H-1B(専門職)ビザの「最低限支払うべき賃金水準」引き上げ案を提示
―連邦労働省
連邦労働省は3月26日、IT技術者などの専門職を対象とする「H-1Bビザ」で就労する外国人に対して、最低限支払うべき「一般的賃金水準(prevailing wage)」を引き上げる内容の改正規則案を公表した。経験や適格性などに基づき定める4段階の最低賃金水準(該当する地域・職種の賃金水準をパーセンタイルで表示)を、現在の「新人17、有資格者34、経験者50(=中央値)、完全適格者67」 から「新人34、有資格者52、経験者70、完全適格者88」へとそれぞれ高める。これにより、外国人が安価な労働力として雇われ、米国人の賃金低下や雇用減を招くことを防ぐ。パブリックコメントを募り、それらの意見を踏まえたうえで最終決定する。
H-1Bビザの対象と発給要件
H-1Bビザは、科学、薬学、医学・衛生、教育、生物工学、ビジネスなどの特殊技能(specialty occupation)を必要とする専門的・技術的職業に就く、学士以上の学位を持つ者に発給する(注1)。年間受入れ人数は6万5,000人に設定している(米国で修士以上の学位を得た者には、別途2万人の枠がある)。滞在期間は最長3年間で、その後、3年を上回らない範囲で更新できる。
雇用主はH-1Bビザで雇う外国人労働者の賃金、労働条件等について、「労働条件申請書(Labor Condition Application、LCA)」を連邦労働省に提出し、承認を得なければならない。LCAでは、①賃金が当該職務に「実際に支払われている賃金水準(Actual Wage)」か、「一般的賃金(Prevailing Wage)」のどちらか高いほうであること、②同様の地位にある米国労働者に不利な影響を及ぼす労働条件ではないこと、③雇用する職場の関連する職種において、ストライキやロックアウトがないこと、④申請に際し、職場での周知又は交渉代表の労働組合への通知を行なっていること、を雇用主が誓約する。
「一般的賃金」は「新人(entry)レベル」「有資格者(qualified)レベル」「経験者(experienced)レベル」「完全適格者(fully competent)レベル」という4つの賃金水準別に示される。それぞれの賃金水準は、該当する地域・職種の賃金統計(注2)において、新人17、有資格者34、経験者50(=中央値)、完全適格者67の各パーセンタイルとしている。例えば、「完全適格者」の場合、当該地域・職種の賃金分布において、上位33%の位置にある賃金水準とする。
上述①の規定により、雇用主は、H1Bビザで働く外国人労働者に対し、当該企業の同じ職務で働く労働者の賃金水準またはその「一般的賃金」のいずれか高いほうを支払うよう誓約する。このため、「一般的賃金」が、H-1Bビザで働く者に支払う最低限の賃金水準として機能する。
トランプ政権によるH-1Bビザ見直しの動き
トランプ大統領は2025年9月19日、雇用主によるH-1Bビザの新規申請手数料として、1件あたり10万ドルを徴収する大統領令を出した(注3)。同年9月21日以降、国外に居住する労働者を新たに雇う場合の申請分から適用を始めた。
同大統領令は「H-1B非移民ビザ制度は、高度な専門的業務を担う一時的な労働者を米国に受け入れるために創設された制度である。だが、実際には、低賃金・低技能の労働者で米国人労働者を代替するために、意図的に悪用されてきた」と指摘した。特に、低賃金のH-1B労働者が集中するIT産業などにおいて、「初級レベル」の米国人労働者の賃金や労働機会に悪影響を及ぼしていると問題視。10万ドルという高額の手数料徴収というハードルを設ける形で、米国外から新規にH-1Bビザで就業しようとする者を事実上制限することとした。上述の「最低限支払うべき賃金水準」の引き上げについても、こうした問題意識から同大統領令で触れており、労働長官に対して、具体的な引き上げの内容を定めるよう求めていた。
なお、10万ドルの手数料徴収について、連邦国土安全保障省はその後、例外とする対象者を定めた。それによると、国土安全保障長官が、①外国人労働者がH-1Bビザ保持者として米国に滞在することが国益にかなうこと、②その職務を担える米国人労働者がいないこと、③当該外国人労働者が米国の安全保障または福祉に対する脅威とならないこと、④申請雇用主が当該外国人労働者の代わりに手数料を支払うことが米国の国益を著しく損なうこと、のすべての要件を認めた場合、支払いを免除する場合があるとしている。
「米国人労働者の賃金と雇用機会の確保」を狙いに
連邦労働省が3月26日に示した改正規則案は、H-1Bビザで就労する外国人に対して経験や適格性などに基づき定める4段階の最低限支払うべき賃金水準(該当する地域・職種の賃金水準をパーセンタイルで表示)について、現在の「新人17、有資格者34、経験者50(=中央値)、完全適格者 67」 から「新人34、有資格者52、経験者70、完全適格者88」へとそれぞれ引き上げるとした(注4)。
チャベスデリマー労働長官は「提案した規則は、雇用主が外国人労働者に対して、労働の実質的な市場価値を反映した賃金を支払うことを確実にし、米国人労働者の賃金と雇用機会を保護するのに役立つ。悪質な者によるH-1Bプログラムの乱用は、今後容認されない」とコメントしている。
なお、改正規則案はH-1Bビザの他、同様の賃金算定方式を用いる制度であるH-1B1(チリ及びシンガポールとの間の自由貿易協定に基づく専門家ビザ)、E-3(オーストラリアとの自由貿易協定に基づく専門家ビザ)にも適用する。現在、パブリックコメントを募っており、それらの意見を踏まえたうえで最終決定する予定としている。
注
- 米市民権・移民局ウェブサイト(H-1B Specialty Occupations
)参照。(本文へ) - 「一般的賃金」の決定には、労働省の職業別雇用賃金統計(Occupational Employment Wage Statistics, OEWS)が一般的に用いられる。労働協約(Collective Bargaining Agreement、CBA)に基づく賃金が適用になる場合は、それが一般的賃金とみなされる。(本文へ)
- ホワイトハウス・ウェブサイト(RESTRICTION ON ENTRY OF CERTAIN NONIMMIGRANT WORKERS
)参照。(本文へ) - 連邦労働省ウェブサイト(US Department of Labor issues proposed rule revising prevailing wage methodology for H-1B, PERM visa programs
)参照。(本文へ)
参考資料
- 労働政策研究・研修機構(2022)『諸外国における外国人労働者受入制度に関する調査 ―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、オーストラリア、韓国、EU』(資料シリーズNo.249)
- ウォールストリート・ジャーナル、ブルームバーグ通信、米市民権・移民局、ホワイトハウス、連邦労働省、各ウェブサイト
参考レート
- 1米ドル(USD)=159.30円(2026年4月10日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
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