欧米諸国のLGBTの就労をめぐる状況:ドイツ
職場にみるLGBTをめぐる主な法制度と支援状況

ドイツは、国レベルの法律による同性婚は認められていない。しかし、それに準じた制度や、LGBTも含む包括的な差別禁止法がすでに制定されている。

主な制度

EUの一般雇用均等指令(2000年)に対応する国内法の制定義務に基づき、ドイツでは2006年に「一般平等待遇法(AGG)」が導入された。従来ドイツでは、基本法(憲法)等において「法の下の平等」を定めていたが、年齢や性的志向について明示的に定めた法律は無かった。そのため、EU指令の国内法化を機に、人種、民族的出身、性別、宗教・世界観、障がい、年齢に加えて、性的アイデンティティによる差別の撤廃を明示したドイツで初めての包括的な差別禁止法として AGGが制定された。しかし、同法は、解雇を保護適用対象外としているため、国際人権擁護団体のHumanity In Action Incなどは、同法に基づくLGBT労働者の職場における救済の難しさを主張している。

このほかの制度としては、同性愛者を対象とする「登録パートナーシップ制度」があり、相続(賃借権・財産権)、社会保障に関する権利、養子制度などに関する保護がある。これは2001年に成立した「生活パートナーシップ法」に依拠しており、官庁に登録した同性カップルについて婚姻に準じた保護が認められるというものである。

NPOによる支援

ドイツにはLGBT支援団体が多数存在する。中でもドイツレズビアン・ゲイ協会(LSVD)は、国内最大のLGBT権利擁護団体(会員数3500人強、加盟団体は約80)で、国際レズビアン・ゲイ協会(ILGA)に加盟している。このほか、1991年に設立されたゲイの役員・管理職層から成るドイツの同性愛マネージャー連盟(VK)などがある。メンバーは約700人でゲイ男性が主なメンバーだが、レズビアン女性の支援組織と連携している。さらに、フランス、オランダ、スイス、オーストリア等の国外の団体とも連携し、職場における全ての差別に反対している。VKのメンバーは、ネットワーク内で互いに接触が可能で、地域情報や職場に関する情報やノウハウ交換に参加することができる。また、職場内で差別等を受けた場合、メンバーは専門的なアドバイスや実用的な支援をVKから受けたり、高度な専門訓練と個人的技能開発のための専門セミナーを受講することもできる。VKの調査によると、ドイツにおけるLGBTの割合は、全人口の5~10%とされる。VKは、ゲイやレズビアンを含むすべてのマイノリティ社員に対する保護や認知、地位向上に取り組む企業を表彰する「マックス・シュポア賞(Max Spohr Prize)」の授与を2001年から実施している。審査員には、大学教授、メディア関係者、出版関係者、統一サービス産業労組(ver.di)LGBT部会の幹部らが参加している。審査にあたり、特に留意しているのは、「ゲイのための企業」を選ぶのではなく、 全てのマイノリティに効果がある手法で、ダイバーシティ&インクルージョンに関するマネジメントを行っている企業を選定するという点である。

職安等の支援

行政による就職支援については、それほど表だった動きは確認できないが、関連の支援イベント等に参加するケースはあるようだ。

例えば、ドイツでは2010年3月に、 欧州初のLGBTに特化したキャリアイベントがミュンヘンで開催された。このイベントには、LGBTフレンドリーな企業や団体の他、連邦雇用エージェンシー(BA)も参加している。このように職業安定機関がLGBTのキャリアイベントに参加するケースは、地域のジョブセンター等でも見られる。

労働組合による支援

労働組合の支援活動については、ドイツ労働総同盟 (DGB)傘下の鉱山・化学・エネルギー産業労働組合 (IG BCE)にLGBTの権利擁護グループがあるほか、統一サービス産業労組(ver.di)でもLGBT支援を行う部門がある。このほか、教育学術労組(GEW)は、 LGBT教員の組織化や、学校教育におけるジェンダーステレオタイプの差別をなくすための若年者に対する教育活動などを行っている。

参考資料

  • 政府、労組、NPOなどの各サイト

2017年4月 フォーカス: 欧米諸国のLGBTの就労をめぐる状況

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