使用者団体を揺るがす「協約なし(OT)会員」の拡大

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2026年6月

ドイツでは近年、使用者団体に加入しながら、その団体が締結する労働協約には拘束されない「協約なし会員(OT)(注1)」の拡大が、労働協約システムの空洞化を招いているとして問題視されている。OT会員企業は、使用者団体の会員として、法務、人事労務相談、政治的ロビー活動、情報提供などのサービスを受ける一方で、当該団体が労働組合と締結する産業別・地域別労働協約には拘束されない。OT会員制度は、1990年代に会員企業の流出を食い止めるため、使用者団体によって導入された。労使関係研究者のトルステン・シュルテンとフェリックス・シロヴァトカの両氏は、分析論文(注2)において、OT会員制度が使用者団体自らの存立基盤を揺るがしかねないと警告している。以下で、その概要を紹介する。

会員企業の流出を防ぐために導入

通常の協約拘束会員は「T会員」と呼ばれ、使用者団体が締結した労働協約の適用を受ける。これに対し、OT会員は使用者団体に所属しながら、協約上の賃金、労働時間、その他の労働条件には拘束されない。

OT会員が拡大した背景には、1990年代以降、使用者団体から会員企業の離脱が進んだことがある。従来、企業は使用者団体に加入すれば、同団体が締結した労働協約に拘束されるのが原則であった。しかし、協約賃金の水準や労働時間規制、産業別協約による処遇設計上の制約に対する不満が高まり、使用者団体を脱退する企業が増加した。

こうした会員離れを防ぐため、使用者団体は、協約拘束を伴わないOT会員制度を導入するようになった。当初、同制度は会員企業の流出を食い止めるための「緊急避難的な例外」として位置づけられていたが、その後、次第に一般的な加入形態となっていった。同論文は、OT会員の拡大により、使用者団体に加入しながら協約拘束を受けない企業が増加し、労働協約制度の基盤が弱体化していると指摘している。

金属・電機産業で顕著な拡大

OT会員の拡大が最も顕著なのは、金属・電機産業の使用者団体「ゲザムトメタル(Gesamtmetall)」である。

ドイツの産業別労働協約システムにおいて重要な位置を占める同団体の会員企業数は、1991年の9,533社から、2006年には4,214社へと大きく減少した。その後、OT会員制度の導入により、2007年以降は会員企業数が回復に転じ、2024年には7,335社となった。しかし、この回復は主としてOT会員の増加によるものであり、協約拘束を受けるT会員は引き続き減少している。

ゲザムトメタルに占めるOT会員企業の割合は、2007年の36.4%から、2016年には50%を超え、2024年には57.3%に達した。つまり、労働協約の締結を主要な任務とする使用者団体において、加入企業の過半数が、その労働協約に拘束されていない状況が生じている(図表1)。

図表1:ゲザムトメタルに占めるOT会員の割合(2007~2024年)
画像:図表1

出所:Gesamtmetall.

産別協約の適用率低下の要因に

OT会員の拡大は、産別協約の適用率低下と密接に結びついている。金属・電機産業では、1990年には協約適用企業の割合がほぼ半数に達していたが、現在では1割強にまで低下している。労働者ベースでみても、1990年には労働者の70.6%が協約適用企業で働いていたが、2024年には46.7%まで低下しており、主要産業の一つである金属・電機産業の協約が、労働者の半数未満しかカバーしていない状況が続いている(図表2)。

図表2:金属・電機産業における協約適用企業・協約適用労働者の割合の推移
画像:図表2

出所:Gesamtmetall.

シュルテンとシロヴァトカの論文は、「1990年代初頭における協約適用率の低下は、加入企業が使用者団体から脱退したことによって生じたが、2000年代以降は、使用者団体に残留しながらOT会員へ移行することが主な要因となっている」と分析する。また、新たに使用者団体に加入する企業が、最初からOT会員として加入して産業別協約の拘束を受けない点も指摘している。

「協約準拠」は法的請求権を伴わず

OT会員の中には、産別協約に「準拠」している、あるいは協約の賃金水準を参考にしていると説明する企業もある。しかし同論文の著者らは、こうした協約準拠は、実際には協約内容の「つまみ食い(Rosinenpickerei)」になりやすいと批判している。企業に都合のよい賃金水準や制度の一部だけを取り入れ、負担の大きい要素は採用しないことがあり得るためである。

