海外労働情報2014
労働力開発とコミュニティ・オーガナイジング

掲載日:平成26年5月27日

概要

研究の目的

「労働力開発」の政策的・実践的課題をめぐる、アメリカのさまざまな人びと(支援対象者と向き合う現場の最先端にいる者から、連邦政府で雇用訓練政策の実務を担う者まで)の模索と創意工夫――「コミュニティ・オーガナイジング 」について具体的に示すと同時に、なぜ、そのような模索と創意工夫とが必要となったのか、また続けていかねばならないかについて、社会的・経済的・政治的背景を通じて探るとともに、コミュニティにおける最適なマッチングの在り方、労働需要・供給双方の利害調整とコミュニティ・カレッジの役割、連邦政府の方針を明らかにする。

研究の方法

文献調査、インタビュー調査、質問紙票調査

主な事実発見

「労働力開発」を行う理由は、働くことによって人々を社会に統合させるためでもある。だが、社会は不変ではない。そうした変化のなかで、労働力開発によって社会に統合する意味や方法もまた変わっていく。

アメリカ政府は、企業が行う職業訓練に労働組合を参加させることで労使間の力関係の均衡をはかってきた。その前提は、人材の能力に対する企業のニーズが比較的に変化しないことや、労働者雇用が長期間にわたり安定していることだった。その前提が崩れたことにより、団体交渉を軸にした伝統的な労使関係が変化し、職業訓練は労働組合の交渉力を高めるという目的から企業競争力を高めることへ移るとともに、団体交渉の枠組みの外に置かれる労働者は、企業が提供する職業訓練を受けることができなくなってきたなど、労使関係の変化がアメリカにおける労働力開発の現在に大きな影響を与えている。

団体交渉の枠組みに変わり、中心的な役割を担うようになってきたのがコミュニティ・オーガナイジングである。コミュニティとは、自然発生的でユートピア的な地域共同体をさすわけではない。利害関係者を一つのテーブルに集めるとともに、そのなかからリーダーを選び出し、自立的に利害調整を行う場である。その前提には、政府/市民社会/ビジネス界を各頂点とする三角形として表象できる、という「アメリカ三角形社会観」がある。コミュニティ・オーガナイジングの役割は、市民社会を軸にしてアメリカ三角形社会観に属する利害関係者を組織し、労働力開発の結節点となることである。その手法は、アリンスキーにより1930年代から始められたものであり、計画的に育成されたコミュニティ・オーガナイザーが関係者の利害を調整している。

コミュニティ組織は、就労を通じた生活保障という役割も持っており、その事例として、コミュニティ・ベースト・オーガニゼーション(CBOs)を取り上げている。地域開発を実施する際に、貧困層を保護するための契約をディベロッパーと結ぶ、労働力開発にかかわる自治体予算を有効なものとする、地域における就労訓練にかかわるワンストップサービスを提供する、といったことである。

コミュニティ・オーガナイジングを活用した労働力開発としては、ミシガン州政府の労働力開発機構、ミシガン・ワークス!と、コミュニティ・カレッジ、連邦労働省の施策をとりあげた。

こうした手法は、利害関係者に経営者を加えることで、経営者の求める能力や経営環境の絶え間ない変化への対応を可能にする一方で、職業訓練インストラクターの雇用が柔軟にならざるを得ないという側面を持つ。それは雇い止めや収入低下に直面する可能性のことであるが、そうしたインストラクターの資格認定と権利擁護のための組織NAWDPを取り上げた。

政策的含意

「労働力開発」は、労働需要側が参加してさまざまな関係者との間で利害を調整することにより、労働需要側が求める能力を身につけるための訓練プログラムの設計と職業斡旋を地域コミュニティレベルで実践する。これは、労働供給側を訓練することに留まらず、需要側を開発することになる。ここで利害調整を行う手法が、コミュニティ・オーガナイジングである。

地域コミュニティで、企業や地域住民、学校、労働組合、コミュニティ組織といったさまざまな関係者による利害のせめぎ合いという手続きを経るが、それが地域コミュニティにとって望ましい職業訓練や雇用の在り方を探るものとなっている。この手続がトレーニングを受けたコミュニティ・オーガナイザーによって行われている。そうした地域コミュニティレベルの利害調整のなかに、職業斡旋と福祉、職業訓練のワンストップセンターやコミュニティ・カレッジが位置づけられている。コミュニティ・カレッジが認定する資格も関係者による利害のせめぎ合いの産物であるがゆえに、労働需要側の有効性が高まる。

政策への貢献

経営側のニーズや経営環境の絶え間ない変化に対応する労働力開発とコミュニティの再生という視点でのアメリカの状況に関する情報が、職業訓練やコミュニティ開発といった点での示唆を与えることを期待する。

付随情報

研究の区分

自主調査

研究期間

24年度~26年度

研究担当者

遠藤 公嗣
明治大学教授
筒井 美紀
法政大学准教授
米澤 旦
明治学院大学専任講師
山崎 憲
労働政策研究・研修機構 国際研究部
岩田 敏英
労働政策研究・研修機構 国際研究部

(所属・肩書きは執筆当時)

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