主要国の外国人労働者受入れ動向:イギリス

  1. 制度概要
  2. 制度改正・最近の動向等
  3. 流入・流出・在留状況
  4. 社会保障制度
  5. 労働市場に与える影響(国内人への影響)

1.制度概要

イギリスでは従来、労働許可制を中心に外国人労働者の受け入れを行っていたが、景気拡大に伴う人材不足(IT、保健・医療分野など)への対応のため、1990年代末~2000年代前半に外国人労働者受け入れを積極化。経済に貢献する専門技術を持つ者に門戸を開放、未熟練外国人を受け入れ不可とする基本方針のもと、2000年前後に労働許可証に係る資格水準の要件を緩和したほか、2001年末には高度技術者向け受け入れスキーム(Highly Skilled Migration Programme:HSMP)を導入。HSMPは、雇用の有無を条件とせず、申請者の資格や過去の収入等に基づくポイントで受け入れの可否を判断した(図表1)。

図表1:ポイント制以前の外国人受け入れ制度
(1)労働許可等によるもの ビジネス・商務
職業訓練・研修スキーム
芸能・スポーツ
インターンシップ
その他(サービスの貿易に関する一般協定など)
業種別スキーム(Sector Based Scheme)
(2)労働許可以外の就労制度によるもの ビジネス・ケース・ユニット(経営者、自営業者、投資家など)
ワーキングホリデー(Youth Exchange Scheme)
オペア(住み込み家事手伝い)
留学生
その他のスキーム(科学・工学科目修了者スキーム等)
高度技術者向けプログラム(HSMP)
季節農業労働者スキーム
(3)労働者登録制度 2004年のEU新規加盟国(東欧8カ国)の労働者が被用者として就労する場合の登録制度

資料出所:JILPT (2006)

また、2004年のEU拡大に際して、東欧諸国(EU8)からの労働者の就労を原則自由化、被用者については労働者登録制度を適用した。結果として、2009年まで年間20万人前後が流入し、多くが農業、宿泊業、製造業、食品加工などの単純労働者に従事したとみられる。急激な労働者の流入をうけて、域外からの外国人受け入れに関する引き締め策としてポイント制(Point Based System)が2008年から導入された。従来の雑多なスキームを5階層に整理し(図表2)、審査基準の明確化、手続きの簡素化(入国・就労許可の一体化など)が行われた。

  • 旧HSMP相当の高度人材、起業家、投資家などの受け入れ→第1階層
  • 労働許可制による専門技術者・企業内異動労働者の受け入れ→第2階層
  • スポーツ関連や若者向けの交流プログラムなど、短期労働者→第5階層
  • 留学生→第4階層

なお、単純労働者に対応する第3階層は、設計されたものの1度も使われていない(東欧諸国からの単純労働者の供給拡大のため)。

図表2:ポイント制における外国人の分類
階層 対象 カテゴリー
第1階層 高度技術者 経済発展に貢献する高度なスキルを持つ者(科学者、企業家など) ・例外的才能
・起業家
・投資家
・学卒起業家
・一般(2011廃止)
・就学後就労(2012廃止)
第2階層 専門技術者 国内で不足している技能を持つ者(看護師、教員、エンジニアなど) ・一般
・企業内異動
・運動選手
・宗教家
第3階層 単純労働者 技能職種の不足に応じて人数を制限して入国する者(建設労働者など) (停止中)
第4階層 学生 学生
第5階層 他の短期労働者、若者交流プログラム等 ・短期労働者
クリエイティブ・スポーツ、非営利、宗教活動、政府の交換制度、国際協定、若者交流プログラム

資料出所:JILPT(2013)

(1)第1階層:高度技術者

事前に国内で雇用が確保されていることを要件とせず、教育資格や収入等により入国の可否を判断する。「一般」カテゴリーの要件は、従来から実施されていた高度技術者向け受け入れプログラム(HSMP)に大きくは対応しているが、旧制度でポイントの比重が高かった「職務経験」「就業希望分野での業績」は要件から除外。また、「就学後就労」カテゴリーを設置、高等教育修了後の留学生(第4階層)に卒業後2年間の求職を目的とする滞在を許可。

2009年の導入以降、2011年には「一般」カテゴリーの新規受け入れを停止(既に同カテゴリーで入国している者の滞在延長、一部の他カテゴリーからの転換は2018年まで可能)、2012年には「就学後就労」カテゴリーを廃止(第2階層への転換は可能)。また、新たに「学卒起業家」カテゴリー(高等教育修了者のうち、起業を予定しており、これに関する大学等からの推薦がある場合)を導入(図表3)。

