議会の介入で貨物鉄道のストライキを回避

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2022年12月

バイデン大統領は12月2日、貨物鉄道の全国的なストライキを回避するため、前日までに上下両院で可決した「暫定合意」の受入れを当事者に義務付ける法案に署名した。貨物鉄道労使は9月15日に賃上げなどを内容とする労働協約改定の「暫定合意」を交わしていたが、最大の組合員数を擁する労組の組合員らが有給病気休暇の付与を求めて承認せず、ストライキの可能性が再び高まっていた。

「暫定合意」を4労組が否決

全米の貨物鉄道会社の労使はこの3年間、労働協約の改定交渉を続けてきた。交渉が難航したため、鉄道労働法に基づき、全国調停委員会(National Mediation Board、NMB)が2022年2月、調停に乗り出したが、それでも解決できなかった。次いで、バイデン大統領が大統領緊急委員会(Presidential Emergency Board、PEB)を設置し、8月16日に解決策としての勧告を提出する事態となった。

貨物鉄道業界の労使交渉は、30以上の主要会社(ユニオン・パシフィック、BNSF、CSXなど)を代表する全国輸送会社会議委員会(National Carriers’ Conference Committee 、NCCC)と、約11万5,000人の労働者を代表する12の労働組合との間で行われる。勧告の受入れをめぐるNCCCと各労組との交渉は、ストライキ突入直前の9月15日にひとまず決着。両者で「暫定合意」を交わし、各労組で組合員の承認を得る段階へと進んだ。

その後、12組合のうち8組合では「暫定合意」を承認したが、最大の組合員数を擁する国際板金・航空・鉄道・運輸労働組合(輸送部門)(SMART-TD)及び道路・路線保守労働組合(BMWED)、鉄道信号員労働組合 (BRS)、ボイラー技士・造船鉄工・鍛造工・助手国際労働組合(IBB)の4労組が否決。12月9日の午前0時1分を交渉期限に再度設定し、合意できなければストライキを決行する構えを見せた。

バイデン大統領はストライキによる供給網(サプライチェーン)の混乱を危惧して再び介入。先の「暫定合意」の受入れを義務づける法案の策定を連邦議会に要請した。議会は州際通商(ひとつの州を超えた通商)の規制を認める米国憲法の通商条項に基づき、ストライキを回避するための立法措置をとることができる。議会下院は11月30日、上院は12月1日にそれぞれこうした内容の法案(決議案)を可決。2日に大統領が署名して成立した。同法は制定の趣旨を「基本的な輸送サービスを全国的に奪うほど、州際通商を大きく妨害するおそれのある労働争議を回避するため」と説明している。

有給病気休暇の付与が争点に

「暫定合意」での協約改定内容は、PEBが8月16日に出した勧告に基づく(注1)。2020年に遡って2024年までの年次昇給(協約発効時14.1%、5年間で複利24%の引き上げ)と賞与(5年間で毎年1,000ドル)の支給、1日分の有給休暇の付与などを盛り込んだ。労組側は15日間の有給病気休暇の付与を求めていたが、最終的に上述の内容で妥協していた。だが、各労組での組合員投票の結果、4つの労組で「暫定合意」の受入れが否決されたことで、承認のプロセスは頓挫した。

議会下院では、労働組合の主張に賛同する民主党の議員が多数を占める(注2)。こうした議員らは、「暫定合意」の受入れを義務づける法案とは別に、7日間の有給病気休暇を付与する法案を提出し、可決させた。しかし、与野党が拮抗する上院はこれを否決している。

バイデン大統領は法案への署名の際、「貨物鉄道でストライキが発生すれば、米国の産業の多くが文字通り閉鎖され、76万5,000人が失業していた」と指摘したうえで、「雇用を救い、何百万もの勤労者世帯を損害や破壊から守り、休暇シーズンのサプライチェーンを安定させた」と今回の議会介入によるストライキの回避を評価している。

参考資料

  • 日本貿易振興機構、ニューヨークタイムズ、ホワイトハウス、連邦議会、各ウェブサイト

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