高卒 中国地方 求職中 正社員(8年)→契約社員(9年)→バイト(3年)→正社員(1年)→契約社員(1年)契約終了
2 女性 40代前半 2006 大卒 中部地方 求職中 正社員(2年弱)→派遣→医療事務講座→職業訓練→正社員(3ヶ月)→派遣多数→正社員(3ヶ月)→派遣・アルバイト多数
3 男性 40代後半 2000 大卒 中部地方 内定 正社員(4年)→資格予備校(1年)→正社員(3年)→正社員(10年)→職業訓練→派遣→内定(契約社員)
4 女性 30代後半 2006 大卒 関東地方 求職中 正社員(3年)→医療事務専門学校(3ヶ月)→バイトから契約社員(6年)→正社員(5年)→退職
5 女性 50代前半 1996 大卒(就職後海外院) 関東地方 求職中 正社員(3ヶ月)→派遣(1年)→ワーホリ(1年)→バイト(5年)→正社員(5年)→会社縮小リストラ→職業訓練→留学(海外大学院、1年半)→派遣・契約・バイト(5年)→派遣切り→正社員(1年)→リストラ→職業訓練→派遣(契約終了)→単発の仕事・求職活動
6 男性 40代後半 1993 高卒 関東地方 正社員 アルバイト複数(5-6年)→正社員(20年)→求職(1年)→入社して1ヶ月
7 男性 40代後半 1998 専門学校卒 関東地方 求職中 正社員(10年)→勉強(1年)→正社員(1年)→正社員(倒産)→目を悪くする・アルバイト・派遣(一時正社員登用)→辞職
8 男性 40代後半 1999 大卒 中国地方 アルバイト 就活(8年)→漫画家を目指しながら自営手伝い(14年)→就活(2年)→バイト
9 男性 40代後半 1995 専門学校卒 九州・沖縄地方 求職中 正社員(10か月)→正社員(2年半)→怪我療養(半年)→正社員(4年)事業縮小→正社員(17年)→退職
10 男性 40代前半 2006 大卒 関西地方 内定 正社員(7年)→歯学部入学・中退(8年)→正社員(2年)→パート
11 男性 40代後半 1999 大卒 関西地方 求職中 正社員(15年)→農業担い手センター(1年)→調理師学校(1年)→飲食店(1か月)→農業手伝い(4ヶ月)→病院調理師(数ヶ月・コロナ)
12 女性 40代前半 2000 短大卒 関西地方 求職中 派遣(4年)→結婚して離職(8年)→飲食でパート(5年)→医療事務パート(5年)→パート(1年)
13 男性 40代後半 1995 専門学校卒 中部地方 契約社員 正社員(1年半)→正社員(6年)→派遣・パート複数(約14年)→派遣から契約社員(2年)→派遣(1年)→派遣から契約社員(2年)
14 男性 40代前半 1997 高卒 北海道・東北地方 求職中 正社員(5年)→正社員(2年)→アルバイトから正社員(2年)→退職後、求職活動するも見付けられず介護開始(10年以上、無職)
15 男性 40代前半 2001 高卒 中部地方 契約社員 アルバイト(1年)→正社員(16年)→単発アルバイト(2年弱)→集中訓練(3ヶ月)→契約社員
16 女性 40代後半 1994 短大卒 関西地方 職業訓練 資格予備校・アルバイト→正社員(8年)→結婚退職し派遣(6年)→休業(2年)→ポリテク(8ヶ月)→正社員(5年)→アルバイト・正社員など(2年)→職業訓練
17 女性 40代前半 2003 大卒 九州・沖縄地方 会計年度職員 派遣社員(1年)→アルバイト(1年)→派遣(1年半)→介護(3年)→専門学校で作業療法士から精神保健福祉士に変更(5年)→正社員(2年)→嘱託(2年)→療養・農家手伝い(2年)→正社員(3ヶ月)→会計年度職員
18 男性 40代後半 1998 専門学校中退 関西地方 求職中 アルバイト(3年)→アルバイト(半年)から正社員登用(4年)→実家に戻り約1年求職→正社員(約10年・途中休職)→職業訓練(ビル管理)→3年求職中
19 男性 40代前半 2001 大卒 中部地方 求職中 非常勤講師(3年)→正社員(3年)→保険外交員(5年)→正社員(7年うち休職5回)→正社員(半年)→正社員(3ヶ月)→正社員(2ヶ月)→契約社員(3ヶ月)
20 男性 50代前半 1995 大学中退 中部地方 求職中 正社員(20年)→メーカー契約社員(2年)契約終了→工場で契約社員(5年)解雇→ヘルニアで手術・療養(1年)→職業訓練
21 女性 50代後半 1995 大卒(1校目中退し2校目を卒業) 関東地方 内定 無業(2年)→アルバイト(19年)→契約社員(有期1年)→契約社員(無期4年)→病気で休職(1年)→都道府県のIT研修・求職活動セミナー(2年弱)→内定
22 男性 50代前半 1999 専門学校卒(浪人の後) 関東地方 求職中 正社員(3年)→アルバイト(2年)→アルバイト(18年・3店舗変わる)→無業(3年)
23 女性 40代前半 2005 専門学校(3年制) 関東地方 正社員 正社員(13年)→正社員(5年半)→無業(2年)→正社員
24 女性 40代後半 1998 高卒(プラス専攻科3年) 関東地方 求職中 請負(半年)→求職→正社員(10年)→社会保険労務士勉強(1年)→アルバイト(12年)→正社員(4ヶ月)→正社員(3ヶ月)
25 男性 40代前半 2007 大卒(在学8年) 九州・沖縄地方 正社員 フリーター(2年)→社会的ひきこもり状態(10年超)→ハローワーク(6ヶ月)→職業訓練(CAD/NC技術科6ヶ月)→求職(2ヶ月)→正社員(10ヶ月)
26 女性 40代前半 2001 専門学校1年制卒(高校を1年休学) 九州・沖縄地方 求職中 求職中(1年)→正社員(1年)→短期アルバイト(1年)→アルバイト(3年)から正社員登用マネージャーにも昇進(合計15年)→アルバイト(再雇用1年半)→契約社員(2年)→求職中
27 女性 40代後半 1997 高卒 中部地方 正社員 フリーター(4年)→結婚してパート(4年)→出産で4年休む→フルタイムパート(無期14年)→求職(半年)→正社員
28 女性 40代前半 2003 高卒 中国地方 求職中 正社員(3年)→パート(2年)→パート(3年)→夫の転勤で離職後無職(3年)→パート(2年)→パート(1年)→パート(6年)→正社員(半年)→求職中
29 男性 40代後半 1996 専門学校卒 中部地方 正社員(転職希望) フリーター(1年)→正社員(7年)→正社員(1年)→契約社員(1年半)→アルバイト(2年弱)→正社員(役員:7年)→フリーター(5年弱)→正社員(管理職1年)→正社員(当初は管理職:2年)
30 女性 40代前半 2006 専門学校卒 北海道・東北地方 嘱託社員 無業ひきこもり(2年)→短期バイト(3年)→長期バイト(3年)→失業(1年半)→正社員(8年)→正社員(2年)→傷病(1年半)→失業(3ヶ月)→正社員(4ヶ月)→失業(半年)→嘱託社員(4ヶ月目)
31 男性 40代前半 2006 大卒 関西地方 正社員 大卒後専門学校→アルバイト(5年?)→入院(半年)→無業(2年?)→パート(4年)→正社員(2年)→正社員(半年)→正社員(1ヶ月半)
32 女性 40代後半 2000 大卒 九州・沖縄地方 求職中 正社員(8年)→無業(1年)→パート(1年)→3人出産(8年)→パート(2年)→パート(1.5年)→派遣(9ヶ月)→派遣(1.5年)→会計年度任用職員(10ヶ月)
33 男性 50代前半 1998 中退(のちに学び直しで別の大学を卒業) 関西地方 正社員(離職予定) 大学中退→正社員(4,5年)→事務正職員(9年程度)→大学生(4年※事務職員と重なりあり)→パート(3ヶ月)→常勤職員(3年)→嘱託職員(3年)→義実家の農業手伝い(1年程度)→非常勤職員(2年)→パート(半年~1年弱)→正社員(2ヶ月)
34 男性 40代後半 1998 専門学校中退 中部地方 正社員 アルバイト(3年)→無業(3ヶ月)→正社員(14年)→失業して無業(9年)→職業訓練(3ヶ月)→無業(6ヶ月)→正社員
35 男性 30代後半 2005 専門学校中退 中部地方 パート アルバイト(3年)→正社員転換(4年10か月)→失業(2年7か月)→契約社員(6年6か月)→求職(1年3か月)→正社員(3か月)→求職(7か月)→パートタイマー
36 女性 50代前半 1991 短大卒 関東地方 正社員 正社員(4年)→正社員(10年)→正社員(1年8カ月)→訓練→正社員(6カ月)→訓練→派遣(1年)→正社員(8カ月)→派遣(3年7カ月)→正社員(1年)→正社員(8年)→正社員
37 女性 40代前半 2000 高卒 関東地方 正社員 高校卒業後結婚・出産しその間パート3社(8ヶ月・2ヶ月・4ヶ月)→(正社員(1年6ヶ月)→正社員(6ヶ月)→正社員(3ヶ月)→パート(1年)+正社員(5年)→正社員(1年)→正社員(2週間)→正社員(1年)→正社員(3ヶ月)→現在:正社員(1年)
38 男性 40代後半 2007 大卒 九州・沖縄地方 求職中 遅れて大学入学・卒業→アルバイト複数(3年)→パートナーとの同居のため移動し家庭教師をしながら主夫(10年)→離別し無業(5年弱)→2025年派遣(3ヶ月)
39 男性 40代前半 2008 大卒 九州・沖縄地方 正社員(転職予定) 無業(17年・医学部再受験や公認会計士試験)→正社員(半年)
40 男性 40代後半 1997 短大卒 北海道・東北地方 臨時職員 正社員(7ヶ月)→臨時社員(3ヶ月)→アルバイト(4年)→アルバイト(3年)→無業(6年)→アルバイト(9ヶ月)→アルバイト(9ヶ月)→アルバイト(10ヶ月)→正社員(2年)→アルバイト(2年)→職業訓練(6ヶ月)→アルバイト9ヶ月→就業中(臨時職員・2ヶ月契約)
41 女性 40代前半 2004 専門学校卒 北海道・東北地方 無業(通所中) 無業(1年)→契約社員(1か月)→無業(18年):障害者手帳を持たなくても利用できる就労支援(6ヶ月)→手帳取得して継続利用中
42 男性 40代前半 2003 高卒 北海道・東北地方 契約社員 無業(20年)→契約社員(1年)
43 男性 40代前半 2007 大卒 関西地方 パート 大学卒業後、正社員16年(営業)→7か月無業→正社員4か月(営業)→8か月無業→パート勤務開始(20h未満/庭園管理)→同パートにて20h以上勤務。
44 女性 40代後半 2003 大卒 関西地方 嘱託社員 正社員(4年)→父親の病気介護の為失業(短期就労あり)(9年)→パートタイム(2年)→失業(短期就労あり)(8か月)→正社員(11か月)→失業短期就労あり)(4年10か月)→嘱託社員(現在3か月目)
45 男性 40代前半 2005 大学中退 中部地方 アルバイト 無業(16年)→アルバイト(3年)
46 女性 40代後半 1997 短大卒 中部地方 正社員 正社員(4年)→求職(1年)→派遣(6.5年)→職業訓練(半年)→正社員(4ヶ月)→正社員(3ヶ月)→求職(2ヶ月)→契約社員(13年)→求職(7ヶ月)→正社員(9ヶ月)
47 女性 50代前半 1990 専門学校卒 関東地方 正社員 嘱託(4ヶ月)→正社員(6年)→正社員(4年)→失業(10ヶ月)→契約社員(1年11ヶ月)→派遣(10年8ヶ月)→嘱託(1年10ヶ月)→派遣(8年8ヶ月)→失業(3ヶ月)→正社員(現職)
48 女性 50代前半 1990 高卒 関東地方 正社員 正社員(1年強)→正社員(3年)→アルバイト(合わせて10年)→正社員(20年)→正社員(7ヶ月)
49 男性 40代前半 2010 大学中退 関西地方 求職中 アルバイト(7年)→無業(10年)
50 男性 40代前半 2009 大卒 関東地方 求職中 正社員(1年)→無業(1年)→アルバイト(1年)→契約社員(1年11か月)→契約社員(11ヶ月)→派遣(5ヶ月)→派遣(1年1ヶ月)→アルバイト(7ヶ月)→アルバイト(3年)→業務委託(3年2ヶ月)→アルバイト(1年9ヶ月)→失業(7ヶ月)

