政府、農民工の「大規模な帰郷」と再貧困防止策を強化
中国経済の伸びが鈍る中、農業農村部が2025年11月13日に雲南省で開いた会議(以下、「会議」)が注目を集めている(注1)。会議では、農民工の就業機会を確保することで「返郷回流(都市からの大規模な帰郷)」を防ぎ、仕事が不足する農村で大規模かつ長期の滞在が生じないようにする方針が明確に示された。不況や産業調整の影響で都市部の雇用が減少し、農民工の帰郷が増える中、この方針は発表直後から大きな関心を集めた。政府が「規模性返郷・滞郷(都市からの大規模な帰郷・長期滞在)」と呼ぶ動きが強まれば、農村部で仕事がない状況のまま長期滞在を余儀なくされる人が増え、再び貧困に陥るリスクが高まる可能性があるためである。今回示された方針は、農民工を守り、再貧困を防ぐための支援策を一層強化する政府の姿勢を示したものといえる。
都市雇用の減少で帰郷増加
国家統計局の発表(注2)によると、2024年の中国の農民工数は2億9,973万人で、前年比220万人増(0.7%増)となった。全体としては増加が続いているものの、その伸びは鈍化している。増加率は2021年の2.4%をピークに、2022年1.1%、2023年0.6%と低下し、2024年も1%未満にとどまった。
産業別に見ると、農民工が従事する産業は製造業が27.9%で最も多く、次いで建設業14.3%、卸売・小売業13.6%、住民サービス・修理などのサービス業12.3%が続く。さらに、交通運輸・倉庫・郵便業が7.2%、宿泊・飲食業が7.1%となっている。
建設業はかつて「就労しやすく収入も良い」典型的な人気業種として、多くの農民工を吸収してきた。しかし、近年は不動産市場の冷え込みや投資の鈍化により、建設業では以前のように大量の労働力を受け入れられなくなっている。実際、図1を見ると建設業で働く農民工は 2013〜2014年をピークに減少が続き、2024年には4,286万人(注3)まで落ち込んでいる。農民工全体に占める割合も同じ傾向で、2012年の18.4%から2013年には22%台に達したものの、その後は低下を続け、2024年には14.3%となった。
図1:建設業で働く農民工の人数推移

出所:中国国家統計局
製造業と建設業は、これまで農民工を多く受け入れてきた二大産業である。しかし製造業ではロボットやAIの導入が進み、人手への依存度が徐々に低下している。宿泊・飲食業は競争が激しいうえ、「経済環境が厳しく、民間企業の成長も十分でない」ため、都市部で大量の農民工の働き口を確保するのは難しい状況にある。こうした要因が重なり、都市で働いていた農民工がやむを得ず帰郷せざるを得ないケースが増えている。
リスクを防ぐ農村での就業支援
会議では、「農民工の帰郷を受け止められなければ、彼らが再び貧困に陥る可能性が高まる」との指摘を受け、農民工の大量帰郷によって農村では雇用供給と労働需要が一致しない問題が、重点課題として位置づけられた。政府は、地元での技能訓練や雇用創出を進め、農民工が「働きたいのに働けない」状況を防ぐ必要がある。そのため、貧困脱却者である農民工の安定した就業と収入の確保を最優先とし、その実現に向けて、地元における就業機会の拡大と、必要なスキルを備えた人材の育成などを方針として掲げた。
今回の方針の特徴は、「農村熟練技能者(农村工匠)の技能育成」「雇用創出」「技能訓練」という3つの側面から支援を構築する点にある。
まず「農村熟練技能者の大規模育成」は、農村熟練技能者を計画的に育成する新たな技能育成制度を中核とする。体制整備の標準化、若手人材の登用、産業クラスター(注4)との連携を強めることで、高度技能者の育成を進める方針が示された。
次に「雇用創出」では、公的性質をもつ地域の仕事(公益性ポスト)を増やすことと、就業支援工場の機能強化が中心となる。これまでのように単純作業に偏った仕事だけに頼るのではなく、介護サービスやECサービスなど、農村で伸びている分野に仕事を組み替えていく。さらに、就業支援工場にはデジタル化・スマート化が求められ、労働集約型から知識集約型への転換を進めていく方針である。
さらに、「帰郷者を対象とする技能訓練」では、訓練内容を全面的に見直し、従来の栽培や養殖といった農業技術中心のカリキュラムから、ライブ配信を活用したEC、農村観光、地域サービス業など、新たな産業分野にも対象を広げていく方針が示された。
注
- 经济新闻滚动(2025年11月13日)农业农村部召开全国乡村工匠培育暨脱贫人口务工就业“两稳一防”工作会议
(本文へ) - 国家统计局(2025/04/30)2024年农民工监测调查报告
(本文へ) - 「建設業で働く農民工数=当該年度農民工人数×農民工全体に占める割合」で算出。(本文へ)
- 産業クラスターとは、特定の地域に、関連する企業・技能人材・研究機関・サービス業者などが集中的に集まって形成された産業の集積地(ネットワーク)を指す。(本文へ)
参考文献
- 中華網、新浪財経
2025年12月 中国の記事一覧
- 政府、農民工の「大規模な帰郷」と再貧困防止策を強化
- 10月1日からK字ビザを導入 ―若手外国人材の新たな受入れ制度
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