ドイツにおける労働時間改革の現状

ハルトムート・ザイフェルト
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)元所長

1. はじめに

ドイツでは、現在の連立政権が2021年連立協定において、2025年秋まで続く立法期間中の労働時間制度の分野で幾つかの改革プロジェクトに合意した。しかし、決定は現在のところまだ保留されている。とりわけ大きな議論を呼ぶものだけに、次の総選挙までに決定が下されるかどうかは、全く不確かである。特に大きな改革は2つあり、第1に、労働時間記録の一般的導入、第2に、ホームオフィスの法整備、となっている。全ての関係者が納得する実行可能な解決策を見つけて実行するためには、立法期間終了まで時間はあまり残されていない。政治情勢が複雑であるため、これは容易ではないだろう。連立政権を構成する3党の間だけでなく、野党や主要な社会団体、使用者団体、労働組合との間にも論争が存在する。

本稿では、前述した2点に関する最新の議論の状況を記述し、考察する。

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2. 労働時間の記録

2.1 法的状況

労働時間法(ArbZG)の規定では従来、就労日に労働時間を記録するのは労働時間が1日8時間を超えた場合のみとされていた。この上限は、6暦月又は24週間以内に1労働日平均8時間を超えない場合に限り、10時間まで延長できる(労働時間法第3条)。

この労働時間の記録に関する一般規定から逸脱する例外もある。例えば日曜・祝日に稼働した労働時間はすべて記録しなければならない(労働時間法第16条第2項)。記録義務は、僅少労働者(ミニジョブ)(注1)に対して、さらには最低賃金の支払いにおいて特に濫用の危険性がある特定の部門でも適用される(最低賃金法第17条)。最低賃金が実際にすべての労働時間に対して確実に支払われるようにするために、労働時間を記録しなければならない(1日の労働時間の開始、終了、継続時間)。これには、例えば建設業、飲食・旅館業、運搬・輸送・物流部門、林業会社、ビル清掃、見本市建設、食肉産業が含まれる。新聞配達員や宅配便の従業員も労働時間を記録しなければならない。この法律は、労働時間をどのように記録するか、つまり、紙やエクセルに手で記録するか、デジタル記録システムを利用するかについては定めていない。

しかしながら、この法的状況は、2019年5月に欧州司法裁判所が下した重大な判決(欧州司法裁判所 2019)によって覆された。この判決によれば、加盟国は使用者に対し、従業員の全労働時間を体系的に記録することを義務付ける。使用者は、「各従業員が稼働した1日の労働時間を測定するために、客観的で信頼性が高くアクセス可能なシステムを確立」しなければならない(欧州司法裁判所 2019)。この判決は、労働者の安全と健康をより確実に保護し、過剰な労働時間を抑制することを目的としている。欧州司法裁判所はまず、労働憲章で保証され労働時間指令によってその内容が具体的に規定されている最長労働時間の制限と、毎日・毎週の休息時間に対してすべての従業員が基本的権利を有することの重要性を指摘している。その上で、EU法を最終的な拘束力を持つ形で解釈し、時間の記録義務は欧州基本権憲章と、労働者の基本的権利(最大労働時間の制限と毎日・毎週の休息時間に対する明確な権利を含む、健康的で安全な労働条件に対する権利)から重要な社会政治的原則として生じると判定した(Ulber 2020)。これらの法的要件、すなわち2回の勤務の間に11時間の中断のない休息時間(勤務間インターバル)(労働時間指令2003/88第3条第1項)及び1週間に24時間の連続した最低休息時間(労働時間指令第5条)を遵守するためには、1日の労働時間の開始と終了を記録する必要があるとした。

これに基づき、ドイツの連邦労働裁判所(BAG)は2022年9月13日、使用者は時間外労働を含む毎日の労働時間の開始と終了を記録するシステムを導入し、適用しなければならないとの判決を下した。使用者(雇用主)は記録義務を、例えば人事部や従業員に委ねることができる。しかし、使用者は引き続き責任を負い、記録が法的要求も満たしていることを保証しなければならない(Aich 2023)。

こうしてすべての従業員の全労働時間の記録が義務化された。労働時間を記録することで、実際の労働時間を効果的に管理することが可能になり、それにより「労働時間に敏感なリスク判定」の基礎を提供する(Kohte 2023, p.37)。このリスク判定はまた、労働者の精神的負担を認識し、評価し、回避する上でも重要である。ただし連邦労働裁判所は、この判決において、具体的に労働時間をどのような形で記録すべきか、電子的手段によるか、書面によるかについては定めていない。