労働政策研究・研修機構(2024)においては、就職氷河期世代のキャリアの課題は非正規の連続ではなく、一度正社員になっても非正社員・無業・失業を行きつ戻りつする「ヨーヨー型キャリア」にあることを指摘した。当事者数を拡大した今回のインタビュー調査においても(図表1のキャリア概略参照)、同様の傾向が多くの当事者に見いだされた。今回の当事者はハローワークやサポステなど公的就労支援の利用経験者であるが、量的分析においても(労働政策研究・研修機構2019)、就職氷河期世代(特に後期)ではヨーヨー型キャリア(「後から正社員」「正社員一時非典型」)の割合が他の世代より高い。正社員化だけでなく、就職後の継続かつ反復的な支援も必要であることが改めて確認され、すでに一部で実施されている定着支援を高く評価するコメントも得ている。

以下では上記の問題意識に基づき、性別、有業(雇用形態)/無業についてそれぞれ見ていくことにする。

2.性別による就業希望ニーズの差異は縮小

はじめに性別による就業希望の違いについて検討した。

就職氷河期世代が若い時期には性別役割分業観は今よりも強く、初職正社員比率も男女で大きく異なっていた(労働政策研究・研修機構近刊)。性別だけでなく、配偶者や子供の有無も就業希望に影響を及ぼす重要な変数である。なお無作為抽出をしたわけではないが、今回の当事者において配偶者がいない者が多数(既婚は9名)というのは、キャリアが不安定な場合に男女とも結婚が困難になることをうかがわせる。一人暮らしは10名で既婚者を除く大半が親元におり、インタビューで確認できただけで7名は兄弟姉妹とも同居していた[注2]

