JILPTリサーチアイ 第51回
「ニューノーマル」へシフトする企業──テレワークに関する大手14社へのヒアリング調査[注1]から

著者写真

JILPTリサーチフェロー
荻野 登

2020年12月11日(金曜)掲載

「もうコロナ前の働き方には戻らない」

新型コロナウイルスの感染拡大はワークスタイルにも大きな変化をもたらした。その最たるものが「テレワーク」の拡大だろう。4月の政府の緊急事態宣言をきっかけに職場における感染防止策として一気に広がった。JILPTの調査で、在宅勤務(テレワーク)の実施を企業規模別にみると、規模が大きくなるほど実施割合が高くなっていることから、とくに大手企業で導入・拡大していることがうかがえる[注2]

そこで、当機構の新型コロナウイルスによる雇用・就業への影響に関する研究の一環として、主に大手企業に対して、緊急事態宣言期間におけるテレワークの実施状況とともに、解除後状況およびテレワークから派生する働き方の見直しを含め、現状と検討課題についてインタビュー調査を行った。

10月上旬から11月にかけて、14社(うち2社は労働組合)がインタビュー調査(複数社による座談会形式を含む)に応じていただいた。その結果、「もうコロナ前の働き方には戻らない」という、各社共通の方向性が浮かび上がった。各社ともウイズコロナの現状を踏まえ、ポストコロナを展望しつつ、ニューノーマルにシフトする傾向を強めることになりそうだ。

改めて調査をお受けいただいた各社に対して、1カ月弱というタイトなスケジュール設定にも関わらず、貴重な時間を割いていただいたことに心より感謝申し上げる[注3]

育児・介護の支援制度として導入済みながらコロナ禍で急拡大

まず、調査の対象として、雇用型テレワークのうち対象者が大幅に拡大した「在宅勤務」のほか、「サテライトオフィス勤務」、「モバイルワーク(勤務)」をテレワークと定義した。そのうえで、各社に対しては共通の質問項目(テレワークの導入状況、新型コロナ対策としてのテレワークの実施状況、関連した人事・賃金等制度の見直しの有無、労働時間制度や評価制度、直面している課題と対応など)を聞く事前調査票を送付したうえで、オンライン上の会議システムで確認する形式をとった。

まず、テレワークの導入状況については、今回のコロナウイルスのような感染症の拡大がきっかけとなったわけではなく、大半の企業ですでに主に育児・介護事情のある社員を対象とした制度として導入されていた。さらに、東日本大震災から導入が進んだ自然災害への備えとしての事業継続計画(BCP)の一環としての位置づけだった[注4]。そのため、実際の利用割合は従業員の数パーセントにとどまっていた。

こうしたなか、コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言を受けて、各社は従業員に対して「原則在宅勤務」などを指示し、制度利用が一気に加速する。本社に限るとほぼ全員が在宅勤務に切り替えるケースが典型的なパターンとなった(政府の「出社率7割減」がある程度目安となる)。解除後の6月以降は、部・課ごとに調整して、最大出社率をやや増加させるケースが多かった。しかし一方で、「原則テレワーク」とし、出社を申告制とするなど位置づけを逆転させ、テレワークを一気にワークスタイルの主軸にする企業もあった。

これまでのテレワークでは、ほとんどが月・週の利用回数の上限やフレックスタイムのコアタイムを設けていたが、今回の制度対象の拡大を機に、回数制限やコアタイムの廃止に踏み切るケースが目立った。その結果、従業員にとって制度利用の自由度が高まる一方、時間管理の自律性がより問われることとなった。

課題として不公平感、コミュニケーション不足、職種を問わず有効なweb会議

テレワークの拡大とともに直面している課題では、製造・販売などの現場を有しているなどテレワークに向かない職種との間の不公平感、 組織内のコミュニケーション不足、テレワーク勤務者の評価制度をあげる企業が多かった。

また、オフィスワークからテレワークへの切り替えについて、阻害要因として、ペーパーワークや押印文化の残存、幹部・管理職が出社するので部下も出社せざるを得なくなることなどが指摘された。テレワークの拡大に欠かせない業務のデジタル化および管理職・経営層の意識改革の遅れが表面化するケースもあった。

他方、テレワークが実施できない職場でも、この間、導入が進んだのがウェッブ会議システムだった。部内会議のほか、朝礼、部門間や支店・営業所との打ち合わせ、これまで管理職までに限られていたエリア・ブロック会議の視聴、さらに新入社員、パート・契約社員に対するweb研修など、web会議システムの活用の幅は、格段に広がった。

普段は出張などでしか会えない工場の従業員などとも、web会議システムでの接点が増え、コミュニケーションの深化を実感したとする企業があった。このように、コロナ禍のなかで、職種・職場を問わずweb会議の効果を多くの企業は実感した。また、テレワークを実施しにくい製造・販売・建設などの現場では、非対面・非接触のためのリモート操作などデジタル技術を活用した取り組みも進みつつある。

