労働政策研究報告書No.225
企業で働く人のボランティアと社会貢献活動
―パラレルキャリアの可能性―

2023年4月6日

概要

研究の目的

本報告書の研究目的は、企業で働く人でボランティアや社会貢献活動に参加している人はどのような特徴があるのか、将来的に参加したいと思う人はどのような人で、企業に何を望んでいるのかを明らかにし、企業が媒介者となって活動を推進していくにはどういう方向に進んでいけばいいのかを分析することにある。本報告書は、JILPTが2018年、2019年に実施した『人生 100 年時代の企業人と社会貢献活動に関するアンケート』調査のデータを用い、より深めたテーマに従って二次分析を行っている。

序章では、企業ボランティアに関する先行研究から、その定義や歴史的背景、効果や課題について論じ、日本の企業ボランティアや社会貢献活動が進むべき方向を示す。また、本報告書で使用した調査の概要を説明する。第1章では、ボランティアや社会貢献活動への参加希望の要因を探り、特に過去のボランティア経験や現在の仕事との関係性をみる。第2章では、世代別男女別にボランティア参加への傾向を探り、単線型のキャリアが活動参加によって補完的なキャリアになりえるのかについて考察している。第3章では、現役世代が抱く老後に対する様々な不安と社会貢献活動への参加の関係性を分析している。第4章は、会社で働く人の職務遂行スキルとボランティア参加との関係をみている。第5章は、ボランティアやNPOに対するイメージとボランティア参加との関係をみている。なお、第4章と第5章は心理学的アプローチに依っている。第6章は企業で働く人のボランティアの動機と活動継続やその頻度に注目し、企業と従業員双方にとってプラスになるような施策について考察している。終章では、各章の知見をまとめ、企業がボランティアや社会貢献活動を推進するにあたって、従業員への支援策とインプリケーションを示している。

研究の方法

本報告書の分析にあたっては、JILPTが実施した『人生 100 年時代の企業人と社会貢献活動に関するアンケート』調査のデータを用いている。調査データは「企業6社従業者調査」(以下、「企業調査」と称する)と一般的な大企業に勤める従業員の「ウェブモニター調査」(以下、「モニター調査」と称する)の2つを比較分析することにより、それぞれの傾向と一般性を示すことに努めている。企業調査の回収数は全体で16,015件、モニター調査は3,831件である。

主な事実発見

  1. (第1章)「ボランティア経験は将来的なボランティア活動につながるか―仕事や働き方との関係を踏まえた考察―」

    第1章では、将来的なボランティア参加につながる要因をボランティア経験、仕事や働き方から分析している。ボランティア経験者の属性の分析結果では、女性、子供がいる、年齢は若いほど経験があるという傾向が見えている。特に学生時代のボランティアは20、30代の若年層に経験者が多い。将来的なボランティア参加希望者の属性の傾向を分析したところ、女性、壮年および高年層の傾向がみられた。

    働き方との関係をみると、ボランティア参加を希望する人は概ね残業時間が長い傾向があり、仕事の満足度(賃金・収入や労働時間、休日・休暇)が高い人や、会社から自分自身が高く評価されていると感じている人ほどボランティア参加希望の確率が高い。

    ボランティア経験が将来的なボランティア参加希望に与える影響をみると、ボランティア経験がある人は、活動参加を希望する確率が2~3割増し、特に社会人になってからの経験の影響が大きいことが明らかになった(図表1)。

    また、ボランティア経験がある人の中で、そのきっかけが自発的だった人の方が、義務的だった人に比べて将来的なボランティア参加希望の確率を高め、逆に義務的だった人の参加確率は、ボランティア経験がない人とほとんど変わらないという結果となった。

    図表1 ボランティア経験とボランティア参加希望(予測値)

    図表1画像:ボランティア経験がある人は、ない人に比べて将来ボランティア活動に参加を希望する確率が2~3割増し、特に社会人になってからのボランティア経験は影響が大きい。

  2. (第2章)「ファーストキャリアありきの社会貢献活動からの“脱却”―若者世代・ロスジェネ世代・バブル世代の男女に注目して―」

    第2章では、これまで学卒後に就職し(ファーストキャリア)、その職場で勤め上げて定年退職を迎えるという単線型のキャリアが変化しつつある日本の状況を踏まえ、世代の分析軸を「若者世代」「ロスジェネ世代」「バブル世代」の男女に区分し、ボランティアや社会貢献活動への移行の可能性について検討している。