配偶者がいない場合には、男女間で希望する雇用形態に違いは見いだされなかった。女性であれば非正規雇用でもよい、男性は正規雇用でなくてはならないというよりは、ニーズはこれまでのキャリアや現状に依存していた。男女問わず正社員を継続してきた場合には正社員を希望し、そうでない場合でも求職を始めた当初は正社員を希望しているが、失業期間が長くなると非正規雇用を考えたり、労働市場から結果的に遠ざかっていく者もいた。

既婚女性またはシングルマザーについては、子供の成長に伴い、近いうちに正社員として働きたいという希望を持っており、正社員または正社員につながりそうな非正規雇用を探していた。既婚女性に比べると既婚男性はより稼得責任を感じていたが、子供の有無や配偶者の働き方にも影響を受けていると推察された。子供に手がかかる時期が過ぎ、性別によるニーズの差異は縮小しつつあった。

3.有業(雇用形態別)/無業によって異なるニーズ・共通するニーズ

本節は、現在の状況だけでなく過去の経験についてもデータとして活用しながら、有業(雇用形態別:正社員/非正社員)/無業別の支援ニーズについて分析を進める。

(1)正社員の支援ニーズ

概して正社員は支援へのニーズはそれほどないというイメージが持たれている。しかし今回のインタビューでは不安はないという方も1名いたが、正社員であっても、このまま仕事を継続できるのかという懸念や、あるいは老後の生活についての不安があった。年金については、現在正社員で厚生年金であっても、若い時期には国民年金の免除や未納が多く、またしばしば生じる失業時には免除を申請しているため、金額が少ないと認識されているからである。貯金についても十分ではないとの語りが多数なされた。仕事に対するニーズについて詳述する。

正社員としての仕事の継続への不安

現在は正社員であっても全体としてキャリアが不安定であり、これまで倒産やリストラの経験を持つ者も多く、職場環境の悪化で転職を検討したり希望する者もいた。

「報酬とか、好条件が別に欲しいわけじゃなくて、もう平穏に、取りあえず生活が安心してできればと思っているんですが、そこは残念ながら、やっぱり不安、新しく入った会社も下降で、経理だから余計見えてしまうんですよ。先は大丈夫なのかなと。前職の倒産した会社のことがあるので、ちょっとトラウマになっている部分もあるし、同じ傾向を感じたりとかはしているので、今後、生活していくために、逆にまだ迷っています、どうしたらいいのかなというのは。不安はすごく高いです。」(36さん・女性)

正社員へ移行するための支援は重要ではあるが、正社員への就職が決まった後に、就職後の状況をフォローする定着支援や、離職した時にはまた相談してほしいという言葉を添えて送り出している相談員もいた。またかつての利用者が離職した際に連絡するほど信頼を得ており、訪れて職業相談する際には求人を用意している相談員もいた。公的な就労支援機関においては継続かつ反復的な支援に強みがある。すべての就職者を対象に行うことは体制的にも不可能ではあるが、フォローアップ支援機能の強化が求められる。

図表2 正社員(内定者含む)の支援ニーズ ※スクロールして全体を見られます
番号 性別 年齢 現状 正社員社数 期待する支援 現在の不安(健康面含む) 今後の見通しと希望 年金
3 男性 40代後半 内定 3社 コミュニティーの場で話ができる・定着支援 これまでの辛い経験があるので、内定先でうまくやれるかどうかが心配。生活費は前職の貯金。心療内科に通院しているが仕事は問題ない。 定年まで、きっちり勤め上げたい。退職後資格を活かして個人事務所を立ち上げたい 年金は失業中は全額免除
6 男性 40代後半 正社員 1社 事務的ではなく親身な支援 金銭面の不安がいちばん大きい 現在の職場で働き続けたい 社会保険や税金を分割して払っているが金銭面で厳しい
10 男性 40代前半 内定 2社 公務員の採用拡大 ぎりぎりの生活で将来的な蓄えができない(奨学金あり)。この先、かなり孤独な人生になってしまうのではないかという心配。親のおかげで助かってきたが、親が亡くなった後の家をどうすればよいかが悩みの種。 ちゃんと生活していけることが大事 不明
21 女性 50代後半 内定 0社 WEBに気軽にアクセスできる環境があればもっと若い時期に転職できた。 傷病手当が1年半。この半年は貯金を切り崩し資格取得やセミナーに参加しながら生活。内定先でのやりがいや人間関係が心配 定年の後も働きたい 厚生年金期間20年以上
23 女性 40代前半 正社員 3社 自分と同じ境遇の人がどのように解決したのかという情報を共有したい。 離職後にひきこもり状態になったが、現在は解消して就労。将来の更年期や親の介護が心配。 リーダー経験を通じて、管理職として成長したい 厚生年金期間20年以上
25 男性 40代前半 正社員 1社目 支援には満足。人にはまずは相談することをおすすめしたい。 解雇されるような大きなミスをしないかどうか 一人前の技術者になりたい。家を出たり結婚は考えていない。 現在は厚生年金だが、20年以上親の負担で国民年金あり。
27 女性 40代後半 正社員 1社目 利用した支援は担当者制で親身になってくれる支援でよかった。氷河期世代対象の求人があるが、その種類を増やしてほしい(介護や運転ばかりで選べない) 持病はあるが、将来の不安はない。 老後はカフェを開きたい 厚生年金期間20年以上
29 男性 40代後半 正社員(転職希望) 5社 資格を取ったり勉強したり職業訓練を受けるよりも副業をしたい。「宅建」など絶対有利になる資格なら取りたいが、職業訓練にそこまで期待できない。老後の年金は生涯年収や資産などを加味して増額してもらえると助かる。 管理職を降格され、2割収入が減少したので転職したい。 生活を支えられる賃金と家族で楽しく暮らしていける労働時間で働きたい。 若い頃は免除。厚生年金はまだ20年には達していない。
31 男性 40代前半 正社員 3社 未払い賃金(働いた分の賃金)が企業から支払われるように行政から指導してもらいたい。 一度体を壊しているので気をつけており、現在の仕事は問題ない。賃金も様々な手当がついている。 いずれ結婚したい。死ぬまで働き続けたい。作家活動を続けて、書いた小説が書籍化されたい。 厚生年金を合わせて10年ほど払っている。
33 男性 50代前半 正社員(離職予定) 4社 キャリコンが自分に合った仕事を開拓してくれたのはよかった。若い時期から利用したかった。求人内容と実情が合っているかどうかチェックする機関がほしい。資格の受験費用や資格取得者の採用への経済的支援。就活のためにPCやプリンターが使えるといい。 夫婦同時に仕事を辞める予定なので、食べ物を妻の実家から送ってもらったりなどしているが、経済的に不安。年金をあまり払ってこなかったので、老後も働く必要あり。今の自分の専門的な仕事が将来なくなるかもしれない。身寄りが近くにいないのも心配で、老後は妻の実家近くに移動するかもしれない。 自分の仕事の後進育成も行い、マネジメントの仕事に変わっていきたい。経済的には持ち家もなくお金もないので、再雇用が75歳のような職場を探している。妻の実家の近くに移動して農業をするなど社会から喜ばれる仕事をすることも考えている。 若い時期は不明で金額は低い。
34 男性 40代後半 正社員 2社 どんな職種があり、どんな職種が就職しやすいか支援してほしい。 現職をいつまで継続できるのか、不安になる。(注意を受けた時など)。退職した場合、老後はどうなってしまうか心配になる。 将来的には介護福祉士を取得し、安定した生活を送れるようになりたい。働いていない無業期間があったため老後は働けるうちはがんばりたい。 無業期間は国民年金、昨年1年間は免除、それ以外は払っている。
36 女性 50代前半 正社員 8社 職業訓練を中高年や経済的に困っている人たちが利用しやすくしてもらいたい。仕事探しでネットだと引っかからないが、ハローワークだと面接に行けたりする。 勤務先が倒産して失業したことがトラウマで、現在の勤務先の状況が不安定であることが不安。経済的にはぎりぎりで貯金もあまりない。 もう平穏に、取りあえず生活が安心してできれば。 転職の間は免除。それ以外は厚生年金。未納はない。
37 女性 40代前半 正社員 9社 母子家庭手当について、所得によって支給ラインが決まっているところが変わると良い。 やりがいのある仕事である。将来手術が必要な持病がある。 仕事というところでは、現状は特に不満や不安はないが、定年まで続いた場合、今と同じようにできるかは体力面で不安がある。 正社員期間は厚生年金。
46 女性 40代後半 正社員 4社 氷河期世代の税金の減免。就業・経済的支援。 不満はないが、もっとできることを増やしたい 老後に余裕のある生活ができるか心配。 国民年金と厚生年金(期間不明)
47 女性 50代前半 正社員 3社 ハローワークの直接雇用は派遣よりも月の手取りが少ないので派遣で働いてきた。派遣は3年の縛りがあって長く働けない。賃金が上がるような支援が欲しい。 今後訪れるであろう両親の介護問題。働く環境・仕事内容は良いが、金銭的な面では不満。 始めたばかりの介護の仕事では、リハビリと事務的な仕事もでき、職場にも恵まれた。体調管理をして定年後も長く働き続けたい。 概ね厚生年金
48 女性 50代前半 正社員 4社 定着支援としてフォローしてもらえるのがありがたい。 特にないが、仕事で悩むこともある。 老後についてはまだ考えていない。 概ね厚生年金

