デンマークの国家公務員の働き方

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シリーズ第1弾は、デンマークで国家公務員として15年間勤務されている猪木祥司氏へのインタビューに基づき情報を取りまとめた。
なお、本内容は、猪木氏が個人の業務経験について自由にその印象や感想を述べたものであり、デンマークの国家公務員の働き方に関する政府の公式見解や公務員の働き方全体を網羅したものではないことにご留意頂きたい。

(掲載日:2022年4月15日)

外国籍でも応募可能

―デンマークには、外国籍の公務員は多いのですか。

デンマークの国家公務員の採用は、日本の国家公務員採用試験のように一斉テストがなく、必要な人材ごとに公募します。

国家公務員になることを希望する場合には、各省庁から出される求人広告に対して、自身の履歴書とカバーレター(注1)を送付して応募し、書類選考に通れば、面接という流れになります。

最近は、面接も専門化しており、事前に出される課題についてプレゼンを行ったり、適性検査が実施されたりすることもあります。基本的に、面接は1回から2回で、その後、以前の職場の上司等に対して照会を行ない、採用が決定します。国家機密等に関与する行政職でない限り、セキュリティー・クリアランス(security clearance)(注2)は実施されません。

日本では人事院規則(注3)により、外国籍の者は国家公務員採用試験を受けることができませんが、デンマークでは外交官等の一部の職種を除き、滞在・労働許可証を持つ外国人は国家公務員職に応募することが可能です。介護職員等を含めた国家・地方公務員に占める移民一世の割合は8.6%で、民間の13.2%(2021年第2四半期、デンマーク統計局)に比べると低くなっています。実際にデンマークでデスクワーク中心の国家公務員として働く外国人は、高いデンマーク語能力が必要なためか、まだまだ少数にすぎないと感じます。

公務員=終身雇用とは限らない

―公務員は終身雇用で安定しているため、希望者は多いのではないのでしょうか。

デンマークの国家公務員について、以前は、終身雇用も見られましたが、最近は、正規採用の場合でも、勤務期間によって、3カ月から6カ月の解雇通知期間が設けられている場合がほとんどです。もし自己都合によって退職する場合は、月末から1カ月で退職が可能です。基本的に公務員職は公募することになっており、内部と外部の志願者を一緒に審査します。デンマークの求人のほとんどには、採用する上司の電話番号が求人広告に記載されており、そこに電話をかけて、求人内容について質問することが可能です。

管理職も公募制

―どのような感じで、昇進していくのですか。

管理職でない場合は、同じポストで昇進する場合もありますし、自分の興味のある上級ポストに応募して昇進していく場合もあります。課長職以上のポストは公募制で、3年から6年の期限付きの契約で、最高9年までの契約延長が可能です。すでに終身雇用の公務員が管理職ポストに応募する場合、志願書をデンマーク女王宛にするという面白い伝統もあります。

定期異動職は減少傾向

―数年ごとに定期的に異動するのですか。

かつては、定期異動を前提(最初の10年間に省内で3回ほど異動する等)とした採用もありましたが最近はそうした採用は少なめで、スペシャリストではなく幅広いポジションにつけるジェネラリストとして採用された場合も、自身で次のポジションを見つけて応募することが多い印象があります。

例外として挙げられるのは、外務省の外交官コースで、数年ごとの定期異動が前提となっており、3年間の外交官コースを経て、外交官として活躍することになります。

部署等により働き方はさまざま

―長時間残業をしたり、私生活との両立が大変だったりすることはありますか。

政策立案に関わる部署については、新法を作成する場合、夜遅くまで働いたり、休日出勤をしたり、予定していた休暇を取ることができなかったりといった話を耳にしたことがあります。

しかし、デンマークでは共働きが普通で、家族との時間を大切にする慣習があるため、日本のような長時間労働が続いて家に帰れないという状況はあまり聞きません。

省庁の幹部やトップの立場でも、「今日は子供を迎えに行く日だから」と言って、平日の3時から4時頃に帰宅することも(よほど急ぎの案件がない限り)可能ですし、そのような日が週に数回ある場合も珍しくありません。