(2)第2階層:専門技術者

ポイント制開始に先立って、雇用主に外国人の受け入れ先(スポンサー)としてのライセンス制度を導入。「労働市場テスト」(4週間の職安などでの求人広告)を経るか、または政府の諮問機関が作成する「労働力不足職種」に該当する場合のみ、受け入れ証明(certificate of sponsorship)の取得を認める。受け入れ対象の外国人はこれに基づいて入国許可(leave to enter)及び就労許可(tier 2 visa)を申請。

職業のレベルや給与水準等により入国の可否が判断されるが、導入以降、これらの要件が引き上げられ、これに伴って労働力不足職種リストに含まれる職種も大幅に削減された (介護労働者などを削除 )。また、一定期間の滞在後に永住権申請を認めるカテゴリーから「企業内異動」を除外、さらに2011年4月以降の入国者に対しては、滞在5年後(2016年)に永住権を申請する際、年3万5000ポンドの給与水準要件を適用する(図表4及び5)。

図表3:第1階層「一般」カテゴリーの資格要件
○ポイント要件
  ・属性 (合計75ポイント以上)
  -教育資格(学士30、修士35、博士50) 30~50
-過去の収入(1万6000ポンド~4万ポンド超まで) 5~45
-英国における経験(過去に1万6000ポンドの収入) 5
-年齢(28歳未満20、28~29歳10、30~31歳5) 5~20
・英語能力 10
・自身(及び被扶養者)の生活を維持する資金がある 10
○更新・永住
  ・滞在延長・他カテゴリーからの転換の滞在許可は最長3年
・延長申請にはより高い収入基準(2万5000ポンド~)、収入が15万ポンド以上の場合は他の項目は不問
・他カテゴリーからの転換の場合、旧制度のHSMP、自営弁護士またはライター・作曲家 ・アーティストビザからのみ可能
・滞在期間5年で永住権の申請が可能
○その他
  ・新規申請の受け付けは停止、滞在延長および扶養ルートは継続。ただし、滞在延長は2015年、永住権の申請は2018年には停止予定。

資料出所:JILPT (2013)、UK Visas & Immigration (2014)" Tier 1 (General) of the Points Based System – Policy Guidance"

図表4:第2階層「一般」カテゴリーの資格要件
○ポイント要件
  ・属性 (50ポイント)
  -受け入れ証明書
以下のいずれかが当てはまる場合:
  • (a)人材不足職種リストに含まれる職種
  • (b)年15万3500ポンド以上の給与水準の求人
  • (c)雇用主(スポンサー)が労働市場テストを完了
  • (d)延長:同一の雇用主の下で就業
30
-適切な給与水準
年2万500ポンド以上
20
・英語能力 10
・自身(及び被扶養者)の生活を維持する資金がある 10
○更新・永住
  ・初回申請時の滞在許可・延長とも最長5年、ただし6年を超える滞在は不可
・滞在期間5年で永住権の申請が可能、ただし2011年4月以降の入国者は年収に条件(3万5000ポンドまたは申請者の職業における実勢額-5年後の2016年に適用開始)

資料出所:JILPT (2013)、UK Visas & Immigration (2014) " Tier 2 of the Points Based System – Policy Guidance"

 
図表5:第2階層「企業内異動」カテゴリーの資格要件
○ポイント要件
  ・属性 (50ポイント)
  -受け入れ証明書 30
-適切な給与水準
  • (a) 長期4万1000ポンド以上
  • (b) 短期・学卒者訓練プログラム・技術移転(学卒研修)
    2万4500ポンド以上(2万4500ポンド未満は0ポイント、ただし旧基準に基づく入国者等の延長申請は除外)
20
・自身(及び被扶養者)の生活を維持する資金がある 10
○更新・永住
 
  • (a) 長期:初回申請時の滞在許可・延長とも最長5年、ただし6年を超える滞在は不可(給与額が年15万3500ポンド超の場合は最長9年)、5年を超える延長は不可
  • (b) 短期:初回申請時に最長1年、延長は不可
  • (c) 学卒者訓練プログラム:最長1年
  • (d) 技術移転:6カ月
・永住権の申請は不可
○その他
・最長滞在期間を超えて同一のカテゴリーで申請を行う場合、最後の滞在期間終了から12カ月間あける必要あり (給与額が年15万3,500ポンド超の場合を除)

〈労働市場テスト(resident labour market test)〉

第2階層(一般カテゴリー等)による労働者の受入れには、適切な職務レベルや給与水準等の基準に加えて、労働市場テストが雇用主に義務付けられている。外国人労働者の受け入れが、国内の労働市場に害を及ぼすことを予防することが目的。