正社員経験が乏しい場合の賃金の格付け

この数年で氷河期世代の正社員転換は進んでおり、収入も漸増している(労働政策研究・研修機構近刊)。中途採用の場合、経験をどのように評価して中途採用者の給与を決定するかは企業の裁量で行われている。一般的には前職での経験や収入・年齢を考慮して決められることが多い。

今回の事例からは、正社員経験がないため40代でも初任給に格付けられたり(25さん・男性)、また前職がフルタイム非正規の場合には、月々の手取りはあまり変わらず、ボーナス分が増えた(27さん・女性)と語られていた。労働政策研究・研修機構(2019)・労働政策研究・研修機構(近刊)において、後から正社員になっていたり、非正社員経験があると、正社員継続者よりも収入が低くなっていたが、同様の傾向が複数の事例で確認された。

これまで労働政策では、外部労働市場の整備のために職業能力評価基準の策定をはじめとして様々な施策を行ってきた。賃金は各企業が決定することであるが、今後中途採用がさらに増えてくることを踏まえると、社会経験の評価をどのように賃金に反映するかについて改めて議論することが求められる。

(2)非正社員の支援ニーズ

非正社員については、働き方や仕事内容に満足している当事者もいる。42さんは無業経験が長いため、初めて就いた契約社員の仕事に対する不満は薄い。

「(満足度は高い?)そうですね。あまりぜいたくはできないですけど。」(42さん・男性)

しかし今すぐではなくても将来的に、契約更新や正社員転換、社会保険の適用の希望を持つ当事者は多い。また不安になるので考えたくないという当事者もいた。

「このまま現在の仕事が契約更新されるか毎日不安。」(30さん・女性)

「現在は短期の契約だが、次はアルバイトでも長期で働き、可能であれば正社員になれるような仕事を見つけたい。」(40さん・男性)

「どこかの職場で正社員になりたい。」(45さん・男性)

「社会保険に入りたい。」(8さん・男性)

「先のことを考えると不安になってしまうので、考えないようにしている。」(35さん・男性)

希望する仕事の経験を優先して非正社員として入職する当事者、あるいは正社員が難しいのでとりあえず非正社員になった当事者、正社員は無理でも非正社員なら働けると考える当事者がおりそれぞれの事情やニーズがあった。今回の対象者のうち非正規雇用から正社員転換した経験のある当事者が7名いたが(6・7・14・18・26・35・37)、いずれも病気・介護や長時間労働等を理由に調査時点ですでに離職していた。無期雇用転換経験者は2名確認できたが(21・27)、2名とも自社では正社員になれず、他社で正社員となった。派遣社員やアルバイトから契約社員への移行が2名(4・13)おり、無期転換を目指していた。

正社員転換や無期転換はチャンスを提供するという点で一定の役割を果たしたことはうかがえるものの、定着に結びつかないこともあり、転換後の定着への目配りも必要である。とはいえチャンスの提供という点で、ステップアップ支援、無期雇用転換や社会保険の適用拡大など、現状よりも安定して働けるような支援の継続が求められる。

