JILPTリサーチアイ 第11回
産業と女性管理職

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企業と雇用部門 統括研究員 永田 有

2015年7月13日(月曜)掲載

女性の活躍推進は、国の重要施策と位置づけられている。政府は、2005年末に「第2次男女共同参画基本計画」を閣議決定し、社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待し、各分野における取組を促進するという目標を定めた[注1]。また、2010年末の「第3次男女共同参画基本計画」の中では、2015年の民間企業の課長相当職以上に占める女性の割合を10%程度とする成果目標を定めた。

管理職に占める女性の割合をどの統計によるか、具体的にどの統計を根拠にすると明記されてはいないが、労働政策審議会資料などでは厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の100人以上規模企業の課長相当職及び部長相当職が念頭におかれていると推察される。2014年においてその割合は8.3%なので、これを2015年の統計で1.7ポイント上昇させることが政府の目標である。2013年の7.5%から2014年は0.8ポイント上昇しており、2015年にかけても同等以上に上昇すれば9%は超えることが期待される。

さて、管理職という職種は、零細企業では役員のみで足りるものが、企業規模が大きくなるにつれて、業種を問わず役員を補佐し、分担して一般従業員を管理するために必要になってくる職種と考えられ、また業種によって特有の仕事の進め方及び管理のしかたがあるならば、労働者に占める管理職割合(以下「管理職比率」という)も規模や業種ごとに異なっていると考えられる。

図表1は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」による期間の定めのない労働者について規模別にみた女性労働者比率、管理職比率、うち女性の管理職比率、管理職に占める女性の割合である。「賃金構造基本統計調査」において役職については規模100人以上についての集計が公表されている。

図表1 企業規模別にみた女性、管理職の状況

図表1:表の画像

表にみるとおり、規模が大きくなるほど管理職比率は高まる。一方、女性比率は大規模ほど低くなり、女性の管理職比率、管理職に占める女性比率とも中間の500~999人規模が最も高い。1,000人以上企業では、無期労働者の女性が少なく、管理職を高い割合で必要としているものの、女性が就く率は低いという特徴がみられる。[注2]このように、企業規模が女性の登用に何らかの影響を及ぼしている可能性があるため、100人以上計ばかりでなく、以下では規模を100~999人にそろえた場合についてもみることにする。

産業別の女性活躍状況を同調査でみたものが図表2である(なお、鉱業,採石業,砂利採取業は産業計には含めているが、女性の管理職数が少なく解釈が困難な数値が表れるため表章していない)。

図表2 産業別にみた女性、管理職の状況

図表2:表の画像

管理職に占める女性の割合は産業計100~999人規模では9.8%と「10%程度」に達している。最も高いのは医療,福祉で47.2%、部課長の男女比はほぼ1:1である。平均(及び10%)を超えている産業は他に宿泊業,飲食サービス業、生活関連サービス業,娯楽業、教育,学習支援業である。では、こうした産業に女性が多く就業すれば全体として管理職に占める女性比率は高まるであろうか。

表右から3列目の管理職比率をみると、企業規模をそろえても、各産業ごとに管理職比率(期間の定めのない労働者における部長+課長の割合)にはばらつきがみられる。最も低いのは管理職に占める女性比率が最も高い医療,福祉、逆に最も高いのは管理職に占める女性比率が最も低い建設業である。建設業では管理職が多く必要であるため、男性40人に対して女性1人という割合であったとしても、人数では多くの女性が管理職についている。結果として期間の定めのない労働者に占める女性管理職の割合は建設業4.1%に対して医療,福祉3.5%と建設業の方が女性を管理職に就けていることがわかる。最も女性が管理職になりやすいのは情報通信業と学術研究,専門・技術サービス業であり、女性が管理職になりにくいのは製造業と運輸業,郵便業である。

管理職比率と女性比率を散布図で示すと図表3のとおりである。[注3] [注4]管理職比率が低い(管理職に男女ともなりにくい)医療,福祉で女性比率が高いことは全体として女性管理職比率をわずかに引き下げているかもしれないが、それ以外の産業については、管理職比率と女性比率の間に関係は見出せない。

