労働政策研究報告書No.236
新型コロナウイルス感染症の影響に伴う
雇用調整助成金の特例措置の効果検証に関する研究
概要
研究の目的
本研究は、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金(雇調金)の特例措置(コロナ特例)が当初想定した役割を適切に果たすことができたのか、具体的には、影響が長期化する中で縮小しながらも継続されてきた同措置がどのような企業に活用され、企業、労働者、労働市場にどのような影響を及ぼしたのか、実際に雇用維持効果はあったのか、ひいては政策インフラとして雇調金はどう在るべきか等といった観点から、雇調金及び雇用保険の業務データ、事業所アンケート調査結果データを接続したデータセットを用いて効果検証を行ったもの。
研究の方法
行政記録情報(業務データ)及び事業所アンケート調査(「雇用調整助成金のコロナ特例の活用に関する調査」)の結果に基づく集計及び二次分析
主な事実発見
<判明した主な事実>
本研究では、主に次のことが分かった。
- 今回の雇調金の支給規模はリーマン期に比べても大規模であり、幅広い産業で活用されるとともに期間も長期に及んだこと。
- 雇調金は一定の雇用維持効果を発揮した。特に初期の段階において雇用維持効果が確認されるが、反面、利用が長期に及んだ場合、その効果は失われる傾向があること。
- 雇調金による教育訓練はコロナ期の早い段階から行うと一定の雇用維持効果があったが、長期やコロナ期の遅い段階に行うとその効果が薄れ、雇用維持効果は限定的であったこと。
- 離職者の再就職には、概ね受給事業所の離職者の方が非受給事業所の離職者よりも時間がかかったこと。
- 非正規雇用労働者の雇用維持を想定して特例的に設けられた緊急雇用安定助成金(緊安金)は一定の効果は確認されるが、雇調金に比べ効果はやや弱く、限定的であったこと。
- 事務手続は早々に簡素化されたこと。また、制度の周知も一部を除き概ね十分に行われたこと。
<検証の限界と課題>
助成率や上限額の引上げ等のコロナ特例の個別の内容についての効果検証は容易ではなく、結論に至らなかったことなどコロナ特例の検証の限界や、中長期的な効果検証とノウハウの蓄積の必要性、賃金との関係など分析の視角の更新と、検証を前提とした業務データの整備の重要性、更なる研究の蓄積の必要性など、分析上の限界と今後に向けた課題も判明した。
<参考図表>
図表1 雇用保険適用事業所に占める受給事業所の割合
事業所全体(雇用保険適用事業所)に占める雇調金の受給事業所の割合をみると、2020年で約18%、2021年に約14%、2022年に約10%の事業所が受給しており、リーマン期の最高値2010年の5.0%よりも高い。
図表2 雇調金受給終了年別の受給終了後の事業所(高影響業種)の存続率
雇調金受給事業所を対象に受給終了後の事業所の存続確率をみると、集計期間で15%ほど退出(廃業)。受給終了時点が遅くなる事業所は、退出(廃業)までのスピードが早い。
政策的インプリケーション
- 雇調金は緊急避難的効果を有しており、ショック発生時には期待されるような雇用維持効果を発揮したが、その効果は受給期間が長期化するにつれ失われる傾向がある。こうした点を考慮すると、制度そのものには意義があるが、反面、利用期間が長期に及ばないようにしておくことが考えられる(例えば、特例期間が長期とならないよう予め一定期間に限定しておくこと、個々の事業所への適用期間に上限を設けておくことなど)。
- 非正規雇用労働者については、雇用維持のために緊安金を実施する場合には小規模企業への周知に注力することに加え、雇用維持がなされなかった場合の別の支援策についても、今後の課題として検討しておくことが考えられる。
- 効果検証が効果的・効率的かつ速やかに行えるようデジタル化・事務簡素化の流れの中で、業務データの整理、データ項目の検討、他の業務データとの接合等に今から備えておくことが望まれる。
政策への貢献
労働政策審議会職業安定分科会(第213回)厚労省において概要を速報版として報告(令和7年5月16日)厚労省
。今後の雇用調整助成金に係る政策立案の基礎資料として活用されることが期待される。
本文
研究の区分
課題研究「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置に関する研究」
研究期間
令和3~7年度
執筆担当者
- 髙松 利光
- 労働政策研究・研修機構 統括研究員
- 岩田 敏英
- 労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
- 川上 淳之
- 東洋大学経済学部 教授
- 神林 龍
- 武蔵大学経済学部 教授
- 何 芳
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 高橋 康二
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 森山 智彦
- 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- 佐々木 勝
- 大阪大学大学院経済学研究科 教授
- 東 雄大
- 京都産業大学経済学部 准教授
- 小林 徹
- 高崎経済大学経済学部 教授
(執筆章の順)
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