図表3 非正社員の支援ニーズ ※スクロールして全体を見られます
番号 性別 年齢 現状 正社員社数 期待する支援 現在の不安(健康面含む) 今後の見通しと希望 年金
8 男性 40代後半 アルバイト 0社 同世代との交流や情報交換、そして企業の「本音」を聞ける場の設定 いつ正社員になれるか 社会保険に入れる仕事がしたい人とダイレクトに関わる仕事がしたい 厚生年金なし
13 男性 40代後半 契約社員 2社 不明 両親の健康面 今の仕事の契約が続いてくれること 年金は払っていたときと払ってないときもあった。基本的にはもらえない前提で、もらえたらラッキーくらいに思っている
15 男性 40代前半 契約社員 1社 縦割りだとわかりにくいので、わかりやすい仕組み 物価が上がり税金や保険の負担が増えていくことへの不安。年金の支払いは増えるのにもらえる金額が少なくなる 自分で独立して人の支援やコミュニティー作りをしたい結婚も考えたい 加入期間は通算10年以上ある
17 女性 40代前半 会計年度職員 2社 様々なタイプの支援者がいてありがたい。面接など自分をプレゼンする練習をさせてもらえてよかった 将来を見越した時に、独りで生きていく不安はかなり大きい 試行錯誤しながら自分に合う仕事を見つけたい 加入期間は通算10年以上ある
30 女性 40代前半 嘱託社員 3社 あまり思いつかない。若い頃のジョブクラブは社会に戻る上で効果的だった。 このまま現在の仕事が契約更新されるか毎日不安。若い頃に年金を払っていないので老後どうなるか。両親に精神的に頼っているので、両親がいなくなった後が心配。 嘱託社員として事務職を継続する。今の仕事がなくなった場合に備えて、FP資格を取ったりスキマバイトを考えている。新型NISAをはじめたところで、そのうち副業もして老後資金を貯めたい。社会の役に立ちたい。 若い頃は払えていない
35 男性 30代後半 パート 2社 特にない。ハローワークの支援に満足。 先のことを考えると不安になってしまうので、考えないようにしている。今の仕事内容や労働条件にはおおむね満足している。 正社員転換できるように粛々と仕事をしていくのが目標。このまま平穏な状態を保っていきたい。 10年以上払っている。現在も社会保険に入っている。
42 男性 40代前半 契約社員 なし 特にないが、悩みを聞いてもらいたい。 健康で正社員の話はないが長期雇用と言われている。贅沢はできないが満足している。 先のことはまだ全く想像できない。老後は漠然とした不安がある。 今は厚生年金だが、これまでは把握していない。
43 男性 40代前半 パート 2社 自分に何が向いているのかを考えられる機会の提供。適性検査もよいが、自分が今までどうだったかを考えるような機会があるとよい。 ダブルワーク中。ガーデニングは無期転換や正社員登用は困難。介護は希望すれば可能。 ガーデニングは適性はあると思う。介護福祉士にも挑戦したい。 国民年金は払ってきた。現在は厚生年金。
44 女性 40代後半 嘱託社員 2社 ハローワークとサポステの両方から助言してもらえて良かった。氷河期世代はまだ人生に期待できると思ってもらえるようなドラマや漫画などがあると前向きになれると思う。 現在は短時間なのでもっと働けるとよい。人間関係に課題があり長く現在の職場にいることはないが、勉強になるので悲観的ではない。 正社員転換は希望すればできると思うが、今のところは希望しない予定。カウンセラーはいい仕事だと思い希望していたが、未経験者は雇ってもらえず経済的にも厳しすぎると思った。 国民年金は払ってきた。現在は厚生年金。
45 男性 40代前半 アルバイト なし 特になし 仕事にはぼぼ満足だが、アルバイトであることが不安 どこかの職場で正社員になりたい 厚生年金は3年

(3)無業者の支援ニーズ

無業者の支援ニーズについては、今回尋ねた求職者が求める支援に加え、正社員への移行という点で効果が見いだされた有業者の経験から、どのような支援が効果的であったのかについて以下で整理していきたい。

今回の調査対象となった無業者(無業経験者)には、(a)積極的活動者:求職中で応募をしながら、職業訓練や資格取得、単発の仕事をするなど積極的に活動している層、(b)非積極的活動者:求職活動中だがメンタル等の課題があったり社会とのかかわりが薄い層、(c)非活動者:具体的な応募などの求職活動に至っていない層(就労支援機関に登録している・いた者を含む)がおり、スペクトラムのように連続した存在となっていた。

(a)積極的活動者への支援

中高年になってからの正社員転換:「小さな労働市場」を作り出す

今回の当事者には、中年期になってから初めて正社員転換した当事者が3名存在した(1名は内定)。

氷河期世代は年齢が高くなっているため、書類選考から面接に進むような一般的な募集での採用は簡単ではない。民間人材ビジネスでは書類選考を突破できないので、ハローワークを利用しているという者もいた。しかし面接会で直接採用担当者と話す機会を得たり、ポリテクのような職業訓練機関からの紹介など、多様な手段を用いることで正社員への道が開けていた。

21さん(女性・正社員内定)は、長い間一つの職場でフルタイムのアルバイトとして働いてきたが、正社員の道は開けなかった。そこでパソコンセミナーと自己啓発を通じてIT系の資格を取得し、50代で初めてIT産業への内定を得たところである。

「正社員経験がなくても、それまでに積み重ねてきたスキルだけじゃなくて、社会経験ですとかヒューマンスキルのようなものもあると思うので、それが転職するときに評価されることがあると、何社か受けてみて、そういう感触があるので。必ずしも何か専門的な技術がなくても評価されるものがあるんだなというのを転職活動して分かったので、そういうことを在職中にそれが分かっていれば、そういう情報があれば、もう少し早く転職できたと思っています。」(21さん・女性)

また10年以上社会的ひきこもり状態にあったが、ハローワークに定期的に通うようになり、ポリテクの先生(テクノインストラクター)の紹介を通じて40代半ばで初めて正社員になった25さん(男性)は、正社員経験だけでなく直近の就労経験もなく、一般的な書類選考でははじかれてしまいがちである。しかし職業訓練に熱心な25さんを評価してくれた先生が現在の職場と直接つないでくれ、面接を受けられたことが突破口となった。

正社員経験がない中高年の就職は容易ではないが、自由応募による書類選考により選抜され、面接の機会を得ることが難しいような「大きな労働市場」ではなく、当事者の状況やニーズを踏まえた就労支援機関のサポート等によりうまく面接の機会を得られるような「小さな労働市場」の中でのマッチングがうまく機能すれば、正社員に移行できることがある。合同面接会や支援担当者のネットワークを活用するなどのように「小さなマッチング」を作り出す「場」は昔からあるオーソドックスな手法ではあるが、履歴書を送って面接に至るという一般的な就職活動でうまくいかない氷河期世代には重要なチャンスになっている。

応募職種の拡大のための支援:希望する仕事の発想を広げる

ヨーヨー型キャリアに現れているように、多くの求職者には正社員経験がある。離職の理由は長時間労働が多いものの多岐にわたるが、求職者の希望は会社内(内勤)で総務や人事などを担当する一般事務に集中する傾向があった。

決まった場所で残業なく定時で帰れるイメージの一般事務の仕事に就きたいというニーズの背景には、サービス業にありがちな長時間労働を過去に経験したがゆえのワークライフバランスへの強い希望がある。

「(譲れない条件みたいなものは?)土日は普通にちゃんと休みがいいし、普通に、だから9時から18時だとか、ちゃんと時間が決まって、残業は別に駄目っていうわけじゃないんですけども、普通に会社で働ければいいというのが。あまり前みたいに長時間、こんな時間にというのは難しいかなというのは。(販売とかは?)販売になると、また時間が長期になったりとかするから、そういうのがあって、なるべくならそういうところは、事務的なところのほうがやりたいなと。」(22さん・男性)

「ライフワークバランスを大事にすると、そういう条件的に、事務系というふうになってしまうかなというのは思います。」(26さん・女性)

ハローワークの一般事務従事者の有効求人倍率は、0.39倍(2025年3月)でありハードルが高い。これまでの辛い社会経験により自らの可能性を限定してしまっているのであれば、ワークライフバランスが可能な仕事として表象されるイメージとしての一般事務にこだわらず、応募職種を拡大するための支援も必要である。

例えば勤務時間や休暇・収入の条件が好転した例として、27さん(女性)のように、サービス業(パート)から製造業(正社員)へ転換した事例があった。調理という点で必要な能力や仕事内容は前職とおおむね共通していたが、製造業では当事者が希望する土日休みや残業の少なさが実現した。家から近いということからたまたま応募に至ったものだが、業種や職種にとらわれずに仕事内容そのものに着目し、仕事に必要なスキルから逆算する選び方を当事者に促すことも一つの方法である。

