JILPTリサーチアイ 第18回
若年者に対する就職支援と進路指導をめぐって

理事 室山 晴美

2017年2月27日(月曜)掲載

はじめに

リーマンショック後に落ち込んだ就職率も徐々に回復し、ここ数年、大学等の高等教育課程や高等学校を卒業した者の就職状況も好調に推移している。しかしながら、若者全体の就職率がよくなっていたとしても、就職活動に意欲をもてなかったり就職活動をしても採用に結びつかなかったりなど就職に困難を抱える若者は少なくない。そのような若者に対する就職支援、キャリアガイダンスの方法について、現状を踏まえて考えていくことは重要な課題である。

そこで、JILPTでは、2013年に全国の大学、短期大学、高等専門学校、専門学校の就職課・キャリアセンターにおける就職支援に関する調査を、2016年に高等学校の進路指導に関する調査を実施し、教育課程における若年者の就職支援や進路指導、キャリアガイダンスの現状や現場の担当者が感じている課題を明らかにした。本稿では、上記の調査結果に基づき、若年者の進路選択の支援に関する現状と課題について考えてみたい。

学生の変化と支援上の課題

まずは、大学等の高等教育課程の就職課・キャリアセンターに対して実施した調査結果から、就職支援の職員が、現在の学生の意欲や態度について従来と比べてどのように変化したと感じているかを紹介しよう(労働政策研究・研修機構,2014;以下、大学調査[注1])。図表1は、過去3~5年間の学生の意欲や態度および実態に関する変化の方向性を評価してもらった結果である。この設問では、学生の授業への取り組みや就職への準備の取り組みなどの7つの観点を用意してそれぞれ1~5の5段階で回答してもらった。このうち「3」は中間なので、「どちらともいえない」という評価となるが、それ以外は項目によって異なり、項目①は1に近いほど「良くなった」、5に近いほど「悪くなった」、項目②③④は1に近いほど「高くなった」、5に近いほど「低くなった」、項目⑤⑥⑦は1に近いほど「減った」、5に近いほど「増えた」という評価となる。

図表1 過去3~5年間の学生の意欲や態度および実態に関する変化の方向性

図表1のグラフ画像

※項目①は「1:良くなった~5:悪くなった」、項目②③④は「1:高くなった~5:低くなった」、項目⑤⑥⑦は「1:減った~5:増えた」という5段階のうち該当する所に○。

全体としてどの項目でも「どちらともいえない」の選択率は多いが、学校別に中間以外の回答割合から変化の方向性をみていくと、例えば大学では、①授業に対する態度や学習意欲、②将来のキャリア設計に対する意識、③資格取得や講座受講に対する積極性、④就職支援サービス全体への学生の参加率については、評価4~5「悪くなった、低くなった」よりも評価1~2「良くなった、高くなった」が多かった。就職支援の担当者は、学習意欲や就職に向けた学生の意識は以前よりも高まっていると評価している。

一方、上記のようなポジティブな回答傾向とは反対に、「⑥通常の就職活動が困難と思われる学生の割合」に対する回答結果をみると、中間の評価をした学校は4~5割程度あるものの、評価1~2の「減った」よりも評価4~5の「増えた」の割合が多くなっている。この傾向は他の学校種でもおおむね同様で、①~⑤までの回答傾向と⑥に対する回答傾向は異なっている。

また、この調査では就職課・キャリアセンターが現在あるいは中長期的に重点的に取り組んでいる課題についても尋ねているが、どの学校種でも高かったものとして「低学年からのキャリアに対する意識づけ」とともに「就活意欲の低い学生や就職困難な学生への呼びかけやアプローチ」の選択率は高く、大学では17項目中の選択率が3位(68%)、短期大学では1位(72%)、高等専門学校では3位(47%)、専門学校では2位(57%)と上位に位置づけられていた(図表2)。