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2.2 労働時間記録の普及

現在、労働時間の記録は多くの企業で導入されており、ほとんどの従業員にとって日常業務の一部となっている。全従業員のほぼ5分の4(79%)が毎日の労働時間を記録しており、そのうち47%は事業所が記録し、32%は本人が記録している(連邦労働安全衛生研究所(BAuA) 2022)。労働時間の記録の形式は定められていないが、電子記録システムがますます普及している。

注目されるのは、「労働時間口座」が導入されているところでは、時間記録がより頻繁(95%)に行われていることである。それ以外では、男女間、従業員の年齢層、正規雇用者と非正規雇用者の差はないか、ほとんどない。経済構造上の特徴や職業という点で見ると、幾分異なる。例えば労働時間の記録は、サービス業(75%)よりも工業(85%)において頻繁に行われ、また従業員250人以上の大事業所(83%)の方が従業員49人以下の中小事業所(74%)よりも頻繁に行われる。職種間でも同様の違いが見られる。製造業では従業員の大多数(91%)が1日の労働時間を記録しているが、社会的・文化的サービス業では63%と平均を下回っている(連邦労働安全衛生研究所(BAuA) 2022)。

労働時間の記録が、特に労働時間が口座によって管理されているところでは、ほとんどの従業員にとって日常的な労働生活の一部であるというのは妥当であると思われる。というのも、労働時間口座は、1日の労働時間の開始、終了、継続時間を(労働協約又は事業所協定に取り決めた限度内で)可変的に編成できるようにする目的で導入されるからである(Seifert 2023)。労働時間が長いときも短いときもあるとすれば、1日の労働時間の主要時刻を登録することは、事業所と従業員双方の利益になる。なぜなら、そのようにすることによってのみ労働協約又は個別に合意された標準労働時間が、所定期間の平均で実際に守られているかを双方が確認できるからである。

大半の企業や事業所で労働時間が一様に決められていた時代はほぼ終わり、変則的な労働時間が普通になっている。従業員又は事業所は、労働時間口座の状況やプラス時間とマイナス時間を管理しなければならない。従業員は、自分の報酬に見合う時間より長く働いていないことを確認したい。事業所としては、合意され報酬を支払った労働時間(平均)が実際に稼働されていることを確認したい。銀行口座と同様に、労働時間口座の動き(入金と出金)は記録され、従業員が時間の貯金又は借金をしているかを確認するために記帳されなければならない。労働時間を記録することによってのみ、労働協約又は事業所協定で取り決めた補償時間が守られているかどうかを監視することができる。この目的のために、毎日の労働時間の正確な記録が役立つ。

電子的な方法による時間記録が主流となっている。これには、スマートフォンのモバイル時間記録アプリも含まれる。電子的時間記録の1回限りの導入コストは、1社あたり450ユーロと見積もられている。電子的時間記録には幾つかの利点がある。手作業による書面記録よりもミスが起こりにくく、従業員にとっても事業所にとっても労力が少ないため、費用対効果も高い(Aich 2023)。時間記録アプリは、特に外勤従業員にとってその有用性が証明されている。

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2.3 論争

欧州司法裁判所の決定及び多くの企業で時間記録が実施されているにもかかわらず、その導入の義務化には依然として賛否両論がある。2023年4月に連邦労働社会省が提出した労働時間法改正草案の議論には、依然として対立軸がはっきりと見て取れる。この草案は、基本的に以下の変更を規定している。

  • 労働時間は、労働が行われた日にその都度電子形式で記録されるべきである。労働協約の枠内でこれを逸脱し、代わりに紙媒体での記録を認めることができる。
  • 労働時間の電子記録の義務化(記録そのものではない)については、事業所の規模に応じて最長5年の経過措置期間が設けられている。
  • 信頼労働時間(Vertrauenszeit)(注2)は引き続き可能であり、使用者は労働時間の記録を従業員に委ねることができる。ただし、記録の最終的な責任は使用者にある。
  • 労働者は、請求することにより、記録された労働時間に関する情報を受け取ることができる。
  • 管理職で、従業員を自己の判断で雇用及び解雇する権限を有するか、又は重要な代理権を有する者は、労働時間の記録から除外される。

2023年10月6日、ドイツ連邦議会の労働社会委員会は、労働時間記録の義務化の導入計画に関する公聴会を開催した(ドイツ連邦議会 2023)。その背景にあったのは、連邦労働社会省が提示した草案である。労働時間記録の義務化を成立させるために野党会派「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」と「左派党(Die Linke)」がそれぞれ提出した2つの動議について、労使団体や学界の専門家がそれぞれの見解を明確にすることになった。CDU/CSUの動議は、とりわけ信頼労働時間の時間記録を拒否し、記録方法の自由な選択を支持しているのに対し、左派党は、労働時間をEU法に従って記録することに賛成している。