他方で29さん(男性)は卒業後フリーターだったが、引越しのアルバイトの接客コンテストで優勝したことが不動産会社の社長に評価され、営業職の正社員として採用された経験を持つ。異なる産業・職種であるが、コミュニケーション能力の高さが、不動産営業にも生かせると評価されての採用であり、採用側にとっても仕事に必要なスキルから逆算する視点が活用されていることがうかがえる。

また中高年であっても、知っている職業の範囲がそれほど広いわけではない。「世の中にどんな仕事があってどんな仕事が向いているのか知りたい」という34さんのような支援ニーズは、明確に言語化されたのは4事例だが、多くの求職者に潜在的に存在する。

異なる産業や職種に分類されていても、類似したスキルが必要な職業は多数ある。もし求職者が自らの持つ職業イメージに囚われていたなら、あるいは採用する側にも採用候補者を広げてもらうために、合同面接会や職業体験はもとより、job tagのようにそれぞれの仕事に必要なスキルを共通した指標で捉えるような発想(仕事の共通言語)や視点を、支援者が当事者や採用側にわかりやすく伝え、自分の経験や採用候補者に求めるスキルをより広い仕事群と結びつけ、新たな仕事や候補者と出会うための支援を行っていくことも有効である。

また介護の経験がある当事者の中には、自らの経験から発展して介護の仕事を選ぶ者もいた(30・47)。すでに一定の社会経験がある場合には、これまでのライフキャリアを手がかりに職種を広げていくことも考えられる。

図表4 現在無業者の支援ニーズ ※スクロールして全体を見られます
番号 性別 年齢 現状 正社員社数 期待する支援 現在の不安(健康面含む) 今後の見通しと希望 年金
1 女性 40代前半 求職中 2社 これまでの経験や気持ちを分かち合えるような機会の提供 不安はあるが、ハローワークの職員にも励まされて前向きである。 学び直しをいろいろとしたい・ドローン操縦や建設系の資格も取りたい 正社員時代8年はあり。その後は不明
2 女性 40代前半 求職中 3社 不明 将来の年金のことを考えると不安。 資格やスキルアップ。資格やスキルを生かせる仕事につきたい 厚生年金に入れてない期間も長い
4 女性 30代後半 求職中 2社 職業適性検査が役だった 人間関係で苦労しているので、応募するのに慎重になる。 一人暮らしをするには少ない給与水準なので家から通える事務で年齢層が幅広そうな職場を中心に探している。辞めるときに貯金と照らし合わせて辞めた。 国民年金を免除中
5 女性 50代前半 求職中 3社 中高年の仕事の探し方講座は定年間近の人むけなので、リタイアには時間がある人向けセミナー。 今後の自身や両親の健康に関する不安 長期に働けるように、直接雇用を目指して働きたい。親に頼らず自活したい。 払っているが、年金のことを気にしたことはない
7 男性 40代後半 求職中 4社 障害者手帳は出ないが健康面の不安を相談できる窓口。生活保護を含めた無業者への支援。農業、食に対する支援 目の病状がどうなるかが不安 農業に携わるのも悪くない安定した職に就きたい神職は副業にとどめたい 不明
9 男性 40代後半 求職中 4社 転職支援の環境整備 年齢(自身、両親) 地元で就職できた方が安心 社会保険の空白期間はなし
11 男性 40代後半 求職中 1社 地域おこし・地方暮らしへの支援 貯金を取り崩して生活。たまに単発の仕事をしている。コロナ後遺症があった。 前向きに、生きることを考えていきたい 不明
12 女性 40代前半 求職中 0社 自分にはお金がかけられないので、無料で支援してくれる。 教育費が必要 仕事を通してスキルアップしたいいずれ正社員にも挑戦したい気持ちもある 不明
14 男性 40代前半 求職中 2社 特にない この年齢でちゃんと仕事につけるか まずは現状で働けるような仕事で働き、意欲作りをして正社員を目指す 加入期間は通算10年はある
16 女性 40代後半 職業訓練 3社 ポリテクの訓練や就職支援はとてもよかった。 仕事と勉強が結びついていないという感じはあるが、まだ諦めたくない。両親の介護で前職を短期離職。 宅建・電気工事士の資格取得や、ウェブデザインを学んでおしゃれなHPなどを作りたい。 不明
18 男性 40代後半 求職中 2社 民間では面接に進めない。氷河期支援の効果が分かると励まされる。サポステに参加することで社会との接点になっている。 正社員にすごくこだわっているわけではないが、経験を活かす仕事に就けないかもしれない。 経済的にも安定した生活がしたい。50歳まで見つからなければ別の選択をするつもり。 不明
19 男性 40代前半 求職中 6社 ハローワークはハードルが高く、サポステは優しく迎え入れてくれて当時の自分にフィットした。求職中は家族以外の人と話さなくなるので、サポステのプログラムへの参加はよかった。 心療内科に通いつつ、自分の生活費の分は貯蓄を切り崩している。 就職して経済的に安定し、家族も持ちたい。 不明
20 男性 50代前半 求職中 1社 職業訓練期間の延長や実践化。 ヘルニアの手術をして現在は健康。 不安はあるが結局自分で何とかしていくしかない 不明
22 男性 50代前半 求職中 1社 生活支援を含めたワンストップ。伴走型支援。氷河期支援を縮小せず維持。パソコンセミナーに何度か落ちた。 長時間労働のトラウマがあるので、ワークライフバランスの取れた仕事に早く就職したい 資格をとろうと勉強中。総務系の仕事に就きたい. あまり払えていない・現在は免除
24 女性 40代後半 求職中 3社 就労支援等の対策のみではなく、自分の悩みを相談できるような機会や、苦手意識の克服に向けて同じ境遇の人と話せるような機会 現在は親の年金と自分の貯金の取り崩しで生活を賄う。将来の親の介護だけでなく、ひきこもっている妹たちの将来。自身の健康問題。 残業の少ない職場の、フルタイムの事務職に就きたい。 概ね厚生年金
26 女性 40代前半 求職中 2社 離職のタイミングで税金の支払いが困難だった。税金の減額などのサポートがあるとありがたい。 持病はあるが、就業に問題ない。 ワークライフバランスがとれる総務人事系の仕事をしたい 概ね厚生年金
28 女性 40代前半 求職中 2社 パソコンセミナーは希望者全員は受けられないので、全員受けられるとよい 仕事が決まるかどうか。 内勤の事務職の正社員になり、夫婦二人で暮らしていく。夫と休みを合わせたい 扶養が長く、厚生年金期間短い
32 女性 40代後半 求職中 1社 職業訓練の申込の試験や面接がハードルが高いので下げてほしい。パソコンの訓練をうけたい。 事務職につきたいが経験がないので難しい。教育資金が心配。 そんなに多くの時間もないし、収入もたくさんというのはもうあり得ないと思うので、少しでも長く働きたい。細長く働きたい。 現在失業中なので免除をしている
38 男性 40代後半 求職中 なし サポステをもっと早く知りたかったので、広報を拡充してもらいたい。 子供が住む遠方の地域で就職したいが、最近は書類選考を突破できない。健康状態や経済状態には問題ないが、これから遠方に住むこと、少ない年金で生活することを考えると不安。 教員免許を活かして子供がいる遠方の地域で就職したい。仕事に就くことを優先したい。 国民年金を4年前まで払っていたが、現在は未納
41 女性 40代前半 無業(通所中) なし 健常者と障害者の境界にいる人への特性に応じた支援 健康で経済的には生活できないほどではない。人間関係の構築がうまくいかないが、現在の移行支援施設では不安はない。 マイクロソフトオフィスマスターを目指したい。 国民年金を親に支払ってもらっている
職業訓練機会の拡充と副業へのニーズ

