欧米諸国のLGBTの就労をめぐる状況:イギリス
LGBTの就労をめぐる状況

EU指令に基づく法整備

イギリスでは、2000年のEU雇用指令(注1)に基づく法整備により、既存の国内法で規定された性別、人種、障害に加え、新たな保護特性として性的指向、年齢、思想・信条が導入され、雇用、教育訓練、昇進、労働条件などに関する差別が禁止されることとなった。2010年には、既存の多くの差別禁止法を統合した平等法(Equality Act 2010)が成立、規制内容の明確化や規制強化が図られている。

平等法は、人種、性別、障害、年齢、性的指向、宗教・思想信条、性別の再適正化(gender reassignment)、婚姻・シビルパートナーシップ、妊娠・母性の九つを保護特性として定義し、それぞれについて、直接差別、 間接差別(特定の特性の者に不利な基準や慣行)、ハラスメント、権利の行使に対する被害(victimisation) の禁止を規定している。LGBTに対する雇用分野での直接差別としては、例えば性的指向等に基づいて不採用とすること、あるいは解雇を行うこと、訓練を提供しないこと、昇進を拒否すること、不利な労働条件を提供すること、福利厚生の提供を拒否すること、などが含まれる。また間接差別としては、採用基準やポリシー、就業規則、その他の慣行について、全ての従業員に適用されるが特定の性的指向を有する者に不利になる(意図の有無にかかわらず)場合、などがある。

雇用主の取り組み

LGBT労働者の就労状況はどうか。限られたデータに基づく統計局の分析(注2)によれば、レズビアン・ゲイ層の就業率は異性愛者に比して高く、職種別にも管理職・専門職従事者の比率が高い傾向にある。一方、調査等からは、LGBT労働者が職場において、差別やハラスメントに直面しやすいとの結果が報告されている(注3)

国内でも代表的なLGBT権利擁護団体であるStonewall(注4)によれば、雇用主の間では、各種の研修や、労働条件・福利厚生制度の見直し、いじめやハラスメントへの対策などを通じて、LGBT従業員の平等な取り扱いに関する対応が行われている。中でも重要な位置付けにあるとみられるのが、従業員ネットワークである。従業員による情報交換、相互支援、職場改善の取り組みなどの支援を主な目的に雇用主が設置しているもので、LGBT以外にも、女性やエスニックマイノリティ、障害を持つ従業員など、各種の従業 員ネットワークがある。対象範囲は、LGBT従業員を中心に、非LGBT従業員やさらに従業員以外の(社外からの)参加を認めている場合もある。

行政・NPOによる支援

平等法に基づく保護特性全般の均等政策を所管するGovernment Equalities Officeは、LGBTに関する政策方針やガイダンスなどを公表している。また、 LGBTに限定したものではないが、差別などに関する相談サービス(Equality Advisory and Support Service)や、低所得層向けの法律支援などが設けられている。このほか、公的機関には公共サービス(医療、教育など)の提供にあたって、平等配慮義務が課されている。

一方、全国あるいは自治体レベルの多くの非営利組織も、官民の雇用主や個人に対する情報提供や相談の受付、あるいは調査等を通じた支援活動を行っている。 例えばStonewallは、雇用主や労働者に対するガイダンスなどと併せて、雇用主の評価・表彰制度「職場における平等インデックス」(Workplace Equality Index)を実施、上位100社を毎年公表している。

このほか、職場におけるLGBT労働者の権利保護活動には労働組合も関与しており、例えばイギリス労働組合会議(TUC)は、LGBT労働者の法的権利に関するガイドの作成や、傘下組合およびLGBT関連団体が各種の問題を議論する全国規模の会議を開催している。

参考資料

  • Hoel,H., D.Lewis, A.Einarsdottir (2014) ”The ups and downs of LGBs’ workplace  experiences”、 Gov.uk、Stonewall ほか各ウェブサイト

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