資料シリーズNo.265
雇用調整助成金の支給実態
―リーマン・ショックからコロナ禍1年目にかけて―
概要
研究の目的
2008年1月~2021年1月の雇用調整助成金(雇調金)、2020年3月~2021年1月の緊急雇用安定助成金(緊安金)の支給の推移と傾向を記述的に分析し、コロナ下における雇調金・緊安金の支給の特徴を掴むとともに、今後の研究(雇用保険データも含めた分析、アンケート調査の詳細分析等)のための基礎資料とする。
研究の方法
雇調金及び緊安金の申請時に事業所から取得している行政記録情報(雇用調整助成金システムデータ及び一般助成金システムデータ)の特別集計。
主な事実発見
第1に、リーマン・ショック、東日本大震災期(2008年12月~2013年11月)、平常期(2013年12月~2020年1月)、コロナ期(2020年2月~2021年1月)をそれぞれⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ期として雇用調整助成金の1ヶ月あたりの支給件数や支給金額を見ると、Ⅰ期は約3万9千件、222億円、Ⅱ期は1500件弱、5億円に対して、Ⅲ期は約16万件、2136億円に上る。1件あたりの支給金額も、Ⅰ期(約57万円)やⅡ期(約31万円)に対して、Ⅲ期(約133万円)は2倍以上である(図表1)。コロナ禍初期においては、緊急事態宣言の発出に伴う経済活動の停滞により、GDPや有効求人倍率は大幅に落ち込んだが、リーマン・ショックや東日本大震災の時期に比べて雇用調整助成金が大量に支給された。その結果、休業者は激増したものの、その後の失業の大幅増にはつながらなかったと考えられる。
Ⅰ(60ヶ月) | Ⅱ(73ヶ月) | Ⅲ(12ヶ月) | ||
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2008年12月~2013年11月 | 2013年12月~2020年1月 | 2020年2月~ 2021年1月 | ||
事業所数 | 合計 | 145548 | 17421 | 411318 |
1ヶ月あたり | 2426 | 239 | 34277 | |
件数 | 合計 | 2321948 | 107759 | 1924081 |
1ヶ月あたり | 38699 | 1476 | 160340 | |
金額(億円) | 合計 | 13315 | 333 | 25630 |
1ヶ月あたり | 222 | 5 | 2136 | |
1件あたりの支給金額(万円) | 57 | 31 | 133 |
注:集計対象は雇用調整助成金が支給された全事業所。
第2に、雇用調整助成金の支給件数等を産業別に見ると、Ⅰ期とⅡ期は全体の半数以上を製造業が占めている。Ⅲ期においてはやはり製造業への支給が最も多いが、その割合は3割に満たない。その一方で、対人サービス産業(宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業等)が占める割合は、Ⅰ期やⅡ期よりも高くなっている。特に、産業中分類別に見ると飲食店の支給件数が際立ち、洗濯・理容・美容・浴場業や医療業、専門サービス業(他に分類されないもの)への支給も相対的に多くなっている。1件あたりの支給金額は、航空運輸業が顕著に高い。
第3に、雇用保険適用事業所に占める雇用調整助成金受給事業所の割合を計算すると、Ⅰ期は製造業の24.9%、情報通信業の14.8%の事業所が受給しているのに対し、Ⅲ期は宿泊業・飲食サービス業の約4割、生活関連サービス業、娯楽業や製造業の約3割、運輸業、郵便業の約1/4、情報通信業や卸売・小売業、教育、学習支援業の2割弱が受給していることが分かる。Ⅲ期においては、Ⅰ期と比べ、サービス分野の業種の受給割合が極めて高いが、同時に製造業や運輸業、郵便業の受給割合も高くなっている(図表2)。
(単位:%)
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | |
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農業,林業 | 0.9 | 0.1 | 2.7 |
漁業 | 1.3 | 0.1 | 5.1 |
鉱業,採石業,砂利採取業 | 11.6 | 1.5 | 6.3 |
建設業 | 6.2 | 0.6 | 9.1 |
製造業 | 24.9 | 3.6 | 30.8 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 2.3 | 0.1 | 5.3 |
