AFL-CIO「労働運動の再定義」
—AFL-CIO2013年大会(中編)
- カテゴリー:労使関係
- フォーカス:2013年10月
コミュニティをパートナーにするということ

写真:アナ・アベンダーノ氏
会長補佐アベンダーノ氏へのインタビューに戻ろう。
彼女が率いている「コミュニティ・パートナーシップと草の根の力委員会」は一年ほど前からインフォーマルにスタートしていた。
「まず手を付けたのは、全国のコミュニティをまわって耳を傾けることだった。」
そこに集まったのは、会場を埋め尽くすコミュニティの人たちと、わずか1人か2人の労働組合関係者だったという。
「労働組合といっしょになにかをしたことがありますか。どうやっていっしょにやりましたか。どうやったら私達は良いパートナーになれるでしょうか。」
そんなことを聞いたという。
「そこで気が付いたことは、コミュニティの人たちが労働組合をとても内向きだとみていたことだった。労働組合は経済的利益しか求めていないのだ、というように。」
アベンダーノ氏は次のようにも言う。
「コミュニティの人たちは一緒に何かしようという姿勢がはっきりとしていて、労働組合員よりもずっとポジティブだった。」
そして、一つの失敗例を紹介してくれた。
ニューヨーク市にコン・エジソン社という電力会社があり、労働組合に組織化されていた。会社側は労働組合との協約改訂にあたり、健康保険と年金の水準の切り下げを提示した。そこには一切の交渉の余地がなく、労働組合側は譲歩を余儀なくされたけれども、コミュニティと連携すれば、事態が打開できたかもしれなかったのにとアベンダーノ氏は言う。
コン・エジソン社はウォール街に夜中の12時から朝の7時まで電気を送り続けるだけのために、アフリカ系とラテン系が住むコミュニティであるワシントンハイツに送る電気を頻繁に止めていた。そこには10万人が暮らし、健康や食の安全のために冷房や冷蔵庫を運転し続けることが必要だったにもかかわらず、である。
もし、労働組合とコミュニティが連携できれば、10万人を動員できたかもしれない。それは、コミュニティを労働運動に取りこむということではなく、コミュニティの求めるものと労働組合の求めるものを統合するものだったはずだ。つまりは、働くことに関する問題と生活の問題の統合である。しかし、実際には互いの利害を理解しあうことはなかったという。アベンダーノ氏が望んだのはそのような連携だった。
第16決議(Resolution 16)の示す具体策
第16決議はコミュニティの状態について次のように記している。
「過去10年間にわたるマクロ経済の変化は全国のコミュニティを危機に追いやった。すべての人の経済的な安全は脅かされ、わたしたちの社会の深い分断と不平等は加速する一方だ。苦境にいる労働者は、同じく苦境にあるコミュニティと密接に織り合うことは状況からみて必然だ。」
「労働組合はコミュニティ・パートナーと手を取り合わなければならないし、このような経済のトレンドを反転させて、健全な民主主義と参加型の社会、強くて安全な近隣と、人種・民族・性の平等を作り上げることで、誰にとっても機会をつくらなければならない」
その前提の上にたち、お互いが学び合い続ける「learning organization(学習する組織)」となることを第一に掲げ、次の5つの具体策を提示した。
- 労働組合とコミュニティ組織は、役員からスタッフに至るまで参加するインターンシップと交換プログラムを立ち上げる。
- 経済分析と、メンバーの権利を守るために効果的な素材やビデオ資料の作成を共同で行う。
- 労働組合・コミュニティ、リーダーシップ研究所」を立ち上げ、お互いのベストプラクティスを集めるとともに、共同でトレーニングプログラムを開始する。
- 労働組合とパートナーシップ協定を結ぶコミュニティ組織は、公民権、社会正義、宗教、環境、女性の権利向上、ワーカーセンター、移民の権利擁護、LGBTQ(多様な性)、退職者、学生と若年労働者の組織などとする。
- 労働組合員とコミュニティ組織のメンバーが情報を共有するオンライン・サイトを立ち上げる。そして、労働組合員がコミュニティ組織でボランティアとして活動することを後押しする。
これらを実行する具体的な責任は、州単位のAFL-CIO支部(State Federateion)と、(地域単位の)中央労働評議会(Central Labor Council)に負わせるとした。
活動を金銭的に支えるため、基金を立ち上げることも決議し、「21世紀のための労働改革基金(略称:LIFT)」とした。
幅広い参加
第16決議を支えるために、いくつかの綱領変更も行われた。それにより、労働組合ではない複数の組織がAFL-CIOの意思決定過程に加わるパートナーとなったのである。
それは、環境保護団体の「シエラクラブ」、「全米黒人地位向上協会(NAACP)」、ラテン系アメリカ人組織「全国ラ・ラザ協議会(the National Council of La Raza)」、働く女性のための組織「Moms Rising」、そして大学生の組織「搾取職場に反対する学生連盟(United Students Against Sweatshop)などである。
一つずつ見ていこう。

