労働政策研究報告書 No.203
求職活動支援の研究
―自律型求職活動モデルの実用可能性の検討―

2020年1月16日

概要

研究の目的

本研究の目的は、心理学の観点から、求職活動における自律性の重要性を明らかにし、この自律性を促すための研修プログラムを開発することにある。

本研究を進めるに当たり、欧米(主にアメリカ、オランダ、フィンランドの3カ国)で精力的に行われている求職活動支援(job search interventions)の研究を参考とした。求職活動支援とは、求職者が雇用を探したり、早期に雇用の機会を得ることを支援する目的で開発された研修プログラムである(Liu, Wang, & Huang, 2014)。

そして、求職活動の自律性を促す研修プログラムを開発する手がかりとして、自律型求職活動モデル(cyclical self-regulatory model of job search process quality:Van Hooft, Wanberg, & Van Hoye, 2013)に注目した。同モデルは処方箋モデルであり、望ましい求職活動の基準を示すものである。処方箋モデルの活用により、求職者は自身の求職行動のどこをどのように変えればよいのか、そして職員は求職者に対し、どのような支援をすればよいのかが理解できるようになることが想定されている。

研究の方法

ハローワークにおける自律型求職活動モデルの実用可能性を検討する際、研修研究の枠組みのもと、アクションリサーチに準ずる方法(以下「準アクションリサーチ」という。)を採用した。研修研究とは、労働大学校における労働行政機関の担当者を対象とした研修において、研究員による研究成果を研修に反映させ、研修内容の充実を図り、その結果をさらに研究に活用していく、当機構の事業である(労働政策研究・研修機構,2017)。

アクションリサーチの創始者であるLewin(1946)は、「『実践(action)』、『研究(research)』、『研修(training)』は一つの三角形のようなものであり、どれか一つでも欠けてはならない」(p.42)と述べた。そして、具体的に現場で理論を展開するには研修が必要であり、研究、研修、実践が三位一体となってアクションリサーチを進めていくことを提唱した。

本報告における準アクションリサーチの手順は次の通りである。

①研究

実験計画に基づく実証的な求職活動支援の研究は、1970 年代の後半から始まったと考えられるが、これに先行する求職活動の研究、さらに、これらの研究のルーツとなる1930 年前後の大恐慌時代の失業研究まで遡って調べ、失業者及び求職者の支援に関する心理学の視点を考察する。

こういった歴史を踏まえた上で、求職活動支援の研究の特徴を調べ、代表的な求職活動支援プログラムと、その研究の背景にある求職者像を検討する。

2000 年代以降、自己制御理論が、求職活動及び求職活動支援の研究を統合する枠組みとなった(Kanfer et al., 2001)。自己制御理論の観点から求職活動支援を研究する意義を検討し、他の求職活動支援に関わる理論との関連性を調べる。そして、求職活動の自律性を生み出す心理的メカニズムを考察し、本研究の枠組みとなる自律型求職活動モデルを検討する。

②研修

①をもとに、自律型求職活動モデルを紹介する研修プログラムを作成し、労働大学校における職員の自主的参加による課外研修であるイブニングセッションの時間を利用して実施する。また、職業指導・紹介業務における求職者の自律性を促す「ちょっとした表現上の心がけや言葉遣いの工夫」をまとめた職業相談・紹介TIPs(労働政策研究・研修機構,2009)を作成し、労働大学校における職員を対象とした研修コースの研修プログラムに組み込む。

③実践

本来のアクションリサーチの実践では、②で作成した研修プログラムに参加した職員が、自律型求職活動モデルを活用して、研修プログラムを実施したり、職業相談・紹介業務において同TIPsを実践することである。それから、一定の期間を置いた後、求職者のその後の就業状態などを追跡するアンケート調査を実施して、同モデルの効果を検証する。今回は準アクションリサーチであり、②で作成した研修プログラムに参加した職員を対象としたアンケート調査を実施し、研修プログラムと職業相談・紹介TIPsの有用性の評価を求め、それらの評価の結果から、ハローワークにおける自律型求職活動モデルの実用可能性を検討する。