情報通信業 | 14.8 | 1.0 | 18.9 |
運輸業,郵便業 | 10.7 | 0.6 | 25.2 |
卸売業,小売業 | 3.6 | 0.5 | 17.1 |
金融業,保険業 | 0.8 | 0.1 | 7.3 |
不動産業,物品賃貸業 | 2.0 | 0.2 | 15.3 |
学術研究,専門・技術サービス業 | 4.1 | 0.4 | 13.4 |
宿泊業,飲食サービス業 | 2.2 | 0.3 | 40.3 |
生活関連サービス業,娯楽業 | 2.2 | 0.3 | 34.8 |
教育,学習支援業 | 1.0 | 0.2 | 17.1 |
医療,福祉 | 0.5 | 0.1 | 10.9 |
複合サービス事業 | 0.8 | 0.1 | 3.0 |
サービス業 | 3.7 | 0.3 | 13.7 |
公務 | 0.0 | 0.0 | 0.5 |
分類不能の産業 | 3.1 | 0.1 | 18.6 |
全国計 | 7.1 | 0.8 | 17.9 |
注1:集計対象は雇用保険が適用されている全事業所。
注2:各期の受給事業所割合=各期で一度でも雇用調整助成金が支給された事業所数/雇用保険適用事業所数の年度平均×100。
注3:「雇用保険適用事業所数の年度平均」について、Ⅰ期は2009年度~2013年度、Ⅱ期は2014年度~2019年度の平均、Ⅲ期は2020年度を採用した。
資料出所:各期の雇用保険適用事業所数は、厚生労働省「雇用保険事業年報」より。
第4に、雇用調整助成金システムデータのみを用いて、Ⅲ期における1ヶ月ごとの支給実態を休業発生終了日(判定期間終了日)を基準として集計した。その結果、支給件数や支給金額に関して、判定期間終了日は2020年4~6月に集中しており、6月以降なだらかに下降していることが分かった。他方、支給決定日を基準として集計すると、支給件数では10月に、支給金額では8月にピークがきている。
第5に、雇用調整助成金システムデータのみを用いて、Ⅲ期における1ヶ月ごとの支給件数の推移をみると、2020年3月、4月は宿泊業・飲食サービス業が約2割を占め最も割合が高いが、6月以降は1割強で推移している。サービス分野の業種は全体的に5月までの支給がやや多く、6月に低下している。一方で、製造業への支給件数や支給金額は、5月以降全産業の中で最も高い。また、2020年2月から2021年1月の間に雇用調整助成金を受給した延べ月数を見ると、全体の半数強は3ヶ月以下だが、7、8ヶ月と比較的長期間受給している事業所も、全体の2割弱を占める。産業別にみると、製造業は長期間受給している事業所の割合がやや高いのに対して、生活関連サービス業、娯楽業や医療・福祉は、短期間だけ受給している事業所の割合が高い。
政策的インプリケーション
第1に、コロナ期の雇調金の支給実態は、同じく大規模な特例措置が講じられたリーマン・ショック、東日本大震災期のそれと比べて、明確に異なるものである。具体的には、支給がより大規模であり、対人サービス産業(宿泊業・飲食サービス業など)を始め支給の対象となった産業の幅が広く、東京など人流が大きく抑制された都市部の事業所への支給が中心であった。
第2に、他方で、コロナ期の雇調金の支給実態を仔細に見ると、その内部に多様性があることも読み取れる。ひとつは、支給・受給のタイミングや期間に関する多様性である。コロナ禍で最も大きな打撃を受けたと考えられる宿泊業・飲食サービス業は、コロナ禍初期において支給件数に占める割合が高くなっていた。これに対し、製造業は、2020年5月以降、支給件数、支給金額に占める割合が最も高くなっている。また、製造業は長期間受給している事業所の割合がやや高い。
第3に、支給金額が非常に大きい事業所が一部に存在することも、コロナ期の雇調金の支給実態の多様性を表している。コロナ期における1件あたりの支給金額を見ると、航空運輸業、鉄道業といった交通インフラ産業において極めて大きくなっている。コロナ禍により人の移動が抑制されたため、大規模な交通インフラ事業所において、大量の休業が発生したものと考えられる。
政策への貢献
2022年度第3回雇用政策研究会にて提供済み。
本文
研究の区分
課題研究「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う雇用調整助成金の特例措置の効果検証に関する研究」
研究期間
令和4年度
執筆担当者
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