労働政策研究報告書No.231
地方の若者のキャリアの変化と職業意識
―北海道・長野調査および東京都調査との比較から―

2024年7月4日

概要

研究の目的

地方に住む若者のキャリアと意識について、大都市(東京都)に住む若者との比較を通じ、過去の研究蓄積を活用しながら明らかにする。

研究の方法

住民基本台帳により無作為抽出した25-34歳の対象者に郵送で調査を依頼。回答は郵送とWEBを併用。

札幌市1920人に依頼・683人回答。有効回収率35.6%。
釧路市800人に依頼・294人回答。有効回収率36.8%。
長野市1440人に依頼・578人回答。有効回収率40.1%
諏訪地域(諏訪・茅野・岡谷)1440人に依頼・487人回答。有効回収率33.8%。

主な事実発見

2001年より東京都において「若者のワークスタイル調査」を5年ごとに実施するとともに、2008年に地方調査も実施してきたが、本報告書では2022年に約15年ぶりに実施した地方調査も踏まえて分析を行った。なお調査地域の選択に当たっては、求人状況と産業構造により3つの類型にわけ、【類型1】求人状況がよく労働力が流入してくる地域として東京都、【類型2】求人状況がよく、製造業が中心の地域として長野、【類型3】求人状況が悪くサービス業中心の地域として北海道、に位置づけた。さらにその地域の中でも特徴を持つ地域として、長野市・諏訪地域、札幌市・釧路市を選択して調査を実施した。

以下では、東京都の2021年調査で見いだされた、高学歴化によるキャリア格差および職業意識の変化(仕事離れの高まりと「堅実性」の低下)について着目する。

離学直後の正社員比率の変化を見ると、2008年調査においてはいずれの調査地域とも東京都のような学歴による格差は小さく、女性においてはむしろ大学・大学院卒の方がより正社員比率は低かった。しかし今回の2022年調査においては、離学直後の高卒者の正社員比率は東京都よりも高く、東京都ほど学歴の格差は大きいわけではないものの、男性ではより学歴による格差が見えるようになり、女性では明確になった。この背景には、医療、保健、福祉、教育関連分野を専攻した高等教育卒業者が増加し、正社員として地域に定着していることがあると推測される。

図表1 離学直後の正社員比率(25-34歳)

  長野市  諏訪地域 札幌市  釧路市  (東京都調査)
  2022 2008 2022 2008 2022 2008 2022 2008 2021 2006
高卒 73.9 69.2 75.4 78.6 67.6 68.0 62.8 69.6 53.4 58.1
専門・短大卒 79.2 77.8 90.9 85.0 80.8 73.9 85.7 60.0 67.0 63.6
大学・大学院卒 85.5 81.7 90.6 81.9 80.0 59.6 67.3 80.9 67.7
男性計 79.2 70.9 80.4 77.0 72.6 61.2 64.8 59.1 72.5 59.2
高卒 66.7 81.3 67.9 79.5 39.1 63.3 51.0 52.4 46.3 50.0
専門・短大卒 80.0 77.5 83.3 83.6 65.4 60.3 80.9 45.5 62.4 66.7
大学・大学院卒 82.5 71.4 84.6 67.9 83.1 51.7 80.0 81.6 69.1
女性計 73.6 73.5 74.5 75.7 65.1 57.5 64.1 45.7 70.6 59.5

注:2006年東京都調査は20代後半のみ。調査の実施は、札幌市・釧路市・長野市・諏訪地域は2022年、東京都調査は2021年。

次に、最新の2021年東京都調査では、できれば仕事はしたくないという「仕事離れ」が高まり、「堅実性」が弱まっていた。過去の地方調査ではこの項目はなかったため地域差のみ整理したところ、東京都の若者よりも地方の若者の方が「仕事離れ」志向が高く(ただし男性は有意ではない)、「堅実性」も弱かった。「自分に向いている仕事がわからない」は地方で高かった。またフリーランス志向(特定の企業や組織に所属せず、独立した形での仕事がしたい)は東京都で極端に高く、都市部の若者の志向とみられる。

図表2 職業意識の地域差(25-34歳)

<男性>

職業意識については、できれば仕事をしたくないという「仕事離れ」は東京都よりも地方において高かった。

<女性>

職業意識については、できれば仕事をしたくないという「仕事離れ」は東京都よりも地方において高かった。

注:調査の実施は、札幌市・釧路市・長野市・諏訪地域は2022年、東京都調査は2021年。
:***p<.001,**p<.01,p*<.05,†p<.10

次に公的支援利用の状況を見ると、地方においてハローワークの利用割合は東京都にくらべてかなり高かった。図表は省略するが、フリーターから正社員に移行しようとした場合もハローワーク等の公的支援の利用割合が高く、地方において若者に対する公的支援は重要な位置を占めていることがわかる。

図表3 公的支援利用の状況

活用したことがある行政サービスや公的な支援

  奨学金 授業料免除 失業手当  ハローワーク 若者サポートステーション ジョブカフェ 国または自治体の職業訓練 生活保護・生活困窮者自立支援 その他 どれも活用したことはない 合計
札幌市 38.4% 5.4% 25.3% 42.3% 3.2% 9.0% 4.6% 1.8% 1.6% 28.7% 679
釧路市 34.1% 7.5% 23.9% 44.7% 1.7% 4.8% 6.8% 3.8% 2.4% 28.7% 293
長野市 33.6% 4.4% 20.5% 40.9% 1.4% 3.0% 4.2% 0.9% 1.2% 35.5% 572
諏訪地域 27.4% 4.0% 23.2% 40.8% 0.8% 2.1% 3.8% 0.6% 1.7% 36.8% 478
東京都 32.1% 4.4% 12.5% 23.3% 1.6% 1.2% 3.2% 0.8% 0.1% 47.9% 2939

注:調査の実施は、札幌市・釧路市・長野市・諏訪地域は2022年、東京都調査は2021年。

政策的インプリケーション

  1. 過去の調査に比べると地域の産業構造により温度差はあるものの、学歴のキャリアに対する影響は強まっている。今後も産業構造が若者の働き方に及ぼす影響について注視する必要がある。
  2. 都市でも地方でも「仕事離れ」が増加し、「堅実性」が弱まっている。職場と若者との関係について、縛られるのでもなく、自己責任に委ねられるわけでもない、ちょうどよい距離感の醸成をめざして再考する必要がある。
  3. 地方におけるハローワークや公的支援は引き続き重要な役割を果たしており、特に地方において若者支援の継続が求められる。

政策への貢献

若年者雇用政策の基礎資料となる。

本文

研究の 区分

プロジェクト研究「技術革新と人材開発に関する研究」
サブテーマ「技術革新と人材開発に関する研究」

研究期間

令和4~6年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 統括研究員
小黒 恵
労働政策研究・研修機構 研究員
小杉 礼子
労働政策研究・研修機構 元統括研究員
柳煌碩
日本大学 非常勤講師
上山浩次郎
北海道大学大学院教育学研究院 講師
中島ゆり
長崎大学 准教授

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