主な事実発見

ハローワークにおける自律型求職活動モデルの実用可能性を検討するため、労働大学校のイブニングセッションを利用し、同モデルの考え方やノウハウを解説する2種類の研修プログラム「生保受給者の就労支援」と「就職支援研究の最前線」を実施し、アンケート調査により、ハローワーク職員である参加者を対象として、職業相談・紹介業務を進める上で、同モデルが有効かどうかを尋ねた。その結果、両研修プログラムともに、ほとんどの参加者が自律型求職活動モデルの考え方を理解し、職業相談・紹介業務を進める上で有用な情報・ノウハウを得ることができたと回答した(図表1、2参照)。

図表1 イブニングセッション「生保受給者の就労支援」の評価

図表1画像

図表2 イブニングセッション「就職支援研究の最前線」の評価

図表2画像

自律型求職活動モデルの実用可能性を検討するため、同モデルが示す望ましい求職活動の基準を、職業相談・紹介業務でのノウハウへと落とし込んだ職業相談TIPs注) を作成し、その評価を研修生に求めた。その結果、いずれのTIPsでも、ほぼ全員が現場で有用であると評価した(図表3参照)。現場での活用については、8つのTIPs中6つのTIPsで、いずれも過半数の研修生が活用は困難ではないと評価し、残りの2つのTIPsは、求職者に自身の焦りや直面している問題に気づきを促すTIPsであり、活用は困難であるという評価が過半数を超えた(図表4参照)。

注)職業相談TIPsは、「職業相談・紹介でのちょっとした表現上の心がけや言葉遣いの工夫」(労働政策研究・研修機構,2017b:p.61)と定義され、職員が求職者とのやりとりの中で活用できる具体的なノウハウを表現しものである。

図表3 職業相談TIPsの現場での有用性 (単位:%、N=57)

図表3画像

図表4 職業相談TIPsの活用の困難性(単位:%、N=57)

図表4画像

これらの結果から、ほとんどの参加者が自律型求職活動モデルの現場での実用可能性を認めたと言えよう。

政策的インプリケーション

本研究の結果から、現場での自律型求職活動モデルの実用可能性の手応えをつかむことができた。今後の課題としては、求職者を対象とした自律型求職活動モデルに基づく求職活動支援プログラムの開発にある。このため、イブニングセッションの機会などを利用し、ハローワーク職員である研修生に協力をお願いし、求職者の立場から同プログラムを評価する機会をつくり、その結果をもとに、よりよい研修プログラムへと洗練させていくことが重要である。

その上で、ハローワークにおける初回講習や求職活動支援セミナーなどで試行的に同プログラムを実施し、アンケート調査などを利用して、求職者から評価を収集し、プログラムの改訂を続けていく必要がある。このアンケート調査の結果がよい場合は、プログラムのマニュアルを開発し、ハローワークで広く実施できるように普及活動を進めていくことになる。

政策への貢献

求職活動支援の研究を日本に紹介することにより、次の二つの効果が期待される。まず、研修プログラムの研究開発に関わる方法論の理解を通して、この領域の研究の活性化を促すことである。そして、これまで日本ではあまり紹介されて来なかった求職活動支援に関わる理論の導入により、ハローワーク職員の現場での経験を体系的に整理し、実践的な知識として職場に効率的にノウハウを蓄積できるようになることである。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「全員参加型の社会実現に向けたキャリア形成支援に関する研究」
サブテーマ「職業相談・紹介技法と求職活動の支援に関する研究」

研究期間

平成28年~令和元年度

研究担当者

松原 亜矢子
労働政策研究・研修機構 キャリア支援部門 統括研究員
榧野 潤
労働政策研究・研修機構 キャリア支援部門 副統括研究員
山口 綾香
有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部ヘルスケア マネージャー

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