労働協約の当事者(労使)も異なる立場を取っている。労働組合は、毎日の労働時間記録の義務化と、EU法の要件のドイツ労働時間法への転換を強く求めている。彼らは、信頼できる労働時間の記録は、時間外労働、過重労働、過度な要求を抑制するための重要な前提条件と見ている。それによって過剰な労働時間、少なすぎる休憩や休息時間を防ぐこともできる。このことは、不健康な労働条件を撤廃する一助になるという(DGB 2022)。さらに彼らは、使用者団体が要求しているように、あくまでも1日の労働時間の上限を維持し、1週間の労働時間の上限を超えないという条件でこれを放棄しないことも提唱している。また、彼らは労働時間記録を義務化するとともに、引き続き信頼労働時間を実施することに問題はないと考えている。

これとは対照的に、金属産業の使用者団体ゲザムトメタル(Gesamtmetall)は、記録方法の選択の自由を支持し、さらに1日の正確な時間記録に反対し、延長労働の記録義務で十分であるとする一方、1日の労働時間の開始と終了の記録は不要とすべきだと考えている(ゲザムトメタル2023)。

連邦議会の公聴会(労働・社会問題委員会)では、学術サイドから恒常的に1日8時間を超える望ましくない労働時間がもたらす健康リスクが指摘された(Backhaus et al. 2023)。それに加えて、モバイルワークは仕事と自由時間の境界を曖昧にするという。精神疾患が増加していることは、現代の労働法が制限を必要としていることを示すものである。この見解は、まさに就業者が不足し、ホームオフィスやテレワークが増加する時代にあって、労働時間が「健全な」水準を超えて増加する危険性があるという論拠によって支持される(Brors 2023)。例えば精神疾患(燃え尽き症候群)の増加は、日々の労働時間の境界がなくなったことも一因であるという。それゆえ1日の正確な記録義務が必要とされ、これは管理目的のためにデジタル化されるべきである。

上記の見解に対しては、賛成する意見ばかりではない。例えば、信頼労働時間の場合、時間記録を完全に廃止することを支持する意見もある(Thüsing 2023)。 その論拠は、時間記録の義務化は、信頼労働時間という基本的な考え方に反するであろうというものである。さらに、記録方法の選択は使用者に委ねられるべきである。

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2.4 信頼労働時間

労働時間記録の義務化の導入に関連する争点の一つが、信頼労働時間である。相対立する見解を論述する前に、信頼労働時間とは何を意味するのかを明確にする必要がある。信頼労働時間のモデルは法的に定義されていない。一定の特徴を挙げることができるのみである。特徴としては、従業員が毎日の労働時間の状況、すなわち開始と終了を自己の責任において決定することである。使用者は従業員に対して労働時間を指定しない。従業員が自己管理して労働日を自身で編成する。契約で定められた労働時間を達成する責任は従業員自身にある。このため従業員の労働時間が長くなろうが短くなろうが、労働時間口座は記録されない。重視されるのは業務の遂行(成果)であり、労働時間ではないのである。

このような特殊性にかかわらず、労働時間保護の要件(特に1日の最長労働時間と休憩時間)は厳守されなければならない。これらの要件は従業員の安全と健康保護に資するものである。従業員がいつ働くかを決定し、労働時間を自由に分割できる可能性に変わりはない。というのも、労働時間を記録する目的は、合意された労働時間を監視することではなく、労働時間法の法的な要件、すなわち最長労働時間、最低休息時間、休憩時間を監視することにあるからである。この枠組みの中で、労働時間は従業員の時間形成に応じて変化しうるのである。

従来、信頼労働時間はほとんど管理職の範囲に限られている。ユーロスタット(Eurostat)の調査(2020)によると、2019年に労働時間を完全に自由に決定できた従業員は5人に1人だった。ただし、これが信頼労働時間かどうかは、この調査では不明である(注3)