具体的には、国内での採用が不可能であることを証明するため、通常職安の職業紹介ネットワークおよびメディア等で28日間(4週間)の求人広告が義務付けられる。雇用主は、例えば2週間の求人を2回に分けて実施することもできるが、1回の求人が7日間を下回ってはならない。

なお、例外として、求人を行う職種が政府の諮問機関Migration Advisory Committee (MAC)(注1)が作成する「労働力不足職種リスト」に該当する場合は、求人の実施が免除される。職業分類(2014年4月現在で32職種)をベースに、各職種においてより詳細な職業名を限定、職種毎に給与水準の下限を設定している。エンジニア、科学者、IT技術者などが中心。

〈期限付きの受け入れの場合の出国プロセス、不法労働者への対応〉

上記のとおり、外国人労働者は制度上の区分により滞在・就労可能な期限が設けられており、延長申請の可否等はカテゴリーによって異なる。通常、5年間(第1階層の「投資家」「起業家」は投資状況等により2~5年)の合法的な滞在を経れば、永住権(indefinite leave to remain)の申請が可能となる。滞在期限に達した外国人労働者は、自発的に帰国することが前提となっており、帰国を促す制度(例えば対象者に対する通知、何らかの金銭的メリットを設ける等)はない。期限を超えて滞在する外国人労働者は、入国管理当局による取り締まりの対象となる。なお、入国時の滞在許可の期間が6カ月を超える(か、入国後に滞在許可のカテゴリーを転換する)場合、外国人労働者には入国等から7日以内に地元警察に登録することが義務付けられている(注2)

域外からの外国人労働者を雇用する雇用主には、ライセンス制度が設けられている。受け入れ先(sponsor)として認可された雇用主は、域外の外国人労働者の受け入れに関して受け入れ証明(番号)を取得し、に滞在している外国人を雇い入れる際には、滞在・就労資格のチェックを行うことが義務付けこれが当該外国人の滞在許可の申請に用いられる。一方、雇用主が既に国内られている。外国人を違法に雇用している(違法な手段による入国者や、期限を超えて滞在している者、就労が認められていないか、労働時間の上限を超えて就労している者等)とみなされた場合、雇用主にはこうした労働者一人につき最高2万ポンドの罰金が科される(注3)ほか、ライセンスを保有している場合はこれを一時停止(注4)または剥奪されるとともに、違反雇用主として公表される場合がある。また、違法労働者と分かっていて雇用した場合には刑事罰(最長2年間の懲役及び上限規定のない罰金)の対象となる可能性がある。

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2.制度改正・最近の動向等

ポイント制の導入以降も、外国人労働者の受け入れに関する制度改正が頻繁に行われ、受け入れ可能な外国人の範囲が絞られてきた。2010年には、ポイント制における域外からの主要な受け入れルートであった第1階層、第2階層の各「一般」カテゴリーに、暫定的数量制限(2010年7月)が導入され、次いで第1階層の「一般」カテゴリーについては新規受け入れを停止、以降第2階層については年間20,700件の上限が維持されている(2014年度も継続)。併せて、第1階層「就学後就労」カテゴリーを廃止。

また、第2階層で受け入れ可能な職務レベルの引き上げが逐次行われてきた。外国人の受け入れを抑制するとの政府の意向を受けて、MACが提言したもので、ポイント制導入当初には、第2階層で受け入れ可能な職務レベルの下限は中等教育修了相当だったが、現在は高等教育修了相当となっている。これに対応して、労働力不足職種リストの職種数も大幅に削減された。加えて、一定期間の滞在後に永住権の申請を認めるカテゴリーから「企業内異動」を除外、滞在期間にも年限を設けるなど、定着の抑制もはかられている。

加えて、ポイント制導入に前後して急速に拡大している就学目的の外国人の中にも、実際には就労を目的に入国している者が含まれるとの見方から、就学ビザに関する要件(参加予定のコースのレベル等)の引き上げや、教育機関に対する取り締まりの強化(不正な教育機関に対しては受け入れ先としてのライセンスを停止)を行っている。

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3.流入・流出・在留状況

統計データからは、1年以上の滞在(予定)者の流出入に関する状況を把握することが可能である(図表6)。これによれば、域外からの流入数は2004年をピークに急速な減少が見られた。また、域内他国からの流入数は、2008年の経済危機を契機に減少が見られたものの、総じて増加傾向にある。。一方、流出数についても、2008年まで増加が見られるが、これは、主にイギリス人と域内からの外国人労働者の流出によるものと考えられる。

図表6:就労目的の外国人の国籍別流出入数の推移 (a)流入数(千人)

図表6:就労目的の外国人の国籍別流出入数の推移(a)流入数について

図表6:就労目的の外国人の国籍別流出入数の推移 (b)流出数(千人)

