資料シリーズ No.215
生涯現役を見据えたパラレルキャリアと社会貢献活動
―企業人の座談会(ヒアリング調査)から―

2019年5月20日

概要

研究の目的

本研究は「人生100年時代」を見据え、雇用や賃労働で働くことを超えて、社会貢献活動も「就労」の視野に入れながら生涯キャリアをいかに作るかを考えていくものである。本報告書は、企業に勤める従業員に対し、自身のキャリアとボランティアや社会貢献活動の関わりについて座談会形式で調査した内容を収録している。

これまでの研究からは、定年退職後からボランティア活動を始める人よりも、現役で働いている頃から携わっている人の方が、高齢期での関わり方やアクティブ度が高くなることを指摘していた。つまり、スムーズにセカンドキャリアに軸足を移していくには、なるべく早い段階から行動することが重要といえる。

現役時代から、来るセカンドキャリアを見据えて準備するとなると、助走時期が必要になる。ドラッカーは著書の中で「パラレルキャリア」を提唱しており、これは本業の仕事の他に、NPOなどの非営利活動で働くことにより、会社や家庭とは別の「もう一つのコミュニティ」を持ち、より広い視野や経験、より精神的に豊かな生き方が出来るという考え方である。

定年退職を迎え、就業からリタイアすると生活は一変する。40-44歳の壮年期男性(図表1)と60-64歳の無職の高齢期男性(図表2)の生活時間を24時間でみてみると、リタイア後の高齢者は、テレビやラジオを視聴する時間が大幅に増えていることがわかる。テレビ、ラジオを視聴すること自体が悪いわけではないが、やはり生活の中心はそれらよりも、コミュニティの中で充実した社会生活を送ることが望ましいだろう。

図表1 男性40-44歳の生活時間(平成28年「社会生活基本調査」総務省)
(40-44歳、n=4,973)

図表1画像

図表2 男性無業者60-64歳の生活時間(平成28年「社会生活基本調査」総務省)
(60-64歳男性、n=1,058)

図表2画像

研究の方法

本研究は、調査協力企業2社において座談会形式(グループヒアリング調査)で行った。調査協力企業は、大手商社A社、大手金融機関B社である。ヒアリングは年齢階層別に5~9名、各社5グループで構成し、65名(A社30名、B社35名)が参加した。調査は、就業時間中に2時間程度時間を得て、各グループ1回ずつ、計10回実施した。

主な事実発見

  1. 企業人のボランティアや社会貢献活動の経験については、子供の学校や幼稚園でのPTAや、スポーツチームのサポートやコーチ、自治会活動などを、ボランティアの自覚なく行っている人が多い。東日本大震災の被災地支援活動については、それぞれの企業が呼びかけて行ったボランティア活動のインパクトは大きく、企業人に響くことがわかった。たとえ自費であったとしても、企業が仲介したりアレンジする活動の訴求力は高い。
  2. PTAや地元のスポーツチームのサポートやコーチ、自治会活動などの身近な活動は、地域に溶け込むきっかけになっている。特に都市部に住む男性の場合、定年退職後に地域とのつながりが持てないことが問題とされるが、働きながらでも身近にあるこういった活動に参加することで一気に地域のつながりが広がる可能性がある。会社側もこういった身近な活動でボランティア休暇が使えるなどの支援策があれば、地域に活動基盤が出来、男性も定年退職後にもどっていける場所ができるようになるかもしれない。
  3. ボランティアや社会貢献活動に参加したきっかけについては、「環境」「誘い」「経験、共感、恩返し」が関係しており、「環境」として家庭や学校教育でボランティア活動をやった経験や、海外留学、在留経験、キリスト教徒であることがベースにある場合、ボランティア活動を行う可能性が高くなるようだ。さらに、家族や友人、同僚の誘いがあったり、習い事や地域のつながりで駆り出されたり、上司や顧客から誘われるといった身近な人からの「誘い」がきっかけという人もかなり多い。
  4. ボランティア活動から得られたものについては、心の充足ややりがい、仲間、つながりの拡大など、いわゆる一般的なボランティア活動から得られるような効用もあるが、企業人の特徴として、「経験値の拡大」や「仕事やキャリアに役立つ」という話が多く聞かれた。
  5. ボランティア活動へのハードルは、仕事だけでなく子育てや介護が忙しいことを挙げる人がかなり多かった。また、NPOやボランティアのイメージや印象が悪い、距離を感じるという人もおり、こういった活動をやっている人が身近にいないなど、縁遠い人ほどネガティブなイメージを持っていると感じた。一方で、やりたいけれど、NPOやボランティア団体の情報がない、どうやって探したらいいのかわからないといった声や、会社や職場がボランティア活動をする雰囲気でないなど、対策を取ることで改善出来るようなハードルもあった。
  6. パラレルキャリアについては、55歳以上と55歳未満の人ではイメージの持ち方が少し違うようである。55歳以上では、多くの人が定年退職後の働き方と再雇用制度を視野にいれており、「人生100年」と言われる中、再雇用中をセカンドキャリアへの「助走期間」として位置づけ、兼業規定を緩和して欲しいという要望が多く出ていた。
  7. ボランティアや社会貢献活動に対する会社の支援策については、ある程度明確に打ち出された。まず、会社はきっかけ作りを担い、ボランティア情報やボランティアプログラムを紹介することである。信用できるNPOをイントラネット上で紹介し、自分の生活時間や好みに合った活動を選び申し込むことが出来れば、飛躍的に参加ハードルが低くなるだろう。次に、ボランティア活動を根付かせるためには、社内の雰囲気を作っていくことが必須である。上層部や上司が率先して活動し、それが当たり前になるような雰囲気を作ること、ボランティア参加プログラムに合せて、ボランティア休暇を使うことを求めるなど職場全体の意識変革を促すことである。このことは、働き方改革で残業時間が飛躍的に減ったことと同じロジックであり、若い人ほど会社では弱い立場のため、なかなかボランティアに行きたいといえる状況にない。むしろ半強制的に行けと言われた方が行きやすいという声も多かった。

政策的インプリケーション

「人生100年時代」の働き方は、いかに自立的にキャリアを作っていけるかにかかっている。本人は、現役時代から会社以外のコミュニティを複数持っておくこと、企業側は兼業、副業禁止規定を見直すなど、パラレルキャリアを作りやすい支援を行うことである。パラレルキャリアは、よりダイバーシティな考え方や生き方を得られる可能性を秘めており、人材育成的な見地からみても有用な取組みになるだろう。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「人口・雇用構造の変化等に対応した労働・雇用政策のあり方に関する研究」
サブテーマ「生涯現役社会の実現に関する研究」

研究期間

平成29~30年度

執筆担当者

小野 晶子
労働政策研究・研修機構 主任研究員
古俣 誠司
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー
田中 弥生
芝浦工業大学 特任教授

関連の研究成果

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