ギグワーカー保護を強化
 ―制度整備と社会保険拡充を加速

カテゴリー:非正規雇用多様な働き方労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2026年3月

中国政府は、急速に拡大するギグエコノミーへの対応として、ギグワーカーに対する保護制度の整備と社会保障改革を本格的に加速している。国務院は2025年12月、ギグワーカーの権益保障に関する最新の取り組み状況(以下、「報告」)を発表し、制度改革の進展と今後の課題を明らかにした(注1)。また、中華全国総工会は、プラットフォーム企業における労働組合の設立促進や、アルゴリズム管理を含む労働ルールに関する集団協議を柱とした特別行動計画を打ち出し、ギグワーカーの保護強化に乗り出している。

急拡大するギグワーカー

インターネットサービスの進展および働き方の多様化を背景に、ギグワークは世界的に拡大している。なかでも中国は市場規模が他国を大きく上回っている。中国の政府系シンクタンクの中商情報網によると、2025年6月時点で、中国のオンラインフードデリバリー利用者は5億6900万人となり、ネット利用者全体の50.7%を占めた。オンライン配車サービスの利用者も5億1100万人と巨大な市場規模となっている(注2)

デジタル経済の発展に伴い、中国ではフードデリバリー配達員、宅配員、ネット配車ドライバーなどを中心としたギグワーカーが急増しており、その人数は2023年時点ですでに8400万人を超え(注3)、現在はさらに増加している。政府はこうした新たな働き方を雇用拡大の重要な柱と位置付ける一方、収入の不安定性や社会保障不足などの問題への対応を急いでいる。

権益保護制度整備とアルゴリズム管理の強化

報告によると、近年はギグワーカーの労働権益を明確化する政策文書が相次いで発表された(表1)。特に、プラットフォーム企業の雇用責任の明確化や、労働時間・報酬・休息権の保障などを重点に制度整備が進められている。また、プラットフォームの料金体系やアルゴリズムの透明性向上に向けた取り組みも強化された。さらに、地方政府による取り組みも進み、一部の地域では独自の規定が導入されている。安徽省では「ギグワーカー労働権益保障規定」が制定されたほか、アモイでも「ネット配達員の労働権益保護に関する規定」が導入された。

表1:ギグワーカーへの権益保護政策
公布時間 規制名称 主な内容
2023年11月8日 「ギグワーカーの休憩・労働報酬権益保護ガイドライン」(注4)
  • 労働時間算定基準
  • 休息制度・過労防止
  • 労働報酬ルール制定
  • 最低賃金適用拡張
  • 法定祝日勤務は通常より高報酬
  • 賃金支払いの透明性と確実性
2023年11月8日 「ギグワーカーの労働規則開示ガイドライン」(注5)
  • プラットフォーム規則透明化
  • ギグワーカーの労働規則・報酬・アルゴリズムなどの公開義務
  • 労働者意見聴取・労働組合参加
  • 労働規則変更は事前意見募集・7日前公示が必要
2023年11月8日 「ギグワーカーの権利維持・支援サービス指針」(注6)
  • 企業内部労使紛争解決
  • 交流機構を常置
  • 労働者の申訴・相談ルートを確保
  • 報酬・評価・管理などの異議に対応 ハラスメント問題にも対応
  • 内部調停委員会設立を推奨
  • 工会(労働組合)の支援
  • 労働者の組合加入権保障
  • 工会(組合)による企業の監督
  • 集団協議・団体契約推進
  • 法律支援提供
  • 外部仲裁・司法救済ルートを整備
2024年9月15日 「就業優先戦略の実施および高品質かつ十分な就業の促進に関する意見」(注7)
  • 就業優先戦略の全面推進
  • 質の高い安定した雇用
  • ギグワーク支援と規範化
  • デジタル活用型の公的就業サービスの推進
  • 社会保障範囲の拡大

注:筆者整理

プラットフォーム企業への監督面では、約7万9000社を対象に雇用条件の監査が実施され、1万4000件の違法行為が是正された。アルゴリズムによる過度な労働強化や不透明な報酬算定などの問題に対し、政府はプラットフォーム企業に自律的な改善を求め、手数料の引き下げや罰則制度の見直しを促している。