    分析結果からは、① 企業調査とモニター調査については、企業調査の対象者のほうにゆとりがある分、仕事にエネルギーを注ぎつつも社会貢献活動にはより前向きであることがうかがえた。とはいえ、両調査ともに、仕事の充実や定年退職後までを見越したキャリア展望が、社会貢献活動に振り向ける意欲をも高めているという点では共通していた。

    ② 若者世代・ロスジェネ世代・バブル世代の世代的な特徴としては、バブル世代は、何事にもやる気を見せる側面があり、それに対して、ロスジェネ世代はどちらかというと控え目で、若者世代も目先の仕事中心の生活で、そこまで社会貢献活動に対して他世代とは異なったスタンスを示しているわけではなかった。

    ③ 男性・女性については、従来から言及されている通り、女性のほうが社会貢献活動には積極的であった。

    生活のために仕事することで精いっぱいの人、子育て時期の人、若年、中年層の参加意欲は低い。世代でみると、社会情勢的に何事も消極的にならざるを得なかった「ロスジェネ世代」は社会貢献活動に対しても消極的で、高齢期を迎える前に実効性のある支援が求められている。本章の分析対象者は全般的に安定した就労・仕事に恵まれている。ファーストキャリアが比較的充実していて、ゆとりのある企業とその従業員から「社会貢献事業」への道筋を切り開いていくことは、高齢化し続ける社会全体のニーズにも合致したソリューションである。

  3. (第3章)「老後不安と社会貢献活動への参加」

    第3章では、老後の不安と社会貢献活動への参加との関係性を分析している。分析では、老後の不安の種類とその強さが社会貢献活動を行う動機となるのか、参加タイミングはどのようになっているのかに注目している。データは老後が視野に入りつつある40~60歳未満の企業調査とモニター調査を使っている。

    分析結果から、「一生懸命になれる仕事があるか」に対して老後不安を感じる人ほど、社会貢献活動に取り組みたいと思っており、また、「社会との接点を持てるかどうか」に老後不安をより感じる人ほど、社会活動に取り組みたいと思っている(図表2)。活動開始時期に注目すると、「数年のうちに」活動したいと考えている。しかし、取り組みたいと思う人の活動開始時期に統計的に有意な違いは観察されなかった。

    「一生懸命になれる仕事があるかどうか」に対して老後不安をより感じる人は、「知識や技術、経験を生かすため」だけでなく「仕事に役立つ能力を得るため」に参加したいと考えていることが示唆され、仕事に役立つ能力を得るために、平均的にはより早い段階(「定年退職前後」ではなく「数年のうちに」)で社会貢献活動に参加しようと考えていることが明らかになった。

    図表2 老後に対する不安の程度と定年退職後に積極的に取り組みたい内容との関係(企業調査)

    図表2画像:老後の不安に関する設問で、「一生懸命になれる仕事があるか」、「社会との接点を持てるかどうか」を強く感じる人ほど、社会活動に取り組みたいと思う傾向にある。

  4. (第4章)「企業人の職務関連スキルとボランティアの関係」

    第4章では、企業で働く人が業務を遂行していく上で、汎用的に有用であるとされるスキル(職務関連スキル)について、属性やボランティア経験とどのような関係性があるのかをみている。職務関連スキルは25項目(例えば「仕事を指示、委任すること」「人のサポートをすること」等)から成っており、調査対象者が主観的にそのスキルが「得意」か「苦手」かで5段階で回答している。職務関連スキルは因子分析により、「業務推進」「対人関係」「アンラーニング」「自己管理」の4つに分類された。

    分析結果からは、男性では「業務推進」、女性では「自己管理」のスキルを得意とする傾向がみられた。ボランティアや社会貢献活動との関係をみると、こういった活動を行った経験があるグループは、スキルの「得意」とする評定が高くなることが示された。年齢階層でみると、その影響はより明確で、特に35歳未満の男性の「対人関係」スキルでは、活動経験が有ることが「得意」評定を高めていた(図表3)。活動を行った時期でみてみると、学生時代だけでなく社会人になってからも活動経験がある場合にスキル評定が高くなる。さらに、活動の中でなんらかの成果を見出せた人は、そうでない人に比べて高く評定することがわかった。

