資料シリーズ No.156
大学キャリアセンターにおける就職困難学生支援の実態
―ヒアリング調査による検討―

平成27年5月29日

概要

研究の目的

大学キャリアセンターは、大学生もしくは大卒者が若年者就職支援機関に来所する前段階で活用する就職支援機関である。利用者である学生が有効に活用できれば就職への大きな後押しが得られる一方で、有効活用できない学生やうまく関われない学生は就職支援の対象からこぼれ落ちてしまい、自己流の判断によって就職困難に陥ったり、就職後の定着が難しくなる可能性がある。本研究では、大学キャリアセンターでの支援の流れを中心に、支援者から見た困難学生の特徴、利用へのつながりやすさや、キャリアセンター以外の人材や組織との連携等について、ヒアリング調査によって実態を把握することを目的とする。

研究の方法

  • ヒアリング調査
  • 研究会での検討

主な事実発見

ここでは、①キャリアセンターでのマッチング機能と活用、②学内外との連携、③就職困難学生の特徴と分類について述べる。

第一に、キャリアセンターでのマッチング機能について、一部の大学キャリアセンターでは3年次に進路登録を行い、そこで学生の希望進路や本人の性格特徴等の情報を詳細に把握し(場合によっては職員が学生の顔と名前を憶えておき)、それに合う学校求人が来た場合に効率的にマッチングを行う事例があった。中には、推薦に近い求人を開拓し、学内選抜を行い、内定辞退しないことを条件に企業に送り込む形でのマッチングも実施していた。キャリアセンターによく来室する学生の一部はそうした機能を熟知しており、活用できていた。

第二に、学内外との連携について、キャリアセンターが連携・協力する最大のパートナーは教員(特にゼミ教員)であった。教員が学内委員会や教授会の場で学生の内定状況を把握・報告する役割を担うほか、連絡のつかない学生への連絡を担当するといった協力が日常的に行われている学校も多かった。一方で、教員個人によって就職支援に温度差がある点も報告された。また、発達障害等の傾向が感じられる学生への支援には、学生相談室や、学生相談室経由で外部機関の活用が模索されている例が多く聞かれたが、学生相談室との連携のスムーズさは学校によって違いがあった。

第三に、キャリアセンターの支援者から見た「就職困難学生」の特徴を整理した(図表1)。一般の学生については、就職非困難なタイプ(支援不要型、受容型)と、困難なタイプ(反発型、学内支援限界型、支援不能型)に分類できた。就職非困難なタイプとは、キャリアセンターの支援がなくても自主的に円滑な就職活動ができる学生層(支援不要型)と、キャリアセンター職員のアドバイスを素直に受け止め、順当に就職が決まっていく学生層(受容型)に分けられる。一方、就職困難なタイプは、職員のアドバイスを聞かず、自己流の(時には誤った)就職活動を貫き通す学生層(反発型)、職員とのコミュニケーションが成立しなかったり、職員に過度に依存して支援が成立しない学生層(学内支援限界型)、来室の呼びかけに応じないために支援ができない学生層(支援不能型)に分類できた。この中で、「学内支援限界型」は、現在の支援者との間で支援が膠着していることを意味するため、別の支援者による支援、例えばジョブサポーターのような外部人材からの働きかけ等が有効に作用する可能性がある。「支援不能型」は来室に応じない学生であり、仮に未就職で卒業した場合は、支援の手が切れるため、将来的には外部の若年者就職支援機関の来所者像になりうる層である。学生の自主性を尊重し、学生自身が就職支援の必要性を感じるまで、根気よく呼びかけを行うしか方法がないのが現状であるとの報告があった。

図表1 困難性を軸にしたキャリアセンター支援対象学生の分類(一般学生)

図表1画像

一方、発達障害・精神障害等の学生や、その傾向が感じられる学生への支援については、キャリアセンターからみて次の二つの困難性があることが整理された(図表2)。一つは、医療機関の受診前の段階で、本人と親に受診についての同意を得る段階での困難性である。もう一つは、受診を希望しなかった場合や受診しても診断がつかなかった場合に、本人の希望と適性に合った就業場所や訓練先等を見つける段階での困難性である。第一の困難性では、キャリアセンターが学内他部署(学生相談室等)とスムーズに連携することが重要となるが、連携の段階で困難が生じる場合もある。第二の困難性では、障害に近い特性を持つ人が働けるような就業場所や訓練先の情報を知る外部支援機関や企業との連携が不可欠であるが、学生個人の状態はケースバイケースであり、結局のところ一人ずつのオーダーメイド支援が必要となる。

図表2 キャリアセンター目線による、障害に近い特性を持つ学生への就職支援の流れと困難性

図表2

キャリアセンターが今後さらに就職支援の機能と可能性を高めるために必要なキーワードは、「連携」と「情報共有」である。教員や学生相談室といった学内人材や他部署との「連携」のほか、学外の就職支援機関との「連携」が、キャリアセンターの機能面での限界を大きく乗り越えられる可能性がある。例えば、ジョブサポーター等の外部人材が、ハローワーク等の就職支援機関に所属する専門人材を紹介したり、引き合わせる等のコーディネート機能を持つことで、大学キャリアセンターの機能をより一層高められる可能性もある。もう一つのキーワードは「情報共有」である。相談情報はセンシティブな情報であり、安易な情報共有は倫理的に許されない。一方で、学内の各相談部署での情報を過度に制限しすぎることで互いの情報を蛸壺化することは、就職支援を初めとする各種支援業務全体の円滑さを損なう要因ともなりうる。そのため、相談情報の中でも共有に適する部分と適さない部分を慎重に見極めた上で、各部署で学生に関する情報連絡を密にすることは重要と思われる。

政策的インプリケーション

大学キャリアセンターの就職支援では、4~5名前後の限られたスタッフ数で、全学生(非来室学生を含む)の就職支援に責任を持つという特徴がある。そのため、就職困難な特性を持つ学生が多く来室した場合に十分対処しきれなくなる可能性もある。その際、外部の就職支援リソースであるハローワークやジョブサポーター等の機動力のある人材が、(一般学生への求人紹介や個別相談を行う機能に加えて)他機関にいる専門性の高い支援者を紹介する等といった働きかけがあれば有効に機能する可能性が高いと思われる。このような形がとれれば、大学キャリアセンター職員にとって利用しやすい就職支援リソースの提供が政策的に可能ではないかと思われる。

政策への貢献

現時点で直接的な貢献や活用の予定はないが、若年者就職支援機関に続いて大学キャリアセンターの来室者が抱える困難性の実態が明らかにされたことは、政策対象者である若年求職者層の多様性の把握と明確化につながるものと思われる。

本文

  1. 資料シリーズNo.156全文(PDF:3.7MB)

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職困難者等の特性把握と就職支援に関する調査研究」

研究期間

平成26年度(~平成28年度)

執筆者

深町 珠由
労働政策研究・研修機構 副主任研究員

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