(b)流出数について

注:1年以上の滞在(予定)者に関する推計。各期のデータは直近12カ月のもの。

資料出所:Office for National Statistics “Migration Statistics Quarterly Report – May 2014”

純流入数(流入数から流出数を差し引いたもの)は、2008年を境に域外からの労働者の流入数が減少したことに伴ってマイナスに転じ、イギリス人及び域外労働者の流出超過が続いている。一方、前後してEUからの労働者の流入が拡大、2008年以降も流出数を上回って増加が続いている(図表7)。近年の増加は、新規EU加盟国(EU8)からの継続的な流入超過に加え、旧加盟国(EU14)からの流入が増加していることによる。

図表7:就労目的の外国人の地域別純流入数の推移 (千人)

図表7:就労目的の外国人の地域別純流入数の推移のグラフ

資料出所:同上

国別の労働者の年々の増加については、外国人の流入出入に関する統計の一環として公表されている国民保険(国内で就労・給付申請を行う場合に登録が必要となる社会保険制度)の新規登録数に関するデータから推測することができる(図表8)。2013年度には、引き続きポーランド人による登録件数が最多となったほか、近年、大きく増加したスペイン、イタリア、ポルトガルなど高失業の南欧諸国からの外国人が上位を占めている。加えて、ルーマニア、ブルガリアからの外国人の登録が大幅に増加している。一方、一昨年まで上位にあったインド、パキスタン人の登録は前年度に続き減少している。

図表8:出身国別国民保険新規登録者数 (2012・2013年度、上位20位)(千人)
  2012年 2013年 対前年比 対前年増加率
562.09 602.50 40.14 7%
EU 385.44 439.45 45.01 14%
EU外 176.24 162.45 -13.79 -8%
ポーランド 91.36 101.93 10.57 12%
ルーマニア 17.82 46.89 29.07 163%
スペイン 45.53 45.62 0.10 0%
イタリア 32.80 41.95 9.15 28%
インド 31.25 28.76 -2.48 -8%
ポルトガル 24.55 27.26 2.71 11%
ハンガリー 24.67 23.62 -1.05 -4%
リトアニア 27.32 22.44 -4.88 -18%
フランス 21.23 22.28 1.06 5%
ブルガリア 10.40 17.75 7.35 71%
アイルランド 15.14 16.37 0.84 5%
パキスタン 16.16 12.09 -4.07 -25%
スロヴァキア 11.48 11.78 0.30 3%
ラトヴィア 13.60 11.30 -2.30 -17%
中国 12.01 11.13 -0.88 -7%
オーストラリア 11.78 10.70 -1.08 -9%
ドイツ 10.95 10.52 -0.43 -4%
ナイジェリア 10.51 10.28 -0.23 -2%
ギリシャ 8.68 9.04 0.37 4%
アメリカ 9.03 8.69 -0.34 -4%

注:各年とも3月までの12カ月間の件数。国民保険は加入者の出入国と連動した制度ではないため、国内に滞在する外国人のストックに関するデータを得ることはできない。

資料出所:同上

域外からの外国人労働者の受け入れに適用される、ポイント制における就労関連ビザの年間発行数は、図表9のとおり。2008年にかけて減少の後、10万人強の水準で推移している。

図表9:就労関連ビザの発行数(主申請者)

図表9:就労関連ビザの発行数(主申請者)についてのグラフ

資料出所:Home Office "Immigration statistics, January to March 2014"

このうち、高度人材に相当する第1階層相当の外国人に対するビザ発行数は、ポイント制導入当初に設けられていた「一般」カテゴリーの新規受け入れが2011年に停止され、また「就学後就労」カテゴリーが2012年に廃止されたことに伴い、急速に減少している(図表10)。家族の帯同・呼び寄せの許可件数は、主申請者に対するビザ発行数に比して未だに多いが、これも減少傾向にある。

図表10:第1階層の各カテゴリーの発行数

図表10:第1階層の各カテゴリーの発行数のグラフ

また、専門技術者(skilled worker)相当の第2階層に関するビザ発行数も、ポイント制導入と経済危機が重なった2008年に減少した。2010年には、「一般」カテゴリーについて数量制限 (国外からの新規申請及び既に入国している学生ビザ(第4階層)からの転換に対して適用)が導入されているが、年間発行数の上限(2万700件)を大きく下回る1万件前後で推移している。また、数量制限から除外されている「企業内異動」(多国籍企業による域外からの労働者の派遣)カテゴリーでは、3万件前後で推移した後、2013年には3万3000件に増加した(図表11)。