すなわち、女性が管理職比率の低い産業で多く働いているから管理職の女性比率が低いとはいえないと考えられるものの、もし、管理職比率が高い産業で女性の採用を増やしたり定着促進を図ることができれば、そのことには全体としての管理職の女性比率を引き上げる効果が期待出来る。具体的には建設業、学術研究,専門・技術サービス業、複合サービス事業――これらはいずれも管理職の女性比率が高くない産業である――等を重点産業として女性が働きやすい雇用管理を支援することにより、これら産業内およびわが国全体で管理職の女性比率を効率的に高めることができると期待される。逆に、管理職に占める女性比率が高いからといって医療,福祉に女性がさらに多く就業することには、全体として女性管理職比率を高める効果をあまり期待できない。

図表3 女性比率と管理職比率の関係

図表3:散布図

内部昇進を基本に管理職登用を行う日本的雇用慣行の下では、管理職になるためには一定の勤続年数を要する。仮に新規大卒入社で勤続18年目頃から課長登用が進むとすれば40歳頃から「管理職適齢期」がみられるようになる。100人以上企業で女性部課長の年齢を5歳刻みの階級でみると最も割合が高いのは45~49歳(23.1%)、以下50~54歳(21.9%)、55~59歳(20.3%)、40~44歳(15.8%)と、この20歳間に8割以上が含まれるので、以下では40~59歳を「管理職適齢期」と呼ぶことにする。

図表4は100~999人規模について産業別にみた管理職適齢期層割合と管理職比率(男女計)の散布図である。両者には関係がなく、必要とされる管理職の割合は、規模をある程度固定してみても経営上の特性から産業ごとに多様であることがわかる。[注5]

図表4 年齢構成と管理職比率の関係

図表4:散布図

100~999人規模について管理職適齢期労働者に占める女性の割合でみると、高い産業は医療,福祉、教育,学習支援業、生活関連サービス業,娯楽業で、管理職に占める女性の割合が高い産業に一致し、低い産業は建設業、運輸業,郵便業、電気・ガス・熱供給・水道業と管理職に占める女性比率に一致する。すなわち、管理職適齢期層における男女比で女性が多いほど、管理職に占める女性比率も高い。これを散布図でみたものが図表5である。[注6]

各産業において女性管理職比率を高めるためには、継続就業を図ったり、非正社員の正社員化を進めること、さらには中途採用によって管理職として登用しうる女性労働者を補うことによって、管理職適齢期労働者に占める女性の割合を高めておくことが重要である。[注7]

図表5 管理職適齢期労働者の女性比率と管理職の女性比率の関係

図表5:散布図

JILPTが2012年に実施した「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査」では、女性が管理職を希望しないという意識面についても分析している。管理職を希望しない理由として女性では「仕事と家庭の両立が困難になる」という理由が多く、男性では「メリットがないまたは低い」が多い特徴がみられた。「責任が重くなる」という回答は男女でほとんど差が無い。[注8]

そこで、メリットのひとつである賃金に注目して、課長適齢期の係長と課長の賃金(毎月決まって支給する給与)を比較してみた。上で管理職適齢期とした59歳までを含めると部長が増え、係長が少なくなり管理職「昇進」の効果がはっきりしないと考え、課長適齢期として40~49歳でみることとする。同年齢層の者が、課長になった場合と係長にとどまった場合で賃金差が大きければ、管理職になるメリットは大きいはずである。

図表6は、40~49歳層の①女性係長が女性課長になったら賃金は何倍になるか、②女性課長の賃金は男性課長の何倍か、③女性係長が女性課長になって賃金が増える倍率は、男性での増え方の何倍かの3つを産業別にみたものである。

100~999人規模についてみると、産業計で課長の賃金は係長の1.15倍と、15.3%高くなる。産業別にみるとサービス業(他に分類されないもの)と不動産業,物品賃貸業を除いて課長の賃金は係長を上回っているが、複合サービス業や情報通信業ではあまり差が無い。上回る倍率が高い産業は電気・ガス・熱供給・水道業、運輸業,郵便業、建設業で、女性比率が低い産業に多い。