    図表3 社会貢献活動・年齢階層・男女ごとのスキル意識

    図表3画像:企業で働く人の職務関連スキルについて、男性は「業務推進」、女性では「自己管理」のスキルを得意とする傾向がみられた。ボランティアや社会貢献活動の経験があるグループは、ないグループに比べて、スキルの「得意」とする評定が高くなることが示された。年齢階層でみると、その影響はより明確で、特に35歳未満の男性の「対人関係」スキルでは、活動経験が有ることが「得意」評定を高めていた。

    企業で働く人の職務関連スキルについて、男性は「業務推進」、女性では「自己管理」のスキルを得意とする傾向がみられた。ボランティアや社会貢献活動の経験があるグループは、ないグループに比べて、スキルの「得意」とする評定が高くなることが示された。年齢階層でみると、その影響はより明確で、特に35歳未満の男性の「対人関係」スキルでは、活動経験が有ることが「得意」評定を高めていた。

  5. (第5章)「企業人が持つNPOに対するイメージと社会貢献活動への参加」

    第5章では、NPOやボランティアに対して抱くイメージの心理的影響が参加行動に影響しているのではないかという仮説から、自身が働く会社とNPOやボランティア団体に対してのイメージを測定し、属性やボランティア経験と将来的な活動参加の希望の有無、活動参加のマッチングシステムの利用等との関係の傾向をSD(セマンティック・ディファレンシャル)法で分析を行っている。設問群は因子分析により、「親しみやすさ」因子と「仕事意識」因子の2つに分解され、基本的には自社がいずれの因子においても上回る状況となっている。

    NPOへのイメージは、ボランティア経験があるグループでは、NPOに対する「親しみやすさ」が高い傾向がみられた。また、将来的なボランティア参加希望との関係をみると、参加を希望するグループでも「親しみやすさ」が高い傾向がみられている。

    ボランティア等を紹介・マッチングしてくれるシステムを利用するかという問いに対しては、a.公的機関(国や自治体)、b.NPO、公的法人等、c.民間のインターネットサイト、d.現在働いている会社で比較検討を行った。d.現在働いている会社からの提供があった場合に「利用する」と回答している回答者においては、自分の会社に対しての「親しみやすさ」が高く、ボランティアやNPO等に対する「親しみやすさ」が最も低いことがわかる(図表4)。これを踏まえると、ボランティアやNPOに対する「親しみやすさ」が低い群に対しても、所属する会社からの紹介・マッチングシステムが提供されれば、効果的な参加が促進される可能性もある。これは、社会心理学的な認知的斉合性理論による説明とも一致している。あまり親しみがないボランティアやNPOに対しても、親近性が高い自分の所属する会社からの紹介がなされることで、親近性が高くなることが予想される。

    図表4 現在働いている会社からの紹介・マッチングがあれば利用するかによる比較

    図表4画像:NPOやボランティアに対する「親しみやすさ」のイメージが低くても、自分の会社に対する「親しみやすさ」のイメージが高い場合、現在働いている会社からボランティアや社会貢献活動の紹介やマッチングがあった場合に「利用する」と回答する傾向がある。

  6. (第6章)「企業の社会貢献・ボランティア活動の推進とマッチングの課題―活動継続と活動頻度と活動分野に注目して―」

    第6章では、近年の企業の社会的責任が重視される中で、企業で働く個人が社会に対する意識やボランティアの動機をいかに有し、活動継続することができているかという点に注目している。さらに、企業と従業員、双方にとってプラスになるような環境の構築と施策について考察している。分析ではボランティア活動の継続とその頻度に注目している。

    活動成果と活動継続と頻度の関係性についての分析結果からは、ボランティア活動を行うことによって得られる成果によって活動の継続と頻度に大きな影響を与えうることが示された。利己的・利他的、投資的・消費的なさまざまな理由が参加継続や活動頻度との正の関係を有していることがうかがえ、従業員の立場や現在の目標などを考慮した形での企業ボランティアを検討することが推進に寄与すると考えられる。

