低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(1)
―2019年と2026年の改正
低所得者向けの就業促進を目的とする「活動手当(Prime d' activité)」は、2016年に導入されて以来、社会的な危機に対処するために政府が用いる主要な手段の一つとなっている(注1)。物価高に対応する購買力増大のため、給付対象の拡大と支給増額の措置が度々行われ、支出額が大幅に増加している。2019年の黄色いベスト運動(燃料税引き上げや生活コスト高騰に対する大規模な反政府抗議デモ)に対処して適用対象と給付額を拡大したため、総支出額は1.7倍以上に膨らんだ。さらに、2026年4月には物価高対策の一環として、支給対象の中でもとりわけ低い所得者層を対象として支給を増額することになった。当初支援対象を絞り支出を削減する予定だったが、最終的には逆に支出が増大する予算となった。
18歳以上の低所得就労者を対象
低所得労働者に就労開始や復職を促し、収入を補填することによって購買力を支援するための給付金である「活動手当」は、2015年8月17日の「社会対話および雇用に関する法律」(通称、レブサメン法)により既存の「就業手当 (Prime pour l' emploi)」および「就業者向けの生活保護(RSA d' activité)」に置き換わるかたちで創設され、2016年1月1日から施行された(注2)。国が財源を負担し、家族手当金庫(Caisse d'Allocations Familiales:CAF)および農業社会保障共済組織(Mutualité Sociale Agricole:MSA)を通じて支給される(注3)。世帯構成と扶養家族の数に応じて基準額が定められる世帯別部分「世帯手当」(定額部分)と、受給者本人の就労所得の水準に応じて金額が定められる個人別部分「個人手当」で構成されている(注4)。
活動手当の目的には、就業せずに社会保障制度に依存することを防ぐ狙いがある(注5)。勤労収入のある18歳以上の就業者を対象として、ある程度の収入があるが、高収入でない学生や見習も含まれるなど、若年の受給者も少なくない(注6)。
年に1回給付額の定例の改定が行われており、「世帯手当」は、2026年の4月1日から図表1の給付額となった。扶養家族のいない単身者の場合、定額支給額は従来の633.21ユーロから638.28ユーロに約5ユーロ引き上げられることになった(注7)。
図表1:家族構成別の活動手当支給額

出所:政府公共サービスサイトを参照して作成。
ひとり親、つまり、扶養している子供がいる独身者、離婚者、別居者、または死別者、あるいは妊娠中の場合は、定額給付が増額される。扶養している子供のうち最年少の子が3歳未満の場合、その子が3歳になるまで、さらに加算された定額給付金が支給される(固定給付額の128.412%に相当)(図表2参照)。
図表2:ひとり親世帯に加算して支給される活動手当支給額

出所:政府公共サービスサイトを参照して作成。
「個人手当」は、世帯内の就労者、それぞれの賃金水準(過去3カ月間の平均)に応じて変動する手当であり、月額平均賃金が726.29ユーロを超える就労をした場合に支給される。手当支給額は、月額賃金が最低額の場合の26.29ユーロから、最高額の1,698.78ユーロ(手取り法定最低賃金の約1.15倍)の場合の240.63ユーロまで幅がある(注8)。
2019年改正によって受給者が急拡大
創設当初の給付対象者数は約190万世帯だったが、2019年に「黄色いベスト運動」の抗議活動(注9)を受けて実施された制度改革により、支給対象と支給額が大幅に拡大した。
「個人手当」が大幅に増額され、法定最低賃金水準(SMIC)で就労する単身者の場合には、月額90ユーロの増額となった(注10)。改正によって以前から受給資格があった世帯の給付額の増加につながり、他方でより高い所得の世帯が新たな受給資格者になった。
単身者は、改正前はSMICの1.3倍までが支給対象だったのに対し、改正によって2019年には、SMICの1.5倍以下(ただし、他に収入がない場合)であれば受給できるようになった。また、ひとり親の場合、改正前はSMICの1.65倍までが支給対象だったのに対し、改正後に1.85倍まで受給できるようになった。子供が2人いて収入が夫婦の一方の場合、改正前にSMICの2.3倍を上限としていたが改正後は2.5倍まで受給できるようになった。
改正前の2018年には320万世帯に対し支給額は56億ユーロだったが、改正によって対象が広がり、2019年には450万世帯に対し96億ユーロの支出となった(図表3参照)。2024年には480万世帯を対象として、106億ユーロが支給される規模になっている(注11)。