労働時間の記録の義務化は、信頼労働時間の終焉を意味するのではないかという使用者団体の懸念は理解しがたい。この見解には、労働時間コンサルタントや労働弁護士の分野からも多くの専門家が異論を唱えている。というのも、従業員がいつ働くか、そして労働時間をどのように分割するかを決定する可能性は、基本的に存続するからである(例えばHaufe 2022)。労働時間の記録は、労働時間の配分のパラメーターには影響しない。労働時間の配分は依然として従業員の管理下にあり、従業員の時間の自律性を確保する。それゆえ、労働時間の記録はそのような合意の障害にはならない。他方で、労働時間保護の法的要件(特に1日の最長労働時間と休憩時間)は、従業員の安全と健康保護を目的としており、信頼労働時間の場合であっても、既に現行の法的条件下で遵守しなければならない。したがって、労働時間の記録が義務化されても、これらの要件を遵守した信頼労働時間は引き続き可能である。それどころか著名な労働時間コンサルタントのHoff(2022)は、記録義務に肯定的な側面すら見出している。その主張によれば、記録義務は、信頼労働時間に内在する際限のない労働への傾向に対する重要な防護柵(Leitplanke)を提供するという。

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3. モバイルワークにおける共同決定

3.1 定義

モバイルワークとは、「テレワーク」と「ホームオフィス」という2種類の事業所外労働の総称である。この2つは、重要な規制的側面(ドイツ連邦議会 2017)により区別される。ホームオフィスの概念は、テレワークとは異なり法律上定義されていない(作業場規則第2条第7項)。テレワークの場合、仕事は事業所外に固定的に設置されたVDT作業(注4)場―通常は従業員の自宅―で、決まった労働時間に行われる。条件は拘束力のある方法で合意されなければならず、テレワークに関する法的規定を遵守しなければならない。

テレワークの導入と利用は、使用者と労働者がテレワークの条件を労働契約又は労働協約の枠組みの中で定め、かつ、使用者が家具や通信手段を含む作業用具などテレワークに必要な設備を、労働者のプライベートスペースに準備・設置した場合に限られる(労働場所に関する規則(Arbeitsstättenverordnung)第2条第7項)。テレワークは、ホームオフィスとは違ってあまり普及していない。この形態のモバイルワークは、パンデミック中もほとんど増加していない(Hofmann et al. 2023)。

他方で、ホームオフィスの導入に関する法的規制はないため、労働契約の当事者(労使)は自主的にこのような勤務形態に合意することができる。その前提となるのは、使用者による自発的な決定である。ただし、使用者は従業員のモバイルワークの要望に応える義務はない。また、事業所の代表者も従業員にホームオフィスを強制することはできない。拒否は、その理由づけを必要としない。一部の労働者は労働組合の支持を受けて、ホームオフィスに対する法的請求権の導入を要求したことがあった(ドイツ連邦議会2021)。しかしながら、この要求は使用者団体と一部の政党によって拒否された。立法者は大きな議論を呼んだこの提案をまだ取り上げていない。

以下ではホームオフィスに焦点を当てる。というのも、この形態のモバイルワークは特に規制されておらず、しかもテレワークと比較して圧倒的に事業所外で働くモバイルワークの主流をなしているからである。

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3.2 初期状況の変化

新型コロナのパンデミックは労働の世界を大きくに変え、モバイルワークの重要性が急速に高まった。2022年には就業者全体のほぼ4分の1がホームオフィスで仕事をした(連邦統計局2023)。過半数が毎日又は週の大半でモバイルワークの選択肢を利用した(Hofmann et al. 2023)。在宅勤務の可能性は、職種によって大きく異なる。在宅勤務が最も少ないのは予想通り工場や機械のオペレーター(1.8%)と非熟練労働者(2.2%)であり、在宅勤務が最も普及しているのは研究者(50.6%)と管理職(42.2%)である(連邦統計局2023)。

以前は従業員の約10%を占めていた在宅勤務がパンデミックの間に急増したことを受けて、立法者は重要性を増すこの行動分野に対して、従業員代表委員会の特別の共同決定権を保証した。従業員代表委員会近代化法の一環として、2021年6月に新しい規則が施行されたのである。この規則は、情報通信技術を利用したモバイルワークの編成に従業員代表委員会が共同決定できることを規定している(事業所組織法(BetrVG)第87条第1項第14号)。それゆえ、モバイルワークを具体的にどのように編成するかの問題では、従業員代表委員会が常に共同決定しなければならない。これには以下の事項に関する規定が含まれる。

  • モバイルワークの時間的範囲
  • 1日の労働時間の開始と終了
  • モバイルワークが可能であり、かつ許される場所
  • 勤務場所への出勤義務
  • 連絡可能性
  • 作業用具の取り扱い

もっとも、モバイルワークを導入するかどうかの決定は使用者に委ねられている。したがって、従業員代表委員会にはモバイルワークに対する真の主導権はない。このことは連立政権の構想でも想定されていない。連立政権は連立協定の中で協議請求権の導入に合意したにすぎない(連立協定2021)。つまり、適切な職務に就く従業員に対して、モバイルワーク及びホームオフィスに関する「協議請求権」を保証したいと考えており、それによると使用者が従業員の希望に反対できるのは、業務上の利益に反する場合に限られる。つまり、拒否は実情に反したり恣意的であったりしてはならない。