    従業員が会社からどのような支援策を希望しているかについて、活動頻度別にみると、年間活動日数が長いグループと短いグループで明らかな違いがみられている。長いグループでは、「ボランティア休暇などが与えられる」「副業・兼業禁止の規定が緩和される」「経営陣や上司からのボランティア活動の推奨、メッセージがある」「人事評価上の加点要素になったり、表彰制度がある」「労働時間管理がしっかり行われている(残業が少ない)」「ボランティア活動をするための金銭的支援制度がある」といった、ボランティア活動と仕事とのバランスを考慮する傾向がある。一方、活動頻度の低い人においては、「研修でボランティアに携わる機会を設ける」「ボランティアサークルなど、一緒に活動する仲間がいる」「記念行事など全社的なイベントが企画され、その一環で参加が促される」「会社内で寄付や募金活動を行っている」など、参加の入口や周囲の仲間といったボランティア活動を行う環境を期待する声が大きいと言える。

    このように、企業ボランティアを進めるにあたって、社員の動機や社内評価など、細部に配慮しつつ、生きがいや社会貢献を行うことの意欲を高めたり、仕事へのモチベーションやスキルを向上させることができるような詳細なプログラムの構築と評価が必要である。

  7. (終章)「企業人の社会貢献活動とボランティアの支援策とその方向性を考える」

    終章では、これまでの各章の分析から得た研究示唆をまとめ、それらを踏まえ企業人が望むボランティアや社会貢献活動の支援策について追加的な分析を加え、企業が社会貢献活動を進める上で考慮すべきことについて考察している。

    追加的分析では、ボランティア経験の有無とボランティア参加希望の有無を交差させた4つのカテゴリを作成し、それぞれの類型のグループがどのような支援策を望んでいるかを考察した。分析結果からは、ボランティアの「経験×参加希望」の4類型のうち、「経験あり×希望あり」のグループで様々な支援を求める傾向が高く、ボランティアや社会貢献活動を経験して、より実質的な支援を求める傾向がみられた。一方で、「経験なし×希望あり」のグループでは、「NPO等紹介」「研修」「サークル、活動仲間」が高い傾向がみられ、活動を始める足がかりの支援策を求められていると思われる。

政策的インプリケーション

企業で働く人のボランティアや社会貢献活動は「パラレルキャリア」の一端であり、視野を広げ、新たな経験や挑戦ができる機会である。若年層の従業員にとっては視野を広め、新しい知識や経験を得る機会ともなる。日本では高齢者も新しいことを学びたいという意欲は強く、人的投資的動機が高齢者でも高いというのが1つの特徴でもあり、社会参加を通じて新しいことに挑戦できる、定年退職前にパラレルキャリアを実践できるしくみをつくることは、老後の「生きがい」や「やりがい」のある生活にもつながるはずである。

企業ボランティアプログラムを作るにあたっては、企業はまず自社の従業員の活動に対する考えや方向性の把握に努め、従業員が主体となってボトムアップでアイデアを出すなどの企画段階から参加を促すシステムを作ることや、多様な形で社会貢献活動に携わることができるような活動の選択肢があることが望まれる。

ボランティア経験は次のボランティア参加につながりやすい。ボランティア未経験者であっても、自分の会社から紹介されるNPO等の活動であれば参加する傾向にあることが今回の研究から明らかになった。NPOやボランティアに親和性がなくても自社への信頼がこういった活動の精神的な入口となっている。一歩目のボランティア活動のきっかけは重要で、避けたいのは義務感や義理である。仕事と同じようにトップダウンで参加を強要することは、モチベーションを下げるだけでなく却って将来的な参加確率を下げかねない。「ボランティア」の言葉の通り、自発性を伴う行動に基づくという観点からのスタートが求められる。

政策への貢献

政策提言として貢献する。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

小野 晶子
労働政策研究・研修機構 副統括研究員
浦坂 純子
同志社大学 社会学部 教授
梶谷 真也
京都産業大学 経済学部 准教授
古俣 誠司
労働政策研究・研修機構 リサーチアソシエイト
渋井 進
大学改革支援・学位授与機構 教授
石田 祐
宮城大学 事業構想学群 教授

*所属、肩書きは執筆当時

関連の研究成果

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。