低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(2)
 ―会計検査院が改善を求める

カテゴリー:労働条件・就業環境、労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2026年10月

低所得者向けの就労促進を目的とする「活動手当(Prime d' activité)」は、2016年の導入以来、数回の改正が行われている。特に、2019年には「黄色いベスト」の全国的な抗議行動を受けて給付の対象と額を拡大し、物価高騰に対処する措置として大きな成果を上げた。この制度改正の政策効果を検証するための調査がこのほど会計検査院によって行われた。それによると、2019年の給付の拡大による就労促進の効果は乏しいとして、改善を勧告している。

低所得世帯の支援を高く評価も、就労促進の効果を疑問視

2019年の活動手当の給付拡大に関する効果を検証する調査が、元老院(上院)から会計検査院に依頼する形で行われた。会計検査院のレポートは2026年4月に作成(院内で審査および承認)され、6月に上院に提出、公表された(注1)(注2)。

調査は、全国家族手当金庫 (Caisse nationale des allocations familiales (CNAF))の活動手当受給者登録簿から無作為に選ばれた189,577人に質問票を電子メールで送信し、6,519人の回答内容を分析する形で行われた(注3)。この政策の評価分析には、経済学者、労働組合および使用者団体の代表者、関係政府機関の代表者からなる運営委員会を設置して、当該分野の専門的な知見を活用して行われた(注4)。

調査結果によると、会計検査院は、活動手当が低所得世帯の所得支援と貧困削減において大きな効果を上げていると高く評価している。特に、「所得支援」については、法定最低賃金(SMIC)水準、フルタイムで働く労働者、特にひとり親世帯に対して、金銭的困窮から脱却させる上で重要な役割を果たしていると結論づけている(注5)。

その一方で、もう一つの目的である「就労促進効果」は、実証分析では明確に確認できなかったと指摘している。その要因として制度の計算が複雑で受給者にとって分かりにくいため、約8割以上の受給者が就労選択の際にこの手当を考慮していない実態が明らかになった(注6)。つまり、回答者の大多数の受給者が就労することによって受給できる可能性のある金額を予め予測しようとすらしていないか、あるいは予測できていない。さらに、制度の課題として、受給資格者の約3割が申請しないという「未受給」の問題と(注7)、申告の難しさに起因する収入の過少申告による多額の過誤払いの発生を挙げている(注8)。つまり、手当を支給することが購買力を高める手段として用いられる性格が強く、本来の目的である就労促進の効果を発揮していないと分析している。

こうした分析を踏まえて、就労促進という「活動手当」の主たる目的をより効果的に実施するために、次の6点を勧告している(注9)。

(1)見習い訓練の労働者や年金受給労働者について、活動手当の併給資格から除外すること(実施期限:2026年、担当省庁:労働連帯省)。

見習い訓練の労働者や年金受給労働者にとって、活動手当の受給によって就労意欲を高める効果が乏しく、単なる所得支援に過ぎなくなっているため、支給対象から除外するのが適切であると勧告している。この措置により、年間3億ユーロ以上の予算削減が見込まれる(注10)。給付制度の整合性を強化することにつながるとしている。

(2)手当支給額の算定における児童扶養手当(pensions alimentaires)と家族扶養手当(allocation de soutien familial (ASF))の取り扱いを統一すること(実施期限:2027年、担当省庁:労働連帯省)。

児童扶養手当と家族扶養手当(児童扶養手当を受けていない扶養児童が1人以上いる単身者に支給される手当)は、趣旨目的がほぼ同じにもかかわらず、活動手当算定における取り扱いが区別されている。そのため、取り扱いを統一する必要性を指摘している(注11)。

児童扶養手当は活動手当の算定基準となる収入源から控除されないが、家族扶養手当は一部控除される。このような扱いの不均衡は、公平性の問題だけでなく、活動手当の仕組みの不透明さにもつながっているため、解消すべきであるとしている(注12)。

(3)データマイニングを活用してターゲットとして受給資格者を絞ったコミュニケーションキャンペーンを計画的に実施し、「受給資格相談会」などの取り組みを活性化すること(実施期限:2026年、担当機関:CNAF(Caisse Nationale des Allocations Familiales:国家家族手当基金)、CCMSA(Caisse Centrale de la Mutualité Sociale Agricole: 農業社会共済中央基金)。