図表3:活動手当受給世帯数(万世帯)、支出額(千万ユーロ)

出所:上院ウェブサイトを参照して作成。
注:棒グラフ=給付総額(単位:千万ユーロ)、折れ線グラフ=受給世帯数(単位:万世帯)。
入手可能な最近四半期ごとの受給世帯数と受給者数の推移を示したのが図表4である(注12)。2026年第1四半期には、462万世帯、889万人が給付の対象となっている(注13)。
図表4:活動手当受給者数(万人)・受給世帯数(万世帯)

出所:家族手当金庫ウェブサイトを参照して作成。
2019年の法改正を調査した2022年3月の報告によると、法改正によって活動手当を受け取った100世帯のうち、90世帯が改正の恩恵を受けた世帯だった(注14)。恩恵を受けた27世帯は改正によって受給資格を得ることができ、63世帯は受給額が増えた。
増額支給が2026年7月から開始
さらに2026年4月1日には、「最も弱い立場にある人々の購買力を高める」ことを目的として「個人手当」が増額されることになった。2026年財政法(La loi de finances pour 2026)により、全受給者450万世帯のうち、特に低所得の300万世帯に対して、概ね受給者1人当たり月額最大54ユーロ増額支給されることになった(注15)。増額対象となる全受給者の平均では月額50ユーロの増額となるが、実際の増額支給は四半期ごとに計算されるため、最も早い支給は2026年2月、3月、4月申告分について、2026年7月である。これとは別に毎年4月1日には定例の年次増額が行われ、増加率0.8%が全ての受益者に適用される。
2026年度予算案の当初案には、支給対象の所得上限を引き下げて支給対象者を絞り、活動手当を低所得労働者に重点的に支給する計画が盛り込まれており、予算を削減するものだった。しかし、社会党からの要求に応える形で低所得者の支給額を増額する形となり、SMICの1.4倍の収入までの低所得者である約300万世帯以上を対象として、平均で月額50ユーロの増額とする改正が行われた(注16)。
2026年財政法の国民議会における審議の過程で説明された内容によると、450万世帯が活動手当を受給しており、受給額は所得、世帯構成、その他の給付金などによって異なるが、平均で月額190ユーロの支給となっている(注17)。「個人手当」が 4月1日から増額され、従来の最大額が184.27ユーロのところ、改正後には240.63ユーロに引き上げられると労働連帯省は説明している。これにより450万世帯のうちSMIC同額かそれより少し高い賃金を得ている約300万世帯の個人手当が月平均50ユーロ増額されることになった(注18)。
SMIC(月額手取り1,443ユーロ)を下回る収入でも手当を受け取ることは可能だが、その場合、今回の増額の対象外となっている。つまり、SMICをわずかに上回る収入(具体的には最低賃金の約1.15倍)を得ている約300万世帯の受給者が今回の増額の恩恵を受けることになる。
子供のいない独身者で、収入がSMICの1.15倍の場合、活動手当は平均で月額158ユーロから212ユーロに支給額が増額することになる。SMICの1.15倍を超えると、手当は徐々に減額され、SMICの1.4倍(月額約2,000ユーロに相当)の場合の給付額は平均70ユーロとなり、それより高い収入の場合は増額支給されない。
給付額は四半期ごとの所得申告に基づく再審査を経て決定される。実際の支給の増額は改正日の4月1日とは限らない(注19)。
活動手当の年間総支出額は2022年度以降には100億ユーロを超えているため、当初の2026年予算案では制度の適用を厳格化し、2026年までに費用を93億ユーロに削減する計画だった(図表5参照)(注20)。しかし、低所得者の購買力向上を強く求める社会党の提案を受け入れる形となり、支出額は当初予定とは逆に約20億ユーロ増額することになるとされている(注21)。
図表5:2026年度当初予算とこれまでの予算額・実行額(千万ユーロ)

出所:上院資料等を参照して作成。
活動手当増額に対する労使の見解
フランス民主労働総同盟(CFDT)のリュック・マチュー全国書記は、今回の給付の増額措置は最低賃金水準で就労する者にとっては間違いなく有益なものだと認めつつも、根本的な問題の解決にはならないと指摘している(注22)。というのは、賃金の支払いや賃上げの実施は企業の責任であって、活動手当の増額措置は、政府が雇用主の不備を補うために介入を繰り返していると考えているからである。また、労働総同盟(CGT)のソフィー・ビネ書記長は、「重要なのは賃上げと最低賃金の引き上げである」とした上で「労働者の手取りを増やす最善の方法は、副収入を増やすことではなく、賃金を上げることだ」と強調した(注23)。