コミュニケーション不足の解消策として、同様にweb上の打ち合わせ(雑談、ランチ会等も)を定期的に組み込む企業がある一方で、出社と在宅の役割の明確化で解決の糸口を見出そうとする動きもあった。テレワークによる自律的な時間管理のもと行うのは、集中力が求められるレポート作成などの創造的(イノベーティブ)な仕事または定型的な業務に限る。一方、出社した際には、意見交換が必要な企画の打ち合わせ、雑談を含む情報交換といった形で出社・在宅時での仕事の内容・役割を明確に区分する取り組みも見られた。出社と在宅のハイブリットを志向しているといえる。

働き方改革を絡め具体的な見直しに着手──オフィスの在り方、兼業・副業、ジョブ型も

先に触れたようにテレワークに軸足を移した企業では、すでに通勤手当の見直しなどを実施していた。通勤手当を廃止し(実費精算)、テレワーク手当等の支給に切り替えた企業が複数社あった。そのほかの企業でも通勤手当の在り方は労使協議のテーマとなっているようで、労組からは、現行制度では長距離通勤者が出社しない分だけ余得が多くなる一方、実費精算にすると年休取得分の通勤手当が減るなどの弊害が指摘されている。なお、店舗勤務者に対して感染リスク手当を支給するケースもあった。

出社しない社員が増加すれば、既存オフィスの見直しも避けられない。営業拠点(サテライトオフィス含む)の活用をより促すことで、本社スペースの縮減にすでに着手した企業がある。さらに、テレワーク+web会議の活用が進み、これに出張を組み合わせると、単身赴任が不必要となるケースも多いことから、赴任解除のほか、転勤の見直しに踏み込む企業も出てきていた。

さらに働き方改革の関連で課題となっている兼業・副業、ジョブ型雇用についても時間管理の自律化を促すテレワークの拡大が、その検討を促進させつつある。もう一つその背景にはコロナ禍で加速しているデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きがある。

ジョブ型雇用への本格移行については、管理職先行またDX推進で増強が必要な中途採用者への適用とし、メンバーシップ型雇用とのハイブリッドを構想するのが現実的とする意見があった。ジョブ型の典型例ともいえる高度プロフェッショナル制度の導入を検討している企業もみられた。兼業・副業については、人生100年時代を展望したキャリア形成が求められる中、自らの専門性を生かした自社以外での協業が仕事の幅を広げる可能性を秘めていることを検討理由にあげる。

経過観察が必要な労働時間と生産性──普段からの信頼関係構築が必要に

テレワークの効果として企業が期待するのが生産性の向上。しかし、今回のヒアリングに限ると明確に効果があったとする企業は限られていた。施策のトライ&エラーを繰り返しつつ、効果を測定するにはまだ時間が必要といえそうだ。

一方、働き方改革にもかかわる労働時間管理について、労働組合からはテレワーク中の長時間労働の拡大を懸念する意見があった一方、企業からは押しなべて、年休取得割合の低下が指摘された。外出自粛もありもともと出かける場所が少なくなったことに加え、年休で対処していた案件が自宅にいることで必要となくなるためとみている。

先に課題としてテレワーク勤務者の評価制度があがっていたように、管理職はこれまでのプロセスを管理するスタイルがテレワークによって取りにくくなる。そのため、多くの企業はアウトプットを重視するマネジメント・スタイルに転換しなければならなくなるとみている。とはいえ、テレワークの拡大・定着によって、従来型のコミュニケーション、メンタルヘルス対策、新入社員の育成などは、見直しを余儀なくされる。そのため、デジタル技術を活用した採用活動の定着から、人材育成、キャリア形成については、新たなアプローチによる「ニューノーマル」の構築が不可欠となる。テレワークはそのための試金石ともいえる。  

そのテレワークが定着するか否かのカギについては、普段からの上司と部下また同僚間の信頼関係をあげる企業が複数あった。職場内の信頼関係の「ニューノーマル」をいかに形成していくことができるかがカギとなりそうだ。

新たな働き方が拡大・定着するためには、取引先や政府の変化も必要になる。ヒアリングからは、電子取引(EDI)化などによる商慣行のペーパーレス化、役所関係書類の押印省略およびデジタル化を要望する意見が出された。また、テレワークの関連ではフレックスタイムのコアタイムを廃止する企業が増えていることもあり、労働時間管理の柔軟化を求める意見があった。

脚注

注1 各社のヒアリング記録については、別途とりまとめて公開する予定。

注2 新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査(一次集計)結果(PDF:1.1MB)

注3 座談会形式の調査の一部は、中澤二朗・高知大学客員教授にコーディネーターを担当していただいた。

注4 企業によっては2017年から東京オリンピックの混雑緩和に向けて実施されている「テレワーク・デイ」(7月24日)に参加してきた企業も含まれている。