利用率に関する最新のデータが不足しているため活動手当の利用状況の評価が困難となっている。給付金の分析に関する研究は最新のものがないのが現状である。少々データが古いが、2017年時点の調査によると、受給資格があっても申請しない者が多く活用度は約30%と推定されている。これは、活用度が70%近くに達しているRSA(生活保護)と比較して、活用度を引き上げるため、改善の余地があると言える(注13)。

(4)CNAFおよびCCMSAの受給資格シミュレーターとポータルサイト「私の社会権(Mes droits sociaux)」の利用を促進する広報活動を改善すること(実施期限:2026年、担当機関:CNAF、CCMSA)。

受給者あるいは受給資格者の大多数が、就労時間を増やすことにより活動手当がどれほど増額するのかを算出することができない、あるいは算出しようとしていないという現状を改善する必要があると会計検査院は指摘している。就労時間を増やした場合に増額される手当の支給額を事前に把握するために、既存のシミュレーション・サイト(CAF(家族手当金庫)、CNAFと農業社会保障基金が提供するシミュレーター)の改善を勧告している。様々なシミュレーターを活用するように認知度を高めること、月次収入システム(DRM)に含まれる情報の活用度の把握とデータマイニングの改善により、従来では活動手当を受給していないが潜在的な受給者に対してインセンティブキャンペーンをより効果的に行うことにより、認知度や活用度を向上させることができるとしている(注14)。

(5)活動手当とAAH(成人障害手当)の両方の受給者に対して就労意欲を回復させるため、活動手当の算定においてAAHを除外すること(実施期限:2027年、担当省庁:労働連帯省)

複数の給付金の受給者は、就労時間を増やすことによって、自分自身の支給増額分を予め算定することが困難な現状にあり、就労意欲を減退させる要因となっている。特にAAH(成人障害手当、allocation aux adultes handicapés)の受給者は、活動手当の受給額の算出過程で、AAHが収入として換算されているため、一定の賃金水準では、就労しても活動手当を受給できない場合もある。例えば、通常の職場環境で働き、月収が手取り800ユーロで、AAHが231ユーロの単身障害者の場合、活動手当を月額136ユーロの受給できる(注15)。会計検査院は、活動手当の支給額決定において、AAH受給額が就労による収入として位置づけられており、その金額を念頭においた就労時間となるため、就労意欲を弱めている可能性があると分析している。そもそも、AAH受給者にとって就労した場合の活動手当の算出が複雑化しているため、自身の受給額を把握することが困難な状態である。なお、前年、上院は、より脆弱な立場にある労働者の雇用を支援することを目的とした例外措置として、AAHを活動手当の計算から除外するという政府の提案を否決している。

会計検査院は、AAH受給者が就労することによって収入を向上するようなインセンティブを与えるためには、AAHを収入ではなく社会保障給付とみなすべきだと勧告している(注16)。

(6)最初の1ユーロの収入から活動手当の支給対象として、雇用促進策を強化すること(実施期限:2027年、担当省庁・機関:労働・連帯省、CNAF、CCMSA)

現行制度では、SMICの50%を超える収入がある場合に個人手当の加算給付額が算定されている(注17)会計検査院による調査以外の調査結果においても、活動手当による就労促進効果を高めるために、就労インセンティブの明確化の必要性が指摘されている。就労する方が就労しない場合よりも経済的に有利であるというメッセージを強化するためには、活動手当を就労による最初の1ユーロの収入から支給対象とすべきであると勧告している(注18)。

2026年4月の増額は勧告の方向性に逆行と批判

元老院(上院)における財務委員会の公聴会が6月10日に開催され、会計検査院の第5部門(présidente de la cinquième chambre de la Cour des comptes)のソフィー・ティボー部門長が出席した(この公聴会の詳細については当機構国別労働トピック:2026年10月「低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(3)―上院による評価報告書と公聴会での議論」参照)(注19)。今回提出された報告書では触れることができなかった2026年4月の活動手当増額の措置についてコメントした。2026年4月の活動手当増額は、会計検査院の勧告の方向性と、逆行する制度改正であり、本来目的とする就労推進の政策効果が確認できない形の支給拡大が繰り返し行われているとして批判。実際は、本来の目的とは異なる所得保障による支出が急増していることを問題視している。

会計検査院は活動手当の趣旨と矛盾する措置を解消すべきと勧告しており、手当が就労促進に向けた労働者の労働供給行動に訴える改正を最優先するべきだと強調している。

注

(ウェブサイト最終閲覧日:2026年10月7日)

参考レート

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