職業傷害保障制度の拡充

ギグワーカーを対象とした社会保障制度の改革も進んでいる。ギグワークの特徴に合わせた「職業傷害保障」の試行が2022年より一部の地域(7省)で実施され、2025年10月には試行範囲が17省へと拡大、約2325万人が加入した。人力資源社会保障部など9部門が2025年4月に共同で発表した「ギグワーカーの職業傷害保障試行拡大に関する通知(注8)」によると、2026年にはギグワーカー向けの職業傷害保障を全国に拡大し、ネット配車サービス、即時配送、同一都市内貨物配送のようなプラットフォームを、原則として対象に組み入れる方針だ。また、2027年にはその他の業界のプラットフォーム企業についても対象の拡大を検討するとしている。

それと同時に、「ギグワーカー職業傷害保障弁法(試行)(注9)」も修正され、2025年7月1日に実施された。ギグワーカーを対象とした職業傷害保障制度について、実名加入登録、保険料徴収、事故認定、給付までの一連の仕組みを明確化した。プラットフォーム企業の主導により、労働者を実名で登録し、注文受注地を基準に職業傷害保障へ加入させる。保険料は前月の総注文数に業種別単価を掛けて算定され、ネット配車0.01元、即時配送0.07~0.25元、同一都市内貨物配送0.18元を基準として、プラットフォーム企業が負担する。徴収資金は労災保険基金内で独立管理される。注文遂行中の事故や業務関連の交通事故、業務中の急病死亡などは職業傷害として認定される一方、故意犯罪や飲酒・薬物使用、自傷行為は対象外となる。事故発生時は「ワンクリック報告」(「一键报案」)という機能で申請が可能で、企業は30日以内に給付申請を行う。未申請の場合は本人や遺族、工会(労働組合)による直接申請も可能となる。給付内容には医療費、リハビリ費用、障害・死亡補償などが含まれ、治療期間中は企業負担による生活保障費も支給される。

就業支援サービスでは、全国で8900以上のギグワーク市場(零工市場)を整備し、オンライン・オフライン双方での求人マッチングを強化。職業訓練や工会サービス拠点の設置を通じ、ギグワーカーの技能向上や生活支援も進めている。

残る課題

以上のような保護制度の拡充にもかかわらず、報告によると、依然として多くの課題が残されている。プラットフォーム企業の全国的運営に対する監督体制の不十分さ、労働関係の認定の難しさ、社会保険加入率の低さ、現行法制度の遅れなどが主な問題として挙げられる。

今後、政府は部門間の協同監督を強化し、アルゴリズム管理の規制や社保制度の拡充を進める方針で、3年以内に職業傷害保障の広範囲適用を目指す。また、プラットフォーム企業に社会保険費用の一部負担を求める可能性も検討されている。関連法制の整備も加速し、新たな働き方に対応した制度体系の構築を図る。

権利保護をさらに強化へ

中国の中華全国総工会はこのほど、ギグワーカーの権利保護を強化するため、「労働者権利保護サービス特別行動の総合方案(注10)」を発表した。方案によると、2026年はプラットフォーム企業における工会(労働組合)の設立促進や、アルゴリズム管理を含む労働ルールの集団協議を重点的に進める。また、現場で発生する共通課題の迅速な解決や、各種サービスの実効性向上にも取り組む方針だ。

具体的には、思想教育の強化、模範労働者の育成・広報、プラットフォーム企業および関連企業での工会組織(労働組合)の設立促進、アルゴリズムや労働規則に関する協議指針の策定などが含まれる。このほか、「職工之家」というアプリの活用や12351ホットラインによる相談対応、労働法監督制度の強化、最高人民法院・最高人民検察院との連携による典型事例の公表なども盛り込まれた。組織化の面では、大手プラットフォーム企業12社で工会組織の設立を目指すほか、新たに150万人のギグワーカーの加入を目標に掲げた。今回の施策では、特にプラットフォームのアルゴリズム管理をめぐる労働ルールの協議を重要課題と位置付けており、制度整備の進展が注目されている。

参考文献

  • 中国政府網、中国人大網、新華網、光明日報、中商情報網

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