資料シリーズ No.200
職業分類改訂委員会報告
概要
研究の目的
現行の厚生労働省編職業分類(2011年6月改訂)は、改訂から6年以上が経過し、この間の産業構造、職業構造の変化等に伴い、求人・求職者の職業認識と職業分類との乖離(かいり)が生じている分野もみられる。また、統計上の整合性を保つ観点から日本標準職業分類の体系に準拠して作成されているため、求人・求職のマッチングに最適化されていない可能性があるなどの課題が生じている。このため、厚生労働省編職業分類の次期改訂のあり方について研究を行う。
研究の方法
官民の委員で構成される職業分類改訂委員会を設置し、労働政策研究・研修機構においてこれまでに実施した職業分類に係る調査研究の成果や、2017年度に厚生労働省の協力を得て実施したハローワークに対するアンケート調査(以下「ハローワーク調査」という。)、民間事業者からのヒアリング等を踏まえて課題を整理しつつ、検討を行った。
主な事実発見
(1)厚生労働省編職業分類の改訂のあり方についての主な議論
- 日本標準職業分類は、統計を目的として作成されている以上、それに準拠して作成されてきた厚生労働省編職業分類がマッチングという目的からは使いにくいものとなってしまうことは当然。
- ハローワーク調査での指摘も、現行の厚生労働省編職業分類について、「分類が粗すぎる、または細かすぎる」、「求人者・求職者の職業認識と合っていない」、「資格の有無等で別の大分類に分類されており探しにくい職業がある」、「現行の職業分類にないため位置づけが困難」等、よりマッチングに適した形での見直しを求めるもの。
- 現在は、厚生労働省編職業分類をベースに、求人情報提供端末で用いる職業分類を求職者等が検索しやすいようにハローワークごとに設定できるようになっているが、今後、ハローワークシステムの見直しにより、ハローワークごとの職業分類の設定ができなくなる見通しであるため、ハローワーク調査での意見等を踏まえ、ハローワークの利用者にとって使いやすい職業分類としていくことが必要。
- マッチングを主目的として策定している民間事業者の職種分類と厚生労働省編職業分類の違いは図表1のとおり。
(2) 厚生労働省編職業分類の改訂に当たり具体的に考慮すべき点についての主な議論
〈日本標準職業分類との整合性について〉
- 日本標準職業分類については、改定が当面見送られており、現時点で現行の日本標準職業分類に準じて厚生労働省編職業分類の改訂を行ったとしても、将来、日本標準職業分類の改定後にずれが生じる可能性が高い。
- システム上で日本標準職業分類に紐付けることによって、日本標準職業分類に対応した統計を作成することが可能。
〈厚生労働省編職業分類細分類(標準職業名)のあり方について〉
- 民間事業者においては、官民の共通言語としての厚生労働省編職業分類の必要性は一定理解するものの、分類を細かく定めることは変化への柔軟性を欠き、かえってマッチングを阻害する懸念があることや、マッチングは、本人の希望、経験やスキル、求人者との相性等、様々な要因を考慮して行うため、職業分類が果たす役割は相対的に低いことなどから、中分類程度の職業分類でも十分であるという意見が多かった。
- 一方、ハローワークにおいてマッチングに使用することを想定すると、取り扱う求人数も多いため、小分類までは必要というのが官側の意見。また、日本標準職業分類に対応した統計を作成する観点からも、小分類までの細分化は必要。
〈求人フリーワード検索の普及への対応について〉
- 官民ともに、求人フリーワード検索が普及していること、また、職業以外の地域、給与・休日等の条件、経験・スキル・資格等の要素を重視して仕事を探す求職者や職業の希望が明確でない求職者が多いことを踏まえると、細かい職業分類の必要性は低下。
〈職業分類表、職業名索引のあり方について〉
- 民間事業者では、頻繁に職業名の見直しが行われているのに対し、厚生労働省編職業分類については、改訂から6年以上が経過する中で、厚生労働省編職業分類や職業名索引に採録されている職業名が時代に合わなくなっている。
- いわゆる細分類という形でなくても、現在業務で使っている職業名ができるだけたくさん見られるような形にしておくことが、民間事業者に利用してもらうためには大事。
- 日本標準職業分類と比較し、職業についての丁寧な解説や例示があることが厚生労働省編職業分類の現場における強み。
- 厚生労働省職業安定局からは、ハローワークの紹介実績など実際のマッチングデータを分析することにより職業名の類似性等を明らかにすることができ、職業分類の検討に当たってこのことが生かせる可能性が示唆された。
政策的インプリケーション
(1) 厚生労働省編職業分類の次期改訂のあり方に係る本委員会での結論の概要
