高齢者の退職と雇用:ドイツ
高年齢層とリタイアの時期

ドイツでは、90年代まで、主に50歳代後半~60歳前後の高年齢層は、高齢者短時間労働法、失業給付と早期年金受給システムなどの利用によって、法律上の年金受給開始年齢である65歳より前に引退することが可能であり、また一般的でもあった。しかし現在、この状況は持続可能ではないとする認識が強まり、具体的には年金財政の悪化による年金制度見直し、労働市場改革の一環としての失業給付期間の見直しなどにより、早期退職に対する制限が強まってきた。制度的には、高年齢層の就業率を高める方向が明確になったといえる。

ドイツでは、時代によって変化が見られるものの、65歳で労働関係が終了するという考え方が労働協約に反映されていた時期もあり、法で定める年金の受給開始年齢が65歳であることも踏まえると、この年齢を一つの引退時期と見なすことも可能である。しかし実態をみると、現在、ドイツ人は平均62.7歳で老齢年金を受給し始めており、就労が可能でない人を計算に含めると、年金生活開始の平均年齢は60.4歳となる。旧西ドイツでは、法律で定められた通常の年金受給開始年齢である65歳まで働く人は1/4に過ぎない。また、半数程度の企業しか、50歳を超える人々を雇用していない(ディ・ヴェルト紙03年12月3日付による)。

これまで早期退職を可能にしていた要因の一つに、高齢者短時間労働対象者(後述)および失業者に対し、60歳からの年金早期受給を可能にする仕組みの存在がある。現在、失業者は、過去10年間に8年以上公的年金保険料を納めているなどの条件を満たせば、60歳から年金を受給できる。過去1年間に職を得ていた場合は対象から外される。ただし、63歳以上で35年の保険料支払期間があれば、これにとらわれずに受給を始められる。年金を早期受給する場合は、標準受給開始年齢の65歳から数えて、一カ月早めるごとに0.3%受給額が減少する。5年早めると、18%減額される計算になる。

また、90年代後半から今世紀初頭にかけて、高齢者短時間労働法により、満55歳以上の労働者に対し、老齢年金受給開始までの間、労働時間を半分まで減少させ、減った分の賃金に対して一定の金額を割増する(使用者が支払ったうえで、要件を満たしていれば国の助成を受けることができる)ことによって円滑な引退を実現する制度が、政労使の一定のコンセンサスを得て機能してきた。背景には、若い世代の雇用機会を増やし失業率を低下させようとする考え方があり、とくに労組は制度づくりに積極的に取り組んできた。

このような早期退職を容易にする流れは、今年4月に可決された「年金持続法」によって、大きく転換されることになりそうだ。同法は、年金保険料率算定方法の変更が柱で、年金を受給する側と、労働者など保険料を支払う側のバランスが変わっても、保険料率を一定に保つ(受給者が増加すると給付額が減る)仕組みを導入した。加えて、09年以降は、早期受給の場合でも、63歳にならなければ受給できないことも定めた(男性の場合)。

一方、昨年には、「ハルツ法」と呼ばれる労働市場改革立法の一環で、失業給付期間の短縮も決まっている。過去の雇用保険支払いなどの条件を満たしていれば、それまで55歳以上では32カ月の給付があったのが、18カ月まで短縮されることになった。年金受給までの間に失業給付を受け取るプランを立てている人にとっては、引退時期が遅れる結果をもたらす。

現行の高齢者短時間労働法は、もともと時限立法であり、二度の延長を経て、現在は09年末までとなっている。この制度も、そのあり方と運用が、将来検討の対象になっていくと思われる。このように、50歳代後半からのリタイアを可能とする条件が徐々に狭められていくなかで、国民の意識がそれを肯定する方向に向かうかどうかはを見極めるには、まだ時間がかかりそうだ。


2004年10月 フォーカス: 高齢者の退職と雇用

関連情報