政府、派遣労働者に関するEU指令の適用除外を検討

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2003年3月

政府は、派遣労働者の待遇を派遣先の正規従業員と同等にするEU指令(以後、派遣労働者指令)の適用除外を検討している。英国ではEUの全派遣労働者の3分の2にあたる約70万人が雇用されているだけに、指令の素案が明らかになった2002年春以来、政府と使用者は警戒感を強めていたが、派遣労働者をさらに保護する方向で指令案が修正されたため、今回の動きになった。

派遣労働者(agency workers)指令は、欧州委員会が策定にあたり、同じ使用者のもとで6週間就労した派遣労働者に派遣先の正規従業員と対等の賃金・条件を与えることを2002年3月に提案した。近年出された雇用関連の指令のなかでは最も関心を集めている。

その後、欧州議会が派遣労働者をさらに保護する方向での修正を支持し、派遣労働者に対し、就労開始日から派遣先の正規従業員と同じ有給休暇日数と他の一切の付加給付を与え、6週間後に正規従業員と同じ賃金を支払う、こととした。

英国では、EU全体の派遣労働者の3分の2、約70万人が就労しているだけに、指令導入による労働市場への影響が懸念されている。

政府は、指令が導入されると派遣労働者を利用する企業が減り、これまで派遣制度が事実上提供してきた正規雇用へのルートが先細り、失業者が増えるのではないかと懸念している。アレン・ジョンソン雇用関係担当大臣は、指令は労働市場の柔軟性を損なうもので、2010年までにEU全体で2000万人の新たな雇用を創出するというリスボン・サミット(2002年末)の合意内容に反するものだとしている。

指令案の中身で政府がとくに懸念しているのは、派遣労働者を採用する際に煩雑な契約手続きが要求されていることだ。英国では、派遣期間が1~2日であったり、1週間に複数の派遣先で就労するケースは珍しくない。指令案は、こうした「変則的な」派遣労働者についても、派遣先の同等な正規従業員との比較に基づいて各種付加給付を計算することを求めており、これで生じる事務手続き上の費用は派遣先企業が負担することになる。

企業が派遣労働者の採用を手控えるのではないかという政府の懸念は、英国産業連盟(CBI)の調査で裏付けられている。220社を対象にしたその調査によると、指令が導入された場合、派遣労働者の利用を減らすと答えたのは57%にのぼり、また利用を完全にやめると答えた企業も10%あった。使用者は、派遣労働者は短期間しか企業にいないため相対的に生産性が劣る場合が多く、それに対して正規従業員と同等の賃金を支払うのは合理的でないと訴えている。

政府は今後、指令の導入を阻止するために、また少なくとも適用対象を就労期間が1年以上の派遣労働者に限るために、他のEU加盟国に同調を求めていくことが予想されるが、支持を取り付けるのは困難な情勢だ。その場合には、英国への指令の適用を拒否する「適用除外(opt-out)」を申し立てる構えだ。

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