CGTのトーマス・ヴァシェロン全国書記も、今回の措置を否定的に見ている。購買力の増大は本来、企業が責任を取るべき問題にもかかわらず、政府が責任を増大させているという見解を示している(注24)。その上で、政府はSMICを引き上げる方が賢明だという考えを持っている。法定最賃引き上げは政府の裁量の範囲内にある特権であり、SMICを引き上げれば、公的資金の負担を増やすことなく、結果として生活水準が向上し、ひいては社会保障費や税収の増加にもつながると主張している。
労働組合のFO(労働者の力)のパトリシア・ドレヴォン連合書記は、労働者の手取りを改善すべきだという考えから活動手当の増額を当然支持しているものの、政府による給付を増額させるよりも賃上げが必要であるというのが基本姿勢である。その理由は、賃上げは税収の増加につながり、社会保障の権利を強化することになるからだ。
使用者側の姿勢はそれぞれ異なる。中小企業連盟(Confédération des petites et moyennes entreprises)のアミール・レザ=トフィギ会長は、物価高騰に対する購買力向上という目標には賛同できるものの、政府は依然として間違った手段を用い続けているという見解を示した。政府は、労働コストを削減し、企業に重くのしかかる制約を緩和することで、企業が労働者に対してより良い報酬を支払うことができる環境づくりに資する政策を実行すべきだ。しかし、実際には実体経済がもはや吸収できない規模の公的支出で補填しようとしていることを嘆いた。一方、地方企業連合(Union des entreprises de proximité)のミシェル・ピコン会長は、今回の改正に対して肯定的な見方を示しており、賃金に過重な税金が課せられている中で苦労して就労している全ての労働者にとって有益な措置だとして歓迎する意向を示している。
注
- Projet de loi de finances pour 2026 : Solidarité, insertion et égalité des chances
, Rapports législatifs, Rapport général n° 139 (2025-2026), tome III, annexe 29, déposé le 24 novembre 2025.(本文へ) - Julien Blasco, Pierre-Yves Cabannes, Opale Echegu (dir.)(2025) Minima sociaux et prestations de solidarité - Ménages aux revenus modestes et redistribution - Édition 2025
, Panoramas de la Drees, Paru le 04/12/2025, p. 248, 30 La prime d’activité.(本文へ) - Réforme de la prime d'activité : un effort inédit pour le pouvoir d'achat de ceux qui travaillent, Communiqué et dossier de presse
, Publié le 16/02/2026 Mis à jour le 07/05/2026.(本文へ) - Prime d’activité : pouvez-vous en bénéficier ?
Écrit le 31/03/2026.(本文へ) - La prime d'activité
, Publié le 14/12/2015 Mis à jour le 03/02/2023.(本文へ) - 学生や見習の場合、1カ月当たりの収入が1,144.21ユーロ(最低賃金の78%)を超える職業(給与所得者または自営業者)に就いていることが要件となる。ただし、単身者の場合は1人以上の子どもの扶養責任があれば支給対象となる。
Prime d'activité : étudiant, stagiaire, apprenti
, Vérifié le 01 juin 2026 - Service Public / Direction de l'information légale et administrative (Premier ministre).(本文へ) - Julien Blasco, Pierre-Yves Cabannes, Opale Echegu (dir.) (2025) Minima sociaux et prestations de solidarité Ménages aux revenus modestes et redistribution ÉDITION 2025 (PDF:6.59MB)
, Panoramas de la Drees, p. 250.