その代わり、携帯でメールをチェックして、必要があれば自宅で働くというパターンが多いです。デンマークらしいこととしては、朝8時から9時の間に働き始め、夕方4時から5時頃に一旦メールが途絶え、その後、上司が子どもを寝かせて落ち着いた夜9時や10時頃からまた部下にメールが届き始めることです。

民間より給与は低いが、福利厚生や産休等は安定

―国家公務員の待遇や福利厚生はいかがですか。

デンマークの国家公務員は、民間よりも給与は低いですが、解雇される可能性はあるものの、民間よりはある程度職が安定しています。また、休暇、産休、育休の融通が利き、昼の休憩(30分)が勤務時間とみなされるために、勤務時間が民間より短いのも魅力だと思います。立案をメインとする部署には、政治に興味があってそれが面白いから働いている人や、政策立案をしてみたいから働いている人が多い気がします。

テレワークには元々寛容

―テレワークは認められていますか。

コロナ以前から、業務に支障がなければテレワークに対しては非常に寛容な職場だと思います。例えば、歯医者等で早退してから、夕刻に仕事をしても勤務時間とみなされます。通勤時間が長い人の場合、通勤中に電車等で業務遂行する場合も勤務時間とみなされることがあります。また、会議が少なく、書類を読んだり、作成したりすることが中心の職場では週1回程度テレワークを認めるところもあります。

このような就業環境の中で、コロナウイルスの感染による「ロックダウン」が実施された際、政府は、行政業務の遂行に重大かつ必要不可欠な任務を担当する職員以外の国家公務員全員にテレワークを義務付けると発表しました。突然のテレワーク開始でしたが、アクセス集中によるVPN接続の難しさも短期間で解消され、ほとんどの業務はテレワークで問題なくこなせると労使共に実感する機会が多かったような気がします。

テレワーク慣習化には規則改正が必要

―テレワークの最新の動向について教えて下さい。

税務省の傘下にある人事院は、21年10月にコロナ下のテレワークの経験を暫定的にまとめ、全省庁に対するテレワークのガイダンスとツールを発表しました。それらによると、テレワークの導入は使用者の運営意思決定によるものとし、導入の際は業務内容に焦点を当てて、将来の業務変更に備え、変更しやすい形で導入することを推奨しています。また、導入には、職場の文化を考えながら魅力的な職場づくりに貢献するための配慮も必要としています。

現在のところケースバイケースで導入可能な職場が多い印象を受けますが、コロナ前に比べるとテレワーク利用が頻繁になっているような気がします。一部では週2日をテレワークにする職場もありますが、慣習化する場合、テレワークに関する労使間の合意や、テレワーク時の業務に関する労働環境規則の遵守が必要となるため、まだ導入されていない職場が多いのではないでしょうか。

ただ、2022年2月には、週1日から週2日を超えるテレワークもコンピューター業務時の労働環境規則(注4)の遵守対象とするという政治的合意が実現し、今年4月末から施行される予定です。この改正により、国家公務員のテレワークの慣習化が加速するかもしれません。

プロフィール

写真:猪木祥司氏

猪木 祥司(いぎ しょうじ)

デンマーク政府機関に15年程度勤務。
元JETROコペンハーゲン事務所職員/前JILPT海外情報協力員
主な研究業績として、JILPT資料シリーズ No.142(2014)『欧州諸国の解雇法制―デンマーク、ギリシャ、イタリア、スペインに関する調査』など。

デンマークのテレワーク関連規則 ※デンマーク語

デンマークの公務員に関する参考情報

図1:総雇用に占める公務員(一般政府雇用労働者)の割合(2019年)(単位:%)
画像:図1

図2:中央政府における幹部職員の女性割合(2020年)(単位:%)
画像:図2

図3:中央政府における若年労働者(18-34歳)の割合(2020年)(単位:%)
画像:図3

図4:中央政府における中高年労働者(55歳以上)の割合(2020年)(単位:%)
画像:図4

特集:諸外国の国家公務員の働き方

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