図表11:第2階層の各カテゴリーの発行数

図表11:第2階層の各カテゴリーの発行数のグラフ

資料出所:図表10及び11ともにHome Office "Immigration statistics, January to March 2014"

ただし、高度技術者向けビザの発行数の減少を補う形で、域内からの高度人材が流入しているとの見方もある。Migration Observatoryが2014年7月に公表したレポートによれば、EEA域外およびEU8からの高学歴・専門的職種の就業者は経済危機以降減少したが、旧加盟国(EU14)からの同等の就業者は大きく増加している。レポートは、外国人流入数の削減に向けた制度変更や、南欧を中心とする高失業を背景に、高度人材の域外からの雇用が困難になったことで、雇用主が域内での採用を促進した可能性を指摘している。

なお、ポイント制導入初期の第1階層及び第2階層による入国者の国内での就労実態について、国境庁が公表しているレポートによれば、第1階層(2010年時点-6月に家族の呼び寄せを申請した者。このため独身者は含まれていない。)については、専門技術を要する仕事(年間の給与額が2万5000ポンド超)の従事者が25%、未熟練職種(同2万5000ポンド 未満)が29%、残る46%は給与額・雇用の有無が不明または失業中であった(UK Border Agency (2010))。

また第2階層については、IT部門での受け入れが最多で、大半が企業内異動カテゴリーを通じて入国しているインド人。このほか、医療・介護部門(労働市場テストおよび人材不足職種による受け入れ)や専門・科学・技術的業務(多くは企業内異動)、金融保険業(同)、教育(労働市場テスト・人材不足職種)などであった(MAC(2009))。

なお内務省は、イギリス人労働者及びEEA労働者、域外労働者の従事する業種・職種別比率について図表12のとおり推計している。業種別には、流通・ホテル・レストラン業に従事する外国人労働者の比率が高く、また職種別には、域外労働者では専門職従事者の比率が高いのに対して、EEA労働者では未熟練職種に従事する比率が高くなっている。

図表12:出身地域別、業種別及び職種別従事者比率 (2012年、%)
  UK EEA域内 EEA域外
農林漁業 1 1
エネルギー・水供給業 2 1 1
製造業 10 15 7
建設業 7 9 4
流通・ホテル・レストラン業 18 23 24
運輸・通信業 9 10 11
銀行・金融業 16 18 19
行政・教育・保険業 31 18 28
その他サービス業 5 5 6
管理・監督・上級職 10 6 8
専門職 20 16 25
準専門職・技術職 15 11 12
事務・秘書職 11 7 7
熟練職 11 12 8
看護・レジャー・その他サービス職 9 7 11
販売・顧客サービス職 8 5 8
加工・プラント・機械操作職 6 11 6
未熟練職種 10 25 16
計(実数) 2,560万人 140万人 120万人

資料出所:Home Office and Department for Work and Pensions (2013) "Review of the Balance of Competences - Internal Market: Free Movement of Persons"

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4.社会保障制度

(1)EEA域内からの労働者

EEA域内の各国(EU加盟国、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)及びスイスからの外国人には、人の移動の自由に関する法制度(注5)に基づき、域内での就労や求職活動の権利が認められており、これに関連して社会保障にかかわる基本的な権利も保証されている。EEA市民(及びスイス国民)には、域内の任意の国で最初の3カ月間の居住権が認められているが、3カ月を超えて滞在する場合に居住権が認められるのは、「労働者」「自営業者」「学生」「求職者」「その他、自らの生活を維持する資金がある者」(年金生活者等)など。労働者と求職者以外のグループについては、自らの生活を維持する資金があること(及び医療保健に加入していること)が居住権の条件となり、低所得者向け社会保障給付の申請は原則として認められない。

居住権が前提となる給付制度:

所得調査制求職者手当、所得連動制雇用・生活補助手当、所得補助、年金給付、住宅給付、カウンシル税の減免、児童給付、児童税額控除、ユニバーサル・クレジット、自治体からの住宅補助

労働者として滞在する場合は、社会保障給付や税額控除が適用される。また、国内で一定期間の就労を経た後に、健康上の問題で就労が困難になったり、解雇などで仕事を失った際には、所定の要件(1年以上の継続的雇用、あるいは1年未満の有期雇用の後6カ月を超えて失業していないこと、職業訓練への参加、あるいは一時的な就労不能など)を満たす場合は労働者としての地位が維持される。国民保険料の拠出要件を満たせば、拠出制求職者手当(定額・最長6カ月)の支給を受けられるほか、低所得者向け給付制度への申請も可能。その際、居住権を有するか、求職等のため当面の間国内に滞在することの証明 (「居住権テスト」(注6))は免除される(図表13)。