厚生労働省編職業分類をマッチングに最適化されたものに改訂する。また、これを基本的な方針として本委員会において検討した改訂に当たって具体的に考慮すべき点は、以下のとおり。
〈日本標準職業分類との整合性について〉
- マッチングという観点からは、日本標準職業分類に準拠することなく、厚生労働省編職業分類を改訂すべき。
- 統計の連続性、比較可能性等の観点から、日本標準職業分類に対応した統計を作成することができるよう、システム上で紐付け。また、そのためには、厚生労働省編職業分類について、日本標準職業分類に対応させることができる程度に細分化しておくことが必要。
- マッチングに支障がない部分では日本標準職業分類との整合性を取る。
- 厚生労働省編職業分類と日本標準職業分類の対応関係をわかりやすく示しておくこと。
〈厚生労働省編職業分類細分類(標準職業名)のあり方について・求人フリーワード検索の普及への対応について〉
- 厚生労働省編職業分類の構成について、現状の細分類をなくし、小分類までとする。
- 小分類の項目数に応じた階層構造の見直しを検討。
- 小分類として残す項目名や新たに追加する項目名を検討するにあたっては、ハローワークの求人・求職で頻繁に使用されている職業名等も参考にする。その際には、現状を踏まえるだけではなく、今後の労働市場における求人・求職の増減等も含め、将来を見据えて検討していくことが重要。
- 細分類項目名が標準職業名であったところ、小分類項目名を標準職業名とする方向で検討。
- これらの見直しにはハローワークシステムの変更が必要であり、技術面、コスト面等からの十分な検討が必要。
〈職業分類表、職業名索引のあり方について〉
- 職業の解説・例示等を丁寧に示すとともに、職業名索引については、新しい職業も含め、できるだけ多くの職業を採録し、厚生労働省編職業分類の改訂よりも短い頻度で見直しを行う。
- 索引という形式にとどまらず、小分類項目名ごとに、当該項目に分類される普通職業名(実際に社会で使用されている職業名)が一覧で見られるような参考資料等の作成・提供についても検討。
- 標準職業名の設定や職業名索引等の作成にあたっては、民間事業者の意見を含め幅広く全国の事業所、就業者の職業名の使用実態を踏まえて行う。その際に、ハローワークの紹介実績などのマッチングデータを活用することも考えられる。
(2) 今後のスケジュール
今後のスケジュールについては、図表2のとおり。
ただし、日本標準職業分類に応じた統計を作成することができるよう、システム上で紐付けを行うことが必要であることから、日本標準職業分類の次期改定の時期によってスケジュールが変更となる可能性があることに留意。
政策への貢献
厚生労働省編職業分類の改訂に活用される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆・編集担当者・目次(PDF:589KB)
- 第1 章 研究の概要(PDF:440KB)
- 第2章 厚生労働省編職業分類の現状と課題(PDF:1.2MB)
- 第3章 民間事業者における職種分類の現状(PDF:666KB)
- 第4章 厚生労働省編職業分類の改訂の方向性(PDF:478KB)
- 付属資料(PDF:3.5MB)
研究の区分
プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業情報、就職支援ツール等の整備・活用に関する研究」
研究期間
平成29年度
執筆・編集担当者
- 上市 貞満
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 西浦 希
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
関連の研究成果
- 資料シリーズNo.31『ハローワークにおける職業分類の運用に関する調査報告』(2007年)
- 資料シリーズNo.35『職業分類研究会報告』(2008年)
- 資料シリーズN0.54『職業分類の改訂に関する研究Ⅰ―細分類項目の見直しを中心にして―』(2009年)
- 資料シリーズNo.64『職業分類の改訂に関する研究Ⅱ―分類項目の改訂―』(2010年)
- 資料シリーズNo.101『職業分類の改訂記録―厚生労働省編職業分類の2011年改訂―』(2012年)
- 資料シリーズNo.116『職務の類似性と職業編成―新たな職業編成に向けた予備的検討―』(2013年)
- 資料シリーズNo.130『職業相関表―2万人のデータからみた職業の類似性―』(2014年)
- 資料シリーズNo.187『職業情報の整備に関する基礎的研究―マッチング効率の高い職業分類策定のための課題―』(2017年)
- 資料シリーズNo.191『官・民・諸外国の職業分類等の現状と比較』(2017年)