1998年 学界展望
労働調査研究の現在─1995~97年の業績を通じて(1ページ目)


はじめに

八代

「日本労働研究雑誌」恒例の「学界展望 労働調査」も、回を重ねて今回で5回目を数えるに至った。この学界展望は、過去3年間の労働調査の蓄積を検討し、これまでどのような調査が行われたか、今後どのような調査が行われるべきかを、開業者諸氏や労働調査に興味を持つ学生、さらには日ごろ調査にご協力いただいている実務家の方々に開示するという、いわば「調査の調査」である。

今回は、1995~97年を対象に「中小企業」「ホワイトカラーの雇用管理とその国際比較」「柔軟な働き方」「高齢化・中途採用・職業資格と労働市場」「女性労働問題」「未組織分野(中小企業)・管理職層の労使関係」の六つを柱として掲げた。今回は、なるべく新しい論点を盛り込むことに努め、一部の柱については、過去3年間にこだわらずに文献を収集した。しかし結果を見れば、ホワイトカラー、女性、高齢化という「常連」が顔を見せている。他方、当初は「労働市場の規制緩和」や「公務員の労働」を柱にすることも考えたが、最終的には断念した。

これは、われわれの仕事が、過去に行われた調査の蓄積を整理するという、いわば「後追い的」なものであり、そのため蓄積が薄い、あるいは全く存在しないものについてはコメントできないという、「サプライサイドの問題」に起因している。その意味で、今回取り上げるに至らなかった領域については、今後の調査研究の進展に期待したいと思う。

参考文献

1. 中小企業

  1. 機械振興協会経済研究所『生産分業システムの革新と21世紀の展望』1993年。
  2. 東京都立労働研究所『構造変動下における事業転換と雇用変動』1991年。
  3. 日本労働研究機構『中小企業集積(製造業)の実態に関する調査』(調査研究報告書No.82)1996年。
  4. 東京都立労働研究所『自営業者のキャリアと就労』1992年。
  5. 日本労働研究機構『サービス業の経営革新と従業員福祉』(調査研究報告書No.92)1997年。
  6. 中小企業経営者の実態に関する調査研究会(三谷直紀、松繁寿和ほか)『研究報告書』1996年、1997年。
  7. 鎌田彰仁「中小企業の創業と雇用問題」『日本労働研究雑誌』425号(1995年)。

2. ホワイトカラーの雇用管理とその国際比較

  1. 苅谷剛彦編『大学から職業ヘ─大学生の就職活動と格差形成に関する調査研究』広島大学教育研究センター、1995年。
  2. 日本労働研究機構『国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム─日、英、米、独の大企業』(調査研究報告書No.95)1997年。
  3. 石田英夫・守島基博・佐野陽子責任編集「研究人材マネジメント:そのキャリア・意識・業績」『組織行動研究』26号(1996年)。
  4. 竹内洋『日本のメリトクラシー─構造と心性』東京大学出版会、1995年。
  5. 猪木武徳「人的資源から見た戦後日本の官僚組織と特殊法人」近代日本研究会編『年報・近代日本研究15 戦後日本の社会・経済政策』山川出版社、1993年、所収。

3. 柔軟な働き方

  1. 佐藤厚「裁量的労働の仕事と管理をめぐって」『日本労働研究機構研究紀要』No.10(1995年)。
  2. 社会経済生産性本部『裁量労働制に関する調査報告書』1995年。
  3. 連合総合生活開発研究所『仕事の変化と労働時間の弾力化に関する調査研究』1995年。
  4. 日本サテライトオフィス協会『日本のテレワーク人口調査研究報告書』1997年。
  5. 日本労働研究機構『マルチプルジョブホルダーの就業実態と労働法上の課題』(資料シリーズNo.55)1995年。
  6. 日本労働研究機構『マルチプルジョブホルダーの就業実態と労働法上の課題Ⅱ』(資料シリーズNo.67)1996年。

4. 高齢化・中途採用・職業資格と労働市場

  1. 八代充史「大企業における中高年ホワイトカラーの雇用管理」日本経済研究センター『人的資源の高度活用と職業構造の変化に関する調査研究─高齢者の活用を中心に』1995年、所収。後に「経営管理職層の能力開発と職能資格制度」『日本労働研究雑誌』434号(1996年)。
  2. 現代総合研究集団『役職者の転職・職業人生・能力開発に関する調査報告』1996年。
  3. 電通総研『ホワイトカラーの中途採用の実態に関する調査・ホワイトカラーの転職の条件整備に関する調査報告書』1995年。
  4. 社会経済生産性本部『エージレス雇用システムに係る諸問題についての総合的な調査・研究事業報告書』1996年。
  5. 今野浩一郎・下田健人『資格の経済学』中公新書、1995年。

5. 女性労働問題

  1. 日本労働研究機構『女性の職業・キャリア意識と就業行動に関する研究』(調査研究報告書No.99)1997年。
  2. 日本労働組合総連合会『女性総合職退職者追跡調査報告』1996年。
  3. 連合総合生活開発研究所『女性労働者のキャリア形成と人事処遇の運用実態に関する調査報告書』1996年。
  4. 浅海典子「事務職から営業職へ」『日本労働研究雑誌』445号(1997年)。
  5. 松繁寿和「中小零細企業における女性起業家の特徴」『中小企業経営者の実態に関する調査報告書』1997年、所収。

6. 未組織分野(中小企業)・管理職層の労使関係

  1. 佐藤博樹「未組織企業における労使関係」『日本労働研究雑誌』416号(1994年)。
  2. 都留康「無組合企業の労使関係」『経済研究』第48巻第2号(1997年)。
  3. 連合総合生活開発研究所『労働時間制度における労使の関与に関する調査研究』1995年。
  4. 日本労働研究機構『無組合企業の労使関係』(調査研究報告書No.88)1996年。
  5. 久本憲夫「管理職クラスと労働組合員の範囲」『日本労働研究雑誌』416号(1994年)。
  6. 連合総合生活開発研究所『労働組合における組合員の範囲についての調査研究報告書』1994年。
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