資料シリーズNo.254
管理職ヒアリング調査結果
―管理職の働き方と職場マネジメント―
概要
研究の目的
働き方改革が進められ、労働時間に関する法律制度も改正されたが、それを実行するのは個別企業や職場である。先行する諸研究にかんがみると、業務の分担や采配を担う管理職にこそ、労働時間をはじめとした職場にかかわる様々な問題に対処しうる重要な鍵があると考えられる。そこで本調査は、管理職者に対してヒアリング調査を行うことで、管理職自身の働き方や職場管理の実情を把握し、今後の実務的政策的課題の参考となり得る諸情報の獲得を試みた。
研究の方法
調査会社が保有するウェブモニターから、従業員規模・業種・職種・管理職経験年数などを基に抽出した管理職50人に対するヒアリング調査。20人については2019年3月に、30人については2019年11月から2020年1月にかけてヒアリングを行った。ヒアリング事項は、概略、① 職場・自身のこと(仕事や労働時間)、② 部下の方々との関係(部下の管理)、③ 管理職としての会社との関係(権限や職場の管理)、④ 制度政策に対する意見・職場での苦労、の4点である。ヒアリング調査対象者は別表(図表1-1(PDF:317KB) )参照。
主な事実発見
管理職自身の働き方(管理職ヒアリング調査結果・第2章)については、プレイングマネージャーであることが多く、特に管理業務が多いことによって多忙となり、労働時間も長い傾向にあった。会社以外でも仕事をこなさなければいけない状況にあることも垣間見られた。また、予算・人員等に関する自身への権限の不足が、業務効率化等を進める上での課題として認識されていた。
担当部門業務のマネジメント(管理職ヒアリング調査結果・第2章)については、進捗管理の「見える化」を行い、部下が抱えている業務の進捗状況を共有することで、業務分担が偏らないようにするなどの工夫が行われている。また、部下の労働時間管理について、部下の残業時間を日頃から把握するとともに、残業削減の観点から、残業・休日出勤に係る管理の徹底、業務の平準化を図っている例が見られた。部下管理に関しては、人事評価や育成のほか、メンタルヘルスなどの健康管理にも留意されていた。その際、特定の者への業務の集中などが課題として認識されていた。
管理職は、担当部署の業務管理のほか、部下の業務分担や進捗の管理、残業等の労働時間管理、評価や育成など多様な役割を担っている。その中で、業務成果や効率化を目指して、様々な創意工夫を行なっている。一方、管理職自身の働き方においては、長時間労働になりやすいことがうかがえた。現場管理職の担っている役割の大きさと同時に、その負荷の重さも確認された。特に、会社の働き方改革(残業削減)の動きの中で、管理職の業務負荷が増え、労働時間が長くなっている面がある。また、業務成果の達成や業務効率化に励みながらも、権限不足から歯がゆい思いもするなど、中間管理職としての苦労や苦悩がうかがえた。
働き方改革の取組み(管理職ヒアリング調査結果・第3章)は、事例によって差があるが、ここ数年で急速に進んできた。働き方改革は、経営層、人事部によって主導された例が多かった。
働き方改革による労働時間管理の変化として、定時退勤の徹底、労働時間の把握・管理方法の厳格化、残業の上限時間に係る管理、強制消灯等の物理的措置などが行われた。あわせて、業務の棚卸し、RPA(Robotic Process Automation)や業務システムの活用、会議時間の短縮・効率化や、業務分担の見直しなど、業務遂行方法の見直しが図られている。
こうした取組みによって、一般社員の残業時間の減少、業務の効率化などの効果が見られた事例が複数あった。一方、課題もうかがえた。ひとつには管理職の負担増加である。それは、労働時間管理の厳格化にともなう業務負担や、部下の業務の肩代わりなどによるものであった。また、残業代の削減に対する不満の声も聞かれた。さらには、持ち帰り残業の増加といった形で労働負荷が生じていることもうかがえた。
働き方改革の目的は、単なる一般社員の残業削減にとどまるものではない。仮に一般社員の残業が短縮された場合でも、業務の見直しが進まなければ、管理職の業務負担が増加するなど、別の形での労働負荷となって現れる可能性がある。ヒアリングを行った管理職が所属する企業においては、依然として業務量や忙しさを課題としている例が少なくなく、その背景として、業務の性質、顧客都合、職場風土などが挙げられた。日々の業務量・進め方や職場風土を会社全体で見直すことが、持続可能な働き方の見直しにつながると考えられる。
政策的インプリケーション
職場管理のキーパーソンである管理職の働き方や過重な業務負荷を軽減する方策を政策的実務的に検討することを足掛かりとして、企業・職場での業務改善・働き方改革をより実りあるものとしうる。
政策への貢献
働き方改革をより実りあるものとするための政策論議に貢献しうる。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「働き方改革の中の労働者と企業の行動戦略に関する研究」
サブテーマ「労働時間・賃金等の人事管理に関する調査研究」
研究期間
令和元~3年度
執筆担当者
- 池添 弘邦
- 労働政策研究・研修機構 副統括研究員
- 高見 具広
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 石井 華絵
- 労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
- 小倉 一哉
- 早稲田大学商学学術院 教授
- 藤本 隆史
- 労働政策研究・研修機構 リサーチアソシエイト