氷河期世代はパソコンが普及し始める時期に若い時代を過ごしたため、習熟度に差が見られる。そのためパソコンセミナーは人気があるが、選考に落ちて参加が難しいという声がしばしば聞かれた。参加のハードルを下げてほしいという声もあった(4事例)。

「結構何人とかって枠があるし。結局は習いたくても習えない人もいるから、何だろう。習えなかったらいつキャリア、自分のスキルって上げたいという気持ちがあっても、自力でできないじゃないですか。だから、結局はあぶれる。ふるいにかけられてあぶれる人がいるから。ふるいにかけられないといいなというのは。でも、それでレベルがあるとは思うんですけど、理解のレベルがあるというのもあるとは思うんですけど。何か希望してるのに希望してることができないというのは悲しいことかなって気が。」(28さん・女性)

ただし準備不足の状態で職業訓練に参加する機会を拡充しても就職には結びつきにくいことも予想される。

当事者が自ら費用を負担できる状況にはないので、応募人数が超過してパソコンセミナーへの参加が難しい場合には、無料で気軽に事前勉強できるようにアプリや漫画による入門講座を用意したり、参加が可能になる要件を明確にするなど、当事者のリスキリングやリカレント教育に対するモチベーションを維持する方法もありえるだろう。

また現在在職していても収入が十分でなかったり、先行きが不安な当事者は、リカレント教育やリスキリングではなくスキマバイトなどの副業を検討していた(29さん・男性)。29さんは若い時期であれば資格取得や職業訓練を受けることも考えたが、新たに勉強するよりは苦しい生活を経済的に補完するためにとりあえず収入を得たいというニーズを持っていた。

「次にいいところに就職できたとして、そこで会社としてこういう資格を持っていたほうが後々有利だよということがあれば、それは猛烈に勉強しますよ。だけど、入る前にというのは、なかなかできないですね・・・腰が上がる人は多分30代の方とかね、正直資格をとったところで、それだけの見返りが得られないと思っちゃう。」(29さん・男性)

投資(新NISA)に活路を見いだしたいという者もいた(30さん・女性)が、今回の当事者のほとんどは、これまで収入が十分ではなくぎりぎりの生活を続けてきたり、仕事が安定した時期に貯金ができても再び不安定になって取り崩してしまうなどしているため、十分な蓄えがあるとは言えなかった。キャリアが不安定な状況で自己投資をするのは、一般的には困難であることが推察される。

(a)積極的活動者および(b)非積極的活動者に共通した支援

地域社会とのつながりと相談機会の充実:「ジョブクラブ」の拡充

労働政策研究・研修機構(2024)において、氷河期世代の交流の場についてのニーズが見いだされていたが、今回も同様のニーズが多数確認された。若いときに利用した就労支援機関の中での「ジョブクラブ」で、他の参加者が鏡となって客観的な自分を把握できたと語る当事者もいた(30さん・女性)。特に、非積極的活動者においては、社会とのつながりを感じる唯一の機会であるという点で重要な支援である。

積極的活動者であっても(労働政策研究・研修機構2024)、社会とのつながりを感じる機会になっている。

「就職活動をしているとはいえ、本当に外に出て行く機会がすごく少なくなってしまって、そういった何か社会とのつながりをつくるきっかけになればと思って(来所)。」(18さん・男性)

就労支援機関の職員に対しては、求職者に対する共感や傾聴、丁寧な相談機会の充実がこれまで以上に求められている。

他方で仕事に関する相談と関わっているが就労支援機関以外の機関が適切な場合、例えば経済的に厳しい場合に社会福祉協議会に相談する当事者も存在したが(1さん・女性)、社会からひきこもった兄弟姉妹まで抱え込んでしまい、他の支援機関にはつながっていない当事者もいた(24さん・女性)。就労支援機関であっても、就労に関する相談を受けるだけではなく、それ以外のニーズがあるとするならば、その先に繋ぐ体制やフォローアップ支援も重要である。

また就労や正社員への移行は重要なことではあるが、職場や仕事が合っていなければ早期離職につながり、かえってキャリアを不安定化させていることもうかがうことができる(24さん・女性)。求職者の置かれた状況や課題に応じ、安定した状態に移行できるような相談が求められる。

(c)非活動者に対する支援

学校卒業時に就職氷河期であったことから、就職活動をしてもうまくいかずに、いつの間にか社会的ひきこもり状態に移行していた事例(25さん・男性・現在は正社員)は、何十社も応募し続けたというよりはいくつか応募してうまくいかないうちに何年も経過し、家族以外との結びつきを失っていたが、ひきこもったという意識は薄いように推察された。詳細は不明なものの、家から仕送りを受けて無業のまま一人暮らし状態を長く継続した者(42さん・男性)や、事業所閉鎖で仕事を失い、離職後9年間無業だった者(34さん・男性)もおり、いずれも社会的ひきこもり状態であったが当事者には無業状況の継続と意識されていると推察された。

「離職後ですけれども、ハローワーク通いながら、仕事を探しながら資格の取得、こちらも一つ資格取って、それを足がかりに職を探してたんですけども、ちょっとその辺がうまくいかなくて、やっぱり毎日お休みしてた中で、もう体が慣れてしまって、お休みっていうのが。それで、それがずるずるいってしまって、離職後9年間何もやらない状態が続いてしまいました。」(34さん・男性)

また仕事を失ったタイミングで親が介護状態になり、他の兄弟から介護を押しつけられて無業期間が長期化している事例(14さん・男性)があった。

いずれも「8050問題」と認識される(た)ケースであるが、今回のインタビューからは、当事者が労働市場に復帰できる状況にあり、適切な支援を受けられれば、人手不足の状況であるため何らかの社会参加の足がかりを得られる可能性も示された(25さん・男性、34さん・男性)。就労支援機関は具体的な応募にまで至らない当事者であっても、他の支援機関の力を借りながら、ボランティア等を含め、社会参加へ促す役割がますます期待される。

他方で就職してもうまくいかずに生きづらさを感じ、発達障害を自覚するというケースがあった(41さん・女性)。就職氷河期世代は、発達障害者自立支援法以前に労働市場に入っている者が多いため、就職活動を開始した後ないしは就労を開始してはじめてうまくいかない自分の生きづらさに気づきやすいと推測される。

「小さい頃からちょっと人間関係の構築が下手だったんですね。グレーゾーンでちょっと苦しんでいたというか。今も昔よりはちょっとどんどん少しずつ出てきているほうだと思うんですけども(中略)本当に境界域の人たちが救われてほしいなと思っていますね。」(41さん・女性)

無業者に対してはどのような状態であっても、まずは社会参加の場としてゆるやかな居場所が求められている。ただし就職氷河期世代の場合には、就労を目指すことを掲げた方が集まりやすく、前述のように初級のパソコンセミナーは人気があり、41さんも就労につながる場を求めていた。

