JILPTリサーチアイ 第71回
コロナ禍において転職希望を強めている正社員

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雇用構造と政策部門 主任研究員 高橋 康二

2021年11月15日(月曜)掲載

1 はじめに──正社員の転職希望率の上昇

本稿では、コロナ禍において転職率が低下するなか正社員の転職希望率が上昇している実態を踏まえ、転職希望を強めている正社員とはどのような人々なのかを探索した。その結果、コロナ対応によって仕事を削減された人々が、目一杯働きたいという思いを携えつつ転職希望を強めていることが明らかになった。

コロナ禍において、転職の実態およびそれに関連する意識に変化が見られる。図1は、総務省「労働力調査」から、転職率の推移を示したものである。ここから、2015年から2019年にかけて上昇基調だった転職率が、2020年に入って男女ともに低下していることが分かる。コロナ禍による経済活動の停滞により、企業からの求人が減少していることが原因と考えられる[注1]

図1 転職率の推移(%)

図1グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」より。

注:各調査時点の就業者数に対する「転職者」数の割合を示している。なお、「転職者」とは、過去1年間に離職して現職に就いた者であるため、実際の転職時点は1年ほど前である場合も含む。

図2は、同じく「労働力調査」から転職希望率の推移を示したものである。まず、男女別のグラフを見ると、コロナ禍において転職率は低下している一方で、転職希望率は横ばいないし上昇傾向にあることが分かる。また、雇用形態別のグラフに見ると、コロナ禍において正社員の転職希望率が上昇傾向にあることが分かる。

つまり、正社員に限定して言うならば、概して転職が不活発な労働市場のなかで、転職希望率だけが上昇しているということになる。求人が低迷し転職が難しい環境下で、転職希望を強めているのは、どのような属性の、どのような状況に置かれた正社員なのだろうか。また、彼らは転職後にどのような働き方をしたいと考えているのだろうか。ここに、コロナ禍において転職希望を強めている正社員とはどのような人々か、という探索的なリサーチ・クエスチョンが立てられる。

図2 転職希望率の推移(%)

(男女別)

図2男女別グラフ

(雇用形態別)

図2雇用形態別グラフ

資料出所:総務省「労働力調査」より。

注1:各調査時点の就業者数に対する「転職などを希望している」人数の割合を示している。

注2:役員を除く雇用者のうち「正規の職員・従業員」を「正社員」、それ以外を「非正社員」とした。

2 JILPT個人パネル調査を用いた分析

上述の問いを探求すべく、JILPTが実施した「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(JILPT個人パネル調査)を分析する。JILPT個人パネル調査は、連合総研の「第39回勤労者短観」(2020年4月)を前段調査として、5月、8月、12月、2021年3月、6月に同一個人を追跡しつつ、欠落分についてはサンプルを補充しながら実施されている。調査対象は2020年4月1日時点の民間企業労働者とフリーランスに分けられるが、本稿で分析対象とする民間企業労働者について言えば、インターネット調査会社のモニターから、「就業構造基本調査」をもとに性別×年齢層×居住地域ブロック×正社員・非正社員(180セル)別に層化割付回収をした形となっている[注2]

本稿の分析対象は、2020年4月1日時点で民間企業の正社員として働いており、その後、第5回調査時点(2021年6月)まで離転職をしていない者で、かつ、前段調査から第5回調査までのすべての調査に回答している者である。本稿の分析では主として第5回調査の設問を用いるが、異なるタイミングでサンプルに加わった者は異なる回答傾向を有する可能性もあるため、前段調査からの毎回回答者に対象を限定している。

この第5回調査では、コロナ禍のなかでの意識の変化を扱っている。具体的には、「新型コロナウイルス感染症の発生前と比較して、次の事柄は、ご自身にとって重要なものになりましたか」として、11項目についての重要性認識の変化をたずねている。そして、そのうちの1項目として「転職しやすい環境」についての重要性認識の変化をたずねている。その際、「かなり重要性が増した」、「やや重要性が増した」と回答した者は、転職希望が強まっており、「やや重要性が減った」、「かなり重要性が減った」と回答した者は、転職希望が弱まっているとみなすことができる。本稿では、この設問を用いて、回答者の転職希望の強まり(弱まり)を捉えることとする。

