ディスカッションペーパー25-07
外国人技能実習生のキャリア選択と仕事環境
―広島県アンケート調査の2次分析から―
概要
研究の目的
関連する制度の改編(特定技能制度の創設、技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設)により、これらの枠組みを利用して日本で就労する外国人材のキャリアは多様化することが予想される。本稿では技能実習生を対象として実施したアンケート調査個票の2次分析から、技能実習生の実習修了後のキャリア選択に関する志向性に対して現在の会社の仕事環境(賃金と職場のコミュニケーション)などが与える影響について検討を行った。
研究の方法
- 広島県が2019年に県下の技能実習生を対象として実施したアンケート調査個票の2次分析。調査及び調査結果の概要は広島県公表の報告書等
を参照されたい。
- 技能実習生の実習修了後のキャリア選択の志向性(キャリア選択の類型)は、勤続志向(実習修了後も、現在の会社で現在の仕事を続けたい)、転籍志向(実習修了後は日本で現在の仕事を続けたいが、現在の会社で働き続ける意向は弱い)、転職志向(実習修了後は、日本で別の仕事、別の会社で働きたい)、帰国志向(実習修了後、日本で就労する意志はない)の4つに類型化した。また現在の会社の仕事環境(仕事環境の類型)は、現在の仕事の良い点を尋ねる設問(複数回答)における「給料や働く条件」と「会社の人が親切」の選択状況から4つに類型化した。
主な事実発見
- 仕事環境の類型別のキャリア選択の類型の分布は、図表1のとおりである。現在の会社の良い点のうち「給料や働く条件」と「会社の人が親切」の双方を選択した場合は勤続志向の、「給料や働く条件」のみを選択した場合は転籍志向の、「給料や働く条件」と「会社の人が親切」のいずれも選択しなかった場合は転職志向と帰国志向の割合が高い。
- キャリア選択の類型に対する仕事環境の類型の効果について、属性に関する変数などを同時投入した多項ロジスティック回帰分析に基づく予測値は、図表2のとおりである。たとえば勤続志向を最も選択しやすいのは「給料や働く条件」と「会社の人が親切」の双方を選択した場合であり(約60%)、次に「給料や働く条件」と「会社の人が親切」のいずれかのみを選択した場合で選択しやすく(それぞれ約30%)、最も選択しにくいのはいずれも選択しなかった場合である(約25%)。統計的に有意な差異があるのは、「給料や働く条件」と「会社の人が親切」の双方を選択した場合と、それ以外の3つのカテゴリー間である。
図表1 仕事環境の類型別 キャリア選択の類型の分布
n | 勤続志向 | 転籍志向 | 転職志向 | 帰国志向 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
(人) | (%) | (%) | (%) | (%) | (%) | ||
計 | 845 | 100.0 | 33.5 | 36.0 | 12.1 | 18.5 | |
給料や働く条件 | 会社の人が親切 | ||||||
○ | ○ | 137 | 16.2 | 58.4 | 21.2 | 6.6 | 13.9 |
○ | × | 142 | 16.8 | 31.0 | 44.4 | 9.2 | 15.5 |
× | ○ | 305 | 36.1 | 32.1 | 39.7 | 11.5 | 16.7 |
× | × | 261 | 30.9 | 23.4 | 34.9 | 17.2 | 24.5 |
注1:n列左側の単位は人、右側斜体は構成比(単位:%)。
注2:分布(単位:%)について、計での分布より5%ポイント以上高い箇所は灰色、低い箇所は下線で示している。
図表2 キャリア選択の4類型に対する仕事環境の類型の効果
注:赤線は両カテゴリー間の差異が5%水準で統計的に有意であることを意味する。
政策的インプリケーション
特に地方部では外国人材がより賃金の高い会社や地域へと移動することへの懸念が大きいものと思われるが、本稿での分析からは、賃金だけでなく職場のコミュニケーションを充実させることが、彼らの職場への定着を促進しうることが示唆される。地域の労働行政は、地場の受入れ企業に対して、この点についての啓発・支援に取り組むべきであろう。
政策への貢献
国や地域の労働行政が外国人雇用対策の在り方を検討する際に、基礎資料として活用されることが期待される。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」
研究期間
令和6年度