図表2 現在あるいは中長期的に重点的に取り組んでいる課題(複数回答可)(%)
重点的に取り組んでいる課題 大学 短期大学 高等専門学校 専門学校
度数 % 度数 % 度数 % 度数 %
1 就職課・キャリアセンター利用の促進 342 75.5 121 68.8 9 17.7 31 40.3
2 低学年からのキャリアに対する意識づけ 357 78.8 124 70.5 40 78.4 39 50.7
3 インターンシップの充実 256 56.5 56 31.8 26 51.0 22 28.6
4 学校独自のキャリア教育プログラムの開発や充実 170 37.5 47 26.7 18 35.3 19 24.7
5 就活意欲の低い学生や就職困難な学生への呼びかけやアプローチ 308 68.0 127 72.2 24 47.1 44 57.1
6 就職率のアップ 271 59.8 92 52.3 12 23.5 52 67.5
7 個別相談体制の充実 278 61.4 114 64.8 14 27.5 41 53.3
8 卒業生への情報提供・サービスの開始や充実 135 29.8 48 27.3 8 15.7 32 41.6
9 保護者への情報提供・サービスの開始や充実 143 31.6 45 25.6 8 15.7 15 19.5
10 教育情報産業関連の企業・業者との連携や活用 76 16.8 31 17.6 10 19.6 13 16.9
11 他大学・教育機関などとのネットワークの確立や充実 91 20.1 21 11.9 2 3.9 1 1.3
12 学内のキャリア支援サービスのネットワーク化やその充実 150 33.1 51 29.0 11 21.6 14 18.2
13 専門教育とキャリア教育の融合 129 28.5 42 23.9 15 29.4 19 24.7
14 キャリア教育に向けた、教職員に対する意識啓発 198 43.7 60 34.1 12 23.5 22 28.6
15 学生の個人別情報把握と整備 195 43.1 85 48.3 7 13.7 29 37.7
16 センタースタッフのスキルアップ 205 45.3 56 31.8 8 15.7 15 19.5
17 その他 16 3.5 1 0.6 4 7.8 1 1.3

※欠損値:大学9件、短期大学1件

このようなことから、学生全体としての職業意識の形成や就職意欲の向上がみられる一方で、就職への困難性をもつ学生への対応に課題を感じている学校も比較的多いという現状をみることができる。

高等学校の進路指導の現状と課題

大学等で就職支援に関わる職員が認識している就職や進路決定に困難性をもつ学生の増加傾向は、高等教育機関だけの問題だろうか。大学調査に対する回答として、就職課の職員からは学生に対する就職への意識づけは高等教育課程に入学してからでは遅いという声もあったことから、大学等の高等教育課程に続いて、その前段階の教育課程である高等学校での進路指導とキャリアガイダンスに関する調査を行った(以下、高校調査[注2])。高校調査は、高等学校における進路指導とキャリアガイダンスにおいて、偏差値重視の進路指導と個性尊重の進路指導という2つの側面がどのようなバランスで実施されているのかを明らかにすることを主目的として実施された。設問項目の多くは90年代前半に行われた大学入試センターによる調査項目(大学入試センター,1991)と同一にしており、入試の多様化や高等教育への進学率の上昇を踏まえて、90年代前半と近年の状況の違いをみることや、学校種による進路指導の違いについての検討も行われた。調査結果に関する資料は3月に刊行されるが、本稿では進路指導担当の教員から観た、進路指導の現状と課題に関する回答結果の一部を紹介する(労働政策研究・研修機構,2017近刊)。

高校調査の設問では、ここ数年から現在に至るまでの進路指導の主な課題について尋ねた。評価の観点としては、生徒に関わる課題、体制に関わる課題として各4項目をあげ、「そう思う」、「ややそう思う」、「あまりそう思わない」、「そう思わない」の4段階で回答してもらった。図表3は学校種別(普通科中心校、総合学科中心校、専門高校)の選択結果をグラフにしたものである。課題項目は「そう思う」という強い肯定の選択率が高かった順に並べ替えているが、これをみると学校種を問わず「そう思う」が最も多かったのは、生徒に関わる課題の中の「学業成績や、やる気等に関して、意識の高い生徒とそうでない生徒が分かれ、一律の指導が難しいこと」であった。「そう思う」と「ややそう思う」をあわせるとどの学校種でも9割が選択していることがわかる。このほか、生徒に関する課題では、「授業についていけないなど学業面で問題を抱える生徒への対応」、「友人や教師とのコミュニケーションがとれない生徒への対応」も特に総合学科中心校、専門高校を中心として選択率が高かった。高等学校においても学業成績や意欲の点で生徒間での差が大きくなり、多くの高等学校がこのような現状にどう対応するかを進路指導上の課題として感じていることが示されている。