さらに重要なのは、協約準拠が法的拘束力を伴わない点である。正式な労働協約であれば、協約に拘束される使用者と組合員である労働者との間に、協約上の権利義務が生じる。これに対し、OT企業が任意に協約水準を参照(準拠)している場合、労働者には同水準の労働条件を請求する法的権利がない。また、企業は経営状況や方針の変更に応じて、こうした任意の取扱いを変更することができる。

使用者団体の性質の変容

同論文によれば、ゲザムトメタルや地域使用者団体では、運営の重点が、協約交渉を担う活動から、企業向けの法務・人事労務相談、個別企業支援、広報・ロビー活動へと移りつつある。OT会員は産別協約に拘束されないため、個別企業として労務管理上の助言や紛争対応などのニーズがある。その結果、使用者団体は、労働協約を締結する団体というよりも、企業向けのサービス提供団体、あるいはロビー団体としての性質を強めている。

しかし、このようなサービスは、民間の法律事務所やコンサルティング会社でも提供可能である。使用者団体に固有の役割は、労働組合と交渉し、法的拘束力を持つ産業別労働協約を締結する点にある。著者らは、産業別協約こそが使用者団体の「独自の価値」であり、この機能が弱まれば、使用者団体の社会的正当性も失われかねないと指摘している。

OT会員に対する判例法上の規制

もっとも、OT会員はドイツで完全に野放しにされているわけではない。連邦労働裁判所(BAG)は、2006年7月18日決定(1 ABR 36/05)で、使用者団体が協約拘束会員とOT会員を併存させること自体は原則として認めた。その一方で、その後の判例では、OT会員制度が有効であるためには、使用者団体の定款上、OT会員が協約政策上の意思決定に影響を及ぼすことを排除しなければならないとしている。また、2021年の連邦議会調査部門の整理によれば、「OT会員を設けることは、基本法9条3項が保障する結社の自由および団体自治の範囲内で、基本的には認められるが、使用者団体の規約上、協約拘束会員(T会員)とOT会員の権限・義務は明確に分離されている必要がある」とされている(注3)。より具体的に述べると、OT会員は、協約委員会への派遣、協約政策上の対外的代表、協約交渉方針や交渉結果に関する投票など、協約政策に直接影響を及ぼす活動から排除されなければならない。これは、協約に拘束されない企業が、協約内容の決定に影響を及ぼすことを防ぐためである。

また、協約交渉中に企業が急遽OT会員へ切り替える、いわゆる「駆け込みOT化」についても、連邦労働裁判所は一定の制約を示している(注4)。それによると、交渉相手である労働組合が、使用者のOT会員への切替えを適時に知ることができず、交渉や争議行為によって対応できない場合には、当該切替えが協約法上無効とされる可能性がある(注5)

このように、ドイツではOT会員に対する判例法上の歯止めが存在する。しかし、それは主として、使用者団体内部の権限分離や、交渉中の透明性に関する手続的規制であり、OT会員そのものを禁止したり、その増加を直接抑制したりするものではない。

法規制の強化を求める議論

こうした現状を受けて、OT会員の法的制限を求める議論も出ている。ハンス・ベックラー財団のフーゴー・ジンツハイマー労働社会法研究所(HSI)は、OT会員がドイツの労働協約システムを弱体化させているとして、法的規制の必要性を指摘している(注6)。その解決策として、労働協約法3条(注7)を改正し、将来的には「労働協約当事者のすべての構成員」が協約に拘束されると明記する案を提示している。さらに、OT会員を単純に規制するだけでは、使用者団体からの大量脱退を招く可能性があるため、使用者団体が労働協約を締結し得る団体でなければならないことを労働協約法上明確化する案も示されている。このほか、一般的拘束力宣言(AVE)(注8)の活用を含めた、労働協約の適用範囲を制度的に支える仕組み自体を強化する案なども挙げられている。

「袋小路」の使用者団体

OT会員は、前述のように1990年代以降、緊急避難的に使用者団体の会員企業の減少を食い止める役割を果たしてきた。しかし長期的には、使用者団体の本来的役割である労働協約の締結機能を弱め、産業別協約の適用範囲を縮小させている。使用者団体は、OT会員を廃止すれば会員企業の離脱を招くおそれがある一方で、OT会員を維持・拡大させれば、自らの協約当事者としての正当性をさらに損なうという「袋小路」に陥っている。

そのため著者らは、今後、ドイツで労働協約の適用率を回復させるには、OT会員の法的位置づけ、使用者団体の役割、一般的拘束力宣言の活用などを含めた制度的対応が課題になると結論付けている。

参考資料

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