低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(3)
―上院による評価報告書と公聴会での議論
活動手当の就業促進効果を検証した会計検査院の勧告を受けて、元老院(上院)財務委員会は、これに対する異議を含む「活動手当創設10年を振り返る評価報告書」を作成した。会計検査院の調査報告書の責任者も出席した財務委員会公聴会が6月10日に開催され、両者の意見交換が行われた。
活動手当の現状と将来に関する元老院(上院)報告書
会計検査院による勧告を盛り込んだ調査報告書の作成を受けて、上院財務委員会は活動手当創設10年の機会に評価報告書を作成した(注1)。活動手当の有効性を検証し、将来に向けた提言をまとめたものとなっている。
まず、活動手当が低所得者層の購買力を実際に支え、貧困削減に貢献している点を高く評価している。しかしその一方で、支出額が年々増大していることを問題視している。また、制度の柱である「就労促進」については、度重なる改革にもかかわらず、その効果が明確に確認できていないとしている。その主な課題として、制度の複雑さに起因する受給者の理解不足(注2)、住宅手当など他の社会保障制度との連携不足(注3)、依然として受給資格がありながら未申請のものが多い点、支援が必ずしも最も困窮している層に届いていない点(注4)を挙げている。貧困世帯はRSA(生活保護)のみを受給する者の割合が著しく大きく、就労による収入がないためにそもそも活動手当を受給できない世帯という特徴がある。その世帯に対して活動手当が支給できるようにすべきだが、就労に至っていないために支援が最貧層に届いていないと分析している。
これらの課題に対して、就労に向けたインセンティブの強化、低所得層への支援の集中、申請手続きの簡素化と未申請や過誤払い削減策など改革の推進を提言している。
上院財務委員会の調査結果によると、活動手当の有効性を分析するレポートは2022年にIPP(公共政策研究所)によって実施されており(後述)、そのレポートでも就労促進の効果が不十分だと指摘されている。
受給資格除外をめぐって見解が分かれる
上院財務委員会の公聴会には、会計検査院のソフィー・ティボー第5部門長が出席し、同院がとりまとめた報告書の主旨と勧告内容を説明した。実際、活動手当は家族構成の如何に関わらず、フルタイムの就労者の貧困解消に大きく貢献しているということを認めている。手当は所得下位40%の層で広く利用されているほか、ひとり親家庭にとって重要な役割を果たしていると評価している。しかし、活動手当が貧困ラインをはるかに上回る収入を得ている世帯にも給付されていることを指摘した上で、公共支出の抑制を最優先事項として捉えるべきであると見解を述べている(注5)。そのためにはSMICの半分以下の収入しか得ていない最貧層の労働者への支給額を手厚くすべきであるので、高い所得を得ている就労者に対する活動手当支給の削減を求めている。その上で、活動手当の受給者の貧困率が比較的高いまま低下しない要因は、主にパートタイム労働の割合が高いことによると分析している(注6)。
ティボー部門長の説明に対して、上院財務委員会の公聴会参加者からは賛同する見解とともに、異議を申し立てる者もあった。以下のように「見習訓練生の受給資格」を活動手当から除外することについては、出席者の間で賛否の見解が分かれた。「退職年金受給者」と「AAH受給者」の取り扱いについては、勧告に対して反対する意見が出された(注7)。
(1)見習訓練生の資格除外について
上院財務委員会アルノー・バザン上院議員からは、会計検査院による見習訓練生に関する勧告に対して賛同する意見が表明された。活動手当は見習訓練生にとって、就労時間を増やす効果は機能していないという見解を持っているからである。見習訓練生はそもそも最低賃金水準の78%以上の賃金を得ているため、活動手当をより手厚く給付すべき層は他にあると考えているからである。
その一方で、ピエール・バロス上院議員は、見習訓練生の受給資格は維持すべきだと考えている。学生や見習い労働者への活動手当の支給は、低所得労働者の購買力を支援するという目的に合致していると考えている。
見習い訓練生の賃金は正規の雇用労働者の賃金に近づいており、学生というよりは研修中の労働者とみなすべきである。活動手当の全体的なコストに比べれば、見習い訓練生の適用を除外しても節約できる支出額は相対的に小さいものだと考えられる。見習い訓練制度に関する支出の大部分が企業向けに確保されている現状を踏まえても、若年労働者である見習い訓練生の収入を増加させる措置によって公平性を保たれると考えるとしている(注8)。
フローレンス・ブラトリックス・コンタット上院議員も見習い訓練生を活動手当の受給資格対象から除外するという会計検査院の勧告に反対する立場にある。というのは、彼らは学業と仕事を両立させており、非常に厳しいスケジュールをこなしている。多くの場合、彼らは経済的に自立しており、より困難な状況に陥れる可能性のある決定は、不公平に考えるからだとしている。
このような公聴会出席者の発言を踏まえてティボー部門長は、以下のように会計検査院の見解を改めて強調した。見習訓練生は訓練や学習が義務づけられている前提を踏まえると、就労時間を増やす意欲はないために就労時間を増やすことは困難だと考えている。そもそも、見習い訓練生は活動手当を受け取るからではなく、見習いの身分だからこそ働いているのであって、働く意欲は極めて低い。我々は数多くの仮説を検証したが、見習い訓練生は、受け取った金額に関わらず、職場復帰への動機付けとなるような要素は見当たらなかった。この制度は既に公的財政にとって非常に大きな負担となっているため、会計検査院としてこの問題を提起したと述べている。
(2)退職年金受給者の資格除外について
活動手当と年金給付の両方を受給している退職者に関して、会計検査院は、活動手当は購買力を支えるだけで、就労意欲を高めるものではないと考えている。したがって、同院は、年金給付を受け取っている退職者は活動手当の適用対象から除外することを勧告している。
この勧告に対して、上院財務委員会のバザン上院議員は、反対する意見を表明した。高年齢労働者の雇用支援の推進は重要な政策課題であるが、活動手当の適用除外は、それに反する措置になると考えているからである。さらに、これらの受給者が労働市場から離脱すれば、年金支出が増加し、活動手当による節約効果の全部または一部が相殺される可能性がある。
(3)AAHの優遇措置の廃止について
バロス上院議員はAAH受給者の優遇措置を廃止するという会計検査院の勧告に反対する意見を表明している。現行制度下で10万800人のAAH受給者が平均受給額月額174ユーロ受給している(注9)が、活動手当受給額が削減されることになると、これらの受給者にとって決して小さな額ではない。これは、障害者の雇用を支援する政策に反することになる。一方、活動手当の総費用に比べて、AAH受給者に対する活動手当給付は、支出を節減したとしても比較的小さな額である。すでに就労に大きな障害をかかえている障害者をさらに困窮させる制度改正になると主張している。同氏は、政府が2026年財政法案でこの措置を提案した際にも、反対票を投じている。コンタット上院議員も反対の意見を表明している。
公共政策研究所は「2019年改革の就業促進効果は乏しい」と分析