一方、求職者の場合は、ジョブセンター・プラスに求職者として登録して求職活動を行うことが条件となる。求職者に対する給付制度については、現在、支給要件の厳格化などの制度改正が進められている。これは、2007年のEU加盟国であるルーマニア、ブルガリアからの労働者に対する就労規制が2013年末に廃止されたことと関連して、政府が「社会保障ツーリズム」(他国のより整った社会保障給付や医療などの制度を目当てとした外国人)への警戒感を高めていることによる。直近では2014年1月から、EEA市民等に対して入国後3カ月間は求職者手当(所得調査制)の申請資格を認めないとする制度改正が行われた。3カ月を経て給付を申請する際に条件となる居住権テストについても、内容が厳格化され、受給が認められる場合も、支給期間は最長6カ月に限定され(注7)、これ以降は確実な雇用の見込みがある場合を除いて、これを超えて受給継続は出来ない。また4月からは、新たに入国する求職者に対して低所得層向け住宅給付の申請を認めないとしている。

加えて、3月にはさらなる受給資格の制限策として、申請に先立つ3カ月間に就労を通じて一定の所得を得ていることが要件化された。所得額の基準は、国民保険の拠出が発生する所得下限額(2014年度には週153ポンド)に設定されている。これを下回る場合は、基本的に「労働者」(または自営業者)ではなく「求職者」とみなされ、求職者手当以外の低所得層向け給付(雇用・生活補助手当 (所得連動制)、所得補助、住宅給付、年金クレジット、住宅給付)の申請は認められない。

図表13:EEA市民の労働者・求職者の社会保障給付に関する権利
給付制度 労働者(worker) 求職者(jobseeker)
児童給付および児童税額控除*
求職者手
※3カ月の居住要件(居住権テストの適用)

なし

あり
雇用・生活補助手当、所得補助、年金クレジット、住宅給付 ×

*EU法は、家族が就労先国で同居していない(域内他国に居住する)場合でも、関連する給付を受給する権利を認めている。

資料出所:Department for Work and Pensions 'Minimum earnings threshold for EEA migrants introduced' (2014年2月14日プレスリリース)を元に作成。

(2)EEA域外からの労働者

一方、EEA域外の外国人については、永住権の取得が低所得層向け給付制度の適用の条件となる。これには、所得調査制求職者手当、所得連動制雇用・生活補助手当(ESA)、所得補助、児童税額控除、就労税額控除、ユニバーサルクレジット、児童給付、住宅給付など大半の給付制度が含まれる。期限付き滞在許可による外国人は、こうした公的扶助に頼らないことが滞在の条件となっているため、受給している場合は国外退去や滞在延長申請の却下、あるいは訴追の対象となりうる。なお、国民保険への拠出を前提とする拠出制求職者手当や拠出制雇用・生活補助手当についても、従来は拠出等の条件を満たす限り、入国管理制度上の身分を問わず支給されてきたが、2012年の制度改正により、国内で就労資格を有することが支給要件に加えられた。

永住権が前提となる給付制度等:

所得調査制求職者手当、所得連動制雇用・生活補助手当、所得補助、年金給付、住宅給付、カウンシル税の減免、児童給付、児童税額控除、ユニバーサル・クレジット、就労税額控除、社会基金からの補助、障害生活手当、個人自立手当、付添手当、介護手当、自治体による社会的住宅の提供、自治体のホームレス向け給付

(3)給付申請状況

統計局は、既存の国民保険登録者に関する情報と社会保障給付申請者のデータとのマッチングにより、外国人による社会保障給付の申請者数を推計している。地域別には、アジア・中東やアフリカ諸国からの外国人の申請者が多いほか、従来から外国人受け入れが行われてきた旧加盟国やその他欧州諸国からの外国人についても、就労困難者による給付申請者の比率が相対的に高い。一方、EU新規加盟国からの外国人の給付申請者は、ポーランド人を中心に求職者が6割を占める(図表14)。なお、国別(登録時点の国籍)の推計で上位を占めているのは、パキスタン、ポーランド、ソマリア、インド、バングラデシュなど。

図表14:出身地域別・受給者種別就労年齢層向け給付申請者 (2013年2月時点)
受給者種別 計(不明含む) EU旧加盟国 EU新規加盟国 その他欧州 アフリカ アジア・中東 その他EU外
求職者 142.27 25.17 34.93 4.88 34.58 33.43 7.06
就労困難者 139.48 23.68 13.13 10.67 29.61 49.78 6.96
一人親 40.23 3.77 3.09 2.33 18.05 9.95 2.76
介護者 41.27 4.2 4.14 2.03 6.16 22.03 1.73
その他低所得 9.36 1.29 0.61 0.41 2.05 3.61 0.37
障害者 17.38 2.94 2.47 0.77 3.06 6.28 1.12
遺族 7.14 1.27 0.57 0.22 1.2 2.95 0.71
397.13 62.32 58.94 21.31 94.71 128.03 20.71