3 「転職しやすい環境」の重要性認識の変化

図3は、コロナ発生前と比較した「転職しやすい環境」の重要性認識の変化を示したものである。分析対象は、コロナ禍において離転職をしていない正社員である。ここから、全体の82.9%は「特に変わらない」と回答しているが、重要性認識が減じた者が4.5%(1.3%+3.2%)であるのに対し、重要性認識が増した者が12.6%(3.0%+9.6%)であることは注目に値する。劇的な変化とまでは言えないものの、たしかに正社員において転職希望が強まっていることが確認できる。

図3 コロナ発生前と比較した「転職しやすい環境」の重要性認識の変化(N=1434、%)

図3グラフ

注:設問文は、「新型コロナウイルス感染症の発生前と比較して、次の事柄は、ご自身にとって重要なものになりましたか:転職しやすい環境」である。

ところで、「転職しやすい環境」の重要性認識の変化から読み取れるのは、転職希望が相対的に(=コロナ発生前と比較して)強まったか弱まったかである。それゆえ、仮にここで重要性が「増した」と回答していたとしても、実際には転職希望の程度は低い、ということもあるかもしれない。

そこで、図4にて、「転職しやすい環境」の重要性認識の変化と第5回調査時点の転職意向との関係を見た。その結果、「かなり重要性が増した」、「やや重要性が増した」と回答した者の7割以上が、転職したいと考えていることが分かる。「転職しやすい環境」の重要性認識が増した者の多くは、転職希望が強まって、実際に転職したいと考えるに至っていることが確認できる。

図4 「転職しやすい環境」の重要性認識の変化と調査時点の転職意向(%)

図4グラフ

4 「転職しやすい環境」の重要性認識が増したのはどのような人々か

それでは、「転職しやすい環境」の重要性認識が増している──つまり、転職希望を強めている──正社員とは、どのような人々だろうか。表1は、「転職しやすい環境」の重要性認識の変化を被説明変数とした順序ロジスティック回帰分析の結果を示したものである。重要性認識が増しているほど、被説明変数は大きな値をとるようになっている。

モデル①では、性別、年齢、学歴、生計の担い手か否かをあらわす変数を説明変数として投入している。ここから、年齢が若いほど、1%水準で「転職しやすい環境」の重要性認識が増していることが読み取れる。

モデル②では、産業、職業、企業規模を説明変数として追加投入している。しかし、これらの変数のなかには被説明変数に有意に影響を与えているものはなく、モデル自体も有意ではない。

モデル③では、第5回調査時点で、勤務先企業が行っているコロナ対応(複数回答)を説明変数として追加投入している。ここから、「休業(閉鎖、閉店等)や休業日数の拡大」、「仕事の削減」が行われている場合、「転職しやすい環境」の重要性認識が有意に増していることが読み取れる。

モデル④では、第5回調査の直近の労働時間と月収の情報を説明変数として追加投入している。ここから、月収増減が5%水準でマイナスの影響を与えていることが読み取れる。すなわち、月収が減少している者ほど「転職しやすい環境」の重要性認識が増す傾向があるということである。

ちなみに、モデル④では「休業(閉鎖、閉店等)や休業日数の拡大」の係数が有意でなくなっていることから、休業による影響は、実質的には休業に伴う月収減少による影響だったと考えることができる[注3]。他方、そのモデル④においても、「仕事の削減」は引き続き1%水準で有意である。このことは、「仕事の削減」が、月収減少とはかかわりなく被説明変数に影響を及ぼしていることを意味する。つまり、仕事が削減されているということそれ自体によって、「転職しやすい環境」の重要性認識が増す傾向にある。

