調査シリーズNo.197
人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関する調査
- 記者発表『「人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関する調査」の集計結果』(PDF:1.1MB) (2020年3月31日)
概要
研究の目的
高齢社会が本格到来し、65歳以降も社会において活躍し続けたいと願う高齢者が増えている。本研究は「人生100年時代」を見据え、雇用や賃労働で働くことを超えて、自営、開業、特に社会貢献活動も「就労」の視野に入れながら、人生の最終期においても生きがいを感じることが出来る生涯キャリアをいかに作るかを考えていくものである。
本報告書は『人生100年時代の企業人と社会貢献活動に関するアンケート』調査の集計結果を収録している。本調査は企業人のボランティアや社会貢献活動(パラレルキャリア)が定年後のセカンドキャリアを構築する上での基軸となりうるという仮説を持って実施している。
研究の方法
本調査は、1.企業5社調査(以下、企業調査という)と2.ウェブモニター調査(以下、モニター調査という)の2種類で構成されている。
- 企業調査は、協力企業5社に所属する正社員および役員、定年後の再雇用者を対象としている。各企業の担当者から調査対象者に対して、アンケート調査のURLを添付したメールを送信し、調査サイトから回答する。調査対象者数は41,200、回収数は11,788、回収率は28.6%。
- モニター調査は、以下の条件でスクリーニングをかけて実施した。
- 従業員1,000人以上の大企業に勤める正社員
- 農林漁業、公務を除く業種で働く者
- いわゆる「ホワイトカラー」職種に従事する者:「日本標準職業分類」の、A管理的職業従事者、B専門的・技術的職業従事者、C事務従事者、D販売従事者に該当する者
また、下記のように観察数の割付けが近づくよう回答の打切りを行っている。
- 男女比は5:5。
- 年齢階層は、35歳未満、35~44歳、45~54歳、55歳以上の4階層とし、各年齢階層につき1,000人、合計4,000人の回収を目標とした。
モニター調査の回収数は3,831、男性54.4%、女性45.7%の比率となっている。
主な事実発見
1.企業で働く人のボランティアや社会貢献活動参加について
- ボランティアや社会貢献活動への参加経験がある割合は、企業調査で約6割、モニター調査では約4割であった。
- ボランティアや社会貢献活動への参加経験の割合を年齢階層別にみると、比較的若い階層において、小学校から大学までの学生時代に経験している割合が高くなっている(図表1)。この約20年の間に、阪神・淡路大震災をはじめとする災害の度重なる発生や、経済不況による貧困や格差問題が深刻になっており、こうした社会を背景に、学校教育の現場でもボランティアや社会貢献活動が取組まれてきていることが影響していると思われる。
- ボランティアや社会貢献活動を経験した人の活動から得られたものについて、5順序尺度の平均値をみると35歳未満のグループで高い(図表2)。若年層において、活動を通じて知識や技術、経験を獲得し、仕事に役立てるといったスキルの循環を実感しているようである。
- 今後ボランティア活動に参加したいと「思う」人の割合は、モニター調査では35.9%、企業調査では59.0%となっている。年齢が高い層で「思う」の割合が高くなる。
- ボランティア経験がある人は、ない人に比べ、今後ボランティア活動を希望する割合が20~30ポイント高い。
- 仕事の満足度が高い人ほど、今後のボランティア参加希望の割合が高い。特に、「賃金、収入」や「労働時間、休日、休暇」において満足とする人での参加希望割合が高い。金銭的、時間的な余裕が活動参加意識を高めるに重要であることがわかる。
- 企業に求められる支援内容として、ボランティアや社会貢献活動を行うための時間確保に対する支援、すなわち、「ボランティア休暇などが与えられる」「副業・兼業禁止の規定が緩和される」「就業時間中にボランティアを行うことが認められる」などへの期待が比較的高い(図表3)。
2.企業人の「得意なこと、苦手なこと」と社会貢献活動
本調査は、職種に依存しない汎用性の高い仕事関連スキルを「得意なこと・苦手なこと」として聞いている。これらのスキル25項目は、「人間関係」「課題遂行」「リーダーシップ」「共同作業」「アンラーニング」の5種に分類している。
ボランティア経験を「学生のみ」「社会人のみ」「学生+社会人」「なし」に分類し、5種のスキルの5尺度の平均得点を比較すると、いずれかの時期にボランティアを経験した人よりも「なし」と回答した人の得点が低い傾向にある(図表4)。
今後のボランティア活動希望が「あり」の人の方が、5種のスキル得点が高い傾向がある(図表5)。
3.老後の不安の諸要因
- 本調査では老後の不安を7項目、5段階で尋ねている。「老後、生活に十分な資金があるか」「健康で過ごせるか」の項目で不安傾向が高い(図表6)。いずれの項目でも年齢階層別にみると、55歳未満の年齢階層で不安傾向が高い。
- 定年退職後に取り組みたい活動は、「趣味、余暇」と「家族・家庭生活」の割合が高い。「ボランティアなどの社会活動」は、取り組みたい割合はモニター調査で、3割弱である(図表7)。
- ボランティア経験がある人の方が、ない人よりも、定年退職後に「ボランティアなどの社会活動」に取り組みたいとする割合が高い。現役在職中からボランティアや社会貢献活動に関わることで、定年後、老後のボランティア活動への意欲や関心を高める可能性がある(図表8)。
政策的インプリケーション
- ボランティアや社会貢献活動への参加は、企業で働く本人のパラレルキャリアやセカンドキャリアになるだけでなく、そのキャリア意識やスキルの向上は企業活動にも資すると考えられる。
- 企業がボランティアや社会貢献活動を推進するにあたって最も重要なことは、時間確保に対する支援を行うことである。
- 現役在職中にボランティア活動を行うきっかけがあれば、定年退職後、老後の生活の中でボランティア活動参加への意欲につながる。定年退職後も意欲的に社会参加をしていく人材の育成には、在職中からの取組みが必要である。
政策への貢献
高年齢者の就労、パラレルキャリアやセカンドキャリアのあり方についての政策議論の基礎資料。
本文
全文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:575KB)
- 第1章 調査の概要(PDF:1.0MB)
- 第2章 企業で働く人のボランティアや社会貢献活動への参加と希望(PDF:3.3MB)
- 第3章 企業での働き方と社会貢献活動(PDF:5.1MB)
- 第4章 企業人の「得意なこと・苦手なこと」と社会貢献活動(PDF:3.9MB)
- 第5章 老後の不安(PDF:1.3MB)
- 資料編(PDF:9.1MB)
研究の区分
プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究
サブテーマ「生涯現役社会の実現に関する研究」
生涯現役社会における社会貢献活動を視野に入れた働き方の多様性
研究期間
平成30年度
執筆担当者
- 小野 晶子
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 飯間 敏弘
- 東京大学大学院教育学研究科 特任助教
- 古俣 誠司
- 労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
- 田中 弥生
- 芝浦工業大学 特任教授(執筆時)
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.135)。