*「その他EU外」には南北アメリカ、オーストラリア・オセアニアなどを含む

資料出所:Department for Work and Pensions "National Insurance Number Allocations to Adult Overseas Nationals Entering the UK - registrations to March 2013"

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5.労働市場に与える影響(国内人への影響)

外国人労働者の流入による国内労働者の雇用・賃金水準への影響は、限定的との見方が一般的だが、若者や低技能層の雇用については、マイナスの影響も指摘されている。

例えば、内務省が2013年にまとめた、イギリス人及び外国人労働者の技能水準別の就労状況に関するレポートによれば、近年国内に流入している外国人は、低技能職種の雇用に就く傾向にあり、イギリス人労働者のこの分野での雇用の減少と対をなす形で推移している(図表15)。ただし、2012年に関してはこれが反転し、低技能職種における雇用の増加分の大半(42万5000人のうち36万7000人分-86%)をイギリス人労働者が占めた。報告書は、政府の引き締め策により、就学・家族ルートによる外国人流入を抑制した結果として、こうした層による低技能職種での雇用が減少し、これがイギリス人の雇用増につながった可能性を指摘している。なお、報告書が示す地域別のデータによれば、2004年から2011年までの低技能職種での雇用増の大半は、東欧諸国からの労働者によって占められている。

図表15:技能水準別就業者の推移

図表15:技能水準別就業者の推移についてのグラフ

注:低技能職種(事務・秘書職、介護・レジャー・その他サービス、販売・顧客サービス、加工・プラント・機械操作、単純労働)、高技能職種(管理・経営・上級職、専門職、準専門職・技術職、熟練工)

資料出所:Home Office (2014) "Employment and occupational skill levels among UK and foreign nationals"付属データを基に作成。

MACが2012年に公表した報告書(注8)は、1975~2010年に関する統計データによる分析の結果、期間全体では顕著な影響はみられないとしつつも、より短期の1995~2010年については、EU域外からの外国人労働者の流入による国内労働者の雇用へのマイナスの影響が観察されたとしている。報告書は、1975~2010年における就業年齢の外国人(外国出生者)の人口比率と、国内労働者(国内で出生した労働者)の就業率の関連について、労働力調査の年次データを基に推計を行っている。分析に際しては、期間区分として(1)対象期間全体(1975~2010年)、(2)1975~1994年、(3)1995~2010年の三区分と、(4)GDPギャップ(各年の実際のGDPと潜在的GDPの差)がゼロ以下の時期=低成長または景気縮小期、及び(5)プラスの時期=景気拡大期、の計5区分を設けている。また外国人に関する区分としては、(1)外国人全体、うち(2)EU出身者、(3)非EU出身者、加えて滞在期間の長短により(4)5年以上と(5)5年未満に分けて、それぞれ推計を行っている。統計的に有意な結果が得られたのは、次のケースであった。

  • ⅰ) 1995~2010年の期間について、外国人人口比率の増加が国内労働者の就業率の低下に関連しており、人数に換算する場合、外国人100人の増加に対して国内労働者23人分の雇用が減少。
  • ⅱ) 1995~2010年の期間について、非EU出身者人口比率の増加が国内労働者の就業率の低下に関連しており、人数換算では非EU出身者100人の増加に対して国内労働者23人分の雇用が減少。
  • ⅲ) 1975~2010年のうちGDPギャップがゼロ以下であった時期について、外国人人口比率の増加が国内労働者の就業率の低下に関連しており、人数換算では外国人100人の増加に対して国内労働者30人分の雇用が減少。
  • ⅳ) GDPギャップがゼロ以下の時期について、非EU出身者人口比率の増加が国内労働者の就業率の低下に関連しており、人数換算では外国人100人の増加に対して国内労働者27人分の雇用が減少。

EU出身者については、期間に関する全ての区分を通じて、統計的に有意な結果は得られなかったとしている。また滞在期間の長短の別による分析では、有意な結果は得られなかったものの、国内労働者の雇用との関連はいずれもマイナスで、相対的には短期の外国人に関する統計的な関連度が高かった。

報告書はこれらの結果から、1995~2010年の間に入国したとみられる外国人210万人のうち、最後の5年(2005~2010年)分にあたる70万人の23%、すなわち16万人分の国内労働者の雇用が外国人労働者によって置き換えられたとする可能性を指摘している。

