資料シリーズNo.270
特定技能1号外国人の受け入れ・活用に関するヒアリング調査

2023年6月26日

概要

研究の目的

深刻な人手不足への対応を目的とした特定技能1号外国人の受け入れと活用実態については十分に明らかではないが、受け入れ企業がすでに活用している外国人カテゴリーや他の雇用形態の従業員との調整の必要等に応じた特徴がみられることが予想される。本調査では、企業ヒアリング調査から特定技能1号外国人の受け入れ方法や雇用管理等の実態を明らかにする。

研究の方法

企業ヒアリング調査(19件、うち2件は事業所調査)。多様な特定産業分野での事例が収集できるように配慮し、関東、中部地方における中~大規模企業を中心に選定している。

主な事実発見

  • 少なくとも日本社会や日本の職場への慣れ、一定の日本語能力の獲得といった点に注目すれば、「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」を有する外国人材(特定技能1号)を「つくる」のは、技能実習制度と留学制度(とくに専門学校)だといえる。本調査では技能実習修了者を採用する事例企業が多くみられたが、属性(どこで実習をおこなっていたか)別にみた技能実習修了者の保有知識・スキルは図表1のように要約できる。

    図表1 技能実習修了者の属性と知識・スキル

    図表1画像:技能実習修了者の属性と知識・スキル

  • 特定技能1号外国人は職場の即戦力として好意的に受け入れられており、またとくに自社の技能実習修了者の場合は後輩にあたる技能実習生を指導できる点において活路が見いだされている。一方で特定技能1号外国人の処遇に注目すれば、特定産業分野や企業ごとに活用の方途が異なることも示唆される。技能実習からの移行を念頭におき、賃金の支払い形態に注目して要約するならば、月給制の場合は①おもに正社員に準拠、②技能実習時からの一貫した育成を重視、③技能実習時と比べて賃金は大幅に上昇、といった特徴がみられる。他方で時給制の場合にみられる特徴は①おもにパート社員に準拠、②他社の技能実習修了者も積極的に採用、③技能実習時から賃金は段階的に上昇、である。
  • 本調査結果にもとづき特定技能外国人の中長期的な職場への定着を見通した場合、その活用と処遇の道筋は複数に分岐していくことが予想される。特定技能1号外国人を正社員と同等に処遇している場合、職場の特定のスキルの熟達がみられる「熟練タイプ」と、人手不足の職場を離れての活用もありうる「技人国(技術・人文知識・国際業務)タイプ」にわかれていくものと思われる。また特定技能1号外国人を非正社員(パート社員)と同等に処遇している場合、職場や職場要員の管理業務を担いうる「正社員登用タイプ」と、職場の特定のスキルの熟達がみられ、職場の外国人社員や非正社員のリーダーとしての役割も担う「基幹パートタイプ」にわかれていくものと思われる(図表2)。

    図表2 特定技能外国人の中長期的な活用の展望

    図表2画像:特定技能外国人の中長期的な活用の展望

政策的インプリケーション

  • 特定技能外国人の受け入れルートは多様であってよいが、日本における「一定の専門性・技能を有し即戦力となる」特定技能外国人の持続的な活用を目指すにあたっては、人権侵害等の防止を徹底することを前提としつつ、技能実習制度、加えて留学制度が持つ「人づくり」の機能が有効に発揮されるような制度設計をおこなうことが期待される。
  • 特定技能外国人の中長期的な活用を見込む特定技能2号を今後考えるにあたっては、特定産業分野別の人材活用の在り方を、それぞれの産業政策として示す必要がある。また労働行政および労働政策研究が有する知見の蓄積をそうした特定産業分野別での検討に活かしながら、外国人材と日本企業の双方にとって有益な外国人労働者政策の在り方に関する議論をおこなうことも期待される。

政策への貢献

  • ヒアリング調査の多くには厚生労働省外国人雇用対策課職員が同行し、即時の情報共有をおこなっている。
  • 「外国人雇用対策の在り方に関する検討会」(第9回、2022年10月27日、第10回、2023年3月29日)にて本調査結果の概要を報告した。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様な人材と活躍に関する研究」
サブテーマ「多様な人材と活躍に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

山口 塁
労働政策研究・研修機構 研究員
岩月 真也
労働政策研究・研修機構 研究員
夏 天
労働政策研究・研修機構 アシスタントフェロー

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