高齢者の退職と雇用
EUの高齢者雇用
- カテゴリー:高齢者雇用
- フォーカス:2004年10月
EUは1990年代まで高齢者雇用政策を主要な政策課題とはしてこなかった。これは1970年代の石油危機以降の失業が若年者に多く、高齢者はむしろ早期退職によって若年者に雇用機会を提供するよう期待されたことによる。このため、高齢者の早期退職奨励策として、老齢年金の早期支給や特別な失業給付の支給が実施されてきた。
しかし、1990年代に入って、高齢者の早期退職を支える財政的ゆとりを失い、高齢者も社会保障の拠出者となることが期待されるようになり、高齢者の雇用を奨励するよう政策転換がなされた。
こうしてEUは、1999年頃から、「活力ある高齢者」を前面に掲げて積極的な高齢者雇用対策に乗り出した。2000年のリスボン欧州理事会は、EUの雇用率を2010年までに70%に引き上げることを目標として打ち出し、2001年のストックホルム欧州理事会において、2010年までに高齢者層(55歳~64歳)の雇用率を50%に引き上げることが決定された。2002年のバルセロナ欧州理事会では、2010年までに退職平均年齢を5歳引き上げ65歳とすることを目標に掲げた。
EUは、また、年齢障壁を是正するため、2000年11月、「雇用及び職業における均等取扱いのための一般的枠組みの設立に関する理事会指令」(一般雇用機会均等指令)を採択した。この「指令」は、宗教、信条、障害、年齢、性的志向による雇用差別を禁止する全体的枠組みを設定したもので、2003年12月までに加盟国に法制定ないし全国レベルの労働協約の締結を求めている(ただし、年齢、障害については、3年間延長できる)。
欧州委員会は、2004年3月に発表した「高齢者雇用の促進と退職平均年齢の引き上げ」と題する報告書において、欧州雇用戦略及び経済政策ガイドラインに沿って、積極的な高齢者雇用対策を実施するよう加盟国に促している。
具体的な施策としては、1.早期退職よりも継続就業を促すための適切な財政的インセンティブの導入2.職業訓練、生涯教育の提供と積極的労働市場政策の実施3.健康と安全に配慮した良好な労働条件の整備4.多様な雇用形態(パートタイム労働、キャリア・ブレーク時の代替要員(注))とケア・サービスの提供――等を挙げている。また、これらの施策を実行する上で様々な課題に関する労働協約の締結を通じてソーシャル・パートナーの果たす役割が非常に大きい点も指摘している。
欧州統計局の資料によると、2003年のEU15カ国の高齢者層(55歳~64歳)の雇用率は、41.7%(男性51.6%、女性32.2%)であった。新規加盟国10カ国を加えたEU25カ国では、40.2%(男性50.3%、女性30.8%)となっている。前年に比して、EU15カ国で1.6ポイント、EU25カ国で1.5ポイント高齢者雇用率が上昇したが、2010年の到達目標50%にはまだ約10ポイントの開きがある。
退職平均年齢について、EU15カ国で、2002年は2001年より0.4歳上昇し60.8歳となった。EU25カ国では、同じく0.4歳上昇し60.4歳となったが、2010年の到達目標である65歳にはまだ程遠い状況にある。
高齢者層(55歳~64歳)の雇用率(2003年) | 退職平均年齢(2002年) | |||||
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合計 | 男性 | 女性 | 合計 | 男性 | 女性 | |
EU25カ国 | 40.2 | 50.3 | 30.8 | 60.4 | 60.8 | 60.0 |
EU15カ国 | 41.7 | 51.6 | 32.2 | 60.8 | 61.0 | 60.5 |
ベルギー | 28.1 | 37.8 | 18.7 | 58.5 | 58.6 | 58.4 |
チェコ共保国 | 42.3 | 57.5 | 28.4 | 60.2 | 62.2 | 58.4 |
デンマーク | 60.2 | 67.3 | 52.9 | 60.9 | 61.9 | 59.8 |
ドイツ | 39.5 | 47.7 | 31.3 | 60.7 | 61.1 | 60.3 |
エストニア | 52.3 | 58.9 | 47.3 | 61.6 | - | - |
ギリシャ | 42.1 | 59.2 | 26.2 | - | - | - |
スペイン | 40.8 | 59.3 | 23.4 | 61.5 | 61.5 | 61.5 |
フランス | 36.8 | 40.9 | 32.9 | 58.8 | 58.9 | 58.7 |
アイルランド | 49.0 | 64.7 | 33.1 | 62.4 | 62.0 | 62.8 |
イタリア | 30.3 | 42.8 | 18.5 | 59.9 | 60.2 | 59.7 |
キプロス | 50.4 | 68.9 | 32.7 | 61.4 | - | - |
ラトビア | 44.1 | 51.3 | 38.8 | - | - | - |
リトアニア | 44.7 | 55.3 | 36.7 | - | - | - |
ルクセンブルグ | 30.0 | 39.1 | 20.9 | 59.3 | - | - |
ハンガリー | 28.9 | 37.8 | 21.8 | 59.2 | 59.6 | 58.8 |
マルタ | 32.5 | 53.8 | 13.0 | - | - | - |
オランダ | 44.8 | 57.3 | 32.1 | 62.2 | 62.9 | 61.6 |
オーストラリア | 30.4 | 40.1 | 21.5 | 59.3 | 59.4 | 59.3 |
ポーランド | 26.9 | 35.2 | 19.8 | 56.9 | 58.1 | 55.8 |
ポルトガル | 51.1 | 61.6 | 41.9 | 62.9 | 62.8 | 63.0 |
スロベニア | 23.5 | 33.2 | 14.6 | - | - | - |
スロバキア | 24.6 | 41.0 | 11.2 | 57.5 | 59.6 | 55.7 |
フィンランド | 49.6 | 51.0 | 48.3 | 60.5 | 60.6 | 60.4 |
スウェーデン | 68.6 | 70.8 | 66.3 | 63.2 | 63.4 | 63.1 |
イギリス | 55.5 | 64.8 | 46.4 | 62.3 | 62.7 | 61.9 |
資料出所:欧州統計局(EUROSTAT)
注:
- 家族看護・介護、長期旅行、自己啓発研修等のため原則無給の長期休暇を取る者の代わりに失業者等を雇用する措置。
参考:
- 濱口桂一郎著「EU労働法の形成」(2001年3月)
- (財)高年齢者雇用開発協会「諸外国における高齢者の就業形態の実情に関する調査研究報告書I欧州主要国編」(2003年3月)
2004年10月 フォーカス: 高齢者の退職と雇用
- EU: EUの高齢者雇用
- イギリス: 変わり行く高齢者雇用
- アメリカ: アメリカの高齢化対策の行方 —ブッシュの目指す「オーナーシップ社会」vs ケリー氏の国家主導型改革案
- ドイツ: 高年齢層とリタイアの時期
- フランス: フランスにおける中高年の雇用
関連情報
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