4.老後の生活と年金

老後については考えたことがない、という回答もあったが、パート・アルバイトであっても、年齢を重ねるとともに社会保険適用拡大の恩恵を受けられるようになっており、厚生年金受給資格は21名について確認できた。また年金加入期間が10年以上ある者が多数であった[注3]。しかしこれまで不安定な状態をたびたび経験したり長かった者が多いことから、免除・未納や国民年金のみの期間が長く、現在正社員で厚生年金の受給資格を持つ者にも、老後の経済的な課題が立ちはだかっていた。65歳以降も長く働く意向を持っている者がほとんどであり、若い時期の困難を長く働くことで挽回を図ろうとしていた(3・6・21・27・31・33・34・47)。長く働くための高齢者雇用政策、および年金においては拠出期間45年化を目指すなどのマクロ的な政策もあわせて重要である。

他方で前述のように年老いた両親に経済的に依存している8050問題も散見されたが、完全に経済的に依存しているとは言えないまでも親元で生活する者が28名おり、多くの当事者が両親と同居することでキャリアが不安定な中でも何とか生活が賄えていることが推察された。前述のように確認できただけで7名は兄弟姉妹とも同居しており、経済的に自立できていない兄弟姉妹の存在も語られた。就労支援だけでなく、家族まるごと支援が必要とみられる当事者もいる。また現在住んでいるのが持ち家であっても、親亡き後には住居の維持費が必要になり、収入が不安定な当事者が生活はもとより持ち家を維持するのは簡単ではないことも語られた。

ハローワーク・サポステ等の就労支援機関をはじめとした様々な支援機関から他の福祉的な機関等につないでいく積極的な連携と、個人情報の共有についてあらかじめ本人同意を得て各支援機関が連携して支援をスムーズに進められるような環境整備がますます求められる。

5.労働時間や未払い賃金に対する積極的な指導

属性にかかわらず、今回聞かれたニーズとして、労働時間や未払い賃金についての指摘があった。今回の当事者の少なくとも半数(25事例)は若い時期に12時間以上の長時間労働の経験があり、近年においても長時間労働に苦しむ声をたびたび聞くことになった。

中には2年ほど前に17時間労働で仕事を辞めさせてもらえなかったという事例(31さん・男性)や、働き方改革が進んで会社に注意されるが仕事が終わらないので、上司はタイムカードを切って働いていた(27さん・女性)という事例もあった。

「仕事そのものはきつくはなく軽作業ですが、労働時間がおかしすぎました。1日13~14時間、ひどいときには17時間も拘束されました。朝の7~8時から日付が変わるぐらいまで拘束されたこともあります。固定残業代みたいな制度でこれだけ長時間働いているのに月20万円くらいにしかならない。いろいろ引かれたら手取りは16万8000円程度でした。私以外にも辞めたいと言っても辞めさせてもらえず、最後は出社しなくなっていく人がいました。『あいつ飛んだって』と話題になっていた。」(31さん・男性)

就職氷河期世代固有の問題ではないが、まだ働き方改革は途上にある。長時間労働や残業による未払い賃金への積極的な指導が求められる。

6.インタビューからの知見

今回の属性別に分析したインタビューの知見は以下のように整理できる。

性別については、配偶者がいない場合、男女とも就業に関するニーズの違いは見いだされなかった。また既婚女性であっても子育て期が終わりつつある年齢であり、稼得責任が小さい場合であっても、正社員を目指そうとする意志が見られた。就職氷河期世代が若い時期にはまだ性別役割分業観が強かったが、日本社会の変化を背景に、子育て期が終わりに近づく氷河期女性の働き方も変わりつつある。今後は性別よりもこれまでのキャリアによるニーズの違いが鮮明化すると推察される。

有業者について、正社員と非正社員それぞれについてみると、現在正社員であっても今の状況に満足している者ばかりでなく、過去の経験から雇用の安定に不安を持っていたり、収入が少ないため転職や追加収入を得るための副業を考えたりなどしていた。非正社員は雇用継続や社会保険の適用拡大などのニーズがあり、引き続きステップアップ支援、無期雇用化や社会保険の適用拡大が有効である。

無業者は、積極的活動者と、非積極的活動者、非活動者に分類できるが、これらは重なり合う連続的なスペクトラムと見なすことができた。積極的活動者は正社員への移行を希望しており、すでに正社員に移行した事例からは「『小さい労働市場』の創出」「希望する仕事の発想を広げる」支援や、職業訓練も有効であることが見いだされた。

非積極的活動者および非活動者については、社会参加の観点から社会とのつながりを持つための支援が重要である。非積極的活動者はメンタルの課題や病気を抱えながら何とか求職活動を続けようとしていた。また非活動者は社会とのつながりを求め、いずれ労働市場に移行したいと考えていた。非積極的活動者と非活動者が積極的活動者に移行するための支援として、また積極的活動状態を持続する支援としても、仕事をゆるやかに掲げた交流の場が求められていた。積極的活動者はより就労に力を入れた支援となり、非積極的活動者や非活動者は社会とのつながりを感じさせる支援が中心となるので、ハローワーク・サポステのみならず、多様な支援の場が必要となっている。

また老後の生活や年金については、有業/無業など現在の状況によってニーズが異なるわけではなく、これまでの不安定なキャリアにより低年金が予測されていた。この不安を乗り越えるために、現在の状況を問わず、老後はできるだけ長く働きたいという意向がきわめて強かった。年金の納付期間の45年化や高齢者雇用の在り方について改めて検討されることが望ましい。

調査対象となった当事者においては、現状が異なって見えても、課題が地続きであることもうかがえたが、今回のインタビューはハローワークやサポステの利用経験者に対して実施されているため、就職氷河期世代全体のニーズを捉えたものではなく、さらなる調査が必要である。

今回のインタビューの実施にあたり、調査方法が異なるので断念したが、自らの声を聴いてほしいという働きかけを複数頂いた。若い時期に声を上げる術を持たなかった就職氷河期世代だが、様々な方法で社会に働きかけ始めていることが推察される。

氷河期世代はバブル崩壊以降の日本社会の不安定化に最初に直面し、試行錯誤してきたトップランナーであり、氷河期世代に対して若者支援が始まったことにより、氷河期世代以降の若い世代も支援を受けることが可能になった。就職氷河期世代支援の恩恵は、より若い世代にも享受されている。現在は就職氷河期世代がミドル世代であることから、ミドル世代に関する支援の蓄積が進み、より若い世代が中年期を迎えたときにも、就職氷河期世代支援の経験が有益な支援の手がかりとなることが期待される。今後の日本社会をよりよくするための一つの方策として、就職氷河期世代支援のあり方を改めて議論していくことが求められる。

参考文献

脚注

注1 2023年調査では年金情報は必須項目ではなかったため、年金の情報について把握できていない者が含まれる。

注2 インタビューでの質問は親元かどうかのみを尋ねることになっており、インタビューの内容から読み取れた範囲での把握である。

注3 卒業年を2004年ではなく2007年まで拡大して分析した理由としては、高校の進路選択時にはまだ求人倍率が低く就職が難しいという状況が彼ら彼女らの進路選択に強い影響を及ぼしたことがインタビューにおいてうかがえたためである。