政府公共サービスサイト(Prime d'activité : salarié ou fonctionnaire
, Vérifié le 01 juin 2026 - Service Public / Direction de l'information légale et administrative (Premier ministre))参照。(本文へ) - 政府公共サービスサイト(Prime d'activité : salarié ou fonctionnaire
, Vérifié le 01 juin 2026 - Service Public / Direction de l'information légale et administrative (Premier ministre))参照。
家族手当金庫(CAF)の以下のウェブサイトによると、2026年4月時点の手取りの法定最低賃金(1,442.40ユーロ)の1.15倍が1,698.78ユーロとされている。
La prime d’activité augmente en 2026
, 07.04.2026, La réforme 2026, un coup de pouce supplémentaire.(本文へ) - 2018年11月下旬に燃料価格高騰とディーゼル燃料課税強化に対する抗議行動が全国的な広がりをみせ、抗議運動に参加した者の多くが黄色い蛍光色のベスト(gilets jaunes)を着用していた。(本文へ)
- Agathe Dardier, Quynh-Chi Doan (CNAF), Cléo Lhermet (DREES)(2022), La revalorisation du bonus individuel en 2019 a fortement élargi le champ des bénéficiaires de la prime d’activité
, DREES, Études et Résultats, N°1225, Paru le 10/03/2022.(本文へ) - Pour suite à donner à l'enquête de la Cour des comptes, transmise en application de l'article 58-2° de la LOLF, sur la prime d'activité
, Rapport d'information n° 728 (2025-2026), déposé le 10 juin 2026.(本文へ) - 家族手当金庫ウェブサイト(37 - Prime d'activité Conjoncture, Données et conjuncture
, 22 June 2026)参照。(本文へ) - Prime d'activité Conjoncture au 1 er trimestre 2026 (PDF:432.57KB)
, N° 37, juin 2026.(本文へ) - 前掲注11、Agathe Dardier, Quynh-Chi Doan (CNAF), Cléo Lhermet (DREES)(2022), La revalorisation du bonus individuel en 2019 a fortement élargi le champ des bénéficiaires de la prime d’activité, DREES, Études et Résultats, N°1225, Paru le 10/03/2022.(本文へ)
- 政府公共サービスサイト(La prime d’activité revalorisée en 2026
, Publié le 05 mars 2026 - Mise à jour le 22 juillet 2026 - Service Public / Direction de l'information légale et administrative (Premier ministre))参照。
ただし、労働連帯省のウェブサイト(Réforme de la prime d'activité : un effort inédit pour le pouvoir d'achat de ceux qui travaillent, Communiqué et dossier de presse
, Publié le 16/02/2026 Mis à jour le 07/05/2026)によると、ひとり親家庭の子供2人で就労による収入が法定最賃の1.15倍の場合、55ユーロ、1.5倍の場合には61ユーロの増額となるケースや、共働きカップルの子供が2人で収入が法定最賃の1.15倍の場合には55ユーロの増額となるケースも示されている。(本文へ) - Budget 2026 : les syndicats sceptiques sur la hausse de la prime d’activité annoncée par Sébastien Lecornu, Par Bertrand Bissuel et Thibaud Métais, Le Monde, Publié le 19 janvier 2026.(本文へ)
- Coût, effets contre-productifs... Faut-il augmenter la prime d’activité, comme le propose le Premier ministre ? Jacques Sayagh
, Ouest-France, Publié le 18/01/2026.(本文へ) - Prime d’activité : qui touchera davantage à partir du 1er avril ?
Ouest-France Jacques Sayagh, Publié le 25/03/2026.(本文へ) - 前掲注18、Prime d’activité : qui touchera davantage à partir du 1er avril ? Ouest-France Jacques Sayagh, Publié le 25/03/2026.(本文へ)
- 前掲注1、Projet de loi de finances pour 2026 : Solidarité, insertion et égalité des chances, Rapports législatifs, Rapport général n° 139 (2025-2026), tome III, annexe 29, déposé le 24 novembre 2025.
La hausse de la prime d'activité annoncée par Sébastien Lecornu coûtera environ "2 milliards d'euros" par an
, BFM Business, Publié le 16/01.(本文へ) - 前掲注17、Coût, effets contre-productifs... Faut-il augmenter la prime d’activité, comme le propose le Premier ministre ? Ouest-France, Jacques Sayagh, Publié le 18/01/2026.(本文へ)
- 前掲注16、Budget 2026 : les syndicats sceptiques sur la hausse de la prime d’activité annoncée par Sébastien Lecornu, Par Bertrand Bissuel et Thibaud Métais, Le Monde, Publié le 19 janvier 2026.(本文へ)
- Augmentation de la prime d'activité : "Le meilleur moyen pour que le travail paye plus, c'est d'augmenter les salaires"
, répond Sophie Binet, Article rédigé parfranceinfo, Radio France, Publié le 17/01/2026.(本文へ) - 前掲注16、Le Monde, Publié le 19 janvier 2026.(本文へ)
(ウェブサイト最終閲覧日:2026年10月7日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=176.84円(2026年10月8日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2026年10月 フランスの記事一覧
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- 低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(2) ―会計検査院が改善を求める
- 低所得者向け「活動手当」の拡大・増額とその検証(3) ―上院による評価報告書と公聴会での議論
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