課長の賃金の男女比をみると、産業計で女性課長の賃金は男性の0.89倍で1割ほど少ない。産業別には運輸業,郵便業と情報通信業では女性課長の方が賃金が高いほか、電気・ガス・熱供給・水道業や学術研究,専門・技術サービス業ではあまり男女差が無い。女性課長の賃金が男性に比べて低いのは医療,福祉、サービス業(他に分類されないもの)、建設業の順で、医療,福祉では男性課長の賃金の7割に満たない。管理職数の男女比がほぼ1:1の医療,福祉であるが、その賃金には大きな差が認められる。[注9]

係長が課長になったときの賃金の上がり方は、産業計では男女差がほとんどみられない。したがって、男性でより多く「メリットがないまたは低い」とする理由は賃金が理由ではないかもしれない。産業別に見て女性の課長昇進による賃金の上がり方が男性に比べて大きな産業は、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸業,郵便業、製造業で、逆に男性ほどには課長になっても賃金が増えない産業は医療,福祉、サービス業(他に分類されないもの)、不動産業,物品賃貸業などである。

図表6 課長と係長の賃金

図表6:表の画像

管理職になるメリットは賃金ばかりではないかも知れない。組織を任されて仕事を進めるやりがいもあるだろうし、管理職手当が付く代わりに残業手当が付かないということの意味は、時間管理が自分でできるという建前であるから、建前を押し通せば家庭責任との両立もやりやすくなるはずである(実際には難しいであろうが)。しかしながら、やはり労働者に課長を希望してもらうならば係長に比べそれなりに高い賃金を提示されることが自然であろう。賃金の問題ゆえ、労使において議論されることを期待したい。

女性の活躍推進のため、多くの女性が管理職を目指せるよう、仕事と家庭の両立支援に取り組むとともに、管理職が魅力のある職務・地位であるように働き方と処遇を改善していくことは、男女を問わず労働者全体のやる気と働きがいにつながり、企業経営にもよい影響をもたらすであろう。

注1 「社会のあらゆる分野において」とは「国だけでなく、地方公共団体、企業、各種機関・団体」を指すにとどまるようであるから、あらゆる産業、規模、地域ごと、個別民間企業ごとに女性管理職比率がばらついていることは問題ととらえるよりも、どのようにすれば全体として女性の活躍が効果的に推進できるのかの手がかりと考えた方が建設的であろう。

注2 この理由として、女性が応募しない産業で大企業比率が高いとか、大企業は仕事を通じた縁で高所得の配偶者をみつけやすいため、ダグラス=有沢法則がはたらいて女性が離職してしまうなどが推測されるが詳しくはわからない。

注3 相関係数は-0.355であるが、医療,福祉において女性比率がとびぬけて高いことを除けば両者の間に相関関係がないとも読める。

注4 図表3~5中のラベルは、建=建設業、製=製造業、電=電気・ガス・熱供給・水道業、情=情報通信業、運=運輸業,郵便業、卸=卸売業,小売業、金=金融業,保険業、不=不動産業,物品賃貸業、学=学術研究,専門・技術サービス業、宿=宿泊業,飲食サービス業、生=生活関連サービス業,娯楽業、教=教育,学習支援業、医=医療,福祉、複=複合サービス事業、サ=サービス業(他に分類されないもの)をそれぞれ示す。

注5 図表4について、管理職適齢期層比率と管理職比率の相関係数は-0.106。

注6 相関係数は0.970。

注7 JILPT調査シリーズNo.132「採用・配置・昇進とポジティブ・アクションに関する調査結果」(2014)第1-6-2図によると、中途採用者女性では男性に比べ短い勤続年数で昇進している。

注8 JILPT調査シリーズNo.119「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査結果(2)―分析編―」(2014)第4章 女性の仕事への意欲を高める職場の要因(PDF:1.1MB) 図表4-4-5

注9 推測であるが、医療業の課長級に男性が多く、福祉業の課長級に女性が多いことも考えられる。