図表3 学校種別にみた進路指導の課題

図表3のグラフ画像

他方、体制面での課題をみてみると、「教師の負担が多く、進路指導の時間が十分にとれないこと」の選択率がどの学校種でも最も高く、「そう思う」と「ややそう思う」の合計は9割近い。学業面や意欲の点で差がある生徒たちに対して一律の指導を行うことが難しいという状況がある一方で、教員は様々な業務に追われて負担感が大きく、指導のための時間不足を感じている現状が浮かび上がってくる[注3]

進路選択の意識、意欲にみられる分化の背景

2つの調査結果をあわせて考えると、職業選択や就職に向けた意識や意欲が低い学生や生徒への対応は高等教育機関と高等学校で共通にみられる課題であると言えそうだ。意識や意欲の高い生徒と低い生徒の分化は高等学校の段階から既に生じており、それが大学等の高等教育課程においてますます顕著になり、結果として就職に困難を抱える学生の増加につながっているとみることができる。

大学等において、進路や将来に対する意識や意欲が高い学生が多くなった一方で、就職が難しい学生の増加が懸念されているという状況の背景には、18歳人口の減少、大学入試制度の多様化などを背景として高等教育課程への進学率が上昇し、就職ではなく大学等への進学が高校卒業後の一般的な進路になったことがある。進学へのハードルが低くなったことで、高等教育機関には従来と比べて多様な学生が入学している。職業選択や就職に向けた意識、意欲のほか、学力などの能力の面での学生間のばらつきは当然のことながら大きくなる。

また、本来、大学等の高等教育課程は、専門的な知識や技能の習得を目標とするものであるので、高校卒業後、どのような学校、学部、学科に進学するかは生徒の能力や興味、関心を十分考慮して方向付けられることが望ましい[注4]。ところが、大学等への進学が専門分野への能力と志向性をもつ者に限定された進路とは言えなくなった近年、大学等での専門分野が自らの個性と合致しているのか、将来の職業や就職にどのように関連するのかを深く考えずに進学している者が増えていることも考えられる。その結果として、入学後、授業についていけない、関心が持てないなどの不適応をおこし、卒業後の進路への見通しが立たず、就職や進学に向けた活動に意欲をもてない状態に陥ることもあろう。大学等の就職課の職員による記述を読むと、高等学校段階での進路の決め方に対する疑問も示されている(以下、大学調査の自由記述より)。

  • 高校までのキャリアガイダンスが、人生、長い将来を見すえた上でのものになっているというよりも大学受験とその進路の対策になっていないか。大学選択が長い人生と職業を考えての選択となっておらず、とりあえず、入れそうな学科に入るというパターンが見受けられる。」(大学)
  • 「良い就職先を紹介したり就職活動のテクニックを教えても積極的な学生は就職できるが、全員が職に就くことは不可能になりました。それは就職したくないので専門学校に行く、大学は難しそうだから専門学校に行く、大学は卒業したが就職が決まらないので専門学校に行く、など専門学校卒業後に働くことをイメージしないで入学してくる学生が目立って増えているからです。」(専門学校)

そこで、高校調査への回答から高等学校の進路指導に目を向けてみると、偏差値による合格可能性を重視する偏差値中心の進路指導と生徒の興味、関心を活かした個性尊重の進路指導という2つの方向性を考えたとき、理念としては後者の重要性は理解されているものの、現場での実践上では、特に普通科の進学校を中心として偏差値中心の進路指導が重視されていることがわかった。高校調査においては、偏差値重視の進路指導は90年代前半に比べて弱まっている可能性があると予想したが、結果はそうではなかった(図表4図表5)。2000年代に入り、入試方式が多様化し、推薦入試、AO入試など一般受験以外での入試も増えたが、難関といわれる国公立大学や私立大学の一般受験による選抜競争の厳しさは変わらない。したがって受験に関しては、学力の指標となる偏差値が重要な指標であることに変わりはないのであろう。

図表4 偏差値基準の進学・就職指導の必要性

図表4のグラフ画像

図表5 生徒の進路を考える上での適性重視の必要性

図表5のグラフ画像

このような学力重視の傾向は大学入試に対する考え方にも表れている(図表6)。進路指導担当者は多様な入試制度の導入にはむしろ反対で、推薦制度や試験科目数の削減、一芸入試などについても反対意見が賛成意見を上回っている。面接や論文審査の導入に関しては賛成が多くなっているが、センター調査時点での回答と比較してみると、全体として今回の回答の方が入試に関しても学力重視の方向性を支持している。これは基礎学力がないまま、入れそうな学校に進学してしまう生徒に対する危機意識の現れともいえよう。

