ニューヨークで鉄道スト
―賃上げめぐる交渉が決裂、3日間で収束
ニューヨーク市と郊外のロングアイランド各地を結ぶ鉄道での賃上げなどをめぐる労使交渉が決裂し、合計3,500人の労働者を組織する5つの労働組合が、5月16日の土曜日からストライキに突入した。この鉄道でのストライキは約30年ぶりのことで、1日あたり約25万人にのぼる乗客の通勤などに影響が生じた。労使は同18日の月曜日、暫定合意に達し、ストライキは3日間ほどで収束した。各労組の組合員が承認すれば、新たな協約が発効する。合意内容は明らかになっていないが、ニューヨーク州知事は、働く者が公正な賃金を受け取とることができ、かつ、税金や運賃の引き上げを要しない水準で合意したと説明している。
賃上げの水準で対立
ストライキが行われたのはニューヨーク州のロングアイランド鉄道(Long Island Rail Road、LIRR)で、ニューヨーク市とその東部郊外のロングアイランド各地を結んでいる。LIRRを運営するニューヨーク都市圏交通公社(Metropolitan Transportation Authority、MTA)によると、LIRRは北米で最も利用者が多い鉄道であり、平日には約25万人が通勤などに利用している。
LIRRの労使は2023年の労働協約改定を迎えた際に、新たな協約期間における賃上げの水準などで対立した。組合側(同社で過半数を占める3,500人の労働者を組織する職種別の5労組(注1)が連携)は、インフレや生活費の高騰が生じているにもかかわらず、賃金が上がっていないと主張。これに対して、使用者側(MTA)は、労働者の平均年収は13万5,000ドルを超えており、賃上げを実施した場合、乗客の運賃に上乗せしたり、新入社員の医療保険料を引き上げたりする必要があるなどとして、これを拒んだ。使用者側は組合の主張を受け入れると、それが他の鉄道での協約改定交渉の前例となることも警戒した。
「大統領緊急委員会」の介入も不調に
公共交通機関である鉄道業界での集団的労使紛争解決のプロセスは、鉄道労働法(Railway Labor Act、RLA)に基づく。同法は、こうした業界における協約締結交渉に関する紛争を調停する機関として、全国調停委員会(National Mediation Board、NMB) の設置を定めている。また、調停が不調に終わり、ストライキの実施に至る前には、一定の「冷却(cooling off)期間」を設ける必要があるとしている。さらに、労働争議が「必要不可欠な輸送サービスを国内のどの部分からも奪う形で州際通商を実質的に妨害する」恐れがある場合、大統領はその争議を調査し、勧告するため大統領緊急委員会(Presidential Emergency Board、PEB)を設置できるという規定も設けている。
各組合は2024年1~2月に、それぞれLIRRとの団体交渉の調停をNMBに申請した。さまざまな和解案が議論、検討されたが、合意に至らなかった。このため、組合側の要請を受け、PEBが2025年9月18日に設置された。PEBは同年10月17日に勧告を出したが、労使とも受け入れず、ストライキに突入することが予想された。だが、交渉期間をさらに確保するため、PEBが2026年1月16日にあらためて設置され、ストライキの実施は見送られた。
PEBは2026年2月13日、労使それぞれから協約改定に関する「最終提案」を受けた。それによると、労使は2023年に3.0%、2024年に3.0%、2025年に3.5%、それぞれ遡って賃金を引き上げ、新たな協約の成立後、3,000ドルの一時金を支給することでは一致した。だが、2026年の賃上げをめぐって、組合側は5.0%(注2)、使用者側は3.0%の引き上げ(生産性向上に伴い1.5%の引き上げを上乗せ)をそれぞれ主張した。PEBは3月16日に、組合側の提案を「最も妥当」だとする勧告を発表。使用者側は勧告を受け入れず、組合側は「冷却期間」の過ぎた5月16日(土曜)からストライキに突入した。
LIRRでのストライキは1994年に2日間実施されて以来、約30年ぶりのことだった。なお、2022年には貨物鉄道会社の労使交渉が難航し、RLAに基づく調停のプロセスに入ったが、当時のバイデン大統領や連邦議会が介入し、ストライキは実施直前に回避された(注3)。
「税金や運賃の引き上げ」なしに「公正な賃金」を保証
ストライキは3日目の月曜日(5月18日)、多くの乗客の平日の通勤に影響を与えた。LIRRは無料の「代替バス」を運行したが、現地報道によると、渋滞や遅延が生じた。ニューヨーク市のペンシルベニア駅は、通常1日に約60万人が利用する駅だが、18日の朝は、目的地にたどり着く方法を必死に探す人もいる中で、静まり返っていたという。また、MTAを監督するニューヨーク州のキャシー・ホークル知事は、鉄道利用客にストライキ中の在宅勤務を呼びかけるとともに、労使に早期の交渉再開を促した。
労使は17日(日曜)から交渉を再開し、18日(月曜)に暫定合意に達した。これにより、ストライキは約3日間で収束し、従業員は19日(火曜)正午から職場に復帰した。今後、5つの労働組合は暫定合意の内容をそれぞれ持ち帰り、組合員投票にかける。承認が得られれば、新たな労働協約が発効する。暫定合意の内容は、それぞれの組合における組合員投票での承認後に公表される予定である。
ホークル州知事は19日、「(新たな)契約により、LIRRの労働者は、労働に見合った公正な賃金を受け取ることが保証される。私は彼らの勤勉な働きを高く評価し、尊敬している。彼らの仕事は地域全体にとって不可欠であり、公正な賃金を受け取るに値する」とコメントした(注4)。また、「物価上昇が続くこの時期に、税金や運賃の値上げは絶対に許されない。だからこそ、私たちは運賃や税金の増額を一切必要としない合意を断固として主張し、それを実現した」と述べている。
注
- 5つの労組は、機関士・乗務員労働組合(Brotherhood of Locomotive Engineers and Trainmen、BLET)、鉄道信号員労働組合(Brotherhood of Railroad Signalmen、BRS)、国際機械工・航空・宇宙労働組合(International Association of Machinists and Aerospace Workers、IAMAW)、国際電気工労働組合(International Brotherhood of Electrical Workers、IBEW)、運輸通信労働組合(Transportation Communications Union、TCU)。(本文へ)
- 組合側は当初、6.5%の賃上げを求めていた。(本文へ)
- 労働政策研究・研修機構(2022)「議会の介入で貨物鉄道のストライキを回避」JILPT海外労働情報 2022年12月 参照。(本文へ)
- ニューヨーク州ウェブサイト(Video, Audio, Photos & Rush Transcript: Governor Hochul Makes a Long Island Rail Road Announcement
)参照。(本文へ)
参考資料
- ウォールストリート・ジャーナル、AP通信、機関士・乗務員労働組合(BLET)、国際労働財団、CNN、タイム、ニューヨーク州、ニューヨーク都市圏交通公社(MTA)、BBC、ブルームバーグ通信、ロイター通信、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=159.03円(2026年5月26日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2026年5月 アメリカの記事一覧
- 残業代支給対象拡大の差し止め命令に対する控訴を取り下げ ―連邦労働省
- ニューヨークで鉄道スト ―賃上げめぐる交渉が決裂、3日間で収束
関連情報
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