総じて、年齢が若い正社員ほど、仕事が削減されている正社員ほど、月収が減少している正社員ほど、転職希望が強まっているということになる。

表1 「転職しやすい環境」の重要性認識の変化の規定要因(順序ロジスティック回帰分析)

被説明変数:「転職しやすい環境」の重要性の変化 モデル① モデル② モデル③ モデル④
(5:かなり重要性が増した~1:かなり重要性が減った) B S.E. B S.E. B S.E. B S.E.
女性 0.095 0.170 0.060 0.194 0.085 0.197 0.074 0.197
年齢 -0.029 0.007 ** -0.029 0.008 ** -0.027 0.008 ** -0.027 0.008 **
大卒以上 0.056 0.144 0.150 0.158 0.214 0.161 0.222 0.161
生計の担い手 -0.244 0.185 -0.264 0.189 -0.238 0.193 -0.232 0.193
建設業(ref. 製造業) 0.004 0.318 0.098 0.325 0.095 0.327
情報通信業 -0.221 0.312 -0.134 0.321 -0.127 0.321
運輸業 -0.415 0.344 -0.547 0.347 -0.556 0.347
卸売・小売業 0.001 0.277 0.029 0.285 0.046 0.286
金融・保険業 -0.420 0.340 -0.403 0.347 -0.400 0.348
不動産業 -0.370 0.466 -0.292 0.469 -0.278 0.472
飲食店・宿泊業 0.129 0.623 -0.066 0.644 -0.074 0.645
医療・福祉 0.171 0.290 0.203 0.301 0.233 0.302
教育・学習支援業 -0.016 0.605 0.071 0.612 0.003 0.612
サービス業 0.048 0.268 -0.017 0.273 -0.001 0.273
その他・わからない 0.076 0.360 0.104 0.366 0.136 0.367
管理職(ref. 事務職) -0.008 0.259 -0.046 0.262 -0.069 0.262
専門・技術職 -0.112 0.233 -0.130 0.236 -0.152 0.237
営業・販売職 -0.007 0.262 -0.051 0.268 -0.078 0.269
サービス職 0.407 0.344 0.475 0.352 0.421 0.353
生産技能職 -0.190 0.306 -0.355 0.315 -0.397 0.315
輸送・機械運転職 0.777 0.461 0.698 0.465 0.626 0.467
運搬・清掃・包装作業 0.690 0.473 0.897 0.482 0.880 0.483
その他・わからない -0.316 0.421 -0.313 0.428 -0.324 0.430
99人以下(ref. 1000人以上) 0.050 0.185 0.051 0.196 0.063 0.197
100~999人以下 -0.204 0.186 -0.244 0.190 -0.246 0.191
わからない -0.145 0.447 -0.043 0.456 -0.033 0.457
休業(閉鎖、閉店等)や休業日数の拡大 0.645 0.306 * 0.552 0.309
営業時間の短縮 -0.161 0.304 -0.201 0.304
一時帰休 0.839 0.455 0.794 0.455
出勤日数の削減 0.332 0.314 0.326 0.315
有給休暇の取得促進 0.315 0.238 0.306 0.238
在宅勤務・テレワークの実施 -0.120 0.212 -0.101 0.212
サテライトオフィスなど勤務場所の変更 -0.768 0.399 -0.762 0.400
通勤方法の変更 -0.316 0.407 -0.324 0.407
時差出勤 -0.112 0.226 -0.121 0.226
仕事の削減 1.173 0.318 ** 1.116 0.320 **
WEB会議、TV会議の活用 0.389 0.211 0.395 0.212
出張の中止・制限 -0.283 0.221 -0.303 0.222
転勤の停止・中止 0.633 0.464 0.687 0.466
他社への派遣 0.253 0.607 0.207 0.607
イベントや集会、会議、懇談会などの中止・自粛 0.003 0.205 0.004 0.206
咳や発熱などの症状がある人への適切な対応 0.143 0.207 0.125 0.208
マスク・アルコール、フェイスシールドの使用・配備 -0.235 0.191 -0.210 0.192
労働時間増減(時間数) 0.000 0.007
月収増減(指数:コロナ前=100) -0.013 0.005 *
τ=1 -5.797 0.445 ** -5.885 0.526 ** -5.806 0.543 ** -7.054 0.756 **
τ=2 -4.533 0.400 ** -4.618 0.489 ** -4.534 0.507 ** -5.783 0.730 **
τ=3 0.549 0.360 0.519 0.455 0.738 0.474 -0.490 0.697
τ=4 2.100 0.382 ** 2.078 0.473 ** 2.323 0.492 ** 1.100 0.707
N 1434 1434 1434 1434
カイ2乗 23.776 ** 38.311 75.412 ** 80.893 **
Nagelkerke R2乗 0.023 0.036 0.070 0.075

