企業再編と雇用:ドイツ
企業買収と雇用
—「資本主義批判」を機に注目

4月中旬に与党社民党(SPD)党首のF・ミュンテフェリング氏が提起した「資本主義批判」(海外労働情報・ドイツ 6月記事参照)。外資系企業を含む投資ファンドなどの機関投資家が企業買収および売却によって利益を得る一方、雇用を犠牲にしているとされ、機関投資家は農作物に被害をもたらすバッタの群れに例えられた。これを契機に、資本の移動と雇用への影響に関する議論が広がっている。

4月29日には、週刊誌『シュテルン』オンライン版の記事が、非公開のSPD内部文書で機関投資家が関与した具体的な事例が列挙されていることを報道した。そこでは、米国投資会社KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が投資銀行ゴールドマン・サックスと手を組み、情報機器などを製造するジーメンス・ニクスドルフ社を買収し、その後の株式上場で利益を得たケースなどを紹介。この他に、カーライル、CVCキャピタル、BCパートナーズなど、著名な投資ファンドがあげられている。

雇用に関しては、KKRが通信システム会社Tenovis(テノフィス)社を2002年末に買収した事例を取り上げ、「従業員に対し最低向こう1年間の雇用を保障することを条件に12.5%の賃下げを実施したが、2003年夏、従業員の半数近くを解雇した」と記している。論議が広がっていることに対し、BDA(ドイツ使用者連盟)のD・フント会長は、ミュンテフェリング氏が煽っている論議は投資家たちをうろたえさせ、ドイツの産業にとって「著しく有害である」と述べた。

ドイツでも、このような論議がきっかけで、企業買収問題に対する関心が高まっている。5月に放送されたドイツ短波放送の経済番組では、2002年に70億ユーロだった投資ファンドなどの対ドイツ投資が、03年に倍増、04年には220億ユーロに達したと紹介された。番組ではドイツ銀行チーフエコノミストのN・ヴァルター氏が、ドイツにおける企業価値が低いがために、国内企業が「ともすれば餌食になりかねない」と指摘している。同氏によれば、外国企業は「ドイツ企業はますます掘り出し物になりつつあると考えている」という。

しかし、ドイツでは最近まで株式持ち合い比率が高く、敵対的TOB(公開買付)の事例は少なかった。1999年12月に起きた、英ボーダフォン・エアタッチ社(当時)の独マンネスマン社買収は、当時携帯通信事業に転進していたマンネスマンがもともと伝統的な大手鉄鋼会社だったこともあって、大きな注目を集めた。この買収が契機となり、ドイツでは02年1月に企業買収法が成立、企業買収に対する公開買付対象企業の防衛策に関する規定などが整備された。

ドイツでは、日本と同様、米英両国で支配的な株主重視の企業統治スタイルに対する違和感も存在する。ZDF(ドイツ第2テレビ)の世論調査によれば、ミュンテフェリング氏の提起への支持は多く、「多くの企業はドイツで高い利益を上げながら雇用の場を減らしている」とする見方に賛成の人が全体の74%に達し、そのようなケースは少ないとする人は23%に過ぎない。

このような批判的な意識は、もちろん外資に対してだけでなく、国内資本家に対しても向けられている。たとえば、ドイツ銀行は、04年に過去数年間で最大の利益をあげたが、現在ドイツ国内で約1900人、全世界で約6400人の人員削減を計画している。ミュンテフェリング氏をはじめとして、その雇用に対する責任を問う声は強い。金融産業を組織対象にしている公共サービス労組ver.di(ヴェルディ)は、「高利益を得ている企業体の解雇禁止」を要求しており、同役員のU・フォウロンク氏は、「削減を計画する代わりに、革新的な事業プランと人事政策を実現すべきだ」と述べている。

2005年6月 フォーカス: 企業再編と雇用

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