なお、会計検査院に先立って2023年に公共政策研究所(Institut des politiques publiques:IPP)(注10)によって実施された調査でも、2019年の活動手当の拡大の就業促進効果は乏しいという分析結果が示されている。
2023年10月に公表された分析結果によると、2019年の個人手当の増額は就業促進に対して目立った効果を発揮していない(注11)。IPPは、CAF(家族手当基金)の受給者情報(ALLSTAT、Cnaf, Allstat FR6)(注12) を活用し、2018年7月から2019年7月までの期間で、各期間に活動状況のデータが欠落していないものを分析対象とした(注13)。対象は、独身女性2,656,127人、独身男性1,415,248人、カップル649,704組である(注14)。分析の結果、使⽤したデータの性質による制約を踏まえつつ、積極的連帯手当(RSA(生活保護))のみを受給している者と、RSAと活動手当を併給している者の違いを分析したところ、調査対象期間前から既に就業して活動手当を受給していた者については、改正による就業を促進するプラスの効果が、就業から失業への移行確率の低下として現れると分析する(注15)。
一方で対照的に、就業せずにRSAのみを受給していた者については、改正によるプラス効果があれば失業から就業への移行確率の上昇という形で現れると推定する。だが、実際には、改正による手当の増額によって目標とする収入水準を容易に達成できるようになった世帯では、就業時間を改正前ほど増やさなくても従来の所得を維持できるため、改正によって就業時間を減らす可能性もあると分析している。この場合、改正は就労促進という本来の目的とは逆の効果を示す可能性があると分析している(注16)。
注
- MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026) Rapport La prime d’activité, dix ans après sa creation (PDF:2.44MB)
(Rapport sans compte rendu) RSION PROVISOIRE, MERCREDI 10 juin 2026.(本文へ) - 前掲注1、MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026) p. 13 et p. 22.(本文へ)
- 前掲注1、MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026) p. 11.(本文へ)
- 前掲注1、MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026) p. 26.(本文へ)
- La Cour des comptes appelle à recentrer la prime d’activité sur les plus pauvres
, par Catherine Abou El Khair, JGPmedia pour Localtis, Banque des territoires, Publié le 10 juin 2026.(本文へ) - 前掲注5、La Cour des comptes appelle à recentrer la prime d’activité sur les plus pauvres, par Catherine Abou El Khair, JGPmedia pour Localtis, Banque des territoires, Publié le 10 juin 2026.(本文へ)
- Comptes Rendus de la Commission des Finances, Mercredi 10 juin 2026, La prime d'activité - Audition de Mme Sophie Thibault, présidente de la cinquième chambre de la Cour des comptes
, M. Jean-Benoît Dujol, directeur général de la cohésion sociale (DGCS), et Mme Constance Bensussan, directrice générale de la Caisse nationale des allocations familiales (CNAF), pour suite à donner à l'enquête de la Cour des comptes.(本文へ) - 前掲注1、MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026), p. 17.(本文へ)
- 前掲注1、MM. Arnaud Bazin et Pierre Barros (2026), p. 18.(本文へ)
- パリ経済学校(Paris School of Economics (PSE))によって設立され、国立統計経済行政学院(Groupe des écoles nationales d’économie et de statistique (GENES))と共同で、経済学における最先端の研究手法を用いて、公共政策の定量的分析と評価を促進することを目的とする研究機関である(フランス政府ウェブサイト(Institut des politiques publiques (IPP)
)参照)。(本文へ) - Antoine Bozio, Brice Fabre, Claire Leroy, Nolwenn Loisel et Maxime Tô (2023) La réforme de 2019 de la prime d’activité : analyse sur la possibi- lité de mesurer les effets sur l’emploi, Institut des politiques publiques (PDF:2.17MB), RENDU FINAL - Octobre 2023.(本文へ)
- 前掲注11、Antoine Bozio et al. (2023) p. 33.(本文へ)
- 前掲注11、Antoine Bozio et al. (2023) p. 37.(本文へ)
- 前掲注11、Antoine Bozio et al. (2023) p. 38.(本文へ)
- 前掲注11、Antoine Bozio et al. (2023) pp. 65-70.(本文へ)
- なお、レポートでは、後段でプラセボ分析も行っており、分析の結果が偶然や偽の効果ではないことを確認し、モデルの妥当性の検証もされている(前掲注11、Antoine Bozio et al. (2023) pp. 70-74)。(本文へ)
(ウェブサイト最終閲覧日:2026年10月7日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=176.84円(2026年10月8日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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