この国内の労働者の雇用への影響分析以外にも、本報告書においては、既存の研究結果などを踏まえ、国内労働者に対する外国人労働者の代替効果は持続するわけではないこと(注9)、また賃金も、高賃金層における賃金水準の引き上げと低賃金層での引き下げが起きること(注10)などを推測している。

低技能の外国人労働者の流入による影響(MACによる分析)

メリット
  • 経営者(例えば食品製造や農業、レストランなど、イギリス人労働者の調達がしばしば困難な労働集約的業種の企業)
  • スキルを有するイギリス人労働者や未熟練の労働者がより高い賃金の仕事に特化できる
  • イギリス人労働者より流動的で柔軟な外国人労働者を確保でき、例えば就業場所の変更や就業場所で生活すること、あるいはシフト勤務など
  • 外国人労働者は、自国より高い所得を得ることができ、また家族が居る場合は送金もできる
コスト
  • 多くの地域で人口増加や人口構成の急激な変化を引き起こす。このことは社会的包摂や厚生に影響を及ぼす可能性があるが、これについてはさらなる検討を要する
  • 医療、教育、公共交通サービスの混雑
  • 住宅市場への影響-民間賃貸市場の圧迫、複数世帯の居住に伴う地域的問題、イギリス人に対する社会的住宅の提供に若干影響を及ぼす可能性(主として供給不足の問題)
  • 低賃金層に対する若干の賃金低下の影響-最低賃金制度などの実施強化が必要となるが、これには監督機関である歳入関税庁の体制強化を要する(現状では国内の事業者数に比して、250年に一度の監査のみ可能)
中立的またはわずかな影響
  • 国内出生者の就業率は2004年の新規EU加盟国の大量流入後も実質的に変化していない
  • 若年労働市場(16-24歳)の状況は懸念材料として残っているが、外国人労働者の影響よりも需要不足や教育訓練政策に起因
  • 2000~2011年の期間における外国人とイギリス人それぞれの財政への影響は、年間マイナス1000ポンドでほぼ同等、一部は2008年以降の不況の影響による。2000年以降に入国した外国人は、財政にプラスの貢献をしているが、2000年以前のEEA域外からの外国人によるマイナスの影響が大きい(相対的な年齢層および就業率の差)

資料出所:MAC (2014) "Migrants in low-skilled work: The growth of EU and non-EU labour in low-skilled jobs and its impact on the UK"

なお、本報告書は、外国人労働者の流入による雇用や賃金への影響はほとんど観察されないとしていたこれまでの報告書との違いについて、2008年の経済危機以降の期間を対象に含む分析が未だ少ないことを理由の一つとして挙げている(注11)

さらに、より最近のMACの報告書では、低技能の外国人労働者の流入による各種の影響を分析したところ、低賃金層の賃金を若干引き下げる可能性があることを指摘している。しかし、同報告書ではまたこの賃金引き下げへの対応として、低技能の外国人労働者の受入れを抑制するのではなく、賃金低下自体の問題への対応が必要である点を指摘し、最低賃金制度の実施強化の必要性も提言している。なお、財政への影響に関しては、近年国内に流入した労働者については財政にプラスの貢献をしているが、2000年以前のEEA域外からの入国者については、財政に大きくマイナスの影響を及ぼしていると分析している。

(賃金水準、最賃制度の適用)

外国人労働者の賃金水準に関する公式の統計はないが、上述のとおり、相対的に技能水準の低い職業に従事する労働者を多く含むとみられ、このため国内労働者に比して賃金水準は低いと推測される。これには、英語能力の低さや国内での外国人としての立場の弱さなどから、外国人労働者が自らの雇用法上の権利についてよく知らないか、あるいはこれを主張しにくいといったことも影響しているとの見方が一般的だ。

こうした権利の一つ、全国最低賃金制度は、原則として国内の全ての労働者(被用者、本来の自営業者以外の労働者など)に適用され、外国人も例外ではない。しかし、外国人は自らの法律上の権利を必ずしも理解しておらず、また立場の弱さから法的権利を主張しにくいとみられている。このため、悪質な雇用主が最低賃金未満の賃金しか支払わなかったり、支払い回避のために、外国人労働者に擬似的な自営業者として法人を設立させて、最低賃金の適用を回避するといったことが行われているとみられる。

政府は、外国人労働者の抑制策と併せて、こうした悪質な雇用主に対する罰則を強化することを目的に、最低賃金違反の雇用主に対する罰金の額を従来の4倍の2万ポンドとする法律を2014年に成立させた。既に導入されている、違反雇用主の公表制度と併せて、抑止効果が期待されている。

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注:

資料出所:

参考:

2015年1月 フォーカス: 主要国の外国人労働者受入れ動向

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