なお、使用者団体は、モバイルワークがすでに非常に広く普及していることに鑑みて、この協議請求権を拒否している(BDA 2021)。

事業所協定は、現時点ですべての事業所で導入されているとは言い難い。在宅勤務を選択できる従業員のうち、事業所協定が締結されていると回答したのは半数強にすぎない(Institut DGB-Index Gute Arbeit 2022)。この数字で注目すべきは、従業員の半数弱(43%)が従業員代表委員会を設けている事業所で働いていることである(連邦統計局2024)(注5)。概してこのような事業所でのみ、経営陣と従業員代表委員会との間で事業所協定を結ぶことができる。代表的とは言えないが人事管理者を対象とした別のアンケート調査では、ホームオフィスに関する事業所協定を結んでいる事業所の割合は82%弱となっている(Hofmann et al. 2023)。ホームオフィスに関する協定がない場合は、使用者が一方的にホームオフィスでの仕事を導入したり、労働者に強制したりすることはできない。その場合は、従業員の同意が必要となる。

ホームオフィスの選択肢が申し出られた場合、使用者は業務の遂行に必要なすべての作業用具を提供する義務がある。これは在宅勤務の場合、例えばインターネットに接続可能なノートパソコン又はスマートフォンである。使用者はさらに、電話代、電気代、インターネット代などのランニングコストを負担しなければならない。

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3.3 評価

共同決定権の拡大に賛成する正当な理由がある。現在ではかなり広範な学術文献が、ホームオフィスの利用に伴う幾つかの問題点を明らかにしている。これはとりわけ労働時間の長さに関するものである。さらに、ホームオフィスの場合は、労働時間と休憩時間が一部不明瞭な形で混在する。その上、労働時間はしばしば終業後まで延長されたり、勤務時間外でも従業員に業務上の連絡が入る(Arlinghaus/Nachreiner 2014、Beermann et al. 2017、Ojala et al. 2014、Hofmann et al. 2021、Backhaus 2022)。さらに、ホームオフィスの場合はより頻繁にプレゼンティーイズム(注6)、すなわち病気にもかかわらず働くことが観察される。とりわけ、これは自己危殆化傾向の表れである(Steidelmüller et al. 2020)。

経験的調査の結果、労働保護の観点から、ホームオフィスの実際の労働条件を検証することは難しいという結論に達している(Krause, Matuschek 2023, p.140)。とりわけ電子時間記録システムを導入して日常的に使用するためのコストは無視できる程度なので、反対の論拠として主張するのは難しい。結局のところ、時間記録はほとんどの従業員の日常業務の一部なのである。これまでのところ、使用する事業所からも従業員からも、深刻な異議は出されていない。

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4. 要約

連立政権が現在の立法期間中(2021-2025)に、労働時間記録の法改正を実施するかどうかは非常に不透明である。しかし、現に労働時間記録はすでに実施されている。労働時間記録の義務化の導入に関する欧州司法裁判所と連邦労働裁判所の判決は、柔軟な労働時間モデルを何ら制限するものではない。労働時間の記録は、労働時間の変動的配分とは関係ない。重要なのは、特定の労働時間の数値が、今後は正しく記録されるようにすることだけである。ホームオフィスや信頼労働時間など、現代的な労働形態は引き続き実施することができる。残業も労働時間法の枠内で引き続き可能である。

ホームオフィスの導入における共同決定の可能性を拡大することは、在宅勤務が確実な軌道を進むための一歩であることは間違いない。ただし、従業員側からすれば、ホームオフィスの導入を開始する法的請求権はない。政治的な議論を見ても、連邦政府がこの法的請求権を保証する考えはないようである。

プロフィール

写真:ハルトムート・ザイフェルト氏

ハルトムート・ザイフェルト (Dr. Hartmut Seifert)
ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)元所長/JILPT海外情報収集協力員

ベルリン自由大学卒業(政治経済学博士)。1974年から連邦職業教育訓練研究機構(BIBB)研究員、1975年からハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)主任研究員、1995年から2009年まで同研究所の所長を務める。2010年に当機構の招聘研究員として1カ月半日本に滞在。専門は経済、雇用・労働問題。特に非正規雇用に関する専門家として多くの研究成果を発表。主な研究業績として「非正規雇用とフレキシキュリティ」(2005)、「フレキシキュリティ-理論と実証的証拠との間に」(2008)など多数。

参考文献

参考レート

関連情報

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