請負・派遣:イギリス
拡大する人材派遣市場

英国の人材派遣事業に関する法規制は、他のEU諸国と比較するとゆるやかと言われ、これまで特段の保護規制も実施してこなかった。最近の企業の人件費削減志向に伴う需要の高まりは、人材派遣市場を拡大、多様化させつつある。

制度の概況

英国でテンポラリー労働者(Temporary workers)と言う場合、「一時労働者」を意味し、派遣労働者は (Temporary) Agency Workers とよばれる。Agency Workersは、クライアント企業が派遣労働者を将来雇用者として雇い入れることを想定して行なう紹介予定型の派遣(temp to perm)と、それ以外の派遣に区別される。前者のケースでは、クライアント企業が派遣労働者を雇用した場合、派遣業者は紹介料を受け取る。

労働者派遣事業は、1973年成立の職業紹介法(Employment Agency Act:EAA)と、これに関連するthe Conduct of Employment Agencies and Employment Businesses Regulations 1976 によって規制されてきた。労働者派遣事業の許可制は、政府の規制緩和に伴い1995年1月以降許可制が廃止されることになる。これ以降英国の法規制は派遣企業の取り扱う職業や、派遣期間に制限がないなど他の欧州諸国と比較してゆるやかなものとなっていた。

2002年3月、欧州委員会は派遣労働者の保護に関する指令案を提出、これを受けた欧州議会は派遣労働者の保護を厚くする方向での修正を加えた指令を出す。この指令に対して英国政府は指令が導入されると派遣労働者を利用する企業が減り、これまで派遣制度が事実上提供してきた正規雇用へのルートが先細りしてしまう。結局は英国労働市場の柔軟性を損ねる恐れがあるとの懸念を表明していた。(注1)

このような流れの中で英国は2004年4月、新たなthe Conduct of Employment Agencies and Employment Businesses Regulations 2003 を施行。同規則は、ストライキに参加する労働者の代替としての派遣を禁止するなどの内容を含むもので、改正により人材派遣業の利用者に対する保護の性格が強まった。

急成長する人材派遣ビジネス背景には企業の専門家ニーズの高まり

人材派遣ビジネス市場の各国比較(2002年)を見ると、英国は米国に次いで多い。EU諸国ではフランスと並んで最大の人材派遣ビジネス市場を持つ国となっている(図1参照)。2002年の派遣労働者数は29万人で雇用者に占める割合は1.2%、産業別派遣先は金融不動産業(31%)、行政・教育・健康産業(22%)、製造業(20%)となっている。性別で見た場合、統計によって差異はあるものの男女ほぼ同数という結果が多い。 (注2)経済のサービス化に加え、情報通信技術の発展によって企業が求める人材も変化している。人材派遣の対象が従来の一般事務職から医療やITといった専門職にまで拡大しており、この傾向はさらに高まると見られている。

企業別に見ると、世界市場でも高いシェアをほこるマンパワー社やアデコ社が1位、2位を占めているものの、多国籍企業が占めるシェアは他国と比較して低い。これは、個々の職業に特化、あるいは地域ニーズを把握した国内企業が健闘していることが理由とされている。市場の拡大と共に企業間におけるパイ取り競争が激化するものと見られている。

図

出典:Robert W. Barid & Company, Manpower, Hunt-Scanlon Corporation, and staffing Industry Analysts

(表1)各国内における人材派遣企業第1位・2位企業
国名 第1位 第2位 上位5社が国内市場に占める割合
英国 マンパワー アデコ 16%
米国 アデコ マンパワー * 14%
フランス アデコ マンパワー 80%
ドイツ ランドスタッド アデコ 21%
イタリア アデコ マンパワー 68%
オランダ ランドスタッド スタート 76%

出典:UKtemporary staffing industry: structure and restructure Temporary Agency Work in the EU を基に作成

*米国については、上位2社のみの割合

参考資料

  1. Temporary agency work in the European Union

2005年1月 フォーカス: 請負・派遣

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