図表6 入試制度に対する考え方について

図表6のグラフ画像

もちろん、進学するにしても就職するにしても基礎学力を高めていくことはとても重要な課題である。ただ、大学等への進学実績を高めるために学力重視の進路指導に偏り過ぎてしまうと、学業成績の良い、進路に対する意識の高い生徒とそうではない生徒に対する指導を一律に行う事ができるのか、一律の指導ができないとすれば学力や意識の低い生徒に対する指導はどのように行われるのか非常に気になる点である。

今後の取り組みに向けて

進路や就職に対する意識・意欲が低かったり、学力に問題があって進学や就職が難しかったりする生徒や学生たちに対しては、個別相談を中心とした、一人ひとりに対するきめ細やかな支援や対応が必要となる。ただし個別的な支援や指導を充実させるためには、指導や支援にあたる職員数の増員、担当者におけるカウンセリング等の専門的なスキルや能力の習得など、実施体制に関する諸条件が満たされる必要がある。

この点に関して大学等の例をみると、就職課に来室しない学生の場合には、担当教員との連携をとりつつ進捗状況を把握するなどの取り組みをしたり、求人情報提供、採用面接対策、エントリーシートの作成指導などについては、ハローワークや民間のキャリア支援関係の専門家に協力してもらっているようなケースもある[注5]。人員不足やカウンセリング等の専門的スキルを内部の他の部署との連携や外部機関の活用で補うという考え方である。

他方、高等学校の調査結果では、教員の業務が多忙で、生徒との面談にあてる時間が限られてしまったり、研修等を通じて新しい知識や指導のスキルを習得する時間が十分にとりにくく、教員間での知識、スキルに差が生じているという問題が指摘されていた。コミュニケーションがうまくとれない生徒、発達障害が疑われる生徒などへの対応の難しさも記述されていたが、特にこのような生徒に対しては個別的な対応が不可欠であり、加えて専門的な知識や適切な対応が求められる。教員が進路指導に十分な時間がとれるような体制面での見直しの他、教員だけでの対応が厳しい場合には、ハローワークや地域の相談機関等とうまく連携していけるような仕組みを作ることも有効だろう。

なお最後になるが、若年者の職業意識や意欲の啓発に向けては、1990年代の終わりから2000年代にかけて推進されてきたキャリア教育等、学習活動を通じた職業意識形成に向けた教育的な取り組みにも触れておく必要がある。キャリア教育の実践内容や効果については、それぞれの教育機関における内容や方法において質的な面でのばらつきがあるため、いろいろと議論されているところではあるが[注6]、大学調査でみられた学習意欲や就職に対する意識に関するポジティブな方向での全体の変化(図表1)には、キャリア教育等による働きかけの効果が含まれる事も考えられる。キャリアや職業に対する意識は進路指導だけでなく学習活動によっても高めることができるので、長期的な観点に立って若年者全体の意識を育てていくことも重要であろう。

脚注

注1 全国の大学等1456校に調査票を配付し、回収率は52.5%であった。分析の対象は大学459校、短期大学177校、高等専門学校51校、専門学校77校の計764校である。

注2 高校調査では、全国の高等学校、高等専修学校、専門学校4924校に調査票を配付し、回収数は1996校、回収率は40.5%であった。調査シリーズでは全日制高等学校1956校を分析の対象とした。

注3 進路指導上の課題については自由記述の欄も設けており、生徒や体制に関する課題のほかに、教員の資質やスキルの問題、家庭の経済状況や保護者に関わる問題なども指摘されていた。

注4 例えば、大学において所属する専門分野の教員が学生に必要と考えている資質のプロフィールに近い学生の方が高い適応性を示すという報告もある(大学入試センター,1993)。

注5 大学の就職課・キャリアセンターが行っている具体的な支援については、ヒアリング調査の結果がまとめられている(労働政策研究・研修機構,2015)。

注6 全国の公立高等学校のキャリア教育の調査では、どの学科に入学したかによって受けられるキャリア教育が異なり、生徒のキャリア発達の支援状況に差が生ずることが示されている。特に普通科における体制の整備や取り組みの充実が喫緊の課題であるとされている(国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター,2013)。

引用文献