写真:シエラクラブ
シエラクラブのメンバーは130万人を数える。労働組合との関係は、2006年に全米鉄鋼労組(USW)との間に、ブルー・グリーン同盟と呼ばれるパートナーシップ協定を結んだことに始まる。その内容は、風力や太陽光などの環境に配慮したエネルギーを活用した産業の育成と雇用の創出だ。オバマ政権下では、アラスカの油田からパイプラインを引くために、原生林を伐採するという計画を廃止に追い込んでもいる。
JILPTが行ったブルー・グリーン同盟のニューヨーク市の代表者へのインタビュー(「JILPT労働政策研究報告書 No.144アメリカの新しい労働組織とそのネットワーク」を参照されたい)では、USWは環境保護を理由としたストライキを実施した全米で初めての労働組合だと聞いた。会長のレオ・ジェラルド氏がそのストライキも、シエラクラブとのパートナーシップもリードして進めたのだという。
USWは、スペインの労働者協同組合モンドラゴン社との提携契約も2009年に結んでいる。労働者が所有する企業という新しい実験を、クリーブランド市とフィラデルフィア市ですでに進めている。
公民権運動を主導したNAACPと労働組合は、かつて協力関係にあった。今回はその関係を取りもどすものになっている。会員数は30万人を数える。
全国ラ・ラザ協議会(the National Council of La Raza)は1968年設立で、全米でおよそ300のコミュニティ組織を束ねている。
Moms Risingの設立は2006年で、きっかけは同名のAMラジオ番組をワシントンD.Cで放送していたことだった。
搾取職場に反対する学生連盟の設立は1997年。全米150のキャンパスに支部を持ち、労働者とコミュニティをつなぎながら、活動を展開している。

写真:United Students Against Sweatshopの活動とリーダーの一部
従来型の労働組合は職場が基盤で、使用者と行う団体交渉が中心にあった。そこからすれば、「もはや団体交渉を運動の中心に据えない」となれば、いったいどのような方法をとれば良いのかと疑問に思うだろう。
しかし、これまでにみてきたように、新しく労働組合とパートナーとなった組織は団体交渉とは異なる形で利害調整を行ってきた。メンバーが等しく同じ職場にいるわけではなかったからだ。そのために、コミュニティがもっとも集まりやすい場所となっていた。その場合、メディアを積極的に活用しつつ、政治家にロビー活動を展開する、多くの人を巻き込んでデモを行って世論に訴えかける、企業も労働組合もパートナーに加えるという方法で関係者の利害を調整してきたのだ。
これらの組織とパートナーを結ぶということは、取りも直さず、労働という問題が従来型の職場をベースとした関係で捉えることができなくなってきたことにほかならない。

写真:United Students Against Sweatshop
それは、労働組合の組織率が低下しているということだけではなく、企業側の働かせ方が変化しているからでもある。具体的には、パートやテンポラリー、派遣などに加えて、請負や独立自営業者のように雇われずに働くというスタイルが増えているという形となって現れている。
だからこそ、「団体交渉は不平等をなくすための最も良い方法の一つだが、試すことになる別の方法がある」とのトラムカ会長の言葉になる。
(AFL-CIO「労働運動の再定義」 —AFL-CIO2013年大会(後編)に続く)
2013年10月 フォーカス:アメリカ
- AFL-CIO「労働運動の再定義」 —AFL-CIO2013年大会(前編)
- AFL-CIO「労働運動の再定義」 —AFL-CIO2013年大会(中編)
- AFL-CIO「労働運動の再定義」 —AFL-CIO2013年大会(後編)
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※なおアメリカの新しい労働組織については、JILPT報告書の他、岩波書店「仕事と暮らしを取り戻す―社会正義のアメリカ」でも参照できる。
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