注1:**:p<0.01、*:p<0.05。(ref.)はレファレンス・グループ。

注2:産業、職業、企業規模は、2020年4月1日時点のものである。

注3:労働時間増減(時間数)は、第5回調査直近週(2021年6月17日~23日)の週あたり実労働時間から、コロナ前の通常月の週あたり実労働時間を引いたものである。

注4:月収増減(指数:コロナ前=100)は、コロナ前のもともと(通常月)の月収と比較して、第5回調査直近の月収がどの程度かを9段階のカテゴリでたずねたものを、階級値に変換したものである。

5 コロナ収束後の働き方についての考え

それでは、「転職しやすい環境」の重要性認識が増している──つまり、転職希望を強めている──正社員たちは、転職をしてどのような働き方をしたいと考えているのだろうか。図5は、転職後の働き方についての考えに近似した指標として、コロナ収束後の働き方についての考えを見たものである。

ここから、「転職しやすい環境」の重要性認識が増した者ほど、「新型コロナ発生前よりバリバリ働きたい」と回答する傾向にあることが分かる。表1から、コロナ対応により仕事が削減されている人ほど転職希望を強めていることが読み取れたが、それに呼応するように、転職希望を強めている人ほどコロナ収束後には目一杯働きたいと考えているのである。

図5 「転職しやすい環境」の重要性認識の変化とコロナ収束後の働き方の希望(%)

図5グラフ

注:「当面は、働きたくない(いずれまた、働き始めたい)」、「もう働きたくない」の値ラベルは省略。

6 おわりに──転職して目一杯働きたいと希望する正社員

コロナ禍において転職率は低下しているが、正社員の転職希望率は上昇している。転職希望を強めている正社員の姿を明らかにすべく探索的な分析を行ったところ、コロナ対応によって仕事を削減された人々が、目一杯働きたいという思いを携えつつ転職希望を強めている様子が窺えた。

世間では「働き方改革」のかけ声のもと、正社員に関しては長時間労働の削減やワーク・ライフ・バランスの実現が推進されて久しい。コロナ禍において導入が進むテレワークについても、出勤比率を抑制するだけでなく「仕事を効率的にこなす」ことが重要な目的とされている。しかし、本稿で見たように、正社員のなかには、おそらくは仕事が削減されている状態を不本意なものと捉えて、転職をして目一杯働きたいと考えている者が一定数いる。そのような人々が、正社員の転職希望率上昇の一翼を担っていると考えられる。

参考文献

脚注

注1 厚生労働省「職業安定業務統計」によれば、有効求人倍率(パートタイムを含む、季節調整値)は、2015年(年平均)に1.20倍だったものが、2019年(年平均)には1.60倍に上昇したところ、2020年5月に1.18倍に急落し、2020年9月~10月には1.04倍の低水準を記録し、直近の2021年9月においても1.16倍と低迷している。

注2 調実実施概要の詳細および調査結果の速報は、渡邊・多和田(2021)を参照されたい。

注3 データ上、休業手当支給の有無については不明であるが、ここでの月収には休業手当も含まれているため、休業手当が支給されていなければ月収の減少幅も大きくなることになる。