10月1日からK字ビザを導入
 ―若手外国人材の新たな受入れ制度

カテゴリー:外国人労働者

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中国政府は2025年8月14日、若手の外国人科学技術人材を対象とする新たな査証制度「K字ビザ(K)」を発表し、同年10月1日から施行すると明らかにした(注1)。従来のR字ビザは博士号や高度な研究実績が事実上の必須条件で、若者には手が届きにくかった。K字ビザでは最低学歴要件が学士まで緩和され、より幅広い若手人材が対象となる。

「学士以上」の若手を広く対象に

K字ビザは、STEM(科学・技術・工学・数学)分野を中心に、一定の学歴と専門性を持つ若手外国人の受入れを促す制度である。主な対象は、中国内外の「著名大学」や「権威ある研究機関」で学士以上の学位を取得した人材で、特にSTEM系の学位取得者を想定している。また、著名校でなくとも、関連分野で教育・研究に従事していれば申請が可能とされている。

細則はまだ公表されておらず、外交部は「詳細は各国の中国大使館・領事館が順次発表する」としている。現時点で示されている範囲(注2)では、滞在中の活動として「教育・科学技術・文化交流、起業、ビジネス活動など」が認められる見通しだ。滞在期間や入国回数、家族帯同の可否といった具体的な待遇は明らかになっていないが、すでに制度が整っているR字ビザでは家族の帯同が可能であるため、K字ビザでも同様の仕組みが導入される可能性がある。

R字ビザとの主な違い―より門戸を広げた新制度

新制度の比較対象となるR字ビザは、2018年に導入された高度外国人材向けのビザである(表1)。R字ビザは導入以降、「高度外国人材ビザ制度実施規則(注3)」や「外国人の中国就労分類基準:施行(注4)」に基づき、「A類高度外国人材」に限定して発給されてきた。国際的にも厳格な制度とされ、“世界トップクラスの外国人材選抜制度”と評されることもある。R字ビザの主な要件は以下の通りである。

国際的な実績が必須

「A類高度外国人材」に分類されるためには、国際的に認められた高い専門的な成果が求められる。比較的取得しやすい基準でも、

  • 海外の著名大学で中層以上の管理職、または教授・准教授として勤務していること、
  • JCR一区・二区の主要学術誌(注5)への第一著者として3本の論文を掲載していること、

といった高いハードルが課されている。

高収入が条件に

前年の当該地域の平均賃金の6倍以上という収入要件があり、この条件を満たせるのは外資系企業の幹部クラスや、市場価値の高い専門人材に限られる。

技術系スタートアップ創業者にも高い基準

イノベーション分野では、創業者に対しても厳しい条件が課される。発明や特許に基づく出資をしていること、3年間で累計50万米ドル以上の投資、個人の持株比率が30%以上であることが求められる。対象となるのは、技術を土台に事業を起こしたスタートアップの創業者層であり、一般的な企業経営者ではない。

若手向けの枠も限定

若手研究者向けの枠もあるが、40歳以下で、海外の著名大学または中国国内の大学でポスドク研究に従事していることが条件で、修士卒や一般研究者は対象外となっている。そのえで、博士号と一定の研究実績が最低基準として設定されている。

85点以上のポイント制

学歴・職歴・収入・研究成果などを総合評価し、85点以上で初めてA類と認定される制度で、「世界でも例を見ないほど厳しい基準」との指摘もある。

表1:K字ビザとR字ビザの主な違い
項目 K字ビザ R字ビザ 主な相違点
学歴基準
  • 著名大学の学士以上
  • STEM分野中心
  • 博士号+国際的実績が事実上必須
K字は大幅に緩和、若手も対象に
経歴要件
  • 具体的な職務経験の明記なし
  • 研究成果・業績・専門経験が必須
R字は高度な実績を要求
招聘機関の要否
  • 国内招聘機関は不要
  • 年齢+学歴/職歴のみで申請可能
  • 国内の雇用・招聘が必須
申請手続きのハードルが大きく異なる

出所:筆者作成

国内では賛否が交錯

K字ビザの導入をめぐり、中国のSNSでは議論が続いている。微博(ウェイボー)では「外国人に仕事を奪われるのでは」といった投稿が検索上位を占め、「就職環境への不安」を示す声が目立つ。STEM分野では新卒の競争が激しさを増しており、「まず国内人材を優先すべきだ」とする意見は少なくない。

一方、政府系メディアは、こうした懸念とは対照的に制度導入の必要性を強調する。中国日報は「中国は世界最大規模の人材総量を持つ一方で、高度人材は依然として不足している。2025年には製造業の重点分野で約3,000万人の人材が不足する見通しだ」と指摘し、K字ビザを、国際競争力を補う施策として評価している(注6)

K字ビザによって外国人受入れが広がることで、中国の人材市場や若者の雇用にどのような影響が生じるのか。制度の詳細とあわせ、今後も議論が続くとみられる。

参考文献

  • 中国